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オーケストラ・アンサンブル金沢第346回定期公演マイスターシリーズ 2014年2月1日(土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール 1)クーシスト/レイカ op.24 (2010) 2)ベートーヴェン/交響曲第6番ヘ長調 op.68「田園」 3)ベートーヴェン/交響曲第8番ヘ長調 op.93 4)(アンコール)マルムステン(ヨハンソン編曲)/サヨナラは手紙で ●演奏 ラルフ・ゴトーニ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング) プレトーク:池辺晋一郎
このシリーズでは,1曲だけ現代曲を入れるのが”ルール”になっているようで,今回はフィンランドの作曲家クーシストのレイカという作品が最初に演奏されました。現代曲といってもそれほど前衛的ではなく,「もしもジョン・ウィリアムスがフィンランドに来たら...」という感じのSF映画のサントラを思わせるようなところがありました。曲の冒頭の雰囲気もNHKの大河ドラマのテーマ曲のようなところがありました。 楽器編成的にも,ハープ,ホルン4,トロンボーン3,打楽器各種とOEKとしてはかなり大きなもので,スケール感も豊かでした。同じ音型を繰り返して,クールに盛り上がるようなサウンドはシベリウスに通じる”ひんやりとした空気感”を感じさせてくれるところがあり,この後に演奏された「田園」との取り合わせも悪くないと思いました(「田園」も結構,同じ音型の繰り返しの多い曲ですね)。 続いて演奏された「田園」は,ゴトーニさんの作る音楽が大変立派でした。どの楽章ももたれることのないすっきりした感じで演奏されましたが,オーケストラの音自体に自信が満ちており,しっかりとした安心感を感じました。 第1楽章は,「速い/遅い」と一言で言えないような絶妙のテンポで始まりました。ゴトーニさんの作る音楽には全体に清潔感があり,すっきりとまとまっていました。展開部も滑らかに進んでいましたが,単調にはならず,曲の流れに沿って表情が微妙に変化していました。各楽章とも,楽章の終結部でテンポを落とし,静かだけれどもしっかりとしたクライマックスを築いていました。この楽章では,第1主題呈示部の繰り返しを行っていませんでしたが,これは後半の第8番の演奏時間とのバランスを考えてのことだったのかもしれません。 第2楽章は,速めのテンポで率直に演奏されました。ここでも音楽全体がしっかりコントロールされており,気持ちよく歌われていました。その一方で,所々でデリケートな揺らぎがありました。楽章の後半では,同一音型の繰り返しが心地よくエコーするような感じで,多彩に音が花開いていました。第2楽章では,フルート,オーボエ,クラリネットなど木管楽器が特に活躍しますが,どの楽器もとても鮮やかな音を聞かせてくれました。 第3楽章もスムーズな演奏で,あまり田舎っぽい感じはありませんでしたが,加納さんのオーボエを中心に明快な音楽を聞かせてくれました。後半の第4楽章と第5楽章は特に印象的でした。まず,「嵐」の部分では,コントラバス(今回はマルガリータ・カルチェヴァさんが首席奏者でした)のクリアでニュアンス豊かな音の動きが印象的でした。続くティンパニの音の打ち込みも強烈でした。率直さな強さのある音は鮮やかで,インパクトがありました。今回のティンパニは神戸光徳さんでしたが,本当に気持ちの良い音でした。嵐が終わった後のざわざわした余韻など室内オーケストラとしてのOEKの素晴らしさが出ていました。 第5楽章の入りの部分は,ホルンがちょっと危ない感じでしたが,続いて出てきたクラリネット,そして,アビゲイル・ヤングさんを中心とした弦楽器の音には感動しました。特にしっかりとヴィブラートの効いた弦楽器の音は本当に見事でした。しっかり磨かれた美しさと,どこか懐かしさのある暖かさを兼ね備えた音は,この楽章の気分にぴったりでした。楽章が進むにつれて,どんどん気持ちが盛り上がり,弦楽器を中心に大きなクライマックスを作っていました。遠くに聞こえるミュート付きホルンの音を背景に,名残惜しさと純粋な感謝の気持ちが湧き上がってくる,素晴らしいエンディングでした。 演奏会の後半では,第8番が演奏されました。曲の長さと知名度的には「田園」で締める方が良いのですが,今回の第8番にはメインに相応しい立派さがありました。OEKはゴトーニさんの指揮にしっかり反応して,第1楽章など大変スケールの大きな音楽を聞かせてくれました。 第1楽章冒頭は,余裕のあるテンポで始まりました。「田園」同様,ここでもティンパニの音が素晴らしく,バシッと曲を締めていました。この楽章は,第2主題の前に大きな間が入るのも特徴的です。ここでは石川県立音楽堂の豊かな残響をしっかりと味わうことができました。そして,その後,スッと曲の気分が変わります。この楽章では,展開部での緻密な音の繰り返しと盛り上がりと堂々たる貫禄を持ったコーダも印象的でした。呈示部の繰り返しを行っていたこともあり,この楽章は「立派な交響曲」としての演奏になっていました。 第2楽章はクリアでキレの良い演奏でした。音のバランスとテンポがしっかりとコントロールされた安定感がありました。第3楽章では,伸び伸びとした自信に満ち,滑らかに音楽が流れていく主部と,どこか即興的なユレがあり,室内楽的な気分に溢れたトリオとの対比が鮮やかでした。 第4楽章も大変堂々としていました。出だしの部分はちょっと乱れがあったように感じましたが,速すぎず,遅すぎず,それでいてキレとエネルギーに満ちた聞きごたえのある音楽を聞かせてくれました。コーダでは,迫力たっぷりのティンパニの乱れ打ちの後,念を押すように,ズドンと締めてくれました。お見事という感じでした。 アンコールでは,ゴトーニさんお得意のアンコールが演奏されました。マルムステンの「サヨナラは手紙で」です。この曲は,ゴトーニさんとOEKによるCDにも収録されている魅力的な曲です。哀愁に満ちた,少しユーモアのあるメロディを,弦楽器がピツィカートで演奏します。それに打楽器(ビンを叩くような音でしたが,何を叩いていたのでしょうか?)が,「コンコン」という感じで合いの手を入れます。その緩急自在で強弱自在な雰囲気の中から,自然と詩的な物語が湧き上がってくるようでした。 ゴトーニさんとOEKの1週間がこれで終わりましたが,今回もまた充実した音楽を聞かせてくれました。今回の共演でOEKとのつながりは益々強くなったと思います。次回の共演ではどういうプログラムを聞かせてくれるのか,今から楽しみです。 この日の石川県立音楽堂では,OEKの定期公演に続いて,邦楽ホールでは,TSUKEMENのコンサートが行われました。我が家では私と交替する感じで,家族が聞きに行っていました。 (2014/2/08) |