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第9回ピアノ協奏曲の午後
2014年3月16日(日) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)サン=サーンス/ピアノ協奏曲第2番ト短調 op.22
2)ショパン/ピアノ協奏曲第1番ホ短調 op.11
3)モーツァルト/2台のピアノのための協奏曲第10番変ホ長調 K.365
5)ショパン/ピアノ協奏曲第2番ヘ短調 op.21
●演奏
三河正典指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
吉藤佐恵*1,木下由香*2,坂下麻子*3,菅野幸子*3,竹田理琴乃*4(ピアノ)

Review by 管理人hs  

石川県ピアノ教会とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が数年に1回行っている,県内のピアニストたちとOEKが共演する「ピアノ協奏曲の午後」を聞いてきました。このコンサートですが,文字通り「休日の午後にピアノ協奏曲ばかりを取り上げる」という企画で,サン=サーンス,モーツァルト,ショパン(2曲)作曲の4つのピアノ協奏曲が5人のピアニストによって演奏されました。



休憩はショパンのピアノ協奏曲第1番の後に1回入りましたが,前半後半ともに1時間以上かかるプログラムで,14:00から17:00近くまで,ボリュームたっぷりの演奏会となりました。

最初に吉藤佐恵さんの独奏でサン=サーンスのピアノ協奏曲第2番が演奏されました。全体にサン=サーンスにしては,ちょっと雰囲気が重いかなという気もしましたが,冒頭のカデンツァ風の部分から十分な透明感と充実感を持った響きを楽しませてくれました。第2楽章や第3楽章についてももう少し天衣無縫な感じが欲しい気もしましたが,丁寧さと少し湿り気のある演奏は,”北陸のサン=サーンス”という感じで,音楽堂の響きにしっかり馴染んでいました。この曲はOEKのレパートリーに入っている曲で,5月の北陸新人登竜門コンサートでは,塚田尚吾さんの独奏で演奏されます。その聞き比べも楽しみです。

木下由香さんの独奏によるショパンのピアノ協奏曲第1番は,タッチがとても軽やかなのが印象的でした。古典的で清潔感のある演奏でした。その軽やかさは,特に第3楽章の民族舞曲風の気分によく合っていたと思いました。この曲をオーケストラと全曲演奏することは,多くのピアニストにとって目標の一つであると同時に大変なプレッシャーだったと思います。その「弾き切った」感が伝わってくるような充実した演奏でした。

後半は,坂下麻子さんと菅野幸子さんによるモーツァルトの2台のピアノのための協奏曲で始まりました。今回,坂下さんが第1ピアノ,菅野さんが第2ピアノで,指揮台の前にピアノが向かい合う形で並べられました。2人は色違いの揃いのドレスで登場しました。こういったファッションを見るのも,このコンサートの愉しみの一つです。

この曲については,フリードリヒ・グルダとチック・コリアによる演奏など,”丁々発止”という印象を持っていたのですが,今回の演奏は2人で一緒にじっくり取り組むという感じでした。これは悪い意味ではなく,2台のピアノが重なる厚みのある音が落ち着いたテンポと相俟って,濃厚な雰囲気を出していました。

モーツァルトのピアノ協奏曲の中にクラリネットが加わっている曲はそれほど多くないのですが,今回の演奏を聞きながら,クラリネットが良い味を加えているなぁと思いました。演奏全体に大人の雰囲気を持った品の良い温かみがあり,晩年のモーツァルトの音楽を聞くような深さを感じました。

最後に昨年の日本音楽コンクールピアノ部門で3位に入賞した竹田理琴乃さんが登場しました。竹田さんは,昨年金沢で行われた第2回いしかわ国際ピアノコンクールでも優勝しており,今回は「ゲスト」という形で出演しました

今回登場したピアニストの中では,やはり竹田理琴乃さんによる,ショパンのピアノ協奏曲第2番の演奏が一頭地を抜くような完成度の高い演奏でした。第1楽章から完全に手の内に入った演奏で,第2楽章でのじっくりと聞かせる歌から一気に駆け抜けるような最終楽章まで,言うことなしの演奏でした。

何よりピアノの音に抜けるような美しさとキレの良さがあるのが素晴らしいと思いました。速いパッセージでの指の動きが素晴らしく,華麗な雰囲気が自然に漂っていました。竹田さんの演奏は何回か聞いてきましたが,常に集中力の高い演奏を聞かせてくれます。この曲を作った時,ショパンは20歳前後だったのですが,竹田さんも同年代です。作曲されて200年近く経ちますが,若きショパンの協奏曲らしい等身大の演奏だったと思います。

竹田さんは,2008年の北陸新人登竜門コンサートで,この曲を井上道義さん指揮OEKと共演したこともありますので,聞くのは2回目なのですが,さらに「歌心」が豊かになったように思いました。これからの活躍が本当に楽しみなピアニストです。

今回の指揮は,三河正典さんでした。どの演奏もしっかりとしたサポートで,どのピアニストにとっても大変演奏しやすかったのではないかと思います。これから,ラ・フォル・ジュルネ金沢2014に向けて,県内のピアニストの演奏を聞く機会が増えてきますが,その期待を高めてくれるような,質量ともに充実感のある演奏会でした。

 

↑この日は邦楽ホールで文楽の公演も行われており,音楽堂内は賑わっていました。北陸新人登竜門コンサートは,5月18日に行われます。その他,交流ホールではピアノの発表会も行っており,「フル稼働」でした。

PS. 今回の演奏会のタイトルに「いしかわ国際ピアノコンクール優勝者をゲストに迎えて」と書かれていましたが,このコンクールについては,もう少し広報に力を入れても良いと思います。浜松や仙台のコンクールのような規模にするのは大変だと思いますが,「国際」と入っているのなら,もう少し大々的に実施しても良いのではないかと思います。

(2014/3/22)