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オスロ・フィルハーモニー管弦楽団金沢公演
2014年3月18日(火) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
2)メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調 op.64
3)(アンコール)バッハ,J.S./無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番〜ラルゴ
4)マーラー/交響曲第1番ニ長調「巨人」
5)(アンコール)ブラームス/ハンガリー舞曲第6番
●演奏
ヴァシリー・ペトレンコ指揮オスロ・フィルハーモニー管弦楽団*1,2,4,5
諏訪内晶子(ヴァイオリン*2,3)

Review by 管理人hs  

この時期恒例の東芝グランドコンサートを聞いてきました。今年は,オスロ・フィルハーモニー管弦楽団が登場しました。オスロ・フィルは1990年代にもこのコンサートで金沢公演を行ったことがあります。その時は,現在,ヨーロッパの複数のメジャー・オーケストラで重要な地位に就いているマリス・ヤンソンスが指揮者として登場しました。ヤンソンスさんの現在の活躍の基礎はこのオスロ・フィル時代にあるのではないかと思っています。



今回の指揮者は,ヴァシリー・ペトレンコさんでした。私自身,生で演奏を聞くのは今回が初めてですが,この東芝グランドコンサートに登場する指揮者は,昨年のヤニック・ネゼ=セガンにしても,その後,どんどん活躍の場を広げていますので,「先物買い」的な楽しみもあります。今回のペトレンコさんの指揮ぶりを見て,今回来て良かったと思いました。今後,どんどん人気が出そうな指揮者だと思います。

最初に演奏されたモーツァルトの「フィガロの結婚」序曲は,日頃OEKで聞いている編成よりはかなり大きかったのですが(コントラバス4本でした),演奏の雰囲気自体は,ギュッと引き締まっており,古楽奏法を思わせる雰囲気と密度の高さがありました。弦楽器にもちょっと聞きなれない強弱が付いているなど独特のひんやりとした感触のある演奏でした。

続いてお馴染み諏訪内晶子さんのソロで,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。諏訪内さんの演奏を聞くのは,昨年9月のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との共演以来です。さらに諏訪内さんの独奏でメンデルスゾーンの協奏曲を聞くのは,OEKが金沢市観光会館で定期公演を行っていた時代に岩城宏之さんと共演したのを聞いて以来です(ちなみにこの公演は,伝説的超満員コンサートでした)。

演奏は諏訪内さんらしく,安定感抜群でした。甘くなり過ぎることも,よそよそしくなることもなく,しっかりと息の長いメロディをじっくりと聞かせてくれました。知情意の均衡が取れており,カデンツァなども全く慌てない落ち着き,というか風格のようなものを感じました。第2楽章は,陶酔しすぎない品の良さがあり,メンデルスゾーンの曲想にぴったりでした。

テンポの速くなる第3楽章でも十分にキレの良さを感じさせながらも,慌てた感じはありませんでした。オーケストラとの息もぴったりで,諏訪内さんの主張をしっかり伝えながらも,曲全体としての「形の良さ」を感じさせてくれました。

ペトレンコ指揮オスロ・フィルの演奏については,楽章ごとにスッと気分が変わるのが素晴らしいと思いました。特に第1楽章から第2楽章への気分の切り替えが鮮やかでした。第2楽章で,品よく堂々と聞かせる演奏は諏訪内さんの演奏にとてもよくマッチしていました。

アンコールではバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番からラルゴが演奏されました。諏訪内さんはアンコール・ピースとしてバッハを取り上げることが多い印象があります。聴衆の一人一人に語り掛けるような,もしかしたら自分自身に対しても語り掛けるような落ち着きのある演奏で,気持ちの良い音がホール内の空間に染み渡るように漂っていました。

さて,後半は楽しみにしていたマーラーの交響曲第1番「巨人」です。マーラーの交響曲が金沢で演奏される時は,ほとんど毎回聞きに行っているのですが(と書くほど,頻繁に演奏されることはありませんが),今回の演奏は特に魅力的な演奏だったと思います。

