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音楽堂室内楽シリーズ第3回 IMAチェンバーコンサート
2013年8月25日(日)15:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール

1)ベートーヴェン/ピアノ三重奏曲第4番変ロ長調 op.11「街の歌」
2)モーツァルト/弦楽五重奏曲第4番ト短調 K.516
3)シューマン/ピアノ五重奏曲変ホ長調 op.44
●演奏
ナムユン・キム*1,フランチェルコ・マナーラ*2,ホァン・モンラ*2,レジス・パスキエ*3,神尾真由子*3(ヴァイオリン),原田幸一郎*2,3,石黒靖典*2(ヴィオラ),毛利伯郎*1,2,ジャン・ワン*3,チュンモ・カン(ピアノ*1,3)


Review by 管理人hs  

毎年8月に石川県立音楽堂を中心に行われている,いしかわミュージックアカデミー(IMA)では,関連演奏会をいくつか行っています。数年前からは,IMA講師陣とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーとが共演する室内楽コンサートが「もっとカンタービレ」シリーズとして行われてきました。今年からこのシリーズが「音楽堂室内楽シリーズ」に名称が変わりましたが,同様の形で行われました。



IMAもこの日が最終日ということで,そのクロージング・コンサートといったところでした。コンサートのタイトルは,「IMA×OEK」となっているものもありましたが,OEKからはヴィオラの石黒さんだけが参加していましたので,IMAチェンバーコンサートというのが正確なところかもしれません。


この日は邦楽ホールの方で行われました。

演奏された曲は,ベートーヴェンのピアノ三重奏曲「街の歌」,モーツァルトの弦楽五重奏曲第4番ト短調,シューマンのピアノ五重奏曲ということで,古典派からロマン派に掛けてのドイツ・オーストリア系の室内楽の本流をしっかり聞かせてくれるようなプログラムでした。講師陣勢ぞろいということで,どの曲も素晴らしい演奏でした。

ベートーヴェンのピアノ三重奏曲「街の歌」は大げさな身振りはないのに味が染みているような演奏でした。各奏者はしっかり主張しているのにまとまりがよい,自然な節度のある演奏でした。特にチュンモ・カンさんのピアノのまろやかで粒立ちの良い音が全体をかっちり締めているように感じました。

第2楽章は毛利伯郎さんのチェロ,ナムユン・キムさんのヴァイオリンの順にソロが出てきました。2人とも音の密度が濃く,ツートップのソナタを聞くような充実感がありました。第3楽章は親しみやすい変奏曲ですが,各楽器が要所要所で見せ場を作り,鮮やかに各曲を描き分けていました。間の取り方なども絶妙だと思いました。

モーツァルトのト短調の弦楽五重奏曲は,交響曲で言うところの第40番に当たる名曲です。今回の演奏では,IMA初登場(だと思います)のフランチェスコ・マナーラさんの透き通るようなヴァイオリンの音がまず印象的でした。古典派の室内楽は大体そうですが,この第1ヴァイオリンを中心に,バランスの良い「せつなさ」を感じさせてくれる演奏でした。

マナーラさんは,ミラノ・スカラ座のオーケストラのコンサートマスターを務めている方で,繊細さのあるよく通る音で全曲の統一感を作っていました。テンポの方も慌てない心地よさがあり,古典派の曲らしい落ち着きがありました。

ただし,カッチリとした堅苦しさはありません。第2楽章のメヌエットなどには,センチメンタルになり過ぎない程度の”揺らぎ”がありました。中間部では一瞬明るくなるのですが,「はかなさ」と「あきらめ」を漂わせた気分が非常に魅力的でした。

第3楽章は全編弱音器付きで演奏される,シューベルトの弦楽五重奏曲(これはチェロ2本ですが)を思わせるような天国的な気分がある部分です。この曲の素晴らしさをたっぷりと伝える,厚みと深みのある演奏でした。弱音の溶け合いの素晴らしさを堪能しました。

第4楽章は第3楽章の続きのような暗い部分の後,突き抜けたようなロンドになります。ただし,完全に突き抜けたわけではなく,明るく振る舞っているような健気さがあるのが魅力です。この日の演奏には,純粋さだけではなく,人生を知った大人の渋味(?)のような気分が漂っていました。若いIMA受講生とは一味違った熟練の室内楽だったと思います。

後半に演奏されたシューマン/ピアノ五重奏曲変ホ長調は,演奏効果のあがる名曲だけあって,特に聞き映えがしました。曲が始まった途端に,パッと広い世界が広がるようなスケール感がありました。レジス・パスキエさんの熱のこもったヴァイオリンの歌いぶり,それに応えるジャン・ワンさんの威厳のある第2主題...第1楽章から名俳優が競い合って演技をするような面白さがありました。

第2楽章はゆったりとした葬送行進曲で,基本リズムの執拗な繰り返しが次第に静かな迫力につながっていました。各部分ごとに表情が変わり,景色が変わっていくような鮮やかさがあるのも面白いと思いました。第3楽章のスケルツォも慌てすぎず,曲想の変化をくっきりと伝えてくれました。

このようにどの楽章も曲想が鮮やかに描き分けられていたのですが,最終楽章の終結部で特に圧巻でした。すべてのパートが全開になり,「全員が主役」みたいな感じで盛り上がっていました。IMA全体を締めくくるのにふさわしい熱い迫力がみなぎっていました。

このように大変充実した演奏の連続だったのですが,会場が満席ではなかったのが残念でした。IMAについては,真夏の盛りに行われていることもあり,毎年,演奏会にお客さんがなかなか集まらないところがありますが,若い受講生を応援しつつ,こういう正統的で聞きごたえのある室内楽プログラムを楽しむような市民が増えてきてくれると良いのになぁと聞きながら考えていました。

さて,IMAが終わると,OEKの新シーズンも間近です。演奏会の帰り際に,「打ち水」のような感じのにわか雨に遭遇してしまいましたが,聞きごたえたっぷりの室内楽公演を聞いて,植物同様に夏の暑さから息を吹き返した感じです。とても良い演奏会でした。
(2013/08/31