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音楽堂室内楽シリーズ2014第1回 打楽器×演劇=音楽物語
2014年7月8日(火) 19:00 交流ホール



1)横田大司/炎の果実
2)横田大司/箒と秘薬
3)横田大司/白紙の一幕:打楽器四重奏のための
4)シャブリエ(横田大司編曲)/エスパーニャ
5)ファリャ(横田大司編曲)/歌劇「はかなき人生」〜スペイン舞曲第1番
6)横田大司:音楽ものがたり「芋掘り藤五郎」
7)(アンコール)曲名不明(手拍子のみによる曲)

●演奏
打楽器アンサンブル想樂〜sora〜(渡邉昭夫,横田大司,平松智子,田島翠,平林明美,横山亜希子,竹宮純子,神谷紘実)
演劇:風李一成



Review by 管理人hs  

今年度最初の「音楽堂室内楽シリーズ」を聞いてきました。今回は,オーケストラ・アンサンブル金沢の渡邉昭夫さんを中心とした打楽器アンサンブル想樂〜sora〜を中心としたステージで,横田大司さんの作曲・編曲作品のみによるプログラムが演奏されました。

 

プログラムの中心は,金沢を中心に活躍する俳優,風李一成さんを交えての音楽ものがたり「芋掘り藤五郎」 でしたが,前半に演奏された打楽器アンサンブルによる作品もそれぞれに面白く,キレよく,心地よい打楽器アンサンブルの世界を満喫しました。

横田大司さんは,打楽器アンサンブル,パーカッションミュージアムのメンバーとしても活躍されている打楽器奏者ということで,作品ごとに別の切り口から打楽器の魅力を聞かせてくれました。演奏中のトークの中で横田さんは,「弦楽四重奏のような,必要最小限の編成で効果のあがる定番的な編成」に関心があるそうで,打楽器アンサンブルについては「2人でマリンバ+マリンバ・ソロ+ヴィブラフォン・ソロ」という4人編成を基本形とみなしているとのことでした。今回の演奏された曲もこの編成が核になっていました。



ちなみにこの日の基本的な楽器編成は↑のような感じで,前方にマリンバ,ヴィブラフォン,シロフォンなどの鍵盤楽器が並んでいました。後半の「芋掘り藤五郎」の時はステージ奥のステージで風李一成さんが演技をしていました。

最初に演奏された「炎の果実」は,女子高吹奏楽部からの依頼で書いた作品で,アジア的な感じ,ザクロのイメージを表現したかったとのことです。渡邉さんのティンパニの上に鍵盤楽器が活躍するような曲で,どこかエキゾティックな風味がありました。演奏には余裕があり,とてもまとまりの良い演奏でした。

打楽器アンサンブルの演奏会の時は舞台転換に時間がかかるので,必然的に「場つなぎ」のトークの時間が多くなります。今回は横田さんから各曲のポイントについての説明がありました。

2曲目は,「忠臣蔵」をモチーフとして書かれた「白紙の一幕」でした。「忠臣蔵:といっても,そのストーリーを描いているわけではなく,「決断」「葛藤」といった人間の内面の動きを描こうとしているのが特徴です。楽器編成は変則的で,4人の奏者による竹と太鼓のみによる演奏でした。和太鼓の作る殺気走った気分の上で,各奏者が竹刀でチャンバラをしているような強烈な迫力に満ちていました。この曲は,先日のOEKの定期公演のプレコンサートでも演奏されましたが,会場の空気を一瞬で変えるような,力を持った作品だと思いました。

次の「箒と秘薬」という曲は,神谷紘美さんのマリンバを中心とした曲で,ユーモラスで怪しいマリンバ(=魔女)の音の動きに,シロフォンなどが不気味な味付けを加えるといった,「どこかファンタジー」な気分がありました。横田さんの解説によると,西洋音楽ではサン=サーンスの「死の舞踏」などシロフォンの音が絡むことで,ミステリアスな気分を高めている例がよくあるとのことでした。こういう解説付きで聞くことにより,さらに楽しく聞くことができました。

前半最後はアレンジ曲が2曲演奏されました。どちらも落ち着きのあるテンポで鮮やかに聞かせてくれました。シャブリエのスペイン狂詩曲は,上述の「2人でマリンバ+マリンバ・ソロ+ヴィブラフォン・ソロ」の4人編成でしたが,音色の同質性と多彩さをバランス良く楽しむことができました。

Solaのメンバーは女性が多いのですが,今回は衣装にも凝っていました。曲によって色合いを変えていたのも楽しかったですね。スペイン舞曲では赤でまとめたり,エスパーニャでは全員違う色の衣装を着たり,視覚的にも華やかでした。

後半の「芋堀り藤五郎」は,渡邉さんの委嘱で2005年に作られた作品です。金沢の地名の由来にもなっている民話を題材としているだけあって,横田さんの音楽は親しみやすく,のどかな雰囲気に満ちていました。物語は次のページのとおりです。

いもほり藤五郎(金沢市公式ホームページから)

曲の雰囲気としては,大昔のNHKの連続テレビ小説「おはなはん」のテーマを思わせる民謡風の親しみやすさがありました。前半に演奏された,「白紙の一幕」のような激しさはなく,シンプルさが基調となっていました。途中,藤五郎と妻の仲睦まじい雰囲気を表現するような部分(シャボン玉も飛んでました)での,静かな幸福感が特に印象的でした。

主役の藤五郎は,財産作りに興味がなく,現在の平穏な暮らしに満足するようなキャラクターです。金沢に住む特に男性の気質として,「金よりも大切なものがある」と考える人が多く(あくまでも主観ですが),それが良くも悪くも金沢らしさの基盤になっていると思います。他人任せなのに結果としてうまく行くというのは,現代から見ると甘いおとぎ話なのかもしれませんが,これが「金沢らしさ」の原点というのは,どこか納得してしまうところがあります。

物語は,風李一成さんの語りを交えて進んでいきました。風李さんといえば,OEKと共演した「兵士の物語」の悪魔の印象があるのですが,今回はその時とは全く違ったキャラクターを演じていました。一人で全登場人物を演じることになるのですが,複数の仮面を使い分けることで,大変効率的にドラマの気分を伝えてくれました。声も大変聞きやすく,ストレスなく民話の世界に入り込むことができました。

演奏会の最後に手拍子(一部足拍子)だけによる曲がアンコールで演奏されましたが,これも格好良かったですね。以前にも同様の曲をアンコールで聞いた記憶がありますが,人間の体だけを使った演奏というのは,聞いていて楽しいだけでなく,「音楽の原点」に立ち返るようで,集中して聞き入ってしまいます。

打楽器アンサンブルによる公演は,この室内楽シリーズでも時々取り上げらていますが,毎回毎回本当に楽しませてくれます。楽器が空気を震わせ,それが耳にストレートに伝わってくる。それを間近で体感できるというのが,交流ホールでの打楽器公演の最大の楽しみです。この日は台風の接近の影響か大変湿度の高い,不快指数の非常に高い日でしたが,音楽堂交流ホールだけは別世界でした。打楽器アンサンブルの多彩な魅力を楽しむことのできた公演でした。


終演後,交流ホール前で演奏者のみなさんがお見送りをしていました。

(2014/7/14)