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オーケストラの日2014 楽器を持って集まれ!ドキドキ!オーケストラ
2014年3月30日(日) 13:00〜 石川県立音楽堂

楽器を体験してみよう
13:00〜14:00 カフェコンチェルト
●講師:オーケストラ・アンサンブル金沢,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団,いしかわ子ども邦楽アンサンブル,石川県ジュニアオーケストラのメンバー

講演「オーケストラ・アンサンブル金沢は未来をつくる」
13:30〜14:30 コンサートホール
●お話:潮 博恵(音楽ジャーナリスト)

楽器を持って集まれ!みんなで奏でるシンフォニー
14:00〜14:30 カフェコンチェルト
●指導:角田鋼亮,オーケストラ・アンサンブル金沢メンバー

コンサート
14:45〜
いしかわ子ども邦楽アンサンブル
1)口上
2)三番叟
3)こきりこ
4)勧進帳〜寄せの合い方
5)小鍛冶

オーケストラ・アンサンブル金沢「ドキドキ!オーケストラ」
6)シュトラウス,J.II/ポルカ「狩り」
7)シューベルト(リスト編曲)/魔王
8)ビゼー/歌劇「カルメン」〜ハバネラ
9)レハール/喜歌劇「メリー・ウィドウ」〜唇は語らずとも
10)ハイドン/交響曲第94番ト長調「驚愕」〜第1楽章,第2楽章の途中まで
11)みんなで奏でるシンフォニー
12)ハイドン/交響曲第94番ト長調「驚愕」〜第4楽章
13)(アンコール)シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲
●演奏
いしかわ子ども邦楽アンサンブル*1〜5
角田鋼亮指揮オーケストラ・アンサンブル金沢*6-13
原田勇雅(バリトン*7,9,司会),小泉詠子(メゾ・ソプラノ*8,9,司会)


Review by 管理人hs  

「3月31日はオーケストラの日」という運動(?)も年々定着してきて,年度末の恒例イベントとなりつつある「オーケストラの日」公演が石川県立音楽堂で行われたので聞いてきました。今年は「楽器を持って集まれ!〜ドキドキ!オーケストラ〜」ということで,いしかわ子ども邦楽アンサンブルの皆さんによる演奏の後,歌手の小泉詠子さんと原田勇雅さんの司会と歌とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏が行われました。



この日はコンサートに先立って,洋・邦各種取り合わせた楽器体験イベントと音楽ジャーナリスト潮博恵さんによる講演が行われました。時間帯が並行していたので,私は講演会の方を聞きました。

講演された潮さんは,石川県野々市史出身で,2013年度ずっと定期公演のプログラムでOEKの25年の活動をいろいろな観点から振り返る記事を連載されていました。今回の講演は,その「総まとめ」という形になります。懐かしい写真をふんだんに使ったスライドとともに,OEKの活動を振り返った後,これからOEKはどういう方向に進めば良いか,といった提言をされました。この日のお客さんの中には長年OEKの応援をしてきた人も多かったと思いますが,そういった方にも示唆に富む内容だったと思います。この内容については,今年の秋に本としてまとめて出版されるということで,大変楽しみです。内容については,後でもう少し詳細に紹介しましょう。

コンサートの方は,昨年同様,いしかわ子ども邦楽アンサンブルのステージで始まりました。全員がステージに勢ぞろいしての「口上」は,さすがにぎこちなさはありましたが,大きな声が出ており,微笑ましい感じでした。

その後,太鼓類,三味線,箏...と次々と違う楽器のアンサンブルが続きました。途中,児玉信さんのトークが入りました。このアンサンブルの特色は,一人の子供がいろいろな楽器を演奏し,しかも10年間続けられる点にあるということ語っていましたが,その成果が存分に出た演奏だったと思います。石川県ジュニアオーケストラのメンバーからは,プロの奏者も登場していますが,邦楽アンサンブルからも次世代を担う奏者が登場することを期待したいと思います。

OEKによるコンサートのコーナーは,シュトラウスのポルカ「狩り」で始まりました。この曲は,ニューイヤーコンサートでお馴染みの曲ですが,今回は曲の途中,客席からピストルの音が聞こえてきて,振り返ってみると(この日は珍しく1階席で聞いていました),司会の原田勇雅さんと小泉詠子さんがピストルを持って通路に立っているという趣向になっていました(実は,推理小説やサスペンス・ドラマのトリックにできないかな,と思いながら聞いていました)。

