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午後の音楽散歩:OEKメンバーシリーズ
西本幸弘,若松みなみヴァイオリン・デュオリサイタル
2014年6月8日(日)14:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1)バッハ,J.S./トリオ・ソナタ ハ長調 BWV.1037〜ジーグ
2)バルトーク/44の二重奏曲〜5曲
3)サラサーテ/スペイン舞曲集〜サパテアード
4)アラール/「椿姫」ファンタジー〜乾杯の歌
5)ショスタコーヴィチ/5つの小品
6)サラサーテ/スペイン舞曲集〜ナヴァーラ
7)(アンコール)バッハ,J.S./2つのヴァイオリンのための協奏曲二短調 BWV.1043〜第2楽章
●演奏
西本幸弘*1-2,4-7,若松みなみ*1-3,5-7(ヴァイオリン),大伏啓太*1,3-7(ピアノ)

Review by 管理人hs  

石川県立音楽堂で定期的に行っている「午後の音楽散歩」はいつもは平日で行っていることもあり,ほとんど行ったことはなかったのですが,今回からオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーによるシリーズも始まり,しかも日曜日に行われたので聞きに行くことにしました。

 

今回登場したのは,仙台フィルのコンサートマスター西本幸弘さんとOEKの第2ヴァイオリン若松みなみさん,ピアノの犬伏啓太さんでした。実は西本さんと若松さんはご夫妻で,犬伏さんも大学時代からの仲間ということで,交流ホールの雰囲気に相応しい親しみやすさがある演奏会となっていました。

ただし,演奏された曲には,それほど有名な作品はありませんでした。このことは,”ヴァイオリン2台のための作品”という制限のせいだと思いますが,それを逆手に取るように,工夫の凝らされた楽しめる内容になっていました。何より今回司会を担当していた西本さんのトークが冴えていました。どの曲もトークと併せて聞くと,より一層楽しくことができました。

最初バッハのトリオソナタの1つの楽章で始まりました。この曲の演奏後,西本さんが「爽やかな曲で好きな曲です。ビールを飲みながら弾くような曲ですね」とおっしゃっていましたが,こういう解説はとても良いですね。また聞きたくなりました。

続いてバルトークの2つのヴァイオリンのための二重奏曲から5曲が演奏されました。5曲といってもどれも短い曲で,「蚊」という「ヴァイオリン小ネタ集」みたいな曲もありました(確かにカユくなりそうな曲でした。)。

これについても西本さんの解説が面白く,New Year's Greetingという曲については,「ハンガリーでは新年に熊の仮装をすることがあるので,のっそりした感じです」とか「トランシルヴァニアというのは...家族のお人形でしたっけ?(はっきり聞こえなかったのですが,若松さんが「それはシルヴァニア」と突っ込んでいた?)」とか,初めて聞く曲にも関わらず,親しみを持って聞くことができました。

ちなみにトランシルヴァニアの踊りは,ラ・フォル・ジュルネ金沢2014で何回も聞いた,バルトークのルーマニア民俗舞曲集の中に出てきそうな曲でした。もう一つにちなみにですが,「トランシルヴァニアといえば...ドラキュラの産地」といういう説明でも行けそうですね。そうなると血つながりで「蚊」にもうまくつながりそうです。

続いて,若松さんの独奏でサラサーテのサパテアードが演奏されました。この曲については,「YouTubeでどんな踊りか調べてみました」と語っていました。この辺は若い演奏家らしいですね。「タタタ,タタタ...という感じで踊り(西本さんが少し実演をしていましたが,タップダンスみたいな感じ?),決めポーズが入るダンスでした。「冷静と情熱の間」といった両面のある曲」ということで,これもまた魅力的な解説でした。

若松さんの演奏は,難曲ということもあり,さすがに苦闘されていましたが,「冷静と情熱の間」という雰囲気はあったと思います。

ちなみに(今回はちなみにばかりですが),サパテアードというキーワードでYouTubeを調べてみると,サラサーテの曲の方が上位に出て,どれが正しいダンスなのか私にはよく分かりませんでした。この曲についてはいろいろなヴァイオリニストが演奏していますが,個人的にはイツァーク・パールマンがアンコールで演奏した時の映像がいまだに印象に残っています。25年以上前だと思いますが,テレビで見ていて,「何て楽しそうに弾くのだろう」と思った記憶があり,それ以来,この曲を聞くとパールマンの顔を思い出してしまいます。

その後,今度は西本さんの独奏で,ヴェルディの「椿姫」の中の「乾杯の歌」によるファンタジーが,キビキビと華やかに演奏されました。この曲の作曲者というか編曲者のアラールという人は,サラサーテの師匠ということで,うまく前の曲とのつながりがありました。

最後は再度,3人によるステージとなり,ショスタコーヴィチの5つの小品が演奏されました。タイトルだけだと地味なのですが,ショスタコーヴィチの書いた映画音楽からの5曲ということで,オーケストラの曲でいうと「ジャズ組曲」と似た感じがあります。ハモリの美しい曲,ポルカ,ワルツ,ギャロップ...と気楽に楽しませつつ,実は皮肉たっぷりという「いかにもショスタコーヴィチ」という作品でした。

プログラムの最後は,サラサーテのナヴァーラでした。先ほどのサパテアードと同じ「スペイン舞曲集」の中の1曲ですが,こちらの方は2台のヴァイオリンのための曲となっています。そのこともあって,CDではあまり聞いたことはなかったのですが,実演だと意外によく演奏されます(金沢だけかも?)。

数年前,いしかわミュージックアカデミーの講師による演奏会の時,ホァン・モンラさんと神尾真由子さんが白熱の演奏をしたことがありますが,今回のご夫妻による演奏も熱のこもった聞きごたえがありました。

最後にアンコールでバッハの2台のヴァイオリンのための協奏曲の第2楽章が演奏されました。西本さんはナヴァーラの演奏の後「蒸発してしまいそう」と仰っていましたが,しっかりと水分が肌に染み入るような,しっとりとした演奏を楽しませてくれました。この曲は最初のトリオ・ソナタとしっかり呼応しており,プログラム全体がバッハの枠にしっかり収まる見事な構成になっていました。

今回,若松さんはとても上品なピンク(何色と表現するか分からないのですが)のドレスで登場していましたが,「そういう目」で見ると,まさに新郎新婦という感じでした。会場にはOEKメンバーの姿も見かけましたが,お客さんと演奏者が一体になったような暖かい気分のある,とても良いムードの演奏会でした。

今後もこのシリーズにOEKメンバーが登場するということで,どういうプログラムやトークが展開されるのか,大いに期待したいと思います。
(2014/6/14)