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第34回全日本医科学生オーケストラフェスティバル
2014年8月9日(土)18:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール



芥川也寸志/交響管絃楽のための音楽
ガーシュイン/パリのアメリカ人
ベルリオーズ/幻想交響曲 op.14
(アンコール)ベルリオーズ/劇的交響詩「ファウストの劫罰」〜ハンガリー行進曲
●演奏
松井慶太指揮全日本医科学生オーケストラ



Review by 管理人hs  

台風の影響で「日本全国どこも雨」という一日でしたが,石川県立音楽堂で日本の医科大学のオーケストラのメンバーが終結して合同演奏する「全日本医科学生オーケストラフェスティバル」という演奏会が行われましたので聞いてきました。



このフェスティバルに参加している大学は約40大学で参加者は200人以上になります。今回が第34回で,全国持ち回りの夏の恒例イベントとして定着しているようです。こういう大規模なイベントをずっと続けることはなかなかできません。音楽面だけではなく,マネジメント面でも,参加する学生たちの勉強になっているのではないかと思います。

このフェスティバルで演奏するオーケストラ名も「夏オケ」というニックネームですっかり定着しているようです。詳細は次のページをご覧ください。
http://natsuoke34.at-ninja.jp/about.html

ただし,パンフレットの参加大学リストによると,国公私立を問わず「○○医科大学」という単科大学が中心で,医学部があったとしても例えば金沢大学は不参加でした。また金沢医科大学も入っていませんでした。今回の主管大学は福井大学だったのですが,なぜか会場は石川県立音楽堂でした。福井にはハーモニーホールという立派なホールがあるので,やや不思議な気はしましたが,金沢のクラシック音楽ファンとしては大歓迎です。大編成のオーケストラ作品を一気に楽しむことのできる絶好の機会となりました。

演奏された曲は,芥川也寸志/交響管絃楽のための音楽,ガーシュイン/パリのアメリカ人,ベルリオーズ/幻想交響曲の3曲で,いずれもオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)単独では聞くことのできないような作品ばかりでした。夏オケのみなさんは,合宿を行った後,本番に臨んでおり,今回はその総決算ということになります。ソロで聞くとちょっとアラが出る部分はありましたが,弦,管,打楽器とも,しっかり鍛えられており,申し分のない水準の高い演奏を聞かせてくれました。管楽器のメンバーの数が多かったので,「4管以上編成」という感じでしたが,熱さと同時にバランスの良さがあったのが素晴らしいと思いました。

最初の交響管弦楽のための音楽は,芥川也寸志さんの出世作です。この曲は,アメリカのNBC交響楽団が,トスカニーニの死後「シンフォニー・オブ・ジ・エアー」と名前を変えて1955年に来日した時に後楽園球場で演奏されたことのある曲です。その白黒のニュース映像の背景に流れている曲がこの曲です。この映像は何回も見たことはあるのですが,この作品の全曲を生で聞く機会は今回が初めてです。

2つの楽章からなる10分ほどの作品で,ソヴィエト連邦時代のプロコフィエフとかショスタコーヴィチのような雰囲気がある,大変分かりやすい音楽でした。1950年代の作品ということで,「皆,当時はこういう明るい未来を描いていたのかも」と思わせるようなところがありました。レトロとモダンが交錯したような面白さを感じました。

第1楽章は比較的静かなのですが,冒頭部のザワザワとした音の刻みから印象的でした。第2楽章は強烈なシンバルの一撃で始まります。この曲の「肝」ですね。一気に気分が高揚しました。管楽器の原色的な響き,芥川さんならではの同じ音型の繰り返し。これは耳に残ります。最後の方はポリリズムになる部分になり,弦楽器と管楽器で別々に動く感じに。妙に落ち着かない感じでワクワクしますね。

指揮の松井慶太さんは,OEKと石川県内大学オーケストラの合同オーケストラを指揮されたこともありますが,大変じっくりと聞かせてくれました。松井さん自身,大学生に近いぐらいの若い方ですが,熱狂的に音楽を煽るような部分はなく,余裕たっぷりに心地よく弾むリズムを伝えてくれました。

他の曲も慌てる部分はなく,充実したオーケストラの音色をしっかりと聞かせることを主眼に置いていると感じました。

2曲目の「パリのアメリカ人」もじっくりと演奏されました。テンポは落ち着いているけれども,のんびりと弾む感じがあり”パリの観光客気分”が出ていました。曲想からすると,もう少しリラックスした感じがあっても良いかなとも思いましたが,その分,立派なクラシック音楽風のスケール感たっぷりの演奏になっていました。ソロ・ヴァイオリンはコンサートマスターの学生が担当していましたが,とても品の良い演奏だとい思いました。

