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AVANTI! 音楽のネクストジェネレーション -北欧より:まるびぃdeパーティ9 開館9周年記念バースディコンサート
2013年10月9日(水) 19:00〜 金沢21世紀美術館シアター21

1)カイラ/敬意を表する鐘
2)シベリウス/マリンコニア
3)ユッカ・ティエンス/Rack
4)一柳慧/クラリネット六重奏曲(神奈川県民ホール委嘱新作,世界初演)
5)ラウタヴァーラ/Pelimannit(村の音楽師:ぺリマンたち)
6)ノルドグレン/Sunrise at the Mt. Fuji mountain(弦楽四重奏曲第10番〜第4楽章「朝の歌」)
7)モーツァルト/クラリネット五重奏曲イ長調 K.581
8)(アンコール)アイゼル/Babsi's Decision
●演奏
Avanti!室内アンサンブル(カリ・クリーック(クラリネット*4,7,8),アンナ=レーナ・ハイコラ(ヴァイオリン*1,3-4,6-8),エリーッカ・マーリスマー(ヴァイオリン*1,3-4,6-8),トューラ・リーサロ(ヴィオラ*1,3-4,6-8),ミッコ・イヴァルス(チェロ*1-4,6-8),エミル・ホルムストルム(ピアノ*1-2,4-5,8))

Review by 管理人hs  
10月上旬は,金沢21世紀美術館の「誕生月」ということで(ちなみに私もですが),「まるびいdeパーティ」と題していろいろなイベントが行われます。その一つとして,Avanti!室内アンサンブルの演奏会が美術館内のシアター21で行われたので聞いてきました。

 
公演ポスターと夜の21美

Avanti!はフィンランドのオーケストラメンバーを中心とする室内アンサンブルで,今回は弦楽四重奏,クラリネット,ピアノという6人編成でした。演奏された曲は,カイラ,シベリウス,ユッカ・ティエンス,ラウタバーラ,ノルドグレンといったフィンランドの作曲家の室内楽曲や器楽曲と一柳慧さんのクラリネット六重奏曲,モーツァルトのクラリネット五重奏曲を組み合わせたもので,大変聞きごたえがありました。

フィンランドの作曲家の作品の雰囲気は,かなりバラエティに富んでいましたが(編成もバラバラ),どの曲にもどこか静寂で詩的な雰囲気がありました。現代音楽ということでフラジオレットをはじめ特殊奏法がいろいろ出てくるのですが,それがどれも魅力的に感じられました。

シアター21は残響がほとんどないホールで,弦楽器奏者にとっては弾きにくい部分もあると思いますが,慣れてくると,独特の密室感があり(ホール内全部真っ黒なので)音楽に集中できます。現代音楽の場合,音楽に集中できるというのはメリットだと思います。

最初に演奏されたカイラという作曲家(1978年生まれ)は,名前を聞くのも初めてでした。「敬意を表す鐘」は,2006年に作られた弦楽四重奏とピアノによる曲で,穏やかに始まった後,不思議な感覚のドラマが展開していきました。このホールだと,弦楽器の音はギシギシと,ピアノは硬質に響くのですが,北欧の音楽のムードには合っている気がしました。

次のシベリウスのマリンコニアは,この日演奏された曲の中ではいちばんロマンティックな雰囲気がありました。マリンコニアというのは,英語で言うとメランコリーということで,どこかシューマンの曲などに通じるような密度の高いロマンを感じました。シベリウスが自分の子供を失った後に作った曲で,悲しみ,不安,はかなさ,あききらめ...といった感情が交錯するようでした。技巧的な華麗さもあり,シベリウスの「隠れた名曲」だと思いました。

ユッカ・ティレンスという作曲家も初めて聞く名前でした。Rackという作品は,1948年生まれのユッカ・ティレンスが2008年に作った曲で,この日演奏された曲の中ではいちばん前衛的だと思いました。弦楽四重奏用の作品で,フラジオレット,ポルタメント,ピツィカートなど多彩なアーティキュレーションが次々と移っていく面白さがありました。この密室空間で聞くと,どこか狂気の世界というムードになるというのも独特でした。

