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オーケストラ・アンサンブル金沢ファンタスティック・クラシカルコンサート
2014年7月12日(土)18:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール



<<クミコ&OEK>>
1)グノー/歌劇「ファウスト」第5幕〜第5曲「トロイの娘の踊り」
2)バルバラ(詞:覚和歌子)/わが麗しき恋物語
3)パウルス(詞:ヴォズネセンスキイ(日本語詞:松山善三),編曲:松尾崇司)/百万本のバラ
4)菅野よう子(編曲:福嶋頼秀)/花は咲く
5)スコットランド民謡(日本語詞:八木倫明)/広い河の岸辺
6)佐々木祐滋(詞:God Breath,編曲:坂本昌之)/INORI:祈り
7)モノー(日本語詞:覚和歌子,編曲:桑山哲也)/愛の賛歌

<<ゲスト井上芳雄さんを迎えて>>
8)フォーレ/劇音楽「ペレアスとメリザンド」〜シシリエンヌ
9)三木たかし(詞:覚和歌子,編曲:若草惠)/車輪
10)三木たかし(詞:覚和歌子,編曲:大貫祐一郎)/わたしは青空
11)ラヴェル/組曲「マ・メール・ロワ」〜妖精の園
12)鈴木日出男(詞:覚和歌子,編曲:福嶋頼秀)/MOTHER
13)斉藤和義(詞:斉藤和義,編曲:福嶋頼秀)/歌うたいのバラッド
14)ヨシヤタカヒロ(詞:凛生,編曲:塩入俊哉,福嶋頼秀)/指も髪も唇も
15)(アンコール)三木たかし(詞:覚和歌子,編曲:若草惠)/車輪

●演奏
クミコ*2-3,5-7,9-10,14-15,井上芳雄*9-10,12-15(歌)
鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)
大貫祐一郎(ピアノ)



Review by 管理人hs  

この日は,歌手のクミコさんと鈴木織衛さん指揮OEKが共演するファンタスティック・クラシカルコンサートを聞いてきました。実はこの"ファンタスティック”シリーズを聞くのは久しぶりでした。「たまには親孝行をするか」と思いつき,今月誕生日を迎えた母と一緒に聞いてきました。私の母の場合,モノをプレゼントしても「趣味に合わない」「モノを増やしたくない」...とあれこれうるさいので,コンサートのチケットを贈り,一緒に出掛けるこにしました。後半は,「ミュージカル王子」井上芳雄さんも登場し,さらに喜んでくれたので,結果として,なかなか良いプレゼントだったと思います。

クミコさんがOEKと共演するのは,2006年以来です。その時に歌声を聞いて,「よい大人が聞くのにぴったりの音楽」という実感を得ていたのですが,今回もそのとおりでした。クミコさんの声は,とても伸びやかで,純粋で,率直なのですが,ただ真っ直ぐなだけでなく,歌詞の内容に合わせて,人生の陰影のようなものを感じさせてくれます。逆に言うと,クミコさんは平凡な人生の中から陰影をさせてくれるような歌を選んで歌っているのだと思います。

人生経験を重ねた深さの中に純粋さや可愛らしさがあったり,和風なのかフランス風なのか一言で言えない気分があったり,色々なテイストが自然に混ざっているのがクミコさんの魅力だと思います。

演奏会は,序曲のように演奏されたOEK単独演奏によるグノーのバレエ音楽「ファウスト」の「トロイの娘の踊り」で始まりました。この曲は石川県ジュニアオーケストラの演奏でも聞いたことがありますが,勝手に「鈴木織衛さんのテーマ」と位置づけています。鈴木さんの持つ上品な雰囲気そのままの流麗な演奏でした。

ワインレッドのドレスを着たクミコさんが登場し,今度はクミコさんの名刺代わりとなっている「わが麗しき恋物語」が歌われました。2006年の時も歌われた曲ですが,「シャンソンだけどもフランスっぽくならない」雰囲気はそのままでした。

