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モーツァルト室内楽の旅18:カンタさんとともに究極の室内楽,シューベルト弦楽五重奏
2013年9月13日(金) 19:00〜 金沢蓄音器館
1)モーツァルト/弦楽三重奏のための前奏曲とフーガ第3番ヘ長調K.404a
2)モーツァルト(ダンツィ編曲)/モーツァルトの主題による2台のチェロのためのデュオ
3)(アンコール)ドヴォルザーク/ユーモレスク
4)シューベルト/弦楽五重奏曲ハ長調D.956
●演奏
ルドヴィート・カンタ(チェロ)
クワルテット・ローディ(大村俊介*1,4,大村一恵*4(ヴァイオリン),丸山萌音揮(ヴィオラ*1,4),福野桂子(チェロ*2-4)
Review by 管理人hs  

金沢蓄音器でシリーズで行われている「モーツァルト室内楽の旅」の第18回目の演奏会を聞いてきました。このシリーズを聞くのは久しぶりのことだったのですが,モーツァルトの作品を最低1曲演奏した上で,ゲスト奏者の得意な曲を含めるというのがこのところの方針になっているようです。この日のゲストは,OEKの首席チェロ奏者のルドヴィート・カンタさんで,そのチェロを生かす形で,シューベルトの弦楽五重奏曲がメインで演奏されました。今回は,金沢では滅多に聞けない,この大曲を目当てに聞きに行きました。
 

まず,モーツァルトの弦楽三重奏のための前奏曲とフーガ第3番というバッハ風の渋い曲が演奏されました。大村さんの解説によると,モーツァルトの父親のレオポルドは非常に音楽教育に熱心だったにも関わらず,何故かバッハについては教えておらず,アマデウスは,バッハの楽譜を集めていた  男爵のところで初めてバッハの楽譜を見て,傾倒するようになったとのことです。3人による演奏は,フーガの部分でも堅い感じにはならず,しみじみとした音楽を聞かせてくれました。

続いて,カンタさんと福野桂子さんのチェロ二重奏で,ダンツィ編曲によるモーツァルトのオペラの中のアリアなど次の5曲が演奏されました。
  • 歌劇「フィガロの結婚」〜第3幕フィナーレの行進曲
  • 歌劇「フィガロの結婚」〜第2幕けルビーののアリア「恋とはどんなものかしら」
  • 歌劇「魔笛」〜第1幕フィナーレ「この道は,あなたを目的へと導いていく」
  • 歌劇「魔笛」〜第2幕「僧侶の行進」
  • 歌劇「魔笛」〜第2幕モノスタトスのアリア「誰でも恋の喜びを知っている」

モーツァルトのオペラと言えば,自由闊達な曲が多い印象がありますが,全体的にテンポを落とし,じっくりと味わい深く聞かせてくれました。モノスタトスのアリアは,つい最近,金沢で行われたサイトウ・キネン・オーケストラのスクリーンコンサートの時にフルートとオーボエ二重奏で演奏されるのを聞いたばかりですが(この時はアンコールで演奏されました),生々しさが消えた分,昔を回想するような趣きがありました。その他の曲も,どこかドイツ民謡をのんびり聞くような気分があったり,2人のチェロ奏者による語り合いのような気分があったり,大変味わい深いものでした。

アンコールでは,9月8日が誕生日だったドヴォルザークにちなんで,ユーモレスクが演奏されました。自在に揺れる,ロマンティックでちょっとレトロな気分のある演奏でした。特に中間部で,テンポを落として音を滑らせるように演奏していたのがとても良い雰囲気を出していました。最後は,テンポをぐっと落として,名残惜しげに終了しました。蓄音器と言えば「弦楽器による小品」というイメージを持っているのですが,蓄音器館で聞くのにぴったりの気分のある演奏でした。

後半はお目当てのシューベルトの弦楽五重奏曲の全曲がたっぷりと演奏されました。最晩年に書かれたこの曲は,調性的にも長さ的にも,交響曲「ザ・グレイト」に該当するような作品です。個人的には自分が大学生だった頃から大好きな曲で,第1楽章の最初の方の響きを聞くだけで,「思い起こせば恥ずかしきことの数々...」という感じで懐かしさでいっぱいになります。

クワルテット・ローディとカンタさんは,大変じっくりとしたテンポでかみしめるように深い音楽を楽しませてくれました。第1楽章から既に天国的な気分がありました。長いことに価値がある曲だと思いました(ただし,第1楽章の繰り返しはしていませんでした)。基本的に曲想は明るいのですが,微妙に暗さを感じさせたり,チェロ2本がたっぷり歌ったり,この曲の魅力がしっかり伝わってきました。CDではあまり気付かずにいたのですが,内声部のヴィオラがかなり忙しく働いているのが分かったり,実演ならではの発見もありました。

第2楽章はさらに”あの世”的な雰囲気になります。神秘的な和音は瞑想的で,最初から最後までしっかりと浸って聞いていました。第3楽章のスケルツォもじっくりと演奏されていました。モーツァルトの弦楽五重奏と違って,チェロ2人の五重奏ですので,少々野暮ったく感じさせるほど低音がよく響いていました。

第4楽章がハンガリー風というパターンは,シューベルトの曲によくあります。ここでも最後の力を振り絞るように力感のある音楽を聞かせてくれました。

これだけ近距離で演奏を聞き続けると,演奏する方だけではなく,聞く方も「お疲れ様でした」という感じになります。蓄音器館の椅子は木製なので1時間近く座っていると,少々尻が痛くなりましたが,今回好きな曲をじっくり堪能できた「良い記念」になりました。

演奏会後,外に出ると日中の暑さが納まっていました。これから秋になると,ますます室内楽の似合うシーズンになりますね。金沢蓄音器館の室内楽シリーズですが,次回はOEKのクラリネット奏者,遠藤文江さんが登場してクラリネット五重奏曲を演奏するとのことです。こちらの”五重奏”も楽しみです。

PS. 演奏会前のワインのサービスもこのシリーズのお楽しみの一つです。今回はカンタさんにちなんでスロバキアのワインでした。いつものことならが,この選択も素晴らしいと思います。



(2013/09/16