角田鋼亮さん指揮OEKの演奏は大変滑らかでした。それと1階席で聞くとコントラバスの低音がよく響くなぁと思いました。

この2人の若手歌手が今回の進行役となり,「ドキドキする音楽を今回は集めました」と言った後,シューベルトの「魔王」,ビゼーの「カルメン」〜ハバネラ,レハール「メリー・ウィドウ」ワルツが演奏されました。

「ドキドキ」といっても曲によって観点が違います。「魔王」は恐怖感によるドキドキ,「ハバネラ」は誘惑されるドキドキ,「メリーウィドウ」はヨリを戻せるかどうかのドキドキということになります(青島広志さんもよく言っていますが,やはりオペラは大人向けの世界ですね)。

「魔王」は,OEKお得意のリスト編曲版(一瞬,マーラーの「復活」と勘違いします)による演奏でした。原田さんの声はとても若々しいものでした。ハバネラは,石川県出身のメゾ・ソプラノ小泉詠子さんによって瑞々しく歌われました。数年前,小泉さんがタイトルロールを歌った「カルメン」全曲を聞いたことがありますが,その時の素晴らしい舞台(歌手,合唱団,美術なども含め)を思い出させてくれました。

この原田さんと小泉さんの二重唱で「メリー・ウィドウ」のワルツが歌われた後,演奏会の最後のコーナーとなり,ハイドンの交響曲第94番「驚愕」が演奏されました。

まず何ごともないかのように第1楽章がビシッと演奏された,第2楽章が始まりました。例の「びっくりの場所」が若々しくバンと演奏されて一旦演奏が終わりました。

指揮者の角田鋼亮さんが「今度はこの部分を楽器を持参された皆さんと一緒にやってみます」と語った後,客席から楽器を持った人たちがゾロゾロ集まってきました。ステージに上がって来たのは,オーケストラ用の楽器を持った石川県ジュニアオーケストラのメンバーなどが中心でしたが,中にはリコーダーや鍵盤ハーモニカを持ってきた人や年輩の方も混ざっていました。演奏会が始まる前に,皆さんカフェコンチェルトで一度練習をしていたようですが,ステージ上でもう一度リハーサルを行い,わくわくするような楽しげな雰囲気の中,OEKとの「夢の共演」が行われました。

楽器の中ではトランペットを持参していた人の音がいちばん目立っていましたが,弱音で演奏するのは結構難しかったかもしれませんね。演奏後は,全員で記念撮影を行い,「みんなで奏でるシンフォニー」コーナーはおしまいとなりました。演奏会中に写真撮影というのは,なかなか大胆な試みでしたが,良い記念になったのではないかと思います(今後,「オーケストラの日」の恒例イベントにしても面白いかも)。

ちなみに こんな写真 です。

その後,途中まで演奏済だった「驚愕」の第4楽章がビシッと演奏されました。こうやって聞くと,やはりOEK単独の演奏には次元の違う美しさがあると思いました。

ここで演奏会は終わったのですが,アンコールに応えてラデツキー行進曲が演奏されました。ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでラデツキー行進曲を演奏する時,最初に小太鼓による序奏が入りますが,このリズムに乗ってOEKメンバーが次々と1階席通路に降りてきて,その場で演奏を始めました(皆さん暗譜だった?)。

コントラバス,チェロ,トランペット,そして指揮者の角田さんはステージの上に残っていましたが,オーケストラの音に360度包まれながら演奏するという趣向でした。これは滅多に体験できない面白い経験でした。着物を着たいしかわ子ども邦楽アンサンブルのメンバーも「手拍子要員」として加わり,大変楽しいエンディングとなりました。

今回私の座っていた場所は,ヴィオラの皆さんの付近だったのですが,手拍子を入れるタイミングとは反対の拍で「ッパ,ッパ,ッパ,ッパ...」と演奏していたので,近くで手拍子をしていると結構不思議な雰囲気になりました。

というようなわけで,アンコールも含め,色々と新鮮な体験をできた公演でした。



さて,潮博恵さんによる講演ですが,OEKファンなら「そのとおり」と思うような充実した内容でした。メモを取りながら聞いていましたので,その内容を紹介しましょう。

講演「オーケストラ・アンサンブル金沢は未来をつくる」 潮 博恵(音楽ジャーナリスト)