前半最後は,今回のAvanti!の日本公演のために一柳慧さんに委嘱して作曲されたクラリネット六重奏曲が演奏されました。ここで初めて,Avanti!の芸術監督のクラリネットのカリ・クリーックさんが加わり,メンバー全員での演奏になりました。こういう編成の作品は滅多にないと思いますが(メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」にかなり近いですが),北欧の作品との取り合わせと良いと思いました。この曲ではまず,クリーックさんのクラリネットの特殊奏法の多彩さに呆れました。聞きごたえもありましたが,演奏する方も吹きごたえがあったのではないかと思います。途中からはピアノも加わり,全体的にエネルギッシュな雰囲気になります。

この日会場には,一柳さん自身も来られており,演奏後にAvanti!の皆さんを讃えていましたが,一柳さん自身の若々しさも驚くばかりです。一柳さんは現在80歳ぐらいのはずですが,音楽自体も常に挑戦なのが素晴らしいと思います。

後半はまず,ラウタヴァーラのピアノ独奏曲が演奏されました。「村の音楽師」という曲集は,バルトークのルーマニア民族舞曲のように,素朴な雰囲気のある短めの6つの曲が連続的に演奏されます。陽気な感じの曲がある一方,神秘的ムードのある曲もあり,飽きずに楽しむことができました。

ノルドグレンの作品は,富士山山頂での日の出のシーンにインスパイアーされて作られた曲で,弦楽四重奏曲の1つの楽章とのことです。今年,富士山は世界文化遺産に指定されたので,「日本ツァー向け」の絶妙の選曲だったと思います。

弦楽四重奏とはいえ,最初に「チリンチリン」という鈴の音が入っていたのが印象的でした(文字通り,チリンチリンという音でした)。日本にも滞在していたことのあるノルドグレンからすると,登山の時に聞いた鈴の音というのが印象定位だったのでしょう。どこか宗教的な気分を感じさせてくれました。

その後,日の出の気分を視覚的に感じさせるような静かな部分と力感のある部分が交互に出てきました。最後の部分では,疲れた体で山を降りているのか「エッチラ,オッチラ」という感じのリズムが出てくるのがユーモラスだと思いました。

最後に演奏されたモーツァルトのクラリネット五重奏曲はお馴染みの作品ですが,この密室空間で聞くと,独特の暗さがあり,モーツァルト晩年の天上の音楽という感じとは一味違った面を聞かせてくれました。第1楽章の冒頭から,クラリネットの音はぐっと明るさを抑えたような渋さがありました。速目のテンポで音楽に勢いを感じましたが,歌いすぎるところははなく,甘さひかえ目のモーツァルトという感じでした。

第2楽章も比較的さらりとした演奏で,現代的な孤独感のようなものを感じました。第3楽章のメヌエットもちょっと一癖のある暗さを感じました。クリーックさんのクラリネットは,曲が進むにつれて,即興的な装飾音が増えていくようで,最終楽章ではかなり大胆な演奏を聞かせてくれました。曲の後半部ではかなり大きな間を取るなど,じっくりと聞かせる部分とアドリブ的な部分とがバランス良く交替していました。

全曲を通じると,やはり弦楽器の音にもう少しツヤが欲しい気はしましたが(このホールだと仕方がないところです),演奏に酔い過ぎることがなく,とてもセンスの良い演奏になっていたと思います。

アンコールでは,アイゼルという作曲家のBabsi's Decisionという曲が演奏されました(終演後,掲示でタイトルが分かりました)。この曲は,民族的な雰囲気のあるユダヤ風のメロディをクリーックさんのクラリネットを中心に,ほとんどジャズのような感じで(いやジャズ以上に)自由自在,変幻自在に演奏されました。特にクリーックさんのクラリネットは凄かったですね。ベルアップしたり,音程を揺らしたり,尺八のような音を出したり,鳥の鳴き声を思わせる音が出てきたり,メンバーとアドリブ的な掛け合いをしたり...
クリーックさんのやりたい放題という楽しい演奏でした。お客さんも大喜びでした(そういえば,この日のお客さんの中には,フランソワーズ・モレシャンさんもいらっしゃっていました。)。。

21世紀美術館のシアター21は通常のクラシック音楽を聞くには,もう少し残響が欲しいと思うのですが,今回のような現代曲を中心したプログラムだとピタリとはまります。今回の公演は,「友の会員優待」で1900円で聞くことができましたが,21美での現代曲の演奏会については,今後も期待したいと思います。
(2013/10/14)