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オーケストラ・アンサンブル金沢第345回定期公演フィルハーモニーシリーズ 2014年1月26日(日) 15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール 1)ベートーヴェン/「コリオラン」序曲 op.62 2)ベートーヴェン/三重協奏曲 ハ長調 op.56 3)ウェーバー/交響曲 第1番 ハ長調 作品19 4)(アンコール)シベリウス/悲しきワルツ op.44-1 ●演奏 ラルフ・ゴトーニ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング) マーク・ゴトーニ(ヴァイオリン*2),水谷川優子(チェロ*2),ラルフ・ゴトーニ(ピアノ*2)
1月に入って2回目となるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演フィルハーモニーシリーズを聞いてきました。同じ月にフィルハーモニーが2回というのは珍しいことだと思います。 公演の立て看板。右側は青島広志さんによる,ベートーヴェンの交響曲シリーズのポスター。これは中々の力作ですね。 今回指揮者として登場したのは,ラルフ・ゴトーニさんです。ゴトーニさんは一昨年も同じ時期に来られて,フィルハーモニーとマイスターの両シリーズの指揮をされました(この時は室内楽公演にも登場していました)。今回もまた両シリーズを指揮されます。それに加えて1月30日のランチタイム・コンサートにも出演されますので,1週間の間に3回登場する,文字通りの「ゴトーニ・ウィーク」ということになります。 2013/2014年のマイスターシリーズは「ベートーヴェンの交響曲チクルス」ですが,この日の公演の前半でもベートーヴェンの曲が取り上げられましたので,「チクルスの補遺」といった形になっていました。後半ではウェーバーの交響曲第1番という,滅多に演奏されない曲が演奏されました。こちらも予想以上に面白い曲でした。 今回演奏された3曲は,コリオラン序曲がハ短調,三重協奏曲がハ長調,ウェーバーがハ長調というとで,全部,「ハ」で統一されていました。しかも,どの曲も180*年代に作曲された曲ということで,時代的な統一感もありました。ゴトーニさんは,毎回一ひねりのある選曲をされますが,今回もまた「さすが,なるほど」というプログラミングでした。 演奏の方も充実したものでした。最初のコリオラン序曲は,ノンヴィブラートのすっきりとした”ヌー”という感じの音で始まりました。全曲を通じてほの暗いトーンが一貫しており,重心の低い落ち着きと秘めたドラマを持った演奏になっていました。中間部で木管楽器と弦楽器がしっかりと絡み合う辺りも,室内オーケストラの良さが出ていました。全体的に大げさな表現はありませんでしたが,曲の終結部では,テンポをぐっと落とし,落ち着きのある雰囲気で締めてくれました。 終演後のサイン会の時,水谷川さんにお尋ねしたところ,何と本番の前日に決まったとのことです。「金沢にいらっしゃったんですが?」と尋ねたところ,うんと頷き,ヴァイオリンのマーク・ゴトーニさんは「夫なんです」と仰られていました。水谷川さんのブログ記事によると,「カニとクラシック音楽」を味わう冬の金沢ツァーを楽しんでいたところ...一転して演奏することになってしまったようです。図らずも,ラルフ・ゴトーニさん+その息子+その奥さん というファミリーな三重奏という形になりました。 (参考)水谷川優子のチェロ弾き旅烏日記2014年1月28日 演奏の方はやはり,マークさんのヴァイオリンの安定感のある美しさに比べると,水谷川さんのチェロの方はやや埋もれがちになっていましたが,その頑張りには盛大な拍手が送られていました。演奏後,OEKの首席チェロ奏者のカンタさんと特に堅く握手をされていたのも印象的でした。 この曲ですが,協奏曲のような感じで始まった後,ピアノ三重奏曲に変貌...また協奏曲に戻る...