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第13回北陸新人登竜門コンサート:ピアノ部門
2013年5月18日(日) 15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」op.26
2)グリーグ/ピアノ協奏曲イ短調 op.16
3)ビゼー/「アルルの女」第1組曲〜アダージェット
4)サン=サーンス/ピアノ協奏曲第2番ト短調 op.22
●演奏
金聖響指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
木米真理恵*2, 塚田正吾*3(ピアノ)

Review by 管理人hs  

ラ・フォル・ジュルネ金沢明け最初の演奏会は,恒例の北陸新人登竜門コンサート。今年はピアノ部門で,オーディションで選ばれた木米真理恵さんと塚田尚吾さんが登場しました。本来は,オーディションの審査員でもあった井上道義さん指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と新人アーティストが共演するはずでしたが,井上さんが病気のため9月まで休養することになったので,ラ・フォル・ジュルネ金沢同様,金聖響さんに指揮者は交替になりました。



今回のお2人の演奏ですが,お見事でした。「新人」という冠が付いていることもあり,演奏会前には,少しぐらい冷や冷やする場面もあるのかな,と思ったりもしたのですが,そういう不安は全くありませんでした。過去のピアノ部門の出演者から,日本音楽コンクール入賞者を2名出しているとおり,他の部門にも増して毎回安定して高レベルの新人が出演しているのではないかと思います。

演奏会はまず,OEKの演奏で,メンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」が演奏されました。OEKが頻繁に演奏している作品だけあって,スイッチを入れると,「スーッと」滑らかに曲が流れて行くような気持ちの良い演奏でした。第2主題ではたっぷりとした歌を聞かせてくれましたが,濃くなり過ぎません。金聖響さんらしいところだと思います。所々で力感のある響きを切れ味良く決めるなど,メリハリの効いた演奏を聞かせてくれました。

ちなみにこの日の楽器の配置ですが,聖響さんらしくコントラバスが下手側に来る対向配置になっていました。ラ・フォル・ジュルネ金沢の時もそうでしたが,どの時代の作品についても,「この配置」で固定されているようです。

続いて,木米真理恵さんが登場しました。木米さんは,エメラルドグリーンっぽい明るい緑のドレスで登場しました。新緑の季節にぴったりのイメージでした。

木米さんは,有名な冒頭部から,非常に美しい音で安定感のある音楽を聞かせてくれました。ピアノの音はやや軽い感じで,ガツンと来る感じはありませんでしたが,どの音にもしっとりとした柔らかさがあり,特にこの曲の持つ抒情的な面をしっかり楽しませてくれました。何よりも曲全体を余裕をもって演奏していたのが良かったと思います。

第2楽章では,演奏の落ち着きや抒情性がさらに前面に出ていました。タッチに安っぽい感じがなく,OEKのしっとりとした演奏とあわせ,大変じっくりと聞かせてくれました。第3楽章も技巧が安定しており,大変完成度の高い演奏を楽しませてくれました。ただし...この楽章中,謎の高周波音が会場内に発生し,やや集中できない部分がありました。「北欧のショパン」といった抒情性にたっぷりと浸らせてくれる部分...になるはずだったので残念でした。

OEKの演奏では,今回客演で参加していたフルート奏者の演奏がお見事でした。この楽章のフルートの音を聞くと,いつも「北欧だなぁ」と感じるのですが,その気分にぴったりの冴え冴えとした音でした。

グリーグのピアノ協奏曲はトロンボーンが入ることもあり,OEKが演奏する機会は少ない作品です。堂々たるスケール感と同時に新鮮さも感じさせてくれるような,新人登竜門ならではの気分を持った演奏でした。

後半の最初は,ビゼーの「アルルの女」の中のアダージェットで始まりました。演奏会全体の「間奏曲」的な位置となっていました。井上道義さんは「アルルの女」がとても好きなので(推測ですが),もしかしたら井上さんの選曲でしょうか。サン=サーンスの前に演奏するのにぴったりの明るく穏やかな気分がありました。ただし,ちょっと演奏時間的には短すぎたかもしれません。もう少し,演奏時間の長い曲の方が「座り」が良かった気がしました。

その後,塚田尚吾さんが登場し,サン=サーンスのピアノ協奏曲第2番を演奏しました。塚田さんは,現在音楽大学に在籍中なのですが,まずは音の威力が素晴らしく,第1楽章最初のカデンツァ風の部分からぐっと集中して楽しむことができました。芯のある強くクリアな音は,塚田さんの最大の魅力だと思います。音自体に余裕があるので,演奏全体のスケール感も大変豊かだと思いました。登竜門コンサートに男性ピアニストが登場すること自体珍しいのですが,過去このコンサートに登場したピアニストの中でも特にスケールが大きいのではないかと思いました(とても長身だった印象もあると思います)。

第2楽章は大変軽やかな音楽を楽しませてくれました。やはり,サン=サーンスの演奏にはこのユーモアを交えたような軽さがぴったりです。OEKの演奏も大変軽快でした。第3楽章も若々しいスピード感に溢れていました。バリバリと演奏する感じは,いかにも新人ピアニストらしく,この演奏会にぴったりでした。OEKの演奏もピアノに触発されるかのように生き生きとした色彩感がありました。

サン=サーンスの曲自体として,「分かりやす過ぎるぐらい分かりやすい」のですが,浅い印象や荒っぽい印象は全く与えずに曲の持つ華やかさやエネルギーをしっかり伝えていたのが素晴らしかったと思います。

演奏後は盛大な拍手が続きました。最後には前半で演奏した木米さんも登場し,二人ならんで仲良く挨拶していたのも微笑ましい光景でした。2人並ぶと,木米さんの方がかなり小柄でしたが,どこか堂々としたところがあり,「お姉さんと弟」いった感じがありました。お2人が袖に引っ込む時,塚田さんが「レディ・ファースト」を忘れ,先に引っ込んでいましたが,その辺も初々しいなぁと思いました。2人とも本当に楽しみなピアニストです。これからもまた聞く機会があると思いますが,今後の活躍を期待したいと思います。

井上道義さんは,今回の演奏会に是非出演したかったと思うのですが,今回の2人が素晴らしい演奏を聞かせてくれたことは,最高の「お見舞い」になったのではないかと思います。来年のこの演奏会には是非井上さんに復活してもらいたいと思います。

PS. 石川県立音楽堂前には,まだラ・フォジュ・ジュルネの看板が残っていましたが,もてなしドームのタペストリーの方はしっかり,「百万石まつり」に変わっていました。



(2014/5/25)