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オペラの愉しみ:ラ・フォル・ジュルネ金沢音楽祭2014「プラハ,ウィーン,ブダペスト:三都物語」プレイベント 2014年3月21日(金祝) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール 第1部:プラハ歌劇場より(プラハ歌劇場2014年3月上演オペラから) 1)ヴェルティ/歌劇「椿姫」〜乾杯の歌 2)ドヴォルザーク/歌劇「ルサルカ」〜白銀の月よ 3)ビゼー/歌劇「カルメン」〜恋は野の鳥 4)プッチーニ/歌劇「トスカ」〜妙なる調和 5)プッチーニ/歌劇「トスカ」〜「行け,トスカ〜テ・デウム」 第2部:「イル・トロヴァトーレ」ハイライト ヴェルディ/歌劇「トロヴァトーレ」(抜粋)(イタリア語上演,字幕付き) 第1幕から 導入曲(エレクトーン) 静かな夜でした〜この恋を語るすべもなく(レオノーラ) 夜は静まり(ルーナ伯爵) 「不実な人よ!」「あの声は!」〜打ち砕かれた愛が嫉妬の炎となって(マンリーコ,ルーナ伯爵,レオノーラ) 第2幕から 朝の光がさしてきた(鍛冶屋の合唱)(エレクトーン) 炎は燃え上がり(アズチェーナ) さぁ,二人きりだ〜お祖母さんは足枷をかけられて(アズチェーナ,マンリーコ) 誰もいない〜彼女の微笑みのきらめきが(ルーナ伯爵) 第3幕から ああ,いとしいあなたよ〜見よ,恐ろしい炎が(マンリーコ) 第4幕から 聞いたか?夜が明けたら〜私の辛い涙をご覧になってから助かった!あぁ神様(レオノーラ,ルーナ伯爵) 母さん,眠れないのかい?〜そうだね,ひどく疲れているから〜我らの山へ(アズチェーナ,マンリーコ) まさか!微かな光がさした〜言いたくないのか?(マンリーコ,レオノーラ) 「離れてくれ!」「わたくしを追い出さないで」(レオノーラ,マンリーコ) あなた以外の人のものとなって生きるより(レオノーラ,マンリーコ,ルーナ伯爵,アズチェーナ) ●演奏 笛田博昭(テノール*1,4,マンリーコ),小川里美(ソプラノ*1,2,レオノーラ),鳥木弥生(メゾソプラノ*1,3,アズチェーナ),与那城敬(バリトン*1,5,ルーナ伯爵) 清水のりこ(エレクトーン) 監修:彌勒忠史
4月末から始まる「ラ・フォル・ジュルネ金沢音楽祭2014」のプレイベント,「オペラの愉しみ」を聞いてきました。今回メインで演奏されたヴェルディの歌劇「トロヴァトーレ」のハイライトは,今年のテーマ「プラハ,ウィーン,ブダペスト:三都物語」とは関係ないのですが,「プラハ」つながりで,プログラム前半では,2014年3月現在プラハ歌劇場で上演されている曲から抜粋で演奏されました。というわけで,”ラ・フォル・ジュルネ”絡みというよりは,1月,2月と連続して金沢で上演されたオペラに出演した歌手が登場する”アンコール企画”的な感覚で楽しんできました。 今回登場は,1月の「滝の白糸」公演に出演した石川県出身のメゾソプラノの鳥木弥生さん,2月の「こうもり」公演に出演したソプラノの小川里美さんに加え,テノールの笛田博昭さん,バリトンの与那城敬さんが登場しました。いずれもこれからの日本のオペラ界の中心的存在になるであろう歌手ばかりということで,最初のヴェルディの「乾杯の歌」から,4人だけとは思えない圧倒的な迫力がありました。 4人とも身長がほぼ同じぐらいで,見た目のバランスもぴったりで,オペラの雰囲気にぴったりのゴージャスさがありました(その一方で...笛田さん,小川さん,鳥木さん,与那城さんという「男女女男」配列だったので,「ABBAみたいだな(古い?)」とか一瞬思って観ていました。) 前半はこの4人の「あいさつ」がわりの曲が歌われました。小川さんは,ラ・フォル・ジュルネでも歌われるドヴォルザークの「ルサルカ」の中のアリアを歌いました。白銀のドレスは曲のタイトルとぴったりコーディネートされており,ロマンの薫りのする心地よい歌でした。 鳥木さんは,お馴染み「カルメン」の「ハバネラ」を味わい深く聞かせてくれました。この日は鳥木さんの出身地の七尾市からもお客さんが来ており,大きな拍手が起きていました。 笛田さんと与那城さんは,「トスカ」第1幕のハイライトシーンを歌いました。笛田さんは,何よりも声の力が素晴らしく,ダイレクトに若々しい声がビンビンと響いていました。与那城さんの声も素晴らしく,テノールに近い輝かしさがありました。ただし,スカルピアについては腹黒く重いイメージを持っていたので,ちょっと格好良すぎるかなという気がしました。 この「トスカ」では男声2人の声に加えエレクトーンの演奏も聞きものでした。この日の伴奏は,オーケストラでもピアノでもなく,清水のりこさんのエレクトーンだったのですが,私自身この楽器と声楽の組み合わせを聞くのは初めてでした。これが予想以上に素晴らしいものでした(余談ですがエレクトーンというのは,ヤマハの電子オルガンの商品名で,例えばカワイの電子オルガンはドリマトーンと言います。)。 クラシック音楽愛好者からすると,電子オルガンというとちょっと軽く見がちなのですが,オーケストラ的なサウンドを非常に巧く再現しており,感心するばかりでした。