という具合に,ベートーヴェンのこの時期の他の曲と比べると,曲全体としての大きな盛り上がりにやや不足する部分があるかな,と感じました。とはいえ,3人もソリストが登場する協奏曲というのは豪華です。曲全体を大きくとらえたゴトーニさんの指揮とピアノには,文字通り「父親のような」包容力がありました。 第2楽章は間奏曲風の曲です。水谷川さんのチェロはやや安定感に欠けるところはありましたが,そのウェットな表情が陶酔的な美しさを持ったマークさんのヴァイオリンとしっかり溶け合っていました。第3楽章でもマークさんのヴァイオリンの貴族的な美しさが印象的でした。そして,何よりも急遽,代役で演奏することになった水谷川さんをしっかりとサポートしようとする,大船にのった安定感のあるOEKの演奏も素晴らしいと思いました。 この作品については,カラヤン指揮ベルリン・フィル+オイストラフ,ロストロポーヴィチ,リヒテルによる「千両役者勢ぞろい」的録音が有名ですが,今回のような,家族が一致団結した演奏も良いなぁと思いました。水谷川さんについては,次回は,「代理ではない」演奏も聞いてみたいと思います。それと,ゴトーニ・ファミリー×OEKの室内楽公演を,室内楽シリーズあたりで聞いてみたいものです。 後半に演奏されたウェーバーの交響曲第1番は実演で聞くのは初めての曲でした。曲の長さからすると三重協奏曲が最後かなとも思ったのですすが,聞き終わった実感からすると,「やはり交響曲で締めた方が落ち着く」と感じました。それだけ,堂々とした演奏でした。第1楽章の冒頭部から,ゴトーニさんの作る音楽はスケールが大きく,くっきりと晴れ上がった「ハ長調!」という感じの音を聞かせてくれました。その響きの中にこれから始まるドラマを予感させてくれる辺りに,オペラ作曲家だったウェーバーらしさがあると思いました。 この曲は,ウェーバー20歳の頃の作品ということで,オーソドックスな交響曲からすると,「何か変?」という部分もありましたが,そこが魅力となっていました。例えば,第1楽章の第2主題(だと思います)は結構唐突に短調で出てきて,テンポが遅くなるのですが,そういった部分が「交響曲というより序曲」のような感じでとても新鮮でした。 第2楽章にも,どこか劇場音楽的な気分がありました。オーボエやホルンがソリスティックに活躍すると,月明かりに照らされた森といった感じになります。人によって感じ方は様々だと思いますが,イジネーションをかき立ててくれるような魅力的のある音楽でした。 第3楽章はスケルツォということで,”ベートーヴェン的”ではありましたが,どこかのどかでした。途中,何回も出てくるオーボエの音が,ニワトリがコケコッコーと鳴くように聞こえたのも(私だけかもしれませんが),どこかユーモラスでした。 第4楽章には生き生きした楽想が溢れており,同じ若書きの交響曲,ビゼーの交響曲第1番に通じる魅力を感じました。ゴトーニさんの指揮はスケール感と同時に若々しさを感じさせるもので,この曲の魅力をしっかり伝えてくれたと思います。 アンコールでは,シベリウスの「悲しきワルツ」が演奏されました。ゴトーニさんのお国モノということで,余裕たっぷりの演奏を聞かせてくれました。それほど神妙過ぎず,さらりと始まった後,次第に絶妙の弱音に。そして,最後にパッと明るく音が広がって...という5分間のはかなくも美しいドラマを楽しませてくれました。 ゴトーニさんは,2月最初のマイスター・シリーズでは,ベートーヴェンの交響曲第6番と第8番という比較的地味な2曲を演奏します。このプログラムもまた,ゴトーニさんらしいと思います。恐らく,一見地味な曲の中から,聞きごたえのある響き引き出してくれるのではないかと思います。こちらにも期待したいと思います。 水谷川のサイン。チェロをイメージしたサインでしょうか。右側はラトーニさん父・息子のサイン。トーヴェ ちなみにこちらはメールホールンさんによる富山と福井での公演のチラシです。こちらは恐らく演奏されたのではないかと思います。 交流ホールでは,ちょっとびっくりの「Shall we ダンス?」の世界が広がっていました。モニターがあるのも良いですね。 (2014/2/01) |