第2楽章はブルース風の部分ですが,こうった部分はやはりちょっと真面目すぎるかなと感じました。第3楽章もやや腰が重い感じもありましたが,その分ビッグ・バンドというよりは,いかにもシンフォニー・オーケストラらしいスケール感を感じさせてくれました。色々と登場するソロの中では,特に最後の方に出てくるテューバの哀愁のある響きが良いと思いました。

後半の幻想交響曲は,特に素晴らしい演奏でした。オーケストラの音色がとても明るく,聞いていて,「この曲はやはりフランス音楽だなぁ」と思いました。

  
左は開演前の様子。右は「どこに誰がいるか」を探すためのマップ。ものすごい数です。欄外に名前があるのは(鐘とオーボエ),幻想交響曲ならでは。

第1楽章の最初の方は,やや慎重に安全運転をしているような感じがありましたが,楽章の後半から一気に輝かしさを増し,大きく盛り上がっていました。曲の主役(固定楽想)が段々と狂おしい気分になっていくあたにり,若きベルリオーズと等身大の若々しさを感じました。

小細工せずにたっぷりと優雅に聞かせる第2楽章。やはり明るい音色が良いですね。

第3楽章は,CDだと退屈することのある部分ですが,実演だと視覚的な面白さや空間的な音の広がりを感じることができます。各パートともとても丁寧に演奏しており,楽章が進むにつれて,美しい風景が次々と展開していくようでした。弦楽合奏や各独奏楽器の音は荒涼とした野の光景というよりは,美しいのどかな田園風景をイメージさせるようなところがありました。終盤は,2台のティンパニを4人で演奏したり,コールアングレと舞台裏のオーボエがやり取りしたり,この曲ならではの見せ場を楽しませてくれました。

第4楽章も,じっくりと,リズムのキレ良く,迫力たっぷりに聞かせてくれました。ずらっと並んだトランペットの音は爽快でした。楽章最後の断頭台の部分もスカッと締めてくれました。この辺もフランス的だと思いました。

第4楽章と第5楽章を連続的に演奏することもありますが,今回はしっかりと間を取っていました。ここでも慌てない音楽を聞かせてくれました。前半ではクラリネットの明晰な音が印象的でした。舞台裏から聞こえる鐘の音もとても鮮やかに聞こえていました。エンディングの部分は熱狂的に荒れ狂うことなく,最後に向かってエネルギーを蓄えるように力感を高め,最後の最後の部分で,シンバルを中心に気合いの一撃が炸裂し,非常に爽快に締めてくれました。

というようなわけで,どの楽章も小細工をせずに,音をしっかり聞かせてくれる見事な演奏でした。

アンコールでは,「幻想交響曲の後ならば,多分これかな?」という,ハンガリー行進曲が演奏されました。こちらは,椅子に座り切れない人もいたようで,立ったままヴァイオリンを演奏している人もいました。「今年の夏オケもこれで最後」という感じの大きく盛り上がるような演奏でした。

金沢で「夏オケ」が演奏するのは今回が初めてだと思いますが,しっかりと楽しませてもらいました。来年以降は北陸新幹線が使えるようになるので,機会があればまた公演を行ってもらいたいと思います。プログラムに書かれていた過去の演奏記録には,バルトークの管弦楽のための協奏曲とかショスタコーヴィチの「レニングラード」とか金沢で演奏されたことのないような作品が入っていましたが,曲目次第では,他都市に聞きに行っても面白いかなとも思いました。

PS. 今回のプログラムのパンフレットですが,入場料700円にしては大変立派なものでした。そういえば,チラシもカラー印刷でした。さすが医科大だなぁと妙なところで感心しました。

  
左がパンフレット。右はチケット。今回の記念の缶バッチを売っていたので購入。「福井といえば恐竜」ということで,恐竜がデザインされたものを購入しました(「金沢」と書かれたものとどちらにするか迷ったのですが)。

PS. 指揮の松井慶太さんがOEKを指揮する演奏会のチラシも置いてありました。
 
10月5日に小矢部市で行われる第9公演です。ソプラノに金沢出身のソプラノ,竹多倫子さんが出演するのも注目ですね。

(2014/8/14)