潮さんは,地域の中のオーケストラの役割をテーマとしてサンフランシスコ交響楽団などを取材し,「オーケストラは未来をつくる」という著書を書かれています。今回,次の素材としてOEKに注目し,昨年度取材を続けて来られました。その成果はOEK定期公演プログラムへの連載としてまとめられており,次のページでも公開されています。

http://www.orchestra-ensemble-kanazawa.jp/news/2014/03/oek_24.html

さらに今年の秋,その成果が著書としてまとめられるとのことです。今回はその内容についての講演で,次の2点が主な内容でした。
  1. OEK25周年の歩みを振り返る
  2. OEKがさらに発展していくためには
以下,箇条書きでご紹介しましょう。

1.OEK25周年の歩みを振り返る
■OEKのこれまでの活動の3ステージ

OEKの活動は次の3ステージに分けられる。ステージ1:1988年の創設から2001年の石川県立音楽堂の完成まで,ステージ2:岩城宏之初代音楽監督の死まで,ステージ3:井上道義現音楽監督の時代

第1ステージ
  • 最初は旧プラネタリウムで練習,金沢市観光会館で定期公演。
  • 設立1年でフランスやベルギーで公演。
  • 県議会での演奏はその後定例化。OEKは石川県と金沢市のサポートで運営
  • 1993年初めてオーケストラ・ピットに入る(「フィガロの結婚」)。その後,オペラ公演は毎年のように行われている。
  • 1995年〜モーツァルト交響曲の全曲連続演奏会を県外の浜離宮朝日ホールとしらかわホールで実施。県内でのコンサートホールの要望につながる。

第2ステージ
  • 石川県立音楽堂での公演が始まる。
  • リハーサルと本番を同じ場所で行えるようになったので,公演のスケールが大きくなった(例:こけら落とし公演,池辺晋一郎作曲のカンタータ「前田綱紀の時代」)
  • 邦楽ホールが併設されたことにより,邦楽器とのジョイントコンサート(=石川県ならではの公演)が増えた。
  • 2004年のウィーン楽友協会ホールでの公演などヨーロッパ公演を実施。岩城時代のハイライト
  • 2005年2月 ペーター・シュライヤー指揮+歌による「マタイ受難曲」。潮さんが実施した「団員による「記憶に残るコンサート」アンケート」の1位
  • 2005年 シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭への出演。ジェシー・ノーマンとの共演。継続的に参加するようになり,独自のコネを作ることができた。

第3ステージ
  • 井上道義音楽監督就任公演 雅楽との共演=ビジュアル面でも楽しめる,演出の工夫
  • 2007年金沢市21世紀美術館でmusic@rtが始まる。
  • 2008年ラ・フォル・ジュルネ金沢音楽祭の開始。毎年10万人が集まるイベントになった。その中心にOEKがある。
  • 2009年他ホールと連携したオペラ公演(トゥーランドット),地元の大学等と連携したオペラ公演(カルメン)の開始
  • 2013年創設25周年記念コンサート。鳥のヘテロフォニー,ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第2番など。こういうプログラムでもお客さんが来るようになった。


2.OEKがさらに発展していくためには:今後の方向性
■OEKの公演に関するデータ

  • 毎年約100回の公演を実施。内訳は自主公演(楽団負担)が6割,依頼公演が3割,学校公演が1割
  • 開催地による分類:県内公演が2/3,県外公演が1/3
  • 経費負担:収入約8億円:@石川県と金沢市の負担が3億7千万円(人件費に相当),A公演収入,B文化庁等からの補助金収入。 @とAは半々ぐらい。
  • ここで質問:OEKは日本で最初の「○○○」である。答え:プロの常設の室内オーケストラ

■3つの岩城ヴィジョン
OEKは設立当初から次の3つのヴィジョン(岩城ヴィジョン)でスタート。@国際色豊かな楽団にすること,A積極的に海外公演を行うこと,Bコンポーザー・イン・レジデンス制度を取り入れること。これらがどうなったか確認したい。

@国際色について
  • 常時3〜10人の外国人が在籍。世界から音楽家が集まるということは,金沢が魅力的であることの証拠となる。
  • 楽団員が地元に根付き,一人一人からコミュニティが広がっている。それが合わさって,OEK全体のコミュニティを豊かにしている。オーケストラができて街がどう変わった?