第1楽章の冒頭部は,通常非常にデリケートな雰囲気で始まりますが,今回の演奏には神経質な感じはまったくありませんでした。ゆっくりとしたテンポで自然そのものをじっくりと表現しているな気分がありました。それでいて,音楽はとてもよく練られており,楽章が進むにつれて段階的に音量が増し,音色が変化していくような設計の見事さがありました。管楽器を中心に各楽器の音も非常に克明でした。ホルン(8本もいました)の強奏の後は音楽の活気が一気に増し,太陽の位置が段々と高くなっていくような華やかさがありました。

第2楽章では,たっぷりとテンポを落とした中間部での緻密な表現と,自然な伸びやかさを感じさせる主部のコントラストが鮮やかでした。第3楽章でも「哀しくもユーモラス」といった気分のあるコントラバスの独奏をはじめ,各部分の表情が鮮やかに変化をするのが見事でした。途中出てくるトランペットの哀愁,いきなり入ってくる大太鼓やシンバルの部分での鮮やかなスピード感などスマートさと泥臭さが一体になったような面白さがありました。

第4楽章はオスロ・フィルの各パートの実力の高さをしっかり実感できました。楽章最初での強烈な一撃をはじめ,オーケストラ全体としての音の迫力は十分ありましたが,重苦しい感じはありませんでした(3階席で聞いていたこともあると思います)。それよりも明るい伸びやかさを感じました。

途中出てくる,”マーラーならでは”の弦楽器のカンタービレも,しっかり溜めを作って,十分歌っているのですが,しつこく粘るような感じにはなりません。どこか暖かい人の良さのようなものを感じました。そして,演奏全体として「巨人」の曲想にぴったりの若々しさを感じました。

楽章後半では,ドキッとするようなくっきりとした力を持ったヴィオラのフレーズに続いて対位法的な部分になります。こういった部分での鮮明さも印象的でした。コーダでは,ホルンやトランペットなど,金管楽器の鮮やかさも素晴らしく,ギアを一気に3段階ぐらい切り替えたたようなコーダ部分での若々しい表現をしっかり支えていました。

ちなみにコーダ部分でホルン奏者たちは,「全員起立」していました(別の部分ではベルアップも行っていました。)。音響的にそれほど効果に差はないと思いますが,実演でやってくれると,聞いている方の気分も盛り上がりますね。

アンコールでは,ブラームスのハンガリー舞曲第6番が演奏されました。テンポの緩急が激しい曲なのですが,最初の方では,ペトレンコさんはあまり大きく指揮をせず,体を揺らしているだけのような感じでオーケストラのメンバーと一緒になって楽しんでいるように見えました(にこやかな表情で演奏をしている奏者も目立ちました。)。曲の最後の部分では,音を伸ばしたまま客席の方を振り向くなど,茶目っ気も見せてくれました。リラックスした雰囲気でお客さんを楽しませてくれるようなアンコールにぴったりの演奏でした(マーラーの後だったので「アンコールなし」でも良いぐらいでしたが,来日公演なのでやはりないとちょっと寂しいでしょうか)。

というわけで,聴衆も大喜びの演奏が続きましたが,プログラムの構成からすると,もう少しマニアックな曲を聞きたかった気もします。特に諏訪内さんの曲については,もう一ひねり欲しいと思いました。ペトレンコさんは,NAXOSレーベルからショスタコーヴィチの交響曲全集のCDも出しているようですので,機会があれば,ロシア音楽なども聞いてみたいものです。


終演後CD購入者向けにサイン会が行われました。
今回はNAXOSから発売されているショスタコーヴィチの交響曲第4番のジャケットにサインをもらったのですが,このCDはNAXOSにしては珍しく,外側にもう一つ,ペトレンコさんの顔写真入りのカバーが付いていました。


(2014/3/22)