続いて,「銀座「銀巴里」時代,とてもリクエストの多かった曲」である「百万本のバラ」が歌われました。「言ってみれば,ストーカー的な曲です」というクミコさんによる,大変分かりやすい説明を聞いた後だと,「あなたに あなたに あなたに...」「バラを バラを バラを...」とリフレインの多さが確かにストーカー的でした。実際にいたら困るけれども,歌ならば迫真の愛。ということで,実にシャンソン的で音楽的な曲だと思いました。

間奏曲として,東日本大震災復興支援の曲である「花は咲く」がOEK単独で演奏されました。この曲は実は,次の曲への絶妙のブリッジになっていました。

クミコさんは,2011年3月11日,コンサートで訪れた石巻で東日本大震災に遭遇しました。その後,石巻復興支援の活動を継続的に行っています。次に歌われた「広い河の岸辺」は,,その復興に向けたの思いを込めてこの曲を歌おうと思ったそうです。石巻は海岸沿いの市なので,曲のイメージによく合っているのではないかと思いました。

さらにこの曲ですが,現在放送中のNHK連続テレビ小説「花子とアン」の中で,この曲が外国人教師によって歌われる重要な場面があったのだそうです。もとは"The Water is wide"という,伝統のあるスコットランド民謡で,ドラマの中では花子の背中を後押しするような感じで使われたそうです(このドラマ,大変面白いのですが最初の方は見ていなかったので,再放送があれば確認してみたいと思います)。

というわけで「今しかない」と思い,7月23日にクミコさんの新譜CDが発売されるそうです。次のような記事がありました。
http://www.oricon.co.jp/news/2038566/full/

今後,合唱でも歌われるような定番曲になっていくかもしれませんね。

前半の最後では,2010年の紅白歌合戦でクミコさんが歌った「INORI」,シャンソンの定番「愛の賛歌」が堂々と歌い上げられました。

ちなみに,この「愛の賛歌」の方も7月18日の「花子とアン」の中の重要シーン(蓮子の駆け落ちシーン)で効果的に使われていました(これは美輪明宏さんの歌)。今回の歌詞は,「あなたの燃える手で」という有名な岩谷時子さんの詞ではなく,覚和歌子さんによるものでした。確か美輪さんの版も,岩谷さんの歌詞ではなかったと思うのですが,この歌詞の比較というのも面白そうです。ったか,


前半終了後,2階席前でコーヒーを飲みながら下を見たところ。終演後サイン会を行っていたようです。

後半は,OEK単独によるフォーレのシチリーアーノ(フルートはフリスト・ドブリノフさんという客演奏者でした)に続き,ミュージカル歌手の井上芳雄さんをゲストに迎え,二人のデュエットを中心としてステージが進みました。井上さんとクミコさんは,数年前から共演をしているようで,やや堅めの井上さんのトークをクミコさんがほぐしてあげる,という微笑ましい雰囲気でした。

とてもスマートで清潔感のある井上芳雄さんは,いかにもミュージカルの王子といった感じでした。「もうそんな年齢ではないのですが...」と語っていましたが,歌舞伎の世界では人間国宝のベテラン俳優が娘役をやってますので,「いつまでも王子」でノープロブレムだと思います。ちなみに井上さんが前回金沢に来られたのは,東宝ミュージカル「MOZART!」以来だと思います。
http://www.tohostage.com/mozart/cast.html
現在の井上さんの年齢は...モーツァルトが亡くなった年齢と同じですね。

2人でまず歌った「車輪」ですが,2009年に亡くなった三木たかしさんの最晩年の作品で,「届かなかったラブレター」という企画コンサート(?)の中でクミコさんと井上さんが二重唱した曲とのことです。曲の感じとしては「哀しみのソレアード」のような感じで,文字通り2人が”車輪”となって支え合うような雰囲気の歌でした。クミコさんによると,「この2人でないと歌えない曲です」「4年に一度ぐらいしか聞けないオリンピックのような曲」ということで,2人の個性がとても巧く生きていました。特に井上さんの声は,いかにもミュージカルのプリンスといった感じで,ストレートに思いが伝わってくるような歌でした。