A海外ツァーについて
  • 設立以来16回の海外ツァー,98公演を行っている。行先はヨーロッパ,アジア,オセアニア中心。特にシュレヅヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭には4回出演し,大きな成果を上げている。ここ数年,身軽に海外旅行に行くことが可能となり,石川県や金沢市からの補助金なしで出かけている。
  • 海外公演役割は当初は,「海外への挑戦」「国際交流」という意味が大きかったが,近年は,海外との直接的なネットワークを築くことができ,マネジメント上のコストを下げるというメリットが出ている。昨年,アシュケナージやエストニアの合唱団を招聘できたのもこのネットワークの成果による。

Bコンポーザー・イン・レジデント制度の成果
  • 22人によって22曲が生み出された。その他に50以上の委嘱曲がある。
  • 井上時代になり,これらの作品の再演にも力を入れている。特に西村朗「鳥のヘテロフォニー」や三善晃「3つのイメージ」などはそのトレードマーク的作品である。
  • 今シーズンは「国際共同委嘱作品」としてロンドンのバービカンセンターなどとの共同で韓国の作曲家に委嘱を行っており,7月の定期公演で初演される。この制度はOEKが最先端の活動を行っていることを示すものである。


■OEKのレパートリー分析
  • OEKが定期公演で演奏した作曲家別に集計すると,モーツァルト,ベートーヴェン,ハイドン,バッハの順に多い。
  • その一方,室内オーケストラとして,魅力的なレパートリーを作るための活動として委嘱を積極的に行っている。
  • もう一つの方向性として,既存の曲を室内楽オーケストラ用に編曲するという方向性もある(例:「冬の旅」など)。既存の作品に新たな光を当てることで音楽史にも貢献することになる。

■1のまとめ
岩城ヴィジョンは先見の明があった。OEKの核として今後も発展させるべき

2.OEKがさらに発展していくためには
OEKの今後については,次の2つの視点が必要と考える。(1)教育プログラム,(2)オンリーワンを極める。

(1)オーケストラの教育的機能
  • オーケストラが教育的機能を果たすことは「世界の潮流」になっている。その理由は,@オーケストラの存在意義を発揮するため,A聴衆の高齢化に対抗するため,B資金調達のため(教育に貢献していると評価が高くなるなど,オーケストラの評価基準になってきている。),C創造性をはぐくむワークショップ,という理由がある。
  • OEKの教育機能としては,@学校公演,A新人登竜門コンサート,B石川県ジュニアオーケストラ,OEKエンジェルコーラスがある。BはOEKのコミュニティの広がりにも貢献している。
  • 課題:金沢市の学校公演用予算が減少しており,OEKの学校公演数も減少している。富山県高岡市では何年も継続している。地域にオーケストラがあるメリットをどう生かすべきか考えるべきでる。
  • 大人数のワークショップと少人数のワークショップはどちらが良いのか?
  • 地域でどういう音楽体験を提供するかが課題である。@資金面の課題,A受け入れ面の課題,Bカリキュラム面の課題(どうステップアップしていくか)がある。カリキュラムについては,大学などの教育専門家の力が入ることも必要である。

(2)オンリーワンを極める。
  • 金沢の何に魅力を感じるかと尋ねられた場合,やはり「文化」が重要である。金沢の文化の中心的存在としてOEKは需要である。
  • 全国のどこでも同じようなライフスタイルになりつある。地域の違いがなくなる中,”ここでしか”のオンリーワンの価値が高まる。
  • オンリーワンを極めるにはどうすれば良いか?やはりこれまでの取り組みを磨くしかない。具体的には次の5点。

(1)インスピレーション溢れる同時代の音楽を演奏すしてほしい。現代曲のみを指すのではなく,今の時代のモーツァルト,ハイドンを含む。時代をひっぱるような演奏を期待。

(2)地元他機関との連携。21世紀美術館,大学との連携により可能性を広め,面白くする。石川県には大学が多いので,OEKの強みになる。

(3)地域の特色を生かす。(例)能とのコラボ 3月26日に行われたばかり。異文化との出会いにより文化は発展してきた。金沢ではこれができる。ここでしかできないという内容を期待。

(4)多くの人に知ってもらうための活動をする。継続的に体験しないと実感できないものが多い。しかし,知らない人がまだ多い。(例)「滝の白糸」は普遍的な力を持つ作品になった。例えばこの作品によって,OEKを全国的に知ってもらうきっかけにできないか

(5)人が集まる,その中心になってほしい。誰もが気軽にアクセスできることを進めて欲しい。

オーケストラは街の人の一人一人が作るものである。これからを握るのは一人一人。
どういう活動をOEKはしているのかに関心を持って応援をしてほしい。

(2014/4/18)