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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第39回サマーコンサート
2014年6月28日(土) 18:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール



1)ブラームス/ハンガリー舞曲第1番ト短調
2)ブラームス(ハレン編曲)/ハンガリー舞曲第2番ニ短調
3)ブラームス(シュメリング編曲)/ハンガリー舞曲第7番ヘ長調
4)ブラームス(シュメリング編曲)/ハンガリー舞曲第5番ト短調
5)ブラームス/ハンガリー舞曲第10番ヘ長調
6)ベートーヴェン/交響曲第3番変ホ長調,op.55「英雄」
●演奏
植村さつき*1-5;倉井良輔*6指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団



Review by 管理人hs  

この時期恒例の金沢大学フィルハーモニー管弦楽団のサマーコンサートを石川県立音楽堂で聞いてきました。天候は,「サマー」というよりは「梅雨」でしたが,特に後半に演奏されたベートーヴェンの「英雄」は熱い演奏で,ホール内は夏のように暑くなりました。



プログラム前半は,ブラームスのハンガリー舞曲集でした。金大フィルはラ・フォル・ジュルネ金沢(LFJK)の常連団体の一つで,今年もこれらの曲も演奏していたのではないかと思います。私自身,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が三ツ橋敬子さん指揮で何曲か演奏するのを聞きましたので,”LFJK2014アンコール・プログラム”といった感じの選曲と言えます。

今回演奏された曲は,ハンガリー舞曲全21曲中の前半の作品でした。ハンガリー舞曲は,演奏会のアンコールとして演奏されることは多いのですが(第5番,第6番,第1番に集中していますが),プログラム内でまとまって取り上げられるのは比較的珍しいと思います。

どの曲も気楽に楽しめたのですが,こういったやや色物的な要素のある民族的な小品集の場合,演奏技術の問題とは別に,「楽譜に書いてないようなニュアンスの変化」「遊び心」といったものが必要になると思います。その点でやはり,学生指揮者による学生オーケストラの演奏は,とてもまじめだなぁと思いました。

ハンガリーの舞曲らしい緩急の変化や,民族的なアクセントも付けられていたのですが,どこか慎重で,重い感じがしました。こう感じるのは,LFJK2014でのOEKによるフットワークの軽い,流れの良い演奏と比較してしまうからだと思います。こういった曲の聞かせ方はやはりプロが巧いですね。

演奏された曲の中では,最後の第10番がキビキビとまとめられていて,とても良かったと思います。前半をしっかり締めてくれました。

後半はベートーヴェンの「英雄」が演奏されました。実はこの曲も6月のOEKの定期公演で演奏されたばかりで,図らずも聞き比べになりました。もちろんOEKと比較すると,技術面では「先生と生徒」といった感じの違いはありますが,曲全体から伝わる「熱さ」という点では劣るところはありませんでした。指揮者の意欲がオーケストラに反映し,生きた音としてしっかり伝わって来ました。

第1楽章の最初の2音からビシっと引き締まっていました。「英雄」の第1楽章は3拍子ですが,全体の雰囲気としては,鋭角的な三角形(内角の和はどうしても180度ですが)といった印象で,折り目正しく直進するような硬派な演奏でした。指揮者のタイプでいうと,ゲオルク・ショルティ風でしょうか。ただし,それほどコワモテ風ではなく,若々しさがありました。呈示部の繰り返しもショルティ同様に行っていました。

その後の展開も一気に直進していく感じで若々しかったですね。この第1楽章には,「ウン・パー,ウン・パー...」という感じで,後拍の方が強くなるようなところがありますが,その辺のロックな感じ(?)に若いエネルギーを感じました。「のだめカンタービレ」のオリジナルのマンガ版では,学生オーケストラが「英雄」を演奏していたと思うのですが,「きっとこんな感じかな」と思いながら聞いていました。

コーダの部分のトランペットも楽譜どおり,「メロディが途中で消える」形で演奏していました。近年はすっかりこの形の方が当たり前になりましたね。

第2楽章のテンポはやや速目だったと思いますが,雰囲気はしっとりとしていました。この楽章では,ずっとオーボエを応援しながら聞いていました。確かに音程が気になる部分はあったのですが,しっかりと吹き通してくれて妙に感動しました。OEKの名手による演奏だと,「あたり前」なのですが,この楽章でのオーボエの重要さを再認識させてくれた気がしました。中間部で大きく盛り上がる部分では,弦楽器の音が清々しく,オーボエの健闘を讃えているようでした。

第3楽章も最初の部分の弦楽器の刻みが「いかにもスケルツォ」という感じで,嬉しくなりました。演奏を聞きながら「弦楽合奏による音の刻みを聞くには生がいちばん」と妙にマニアックなことを再認識しました。中間部でのホルンの重奏の部分では,入りの部分に少し間を置いて,堂々と聞かせてくれました。

第4楽章へはほとんどインターバルなしで突入していました。この「入り」の部分の鮮やかさは見事でした。プログラムの曲目解説でこの楽章について,指揮者の方が「短編集のよう」と書いていましたが,その実感が伝わってくるような演奏だったと思います。その各「短編」の中で,フルート,オーボエをはじめ管楽器がソリスティックに活躍する部分があり,しっかり聞かせてくれました。

終盤での金管楽器の強奏が特に印象的でした。会場の温度自体も上がっていたと思いますが,とても熱い音を聞かせてくれました。コーダ部分でもリズムが強調されており,カロリー高めの演奏になっていました。この部分でティンパニが炸裂していたのも気持ちが良かったですね。

というわけで,「爽やかかな汗+冷や汗少々」といった感じの大学生ならではの「英雄」だったと思います。ほぼ指揮者の思い通りの演奏だったのではないでしょうか。この日は,珍しく「アンコールなし」でしたが,その分,「英雄」一本に絞っていたのだと思います。そのことが伝わってくるような充実感のある演奏でした。

PS. 余談ですが,私自身,最初に買った「英雄」のLPがショルティ指揮シカゴ交響楽団の演奏でした。当時はレビューを書きながら妙に聞いてみたくなったのですが...LPなので簡単に聞けないのが残念。

(2014/7/5)