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クリスマス・メサイア公演
2013年12月8日(日)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール


1)榊原栄編曲/クリスマス・ソング・メドレー(諸人こぞりて,もみの木,赤鼻のトナカイ,ホワイト・クリスマス,サンタが街にやってくる,天には栄え,ジングルベル)
2)ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(抜粋8-11,19-20,24-39,41-42,45,49-51曲省略)
3)(アンコール)きよしこの夜
●演奏
三河正典指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
合唱:北陸聖歌合唱団*2-3,OEKエンジェルコーラス*1,3
独唱:朝倉あづさ(ソプラノ)*2,池田香織(メゾ・ソプラノ)*2,君島広昭(テノール)*2,安藤常光(バリトン)*2



Review by 管理人hs  

12月恒例の北陸聖歌合唱団とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による,クリスマス&メサイア公演を聞いてきました。私の場合,「第9」ではなく,この曲を聞くと「年末だな」と感じます。

今年の指揮は,昨年同様,三河正典さんでした。昨年の演奏も素晴らしかったのですが,今年で3年連続ということもあり,その集大成といった感じの壮麗さがありました。しかも雑なところはなく,第1部最初の序曲から,じっくりとしたテンポで1曲ずつ明快な音楽を聞かせてくれました。OEKの演奏はバロック音楽らしく基本的にすっきりとしたものでしたが,弦楽合奏によるちょっとした細かい音型など,どの部分をとってもでしっかりと磨かれており,毎年積み重ねてきた「伝統の美」のようなものを感じました。

北陸聖歌合唱団も堂々とした歌いっぷりでした。60年以上この曲だけ歌っている団体ということで,「熱さ」と「思いの強さ」を感じました。昨年も同様だったのですが,客席から見ていると,三河さんが合唱を指揮するとき,ほとんど天井を向いて指揮されているような場面が何回もありました。それに応えるように,ハレルヤコーラスも最後のアーメンコーラスも大変力強く歌い上げ,スケールの大きなクライマックスを作っていました。

昨年の記録を読むと「ここ数年でもっとも素晴らしい内容」と書いていましたが,その熱さや新鮮さがそのまま蘇ってきました。今年もまた充実感のある素晴らしい演奏でした。

OEKエンジェル・コーラスとOEKとの共演で,榊原栄さん編曲による「クリスマス・メドレー」が歌われた後,「メサイア」は始まりました。まず,序曲を聞くと「年末」の気分になります。三河さんのテンポ設定は,大変じっくりとしたものでしたが,OEKの響きが澄み切っているので,重苦しい感じはありません。序曲の後半部との気分の切り替えもメリハリが効いていました。

その後はハイライトで演奏されました。毎年,どこで休憩が入るかで迷うのですが,今年は第1部の後で休憩を入れて,第2部と第3部は休憩なしで演奏されました。

第1部最初は,テノールの君島広昭さんの柔らかい声で始まりました。高音がやや苦し気なところはありましたが,スムーズにキリストの物語へと誘ってくれました。バリトンは,おなじみの安藤常光さんでした。全体にややテンションが低いかなという気はしましたが,どこかニヒルな味わいがあり,存在感を示していました。メゾソプラノの池田香織さんもお馴染みの歌手です。ますます声の艶が増していて,大変聞きごたえがありました。OEKの弦楽セクションの清廉な響きとの組み合わせもぴったりでした。

第1部前半の合唱曲では,"Wonderful"という言葉が出てくる,”For unto us a Child is born”が毎回印象的です。今回も声もホールの上から降ってくるようでした。メリスマ的な音の動きは,歌う方は大変だと思いますが,「がんばっているなぁ」という気持ちにさせてくれます。

続いてパストラールになります。実は,今年のプログラムにはこの曲の記載が抜けていたので「?」と思っていたのですが,しっかり演奏されました。クリスマスシーズンに,この曲がないとやはり寂しいですね。OEKらしく,繊細で透明な美しさのある素晴らしい演奏でした。

続いて金沢のメサイアの常連である朝倉あづさによる,涼やかで凛としたソプラノの聞かせどころが続きます。朝倉さんの声は,本当に安定しており,毎回安心して聞くことができます。"Glory to God"の合唱の時,オルガンステージにトランペット奏者が登場し「いと高きところ」から神聖な音が聞こえてくるという演出もお馴染みとなりました。合唱団の声の表情も「天と地」の対比など歌詞を忠実に描写した歌になっており,視覚的にも音楽的にも楽しむことのできる演奏となっていました。

今回は第1部の後に休憩が入りました。

第2部は例年に比べると,やや抜粋された曲が少なかった気がしましたが,その分,1曲ごとの充実度が素晴らしいと思いました。

第2部最初の聞きどころはメゾソプラノによるアリア"He was despised"です。ここでも池田香織さんは深い声でヘンデル自身の「心からの音楽」をじっくりと堪能させてくれました。今回は特に間を取ってたっぷりと歌っていました。この曲を聞くと,本当にしみじみとします。安藤常光さんによる”Why do the nations..."も外せない曲です。OEKの弦楽セクションのキビキビした動きともども,引き締まった格好良さのある演奏を聞かせてくれました。

その後,力強く先導するようなテノールに続いて,一気に「ハレルヤ・コーラス」になりました。今回は第2部で歌われた合唱曲が少なかったせいか,特に力強い演奏だったと思います。三河さんの天上(というよりは天井)を向くような指揮にあわせて,音楽がどんどん力を増していきました。来ている人も演奏している人も,皆が元気になるような「ハレルヤ」でした。

ここで盛大な拍手が起こって,一息ついた後,第3部になりました。第3部では,トランペットが大活躍する"The trumpet shall sound"が聞きものです。OEKの藤井さんのトランペットはいつもながら,大変まろやかな音でした。毎年この音を聞くと,「メサイアも終盤だな」と思います。

最後を締める「アーメンコーラス」も堂々たる演奏でした。三河さんはこれまでの曲でも,曲中でかなり大きな間を取って,「たっぷり聞かせるところはたっぷりと」という感じでテンポを設定していましたが,この曲はその集大成のような感じで,曲の最後の部分など,歌舞伎役者が大見得を切るような迫力がありました。合唱の声にも広がりがあり,外の大きな世界に向かって窓がパッと開いて曲が終わるような開放感がありました。

「メサイア」の後には出演者全員で「きよしこの夜」が歌われました。この構成もすっかり定着しました。子どもたちの飾り気のない,明るい声を聞いて,ホッとした気分になった人も多かったのではないかと思います。

オーケストラとエンジェルコーラスが引っ込んだ後,オルガンの伴奏で北陸聖歌合唱団の皆さんが讃美歌を歌う,という流れも例年通りでした。

この日の金沢は久しぶりにすっきりと晴れたのですが,穏やかな年末に相応しい,暖かな気分にさせてくれる演奏でした。
(2013/12/17)