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第11回カレッジ・コンサート:石川県学生オーケストラ&オーケストラ・アンサンブル金沢 合同公演
2014年3月2日(日)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)チャイコフスキー/バレエ組曲「くるみ割り人形」(OEK+学生)
2)ハイドン/交響曲第88番ト長調(OEK)
3)ボロディン/交響曲第2番ロ短調(学生+OEK)

●演奏
小松長生指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直);石川県学生オーケストラ(金沢大学フィルハーモニー管弦楽団メンバー,金沢工業大学室内管弦楽団メンバー)*1,3,


Review by 管理人hs  

この時期恒例の石川県学生オーケストラとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の合同公演,カレッジ・コンサートを聞いてきました。この演奏会も回を重ね,今回で11回目になります。今年の指揮者は,小松長生さんで,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団,金沢工業大学室内管弦楽団のメンバーとオーケストラ・アンサンブル金沢が合同で演奏しました。


今回のプログラムとチラシ。イメージ色は黄色ですね。

1曲目はOEK側がトップ奏者になり,チャイコフスキーの「くるみ割り人形」組曲が演奏されました。名曲中の名曲ですが,OEK単独だとなかなか演奏する機会はない曲です。小松さんの指揮は非常に正統的で,この曲の魅力をストレートに楽しませてくれました。指揮する姿にも全くブレがなく,安心して楽しむことができました。

最初の「小序曲」から,透明感と落ち着きのある可愛らしい響き(この曲ではチェロもコントラバスも登場しません)を楽しむことができました。落ち着きはあるけれども,リズムのキレはよく,バレエの開幕にぴったりの絶妙の気分を出していました。

「行進曲」は,実際のバレエにもぴったりという感じの速すぎず,遅すぎずというテンポで感でした。「こんぺい糖の精の踊り」は,やはり生が良いですね。チェレスタとバスクラリネットの作るファンタジーの世界がじんわりと広がりました。

「トレパック」はキレ味の鋭い,厳しい表情を持った演奏でした。最後の方のアッチェレランドもビシっと決まっており,組曲の中盤をギュッと締めてくれました。「アラビアの踊り」ではOEKの木管楽器奏者の味のある演奏を楽しむことができました。

「あし笛の踊り」は,フルート3本という少し変則的な編成です。このちょっと厚みのある響きを聞くと,どこか温かい気分になります(ソフトバンクのCMも思い出しますが)。ずっと続いて欲しいような安定感と幸福感のある音楽でした。

最後の「花のワルツ」も大変まとまりの良い演奏でした。考えてみると,組曲全体を通じてみても「最適のテンポ」(私の感覚ですが)の演奏で,全くストレスなくスムーズに楽しむことができました。「花のワルツ」は,同じメロディが何回か出てきますが,後半になるとさらに一段豪華な気分にさせてくれます。ケーキが2段重ねになっているような贅沢さがありました。エンディングの部分は,非常に威厳に満ちた気分で終わっていました。「お見事!」という感じの演奏でした。

2曲目のハイドンはOEK単独の演奏でした。これもまた現代オーケストラによるハイドン演奏の見本のような見事な演奏だったと思います。冒頭からとても速いテンポでスッキリ,クッキリと明快な音楽を聞かせてくれました。このテンポ感は,昨年の定期公演で登場した安永徹さんのリードで演奏した時と同じような感じだったと思います。

ハイドンの後期の交響曲は非常に緻密に出来ていて,それらの音やフレーズの積み重ねを聞くだけでうれしくなります。展開部や再現部と進むにつれて,曲がどんどん緻密になるけれども,音の解像度が高いので,ストレスなくすべての音を楽しむことができるような演奏でした。そして,明快であるだけでなく,リラックスした気分もありました。

第2楽章はたっぷりとした緩徐楽章です。トランペットやティンパニによるメリハリもしっかりと効いており,聞きごたえもありました。第3楽章もメヌエットに相応しい,理想的なテンポ感でした。トリオの部分では,バグパイプの低音のようなドローンが入ったり,ちょっとリズムが変拍子風になったり,民族音楽的な気分になります。ただし,とても垢ぬけていたので,田舎風というよりは里山風といった趣きがありました。

第4楽章もキビキビとしたテンポで明快に演奏されていました。展開部では色々な音が飛び交う面白さがありました。そして,コーダの直前で,何故か第2楽章ののんびりとしたメロディが再現してきて,「おお」と思いました(全く違和感がなかったので,気づかなかった人もいたと思います)。そういう遊びの感覚の後,ビシッと曲を締めてくれるあたり,緊張感とユーモアの絶妙のバランス感覚のある見事な演奏でした。

演奏後,心なしかOEKのメンバーも嬉しそうな表情を見せていた気がしますが,ハイドンを頻繁に取り上げているOEKならではの演奏だったと思います。

後半のボロディンの交響曲第2番は,私自身,実演で聞くのは今回が初めてです。他のオーケストラによる実演でも聞いたことはありません。LPレコード時代にはレコーディングも多かった曲ですが,これは,LPレコードの片面にちょうど納まるぐらいの長さなので,それが人気だったからなのかもしれません。いずれにしても,本来,今でももっと演奏されるべき,魅力的な作品だと思います。

この演奏では,学生オーケストラ側がトップ奏者になっていました。冒頭の音型がとても印象的な曲ですが,非常に堂々と演奏しており,まず,学生オーケストラとOEKが一体になった”音の厚さ”を堪能できました。大型の恐竜がゆっくりと動きまわるような,独特の雰囲気が出ていました。恐竜は絶滅してしまっているので,言い方を変えると,やはりちょっと現代の感覚とずれたガラパゴス的な曲なのかもしれませんが,インパクトの強さは不滅だと思います。今回の演奏は,学生オーケストラならではの「熱さ」も加わり,音のテンションも大変高いものでした。第1楽章最後の部分での,さらに仰々しくなっているような気分も最高でした。

第2楽章はスケルツォ風の楽章で,もっと軽さがあっても良いとは思いましたが,こってりした風味もまた北陸の冬(?)にはぴったりかもしれません。第3楽章でのホルンやクラリネットのソロも大健闘でした。とても良い音が出ていました。この部分では,「中央アジアの草原」的な大らかさが出ていました。

そうやって聞くと,切れ目なく続いていた第4楽章は草原を馬が走っているようにも感じられました。なかなか重厚さのある疾走感があり,とても楽しいエンディングになっていました。この楽章ではパーカッションも活躍していました。思い切りよくひっぱたくようなタンバリンなど,若々しさに溢れた演奏でした。

今回はボロディンの交響曲第2番という,かなり意表を突く曲でしたが,こういう選曲はとても良いと思います。来年もまた,OEKメンバーもびっくりというような曲を聞いてみたいものです。

(2014/3/8)