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2013ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭 石川フィルハーモニー交響楽団特別演奏会
2013年10月12日(土) 18:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
2)ショスタコーヴィチ(バルシャイ編曲)/室内交響曲op.110
3)リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェヘラザード」op.35
4)(アンコール)ハチャトゥリアン/バレエ音楽「仮面舞踏会」〜ワルツ
●演奏
花本康二指揮石川フィルハーモニー交響楽団,二村絢子(ヴァイオリン*3)

Review by 管理人hs  
10月の連休初日の12日,金沢では日中はかなり激しい雨が降ったのですが,夕方以降は回復し,2013ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭のイベントの一つとして行われた,石川フィルハーモニー交響楽団の特別演奏会を聞いてきました。今回,聞きに行こうと思ったのは,アマチュア・オーケストラにはハード過ぎると思えるぐらいの魅力的なプログラムだったからです。

 

最初にストラヴィンスキーの「火の鳥」(1919年版),次にショスタコーヴィチの室内交響曲(弦楽四重奏曲第8番の弦楽合奏版),そして,メインにリムスキー=コルサコフの「シェヘラザード」。石川フィルは2年前には,マーラーの交響曲第9番を演奏しているほどのオーケストラなので実力は十分あるのですが,違ったタイプの難曲3曲というのは,マーラーの大曲1曲とはまた違った難しさがあったのではないかと思います。

その演奏ですが...大変素晴らしい演奏でした。実は今回,石川県立音楽堂コンサートホールの2階席の前の方で聞いてみたのですが,オーケストラの一員になってしまったような感覚になってしまい,アマチュア・オーケストラの素晴らしさを体感することができました。

最初に演奏された。「火の鳥」は,コントラバスと大太鼓による冒頭部分から,スムーズで,すっきりと始まりました。途中,やや慎重過ぎるかなと感じる部分もあったのですが,前の方で聞いたこともあり,各楽器の音が飛び交う様子を臨場感たっぷりに楽しむことができました。「魔王カスチェイの兇悪な踊り」では,打楽器やテューバの迫力が特に素晴らしく,全体の響きを引き締めていました。「子守歌」でのファゴットもしっかりとした歌を聞かせてくれました。終曲の終結部は,金管楽器が華やかに活躍した後,一旦静かになり,ゆっくりとクレッシェンドした後,バシッと決まるのが実に格好良い部分ですが,この日の演奏は本当にバシっと決まっており,爽快でした。「これだけうまく決まれば指揮者冥利に尽きるのでは」などと思いながら,演奏後の余韻に浸りました。

ショスタコーヴィチの室内交響曲は弦楽器だけの演奏ということで,アマチュア・オーケストラによる演奏だったら粗が目立つかな...と聞く前は余計な心配をしていたのですが,全くそんなところはなく,厚みのある聞きごたえのあるサウンドをたっぷりと聞かせてくれました。途中堂々と印象的に出てくる,ユダヤ風のメロディなど大変聞き映えがしました。

ショスタコーヴィチならではの,おどけているけれどもシニカルな部分,運命の一撃のように出てくる強烈な連打...次々と印象的な音楽が湧き出てくる大変流れの良い演奏になっていました。この曲では,オリジナルの弦楽四重奏版と同じような形でコンサートマスターや首席チェロ奏者が単独で演奏する部分があるのですが,そういった部分に緻密さがありました。さすがに,鬼気迫るような凄みまでは感じなかったのですが,一癖も二癖もあるショスタコーヴィチの傑作を見事に聞かせてくれました。

後半に演奏された「シェエラザード」は特に素晴らしい演奏でした。この曲はコンサートマスターがソリストなみに大活躍する曲ですが,この日のコンサートマスター(女性なのでコンサートミストレスということになります)の二村絢子さんはステージに登場する時から,本当ににこやかな表情でした。この表情を見た瞬間,「この演奏は素晴らしい演奏になるだろう」と予感しました。そのとおりの演奏でした。

冒頭の堂々とした響きからオーケストラの音のまとまりが良く,音楽の流れが大変スムーズでした。第1楽章のタイトルどおり,順風満帆の航海という感じの演奏でした。音楽全体に一致団結したような勢いの良さを感じました。

それと二村さんのヴァイオリンが,最初から最後まで本当にお見事でした。上田智子さんのハープと一緒に出てくる部分が多かったのですが,大船に乗って航海しているような安定感のある演奏を聞かせてくれました。

その演奏に触発されるように,その他のパートもすべて聞きごたえのある演奏を聞かせてくれました。厳密に聞くと,やはり「完璧」というわけではないのですが,第2楽章のフルート,第3楽章での木管楽器群など「しっかり仕事しているなぁ」と感じさせてくれるような演奏で,一つ一つが感動的でした。その積み重ねを聞いているうちに,オーケストラというのは色々な個性の人がいるはずなのに,よくまとまっているなぁ,とオーケストラ音楽の原点のようなことを考えてしまい,さらに感動しました。指揮者の花本さんを中心とした練習の成果が十分に発揮された演奏だったのではないかと思います。

この曲を鮮やかに彩る金管楽器や打楽器の活躍も光っていました。第3楽章中間部での打楽器のバランスの良さ,第4楽章でのトランペットの3連符の連続など,それぞれのしっかり鍛えられた技が着実に積み重なった上で曲全体としての迫力や熱気につながっていたのが素晴らしいと思いました。プログラムに書かれていた花本さんのプロフィールには「常に心は熱く,しかし頭は冷静に」がモットーと書かれていましたが,そのとおりの演奏だったと思います。熱気があるだけではなく,集中力が持続した,素晴らしくまとまりの良い演奏だったと思います。

アンコールでは,ハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」の「ワルツ」が流れよく演奏されました。たっぷりとしたボリューム感と熱気に溢れた聞きごたえのある演奏でした。これで,ストラヴィンスキー,ショスタコーヴィチ,リムスキー=コルサコフ,ハチャトゥリアンと役者が勢ぞろいしたことになり,会場は大いに盛り上がりました。

この日の演奏会は,石川県立音楽堂コンサートホールの響きの良さ,リムスキー=コルサコフのオーケストレーションの素晴らしさ,そして石川フィルの大健闘と全てのプラスの要素が揃い,大変素晴らしい演奏会になりました。ビエンナーレいしかわはその名のとおり2年に1度ですが,また次回にも期待したいと思います。

 
終演後は晴れていました。そのまま,しいのき迎賓館に向かい,プロジェクション・マッピングを見てきました。
こんな感じでした。

(2013/10/10)