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大阪大学混声合唱団,金沢大学合唱団第30回記念合同演奏会
2014年7月6日(日)14:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール



エール交換
第1ステージ 大阪大学混声合唱団単独ステージ
1)北川昇(詩:谷川俊太郎)/無伴奏混声合唱のための「シャガールと木の葉」

第2ステージ 金沢大学合唱団単独ステージ:千原英喜アラカルト
2)千原英喜(詩:鴨長明)/「方丈記」〜III.夜もすがら
3)千原英喜(詩:星野富弘)/もう一度
4)千原英喜/「どちりなきりしたん」〜IV
5)千原英喜(詩:草野心平)/「コスミック・エレジー」〜わが抒情詩

第3ステージ OB・OG合同ステージ:合同演奏会メモリアルステージ50年の時を経て
6)高田三郎(詩:高野喜久雄)/「水のいのち」〜雨
7)ヘンデル/オラトリオ「メサイア」〜ハレルヤ・コーラス
8)大中恩(詩:中村千栄子)/「風のうた」〜2.夏の風
9)佐藤眞(詩:大木惇夫)/「土の歌」〜第7楽章「大地讃頌」
10)(アンコール)木下牧子(詩:三善達治)/鴎

●演奏
馬場麟太郎*1;杉山瑞樹*2-3;吉田裕実子*4-5;香田裕泰*6-10指揮
大阪大学混声合唱団*1;金沢大学合唱団*2-5;OB・OGを含む合同合唱団*6-10
田島睦子(ピアノ*6-9)



Review by 管理人hs  

前日のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演ではOEK合唱団と大阪フィルハーモニー合唱団の合同合唱団との共演でベートーヴェンの第9が演奏されましたが,今度は金沢大学合唱団と大阪大学混声合唱団との共演です。この2日続けての「金沢+大阪」共演に不思議な縁の深さを感じ,2日続けて石川県立音楽堂コンサートホールに出かけてきました。

 

両大学の合唱団は2年ごとに金沢と大阪で交互に合同演奏を行っており,今回で30回目となります。なかなか計算するのは難しいのですが,単純に計算しても半世紀以上の歴史があることになります。伝統のある合唱団の共演ということで,演奏会は,エールの交換で始まりました。演奏会のプログラムに先立って,大阪大学学生歌と金沢大学合唱団団歌が順番に歌われました。

こういう歌の後に拍手を入れていいのかどうか迷ったのですが,ここで全く拍手が入らなかったので,その後の演奏についてもお客さんのノリが「かなり控えめ」だった気がしました。

第1ステージは大阪大学のステージで,北川昇作曲の無伴奏混声合唱のための「シャガールと木の葉」が歌われました。谷川俊太郎の4つの詩に曲をつけた組曲で,明るい曲,静かな曲,動的な曲,長い曲という構成になっていたので,交響曲的なまとまりの良さを感じました。

合唱団の声には十分な柔らかさとボリュームがありました。その中で,くっきりと歌詞が聞き取れたのが良かったと思います。谷川さんの詩の持つ,シンプルで深い世界をしっかり味わうことができました。石川県立音楽堂のホールは声楽に特に合うのではないかと思います。4つの曲の中では,1曲目「歩く」に出てくる「いまは歩ける幸せ」という詩,終曲「シャガールと木の葉」(全体のタイトルと同じ名称です)の日常的で詩的な世界が特に気に入りました。

次は金沢大学合唱団のステージで,千原英喜の作品の中から4曲が演奏されました。金沢大学合唱団の方が人数はやや少ないのですが,個々のメンバーの力量が高いようで,低音から高音までバランスよく,前に出てくるような積極的な声を楽しむことできました。

千原さんの作品は,詩を読むと暗いのですが,音楽自体には明るい愛唱歌風の曲があったり,不思議なギャップがあります。そこが魅力になっていると思いました。特に鴨長明の絶望的な短歌に明るい歌という組み合わせが印象的でした。2曲目の「もう一度」は,若い時に手足の自由を失った星野富弘さんが2012年に作った詩に曲を付けたもので,東日本大震災と自身の境遇とを重ね合わせたところがあります。諦念と希望の交錯が心にしみる曲でした。3曲目の「どちりなきりしたん」は,ラテン語と日本語が重なり合い,トライアンブルが入り,バリトンのソロが入るなど,とても凝った構成の作品でした。時代と空間を超えるような立体感を感じました。

後半はこの日のメイン・コーナーで,両合唱団の現役メンバーに加え,OB・OGが加わり,約270名による大合唱団になりました。指揮は金沢ではお馴染みの声楽家で指導者の香田裕泰さん,ピアノもまた金沢ではお馴染みの田島睦子さん,さらに演奏された曲は有名な曲ばかり,ということで大変楽しめる内容になっていました。

今回歌われた曲は,「水のいのち」「風のうた」「土の歌」とシンプルなタイトルの曲が多く,「水」「大気」「土」と自然現象を網羅していました。さらにヘンデルの「ハレルヤ」の方は,「天」の音楽ということで,「天地人」といえるのかもしれません。この天地人の名曲が,晴れやかにたっぷりと歌われました。

合同演奏の場合,それほど練習時間は取れないと思うのですが,それでも自信に満ちた声が出ていたのは,これらの曲を歌い続けてきた合同演奏の伝統の力によるのかもしれません。

ただし...各曲の後に拍手が入らなかったのはどうみても不自然でした。特にストレートに力強く盛り上がったハレルヤコーラスや大地讃頌の後に拍手が入らないというのは,お客さんとしても相当辛かったのではないかと思います。というなら,私が拍手すれば良かったのですが...ついつい回りの様子を見てしまいました。「大地讃頌」の最後の「たたえよ大地よ,ああ」の「ああ」の部分で一段音が盛り上がった後は,何としても拍手を入れるべきだったと後悔しています。

これを受ける「新しい歌」(最後の3曲は「〜の歌」で韻を踏んでますね)は,アンコール・ピースっぽい感じのある曲で,緊張感を解放し,ポップスのように盛り上がる曲です。この曲では,合唱団員が手拍子を入れていたのですが,ここは「みなさんご一緒に」となるべきところでした。最後まで拍手が入らなかった分,最後の拍手は盛大でしたが,この曲では一体になって盛り上がりたかったですね。

最後,アンコールで木下牧子作曲「鴎」が歌われました。「ついに自由は彼らのものだ」という歌詞が繰り返されていましたが,いかにも合唱曲らしい合唱曲で気持ちよく余韻を楽しむことができました。

というわけで,合唱の面白さがしっかり伝わってくる良い演奏会でした。あとはお客さんのノリが良ければ,最高だったと思います。

PS. この日は1階席しか使っていなかったのですが,「無料公演」ということで段々と混み合ってきました。2階席も使って,もう少しゆったりとお客さんを入れてもらった方がリラックスできたのかな,という気もしました。

(2014/7/13)