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オーケストラ・アンサンブル金沢第343回定期公演フィルハーモニーシリーズ
2013年11月14日(木) 19:00〜  石川県立音楽堂コンサートホール

1)シューベルト/交響曲第5番変ロ長調 D485
2)シュトラウス,R./ホルン協奏曲第2番変ホ長調 op.86
3)(アンコール)メシアン/
4)ハイドン/交響曲第92番ト長調 Hob.I-92「オックスフォード」
5)(アンコール)ハイドン/交響曲第57番 長調 Hob.I-57
●演奏
ギュンター・ピヒラー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング),ラドヴァン・ヴラトコヴィッチ(ホルン)

Review by 管理人hs  

11月のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演にはおなじみギュンター・ピヒラーさんが登場しました。演奏会のキャッチコピーは「ウィーンの楽士たち饗宴」ということで,プログラムには,ハイドン,R.シュトラウス,シューベルトとウィーンで活躍した作曲家の作品が並びました。プログラムの構成的には,シューベルトの5番,シュトラウスの協奏曲,ハイドンのオックスフォードということで,協奏曲を中心にシンメトリカルな構成になっていました。

最初に演奏された,シューベルトの交響曲第5番はOEKがたびたび演奏してきた曲で,個人的に大好きな作品です。ピヒラーさんの指揮は,演奏会の最初ということで,いつものような(?)ビシビシと引き締める感じは,少し控え目にして,キビキビと軽やかに流す感じでした。それがまたこの曲に相応しいと感じました。

第1楽章から中庸のテンポで,すっきりと力みない演奏でしたが,要所要所でビシッと締めるのはピヒラーさんらしいところです。第2楽章も,シューベルトらしい穏やかな「歌」に溢れたていましたが,抑制がしっかり効いており,甘い感じはありませんでした。第3楽章は,キビキビとしたテンポのメヌエットで夢見るような中間部とのコントラストが明確でした。

第4楽章は全体のフィナーレということで,特に生き生きと演奏でした。「速い!軽い!巧い!」というさすがOEKという演奏でした。途中で急に短調になる部分での,キレ味良く,気分が鮮やかに変わる部分など聞きごたえも十分でした。

2曲目のR.シュトラウスのホルン協奏曲第2番では,OEK定期に登場するのが2回目となる世界的なホルン奏者,ラドヴァン・ヴラトコヴィッチさんが独奏者として登場しました。前回の共演は2009年で,その時もピヒラーさんが指揮でした。ちなみに,前回はR.シュトラウスのホルン協奏曲第1番を演奏しましたので,これで”全集”ということになります。

この演奏ですが,前回の共演に続いて,ヴラトコヴィチさんのホルンの素晴らしさを堪能できました。この曲は冒頭からホルンの伸びやかなソロで始まります。ヴラトコヴィッチさんのホルンの自信に満ちた自然な音がホールに伸びやかに広がり,会場の空気が「どこかアルペン」という感じになりました。ブラトコヴィッチさんの演奏には力んだところや,苦しげなところが皆無で,「これがホルンだ」というプレーンな音を聞かせてくれました。すべての音を楽々とムラなく演奏しており,安定感抜群の演奏でした。ブラトコヴィチさんは,とても体格の良い方でしたが,その体全体から醸し出てくる雰囲気自体が「ホルン!」という感じでした。

OEKもヴラトコヴィッチさんに触発されたように生き生きとした演奏を聞かせてくれました。木管楽器の瑞々しい響きを中心に歌に満ちた第2楽章,音楽が湧き上がってくるような第3楽章と素晴らしい音楽が続きました。最終楽章は,次々と速いパッセージが湧き上がってくるようでした。曲の最後の方で,OEKのホルンの金星さん,山田さんと一緒になって,3人のホルンの重奏になる部分が出てきます。いかにもホルンらしい力強い響きがして,いいなぁと思いました。

休憩中の様子。最近,2階席前でも飲料を販売していますが,順番待ちが分散されるので良いと思います。年輩の方にも好評だと思います。
その後,ヴラトコヴィチさんの独奏でアンコールが演奏されました。ヴラトコヴィッチさんは,"Ladies and gentlemen..."と,とても丁寧な英語で曲目を紹介された後,演奏を始めました。メシアンによるホルン独奏曲ということは分かったのですが,これが,「さすが,トップ・アーティスト!」という素晴らしい演奏でした。特殊奏法を使った多彩な音色と表情,遠近感を感じさせる強弱の変化...1本のホルンで出せる音を出し尽くしたような曲で,聴衆を圧倒しました。協奏曲の時よりも大きな音を出していた感じで,ホール内に音が朗々と鳴り響いていました。考えてみるとかなり前衛的な曲だったのですが,聞いている間はそういう感じはなく,「音楽を聞いた」という印象が残りました。

終演後の掲示によると,曲名はメシアンのAppel Interstellaire とのことでした。調べてみると,「峡谷から星たちへ…(Des canyons aux etoiles...)」の第6楽章で,「星間の呼び声」というのが日本語訳になります。確かに,星の間で声を掛けあっている感じのような作品でした。Wikipediaによると,全曲で1時間40分もかかる曲のようですが,他の楽器で演奏される別の楽章も聞いてみたいと思いました。

後半はハイドンの「オックスフォード」1曲だけでした。いかにもOEK的なプログラム構成ですが,物足りないところは全くありませんでした。あまちゃん風に言うと「おら やっぱり,ピヒラーさんのハイドンが好きだ」という感じの演奏でした(別に「おら」と言う必要はないのですが,いまだに「あまロス」気味なので..)。

第1楽章序奏部の念の入った透明な響きに始まり,曲全体がビシっと磨かれており,キビキビとした音の動きを中心に隙のない演奏を聞かせてくれました。元気のある主題での剛毅さもピヒラーさんらしいところです。

ちなみにこの日は,古典派の作品にも関わらず,通常のティンパニを使っていました。これまでピヒラーさんは,古典派の交響曲については,いつもバロック・ティンパニを使っていたと思うので,解釈が変化して来ているのかもしれません。そのせいもあって,ティンパニの音にズシっとした重みを感じました。

第2楽章は,音自体はとてもシンプルなのに,深さを感じさせてくれました。ハイドンらしく,こういった楽章でのフルートやオーボエのシンプルな歌も聞きものです。この日は,それぞれ,岡本さんと加納さんがソロを聞かせてくれました。楽章の最後の方での,テンポをぐっと落として締める辺りの味わい深さも印象的でした。

メヌエット楽章の中間部など,楽想が変わる部分では,やや大きめの間を入れて,明確にコントラストを付けるスタイルもいつもどおりでした。最終楽章では,手綱を引き締めるような快速で,鮮やかにラストスパートをするように走り抜けました。こういった楽章で,トランペットによるアクセントを強く入れるのもいつものピヒラーさんどおりでした。

アンコールでは,ハイドンの交響曲第57番という,非常にマイナーな作品の終楽章が演奏されました(なぜこの曲を選んだのか知りたい気もします)。本割の演奏よりもリラックスした気分があり,こちらも大変楽しく,鮮やかな演奏を楽しませてくれました。

この日も終演後,サイン会があったので,「ハイドンはとても楽しめました」とピヒラーさんに声を掛けてみたところ,大変うれしそうな顔をされていました。ピヒラーさんにとっても快心の演奏だったのではないかと思います。

 今回は前回お2人が共演した際の定期公演のライブ録音CDの表紙に2人揃って頂きました。「この写真はどこ?」という感じで,2人で会話をされていました。







(2013/11/17)