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いしかわミュージックアカデミー ライジングスターコンサート2013
2013年8月20日(火) 18:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1)リスト/超絶技巧練習曲集〜第11番変ニ長調「夕べの調べ」,第10番へ短調
2)ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第12番ヘ長調 op.96 B.179「アメリカ」〜第1,4楽章
3)パが二ーニ/24のカプリース〜第21番イ長調
4)チャイコフスキー/ワルツ・スケルツォ op.34
5)エルガー/チェロ協奏曲ホ短調 op.85〜第1・2楽章
6)サラサーテ/ナヴァーラ op.33
7)リスト/バラード第2番ロ短調 S171/R16
8)バーバー/ヴァイオリン協奏曲 op.14〜第1楽章
9)メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第1番ニ短調 op.49〜第1,4楽章
●演奏
尾崎美空*1,小竹島紗子*7,竹田理琴乃*9(ピアノ)
辻彩奈*3,ジェヒョン・イ*6,ジヨン・イム*6,福田ひろみ*8,小川響子*9(ヴァイオリン)
村井智*5,松本亜優*9(チェロ)
エール弦楽四重奏団(山根一仁,毛利文香(ヴァイオリン),田原綾子(ヴィオラ),上野通明(チェロ))*2

ピアノ伴奏:鈴木深喜*4,5,三又瑛子*8,ヤンヒー・リー*6

Review by 管理人hs  

いしかわミュージックアカデミー(IMA)に合わせて,過去のIMA音楽賞受賞者を中心とした若手奏者が勢ぞろいするライジングスターコンサートが行われました。



毎年,ヴァイオリン,チェロ,ピアノの演奏が中心ですが,今年は,弦楽四重奏とピアノ三重奏による演奏があったのが特徴でした。そのこともあり,以前に比べると公演時間全体としては少し圧縮されていました。

今回は次の8組人が登場しました。近年,IMA音楽賞受賞者の中から,内外のコンクールの上位入賞者が続々と登場していますので,この中からも今後,世界的に活躍するアーティストが出てくることでしょう。

  • 尾崎美空(ピアノ)
  • エール弦楽四重奏団(山根一仁,毛利文香(ヴァイオリン),田原綾子(ヴィオラ),上野通明(チェロ))
  • 辻彩奈(ヴァイオリン)
  • 村井智(チェロ)
  • ジェヒョン・イ,ジヨン・イム(ヴァイオリン)
  • 小竹島紗子(ピアノ)
  • 福田ひろみ(ヴァイオリン)
  • 竹田理琴乃(ピアノ),小川響子(ヴァイオリン),松本亜優(チェロ)


1.尾崎美空(ピアノ)
最初に登場した尾崎さんですが...一瞬,能年玲奈さんが登場したのかと思ってしまいました(「あまちゃん」の見過ぎです。)。ドレスも名前どおりの美しい空色のドレスでした。今回は,リストの難曲を演奏しましたが大変鮮やかに聞かせてくれました。高音が少し硬い感じがしましたが,曲の最初のから聞き手をぐっと引き付けるタッチの美しさがあり,大変魅力的な演奏でした。

2.エール弦楽四重奏団
エール弦楽四重奏団は,山根一仁さん,毛利文香さん,田原綾子さん,上野通明さんという桐朋女子高等学校音楽科(男女共学です)の仲間で結成された団体です。IMAでもお馴染みのコンクール入賞者集団ということで,各楽器のソロが大変雄弁で,大変立体的で聞きごたえのある演奏を聞かせてくれました。古典派の弦楽四重奏だと第1ヴァイオリン中心なのですが,この曲の場合,冒頭のヴィオラを始め,各パートに良いメロディがあるので,彼らが演奏するのにぴったりの曲だと思いました。第4楽章の方は大変軽快で,スピード感たっぷりでした。ちょっと遊び心を感じさせてくれるほどの鮮やかさがありました。特に山根さんのヴァイオリンからは,どこか粋な余裕も伝わってきて,大胆不敵という感じでした。さすがと言う演奏でした。

3.辻彩奈(ヴァイオリン)
ヴァイオリンを高く持ち上げた姿勢から,力感たっぷりの密度の高い音がバリバリとダイレクトに伝わってくるような演奏でした。ビシっと締まった緊張感のある音がお見事でした。ただし,ぜいたくを言うと,2曲目のチャイコフスキーのワルツスケルツォのような曲の場合,もう少ししなやかさやリラックスした気分が欲しいかなと思いました。

4.村井智(チェロ)
前半最後は,エルガーのチェロ協奏曲という渋めの曲でした(個人的には実演で一度聞いてみたかった曲の一つです)。村井さんは既にプロの奏者として完成しているような雰囲気があり,熟成された音楽をしっかり楽しませてくれました。コンサートホールでこの曲をオーケストラと共演する機会があれば是非聞いてみたいものです。

5.ジェヒョン・イ,ジヨン・イム(ヴァイオリン)
ジェヒョン・イさんとジヨン・イムさんの韓国の女性ヴァイオリニスト二重奏は圧巻でした。この曲は,過去,神尾真由子さんとホワン・モンラさんの演奏で聞いたことがありますが,一糸乱れない合奏という点ではその時以上だった気がします。譜面なしで,じっと見つめ合いながら息を合わせ,時々火花が飛ぶような演奏からは,この曲の持つラテン的な気分はあまり感じなかったのですが,それ以上にバチっと決まった強靭さに圧倒されました。お2人はドレスの色も紺色で揃えており,このまま「2ヴァイオリンズ」という感じでユニットを作って活躍できそうな気がしました。

6.小竹島紗子(ピアノ)
強烈なヴァイオリン二重奏の後だったので,暗い雰囲気からほのかに明るくなっていく自然な音の流れを聞いてほっとしました。詩情のあるピアノが魅力的でした。

7.福田ひろみ(ヴァイオリン)
バーバーのヴァイオリン協奏曲の第1楽章は大好きな曲です。スケールの大きな音の起伏を感じさせてくれる健康的な演奏でした。ヴァイオリンが大変美しく鳴っていました。ただし,この曲の場合,もう少しロマンティックな気分の盛り上がりが欲しいかなと思いました。

8.竹田理琴乃(ピアノ),小川響子(ヴァイオリン),松本亜優(チェロ)
演奏会の最後は女性3人による「女子会」的華やかさのあるピアノ三重奏ででした。押し出しの強い小川さんのヴァイオリンに触発されるように,熱い演奏が繰り広げられました。チェロの松本さんの伸びやかな音も印象的でした。竹田さんの軽やかな演奏も良かったのですが,他の2人に比べるとやや遠慮がちに聞こえました。ピアノ三重奏は,昔からソリストが3人集まって演奏されることの多いジャンルですが,演奏会のトリを締めるのにふさわしい聞き映えのする演奏でした。女性3人という視覚的な華やかさもあり,激しさだけではなく,甘い香りが漂ってくるような雰囲気があったのも良かったと思います。



今年もこのように若さと力強さの溢れる演奏を堪能できました。演奏会の流れとしては,もう一工夫あっても良いと思ったのですが(例えば,司会者を入れるとか),今回のようにIMA音楽賞受賞者同志のアンサンブルを増やすというのは良い試みだと思いました。

PS2. 演奏会の後,金沢フォーラスに立ち寄ったところ,楽器を持った若者集団とすれ違いました。よく見ると,エール四重奏団の皆さんでした。「ご苦労さん」とでも掛けてあげれば良かったかな...。こういうのは大都市圏ではありえない,金沢ならではの楽しさですね
(2013/08/25