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オーケストラ・アンサンブル金沢創立25周年記念スペシャルコンサート
2013年9月7日(土) 15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)ヘンデル(ベインズ&マッケラス編曲)/王宮の花火の音楽〜序曲
2)ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第2番嬰ハ短調 Op.129
3)モーツァルト/交響曲第25番ト短調
4)西村朗:鳥のヘテロフォニー
5)(アンコール)ヘンデル(ベインズ&マッケラス編曲)/王宮の花火の音楽〜メヌエット
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス),諏訪内晶子(ヴァイオリン*2)

Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が設立されて25周年になります。設立当初からの定期会員である私のようなものには感慨深さがあるとともに,我ながら歳を取ったなぁと思います。この間,2倍ほどの年齢になってしまいました。その25周年を祝う記念スペシャルコンサートが石川県立音楽堂で行われました。今年OEKは設立25周年を記念して石川県内全市町村で演奏会を行っていますが,そのメイン・イベントということになります。



OEKは室内オーケストラということで,レパートリーを中心にいろいろな面で制限があります。それを逆手に取るように工夫を凝らした活動をすることによって,OEKらしさを作ってきたようなところがあります。この日のプログラムにもその特徴が現れていました。演奏会の最後で井上道義音楽監督が語っていたように,「他のオーケストラの25周年記念だったらこういうことにはならないでしょう」というプログラムでした。各曲ごとにOEKらしさが出ていました。

最初に演奏されたヘンデルの王宮の花火の音楽の序曲は,やはり,何といっても「お祝い」の音楽ですね。やる気満々の風情でステージに登場する井上さんの歩き方を見ただけで,出てくる音が予想できました。バロック・ティンパニとトランペットのハイトーンを中心としたスピード感あふれる演奏で,格好よく,おめでたく決めてくれました。ちなみに今回の演奏は,当初はハーティ編曲版で演奏される予定でしたが,ベインズ&マッケラス編曲版に変更されました。版の違いについては詳しくないのですが,大編成向きのハーティ版よりはコンパクトな感じで,よりOEK向きの版だったのではないかと思います。

次のショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第2番は,第1番に比べると演奏される機会の少ない作品で,私自身,実演で聞くのは今回が初めてでした。てっきりショスタコ好きの井上道義さんの趣味で選んだ曲かと思っていたのですが,驚いたことに諏訪内晶子さんの選曲とのことでした。CDで予習した感じだと,「これは暗いなぁ。」という印象だったのですが,諏訪内さんの演奏を実演で聞くと,「良い曲だなぁ」と感じました。第1楽章を中心に,確かに歯ごたえのある渋い作品だったのですが,諏訪内さんの演奏には自信と落ち着きがあり,余裕をもってこの曲の深さを伝えてくれました。

何よりもコクのあるヴァイオリンの音が素晴らしいと思いました。諏訪内さんの演奏はいつもパーフェクトで,その隙のない美しさにひかれるのですが,演奏経験を積み重ねて,落ち着きも加わり,この渋い曲を安心して楽しませてくれました。

オーケストラの楽器中では,ホルンが独奏ヴァイオリンと対になって出てくるような部分が多く,重要な役割を担っていました。金星さんの音にはまろやかさがあり,要所要所で曲のアクセントになっていました。

第2楽章は,第1楽章よりは抒情的な音楽で,諏訪内さんは落ち着いた大人の雰囲気で美しく酔わせてくれした。中間部のカデンツァでの重音も聞きごたえがありました。この曲は,各楽章の中間部にカデンツァがあり,しかも独奏ヴァイオリンの休む時間が非常に少ない作品なので,体力的にも大変な作品ですが,諏訪内さんの演奏には息が切れるような感じはなく,緊張感が一貫していました。この点も素晴らしいと思いました。最終楽章にはスピード感とキレの良さがありました。終盤での,井上&OEKと一体となったアクロバティックな軽やかさもお見事でした。

曲全体としては,凛とした「美女」対悪魔的な「野獣」の絡み合いのような気分があり(私が勝手にそう思っただけですが),退屈することなく楽しむことができました。

後半はまず,OEKの基本的なレパートリーであるモーツァルトの交響曲を代表して,第25番が演奏されました。うかつにも見落としていたのですが,25周年にちなんで25番を選んだとのことです。第1楽章冒頭から,ちょっとゴツゴツしたような直線的な切迫感のある演奏で,聞き手を一気に演奏に引き込んでくれました。柔らかな音とのコントラストも明確で,自然なドラマを伝えてくれました。この曲のホルンのパートは高音が多く,やや大変そうな部分はありましたが,それもまた心の中の苦しみを伝えているようでした。