# 個人的に三木たかしさんといえば,「アンパンマンのマーチ」を思い出します。さらに調べてみると,坂本冬美の「夜桜お七」とか石川さゆりの「津軽海峡冬景色」とか名曲が多いですね。クミコさんがこれらの曲を別の切り口から歌っても合うかも?

続く「わたしは青空」の方は,「千の風になって」と同じく「死者側目線の曲」です。もともとはクミコさんのソロの曲ですが,2人で歌うと立体感が増して,一味違った面白さが出ていたと思います。

実は,「千の風...」についてはクミコさんにもオファーがあったそうです。「歌詞にいきなり「お墓」が出てくるのはちょっと...」ということでお断りしたそうですが,「やっときゃよかった」とのことです。だけどヒットし過ぎると,そのイメージを乗り越えるのも大変なので,結局,どっちを選んでも良し悪しはありそうですね。

「わたしは青空」は,オーケストラの伴奏ではなく,OEKの松井直さんのヴァイオリンとピアノの大貫祐一郎さんのみによる演奏でした。伴奏がシンプルになることで,全体がすっきりと明るい青空のようになっていたのが良かったと思います。

ラヴェルの「マ・メール・ロワ」の終曲で華麗に雰囲気を盛り上げた後,井上さんのソロで「MOTHER」「歌うたいのバラッド」の2曲が歌われました。個人的には,井上さんに限らず,若いミュージカル歌手の声を聞くと,どこか青臭い印象を持ってしまう瞬間があり,ちょっと「落ち着かない」気分になります。ただし,その辺はもちろん好みの問題です。そこがクラシックの歌手にはない魅力なのだと思います。

最後にクミコさんが紫のドレス(チラシと同じような色合いでしたね)で再登場し,「指もかみも唇も」でドラマティックに締めてくれました。クミコさんの曲には,人の「死」がよく出てくるのですが,それがドロドロとした感じにならず,あくまでさらりとした後味が残るのが素晴らしいと思います。聞きやすさと同時に深みが残る素晴らしい歌の数々でした。

今回は,鈴木織衛さん指揮OEKの演奏も見事でした。鈴木さんは「挿絵のようにフランス音楽を間に演奏します」と仰られていましたが,そのとおりでした。どの曲もとても流麗で,演奏会全体としてクミコさんに寄り添うように,演奏を盛り上げていました。

アンコールでは,2人の重唱で「車輪」が再度歌われました。クミコさんの落ち着いた声と,井上さんの爽やかな声がバランス良くブレンドし,気持ちよく演奏会を締めてくれました。

PS. この日はクミコさんのサイン会も行っていたのですが,今回は母親と来ていたこともあり,参加しませんでした。

さて,滅多に演奏会に来ないて,私の母の方ですが...一緒に出掛けてみると,いろいろ目の付け所が私と違っていて面白かったですね。

  • まず,プログラムを開いて見つけたのが,鈴木織衛さんの写真。「この人は高貴な感じがする。そういう家の人やろ?」といきなり言っていました(結構鋭い指摘かも?)。
  • 今後の公演予定の中では,黒柳徹子さん,阿川佐和子さんに注目していました(OEK側の狙いどおり?)。
  • (3階席だったのですが)「手すりがちょっと邪魔やな」(確かに)
  • (エアコンに弱いので)「飴玉をなめたい。持っとらんか?」(音が邪魔になるので本当はダメだけど...と言いつつ,なぜか私自身,飴を持っていたので,剥いた状態でこっそり渡してしまいました)

PS. 駐車場は音楽堂の駐車場ではなく,近くの安い無人駐車場を利用してみたのですが...出庫する際,自分の車の隣の車の番号を機械に入力してしまい...出ようとすると,床下からガシャガシャという音が...結局,2倍以上お金を払うことになりました。やはり,こういう番号を年寄に確認させるのは間違いの元です。

PS. 演奏会前は,ソバを食べたいということで,JR金沢駅で食事。


(2014/7/20)