「トスカ」の第1幕冒頭のオルガン的なサウンド,「デ・デウム」での大砲のような音(合唱団の声のような音も面白かった)など,このコーナーでは,演奏の主役になっていました。 エレクトーンの音自体が最適のバランスで作られている上,心地よく残響が付いているような感じなので,東京ディズニーリゾートで行われている夜のアトラクションをうっとりと楽しんでいるような気分になりました。ディズニーランドにはリピーターが多いのですが,これは癖になるかもしれません。 後半はこの日のメインである,ヴェルディの「トロヴァトーレ」ハイライトが演奏されました。私自身,このオペラの全曲を見たことがないのですが,今回のハイライトを聞いて十分に「見た感じ」になりました(十分以上です)。聞いて感心したのは,ヴェルディの音楽です。プッチーニの音楽は結構泣かせる感じのメロディが多いのですが,ヴェルディの方は,”血沸き肉躍る”的な熱さがあります。オーケストラ(今回はエレクトーン)の伴奏部分はシンプルなリズムの繰り返しが多いなのですが,それが不思議と熱いドラマを感じさせてくれます。特に「トロヴァトーレ」にはそういうところがあると思いました。 鳥木さんの解説によると,ソプラノ,メゾ・ソプラノ,テノール,バリトンのそれぞれに聞かせどころがあり,全員が主役のようなところがある,とのことでした。確かにそのとおりでした。しかも,それぞれが色々な組み合わせで,喜怒哀楽のありとあらゆる感情を表現します。4人の歌手とも,前半以上に声の力を増していました。それと同時に,曲のクライマックスに向かって,感情がどんどん熱く高ぶっていくようでした。ストーリー的には,やや釈然としないようなところがあるのですが,その辺は全く関係なく,熱くなれるような作品だと思いました。 曲は与那城さんによるドラマの雰囲気にぴったりのナレーションで始まりました。字幕も付いていたので,やや複雑なストーリーにも関わらず,ストレスなく展開を追うことができました。 このオペラでは,まず,マンリーコのアリア「見よ,恐ろしい炎が」を一度生で聞いてみたいと思っていました。いわゆる「ハイC」が出てくる曲ですね。今回の笛田博昭さんによる真っ直ぐな強さを持った見事な声で堪能できました(ただし,このアリアは結構短かいですね)。鳥木さんのアズチェーナは,「滝の白糸」に続く母親役でしたが,やはり終盤で「ジーン」と来るような歌を聞かせてくれました。そして,最後の最後の場面での「復讐だぁ」のポーズは夢に出てきそうな(?)インパクトがありました。 小川里美さんは,2人のイケメン(鳥木さん談)から愛される役なのですが,その感情の動きが本当にリアルに伝わってきました。終盤でのルーナ与那城さんとの絡みの部分など,「レオノーラ頑張れ!」という感じで見てしまいました。与那城さんは,バリトンなのですがテノールを思わせるような輝きがあり,この熱いオペラにぴったりだと思いました。一般にアンヴィル・コーラスと言われている有名な「鍛冶屋の合唱」は,エレクトーンの演奏で演奏されましたが,多彩な音色を楽しめる楽しい演奏でした。 それにしても,このオペラはよく「人間違い」をします。第1幕では暗闇の中で二人の男性を取り違えるし,「そもそもの発端」が赤ん坊の取り違えですね。「フィガロの結婚」や「ドン・ジョヴァンニ」でも,暗闇の中での意図的な「入れ替わり」が出てきますが,当時のスペインはよほど暗かったのでしょうか。 というわけで,「夜の暗闇」と「炎」の気分のある「トロヴァトーレ」の世界をしっかり堪能できました。ただし,そうなると全曲を観たくなります。是非,この4人+OEKで「トロヴァトーレ」全曲を観てみたいものです(会場アンケートにも書いておきました)。 その企画は別として,電子オルガン伴奏による”オペラ・ハイライトシリーズ”も面白いと思いました。曲の解説の後,電子オルガン伴奏+若手歌手による「ハイライト」。プロジェクション・マッピング的な照明をつけるとさらに盛り上がりそうです。いっそ思い切って,金沢駅コン辺りでやってみると,相当インパクトがありそうです。 今回の公演は,\2000で気軽にオペラの「いいところ」を楽しめる,まさに「オペラの愉しみ」という良い企画だったと思います。 PS. 終演後,4人のソリストがお見送りをするため,会場出口に出てきていらっしゃいました。間近で見ると「皆さん本当に素敵ねぇ」と思わず(?)オネエ言葉が出てきそうになるぐらい,絵になる4人でした。というわけで,ABBAとかサーカス(こちらもまた古い?)のように男女4人組ヴォーカル・グループを作って活動しても面白いかもと思ったりしました。このまま第9というのも行けそうです。 ↑こんな感じでした。「いつもお世話(?)になっております」と声を掛けたかったところですが...お話中だったこともあり,今回は遠目に眺めるだけにしておきました。 ↑ラ・フォル・ジュルネ金沢のタペストリーも「もてなしドーム」に登場。百番街には「ひゃくまんさん」もいました(ただし,別の日に撮影したのですが)。今年のラ・フォル・ジュルネ金沢には,この方も飛び入りで登場するかもしれませんね。 (2014/3/29) |