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ソンジュン・キム チェロ・リサイタル
2013年年11月7日(木) 19:00〜 金沢市アートホール

シューマン/アダージョとアレグロ 変イ長調 op.70
シューベルト/アルペジョーネ・ソナタ イ短調 D.821
ショパン/序奏と華麗なるポロネーズ ハ長調 op.3
ブラームス/チェロ・ソナタ第2番へ長調 op.99
(アンコール)ピアソラ/ル・グラン・タンゴ
●演奏
ソンジュン・キム(チェロ),ジヌゥ・パク(ピアノ)


Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のチェロ・パートの中のいちばん若い奏者ソンジュン・キムさんのリサイタルが金沢市アートホールで行われたので聞いてきました。キムさんが加わった室内楽公演やコンサートホール以外での公演は,過去何回か行われていますが,キムさんが主役となる単独リサイタルを行うのは今回が初めてのことだと思います。プログラムには,シューマン,シューベルト,ショパン,ブラームスと「芸術の秋」にぴったりのロマン派のチェロ作品が並び,楽器の魅力満載。お客さんの反応もとても暖かく,とても良い雰囲気の演奏会となりました。

ただし,演奏の方は甘くロマンティックな演奏というよりは,「激しさ」「強さ」そして「凄み」を感じさせてくれるものばかりでした。そういう点で前半に演奏されたシューマンの作品やシューベルトのアルペジョーネ・ソナタなどでは,もう少し甘くしっとりとした気分を聞かせて欲しい気はしましたが(それと,やや音程が甘いところがあったのが気になりました),後半演奏された名技性たっぷりのショパンの序奏と華麗なるポロネーズや渾身の迫力のみなぎるブラームスなどは,迫力満点でした。

最初に演奏されたシューマンのアダージョとアレグロは,別の楽器で演奏されるのを聞いた記憶があります(ハインツ・ホリガーのオーボエだったと思います。調べてみるとホルン版がオリジナルのようです)。キムさんの演奏は大変堂々とした演奏でした。チェロの奏法については全くの素人なのですが,キムさんのボウイングはとても美しく,見ているだけで伸び伸びとした気分になりました。後半のアレグロの部分では,一気に爆発する感じになります。その集中力とコントラストの鮮やかさが印象的でした。

シューベルトのアルペジョーネ・ソナタを実演で聞くのは,ラ・フォル・ジュルネ金沢の第1回目が開催される半年前に石川県立音楽堂で行われた「シューベルト・フェスティバル」で聞いた,ルドヴィート・カンタさんと仲道郁代さんによる演奏以来のことです。もう6年も前のことになります。

この曲はシューベルトの曲の中でも特にメロディラインが美しい曲で,大好きな作品です。キムさんの演奏はそれほど甘い感じはなく,ちょっとゴツゴツとした印象を受けました。落ち着いた気分のある第2楽章から美しいメロディが次々と湧き出てくるような第3楽章にかけてもそれほど,甘さはなく,全体に淡泊な印象を受けました。個人的には,この曲については,もう少し「せつなさ」とか「名残惜しさ」のようなものが欲しいかな,と思いました。

後半最初に演奏されたショパンの序奏と華麗なるポロネーズは,ダイナミックさと力強さに溢れた演奏でした。ジヌゥ・パクさんのピアノにも「いかにもショパン」という感じの華麗さと流れの良さがありました。2人が一体となって,若々しく,活きの良い音楽の流れを作り出した素晴らしい演奏だったと思います。

最後のブラームスのチェロ・ソナタ第2番は,第1楽章冒頭から,立派な構えのある演奏で,スケールの大きさを感じさせてくれました。中間部での抑えた表情から,溢れ出るような感情の爆発まで,とても表情豊かな演奏でした。第2楽章は神秘的なピチカートで始まります。それが次第に高揚していき,強烈なピチカートに盛り上がっていきます。そのダイナミックレンジの広さが大変聞きごたえがありました。この楽章に限りませんが,要所要所で出てくる,密度の高い音による熱いカンタービレも印象的でした。第3楽章から第4楽章に掛けては,さらに曲全体に溢れる熱気が増し,津軽三味線(?)の演奏を思わせるほどバチンといった衝撃音を交えての激しい演奏を聞かせてくれました。渾身のクライマックスという感じでした。

ブラームスの演奏としては賛否両論あるかもしれませんが,今回のチャレンジングでスリリングな演奏で,会場は大いに盛り上がりました。演奏後は,ほとんど手拍子のような熱い拍手が続き,アンコールが演奏されました。この曲が驚きの選曲でした。ピアソラのル・グラン・タンゴでした。アンコールにしては凄すぎるような曲で,青い炎がチラチラと見えるような暗い情熱を秘めた迫力のある演奏を聞かせてくれました。この演奏で会場はさらに盛り上がりました。熱い雰囲気の中,お開きとなりました。大成功の演奏会だったと思います。

この日の会場には,OEKのメンバーや楽友会の皆さんの姿を見かけました。こういう「みんなで盛り上げよう」という雰囲気はとても良いですね。演奏後の挨拶でキムさんは,「毎年リサイタルを行いたい」と仰られていましたが,OEK全体だけでなく,OEKメンバー個人の活動が益々活発になっていくことをこれからも期待したいと思います。


PS. 終演後,ホテル日航金沢の1階を通り抜けて外へ。


年末ということで,ディナーショーのポスターです。いちばん左がお馴染み松田聖子,いちばん右が清水良太郎です。清水さんは,「あまちゃん」で若き日の橋幸夫役をやっていましたね。真ん中が能とクラシック音楽の共演ということで,OEKの第1ヴァイオリンの坂本さんやピアニストの田島睦子さんの名前が出ていました。
http://www.hnkanazawa.jp/rest_and_bar/nougaku2013.html


(2013/11/10)