中間の2つの楽章は,ドラマティックな両端楽章に比べると速目のテンポでさらりと流すような感じでした。その脱力した気分も効果的で,聞きながら「日常のあれこれの垢を洗い落としてくれるようだ...」と思いながら浸っていました。第4楽章はサッと軽やかに走り抜ける感じの演奏でした。ザワザワとした胸騒ぎを感じさせるような演奏で,全体をスリリングに締めてくれました。

プログラムの最後に,西村朗作曲の「鳥のヘテロフォニー」が演奏されました。井上さんが語っていたとおり,普通,オーケストラ創設25周年記念の最後に,日本の現代曲を持ってくることはないと思います。これはやはり,日本の現代音楽の紹介にとりわけ熱心だった初代音楽監督の岩城宏之さんへのオマージュの意味もあったのかもしれません。

その試みは大成功だったと思います。個人的には,この「鳥のヘテロフォニー」は,歴代のOEKのコンポーザ・イン・レジデンスの作曲した曲の中でも,もっともインパクトのある曲だとずっと思っていました。この曲を記念演奏会のトリに持ってきてくれた辺り,OEKファンとしてとても嬉しく感じました。

CDで聞いても面白い曲ですが,やはり実演で聞くと格別です。まず,曲は始まるとモーツァルトの時とは空気が一変しました。これが痛快でした。プログラムの解説に「点描的」と書かれていたとおり,変な響きが続くのですが,それが次第にくっきりとしたリズムになっていきます。途中,スティール・ドラムのような音が入ったり,どこかラテン系という気分になります。リズミカルな部分でのノリの良さに井上さんらしさを感じました。

その他にも「どうやってこういう音が出てくるのだろう」という部分の連続のような曲なので,見ているだけで楽しめます。弦楽器などもかなり細かくパートが分かれているようで,タイトルどおり,熱帯系の鳥がクチャクチャ啼いているような部分があったり,複雑なリズムの繰り返しで盛り上がったり(途中ヴィオラから始まる同一音型の繰り返しの部分のくっきりとした強さが印象的でした),鍵盤打楽器を弓でこすって宇宙空間を漂うような音を出したり,ティンパニを手で叩きまくったり(こういう奏法は他では見たことがありません)...演奏後,井上さんが「死にそうなぐらい大変」と言っていましたが,その苦労のし甲斐が演奏効果となってしっかり伝わってくるような作品だと思いました。

こういう作品をレパートリーとして持っていることは素晴らしいことだと思います。これだけ多彩な響きを出す作品にも関わらず,通常のOEKの2管編成で演奏できてしまうのがすごいところです(パーカッションは1名追加が必要ですが)。是非,次の25年に向けて(私は生きているのだろうか?)OEK十八番となるような新作を残していって欲しいと思います。演奏後,作曲家の西村朗さんが客席からステージに登場し,嬉しそうに井上道義さんと握手をされていましたが,西村さんには,是非,「鳥のヘテロフォニー」の姉妹作を作って頂きたいものです。

アンコールでは,最初の王宮の花火の音楽の序曲に対応するように,同じ曲のメヌエットが脱力した気分でたっぷりと演奏されました。かつて王様が楽しんでいたような気分を持った曲ということで,「お客様は神様です」ならぬ「お客様は王様です」という雰囲気でゴージャスに締めてくれました。ヘンデルで始まり,ヘンデルでまとまりを付ける辺りも井上さんらしいと思いました。

井上さんは,アンコールの演奏前に,この日のプログラムの意図について,ユーモアを交えて語っていましたが,そのとおり各曲にOEKらしさが出ていました。お祭り気分とOEKらしさに溢れた,素晴らしい演奏会でした。

PS. 演奏に先立って,OEKの創設以来,海外公演,東京公演,名古屋公演,大阪公演などを中心に多大なサポートをしていただいているレンゴー株式会社に対して谷本石川県知事から感謝状が贈呈する式典が行われました。この会社は,OEKのコンサートマスターに対してストラディヴァイウスを貸与していることでもお馴染みですね。OEKのプログラムに毎回,会社名が出ていますので,この25年間でOEK定期会員にとっては,非常に好感度の高い企業になったと思います。ファンとしても感謝をしたいと思います。

(参考ページ)
http://www.rengo.co.jp/society/orchestra.html


↑この日のプログラムです。ツイッターで紹介されていた缶バッチもゲット。ついつい,井上音楽監督の顔の入ったものを選んでしまいました。

この日はロビーには沢山のお祝いの花が届いていました。





その中でプレコンサート。この日はチェロの大澤さんとコントラバスのカルチェヴァさんによる二重奏でした。


7月の定期公演で演奏された井上道義さん指揮によるメンデルスゾーンの「イタリア」(何と全曲)を収録したCDが付録で付いているレコード芸術9月号も販売していました。お隣では,OEK25周年記念バッチを販売。その他,この日はCDも多数販売していました。

 
音楽堂の外からJR金沢駅に掛けては,は邦楽ホールで行われる「金沢まつり」の燈籠が出ていました。

(2013/09/10