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音楽堂室内楽シリーズ2014第2回:IMA講師&OEKチェンバーコンサート
2014年8月21日(木) 19:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール

1)プロコフィエフ/2つのヴァイオリンのためのソナタ ハ長調
2)モーツァルト/弦楽五重奏曲第3番ハ長調 K.515
3)ショーソン/ヴァイオリン,ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲 ニ長調,op.21
4)(アンコール)ショーソン/ヴァイオリン,ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲 ニ長調,op.21〜第2楽章
●演奏
クララ=ジュミ・カン*1-2,シン・ヒョンス*1,ミハエラ・マルティン*2,レジス・パスキエ*3-4,神谷美千子*3-4,ホァン・モンラ*3-4(ヴァイオリン)
丸山萌音揮*2,古宮山由里*2,石黒靖典*3-4(ヴィオラ),毛利伯郎*2,大澤明*3-4(チェロ)
チュンモ・カン*3-4(ピアノ)


Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は現在夏休み中ですが,お盆が明けると,金沢市では,恒例のいしかわミュージックアカデミー(IMA)が始まります。その講師たちが登場する室内楽演奏会が,「音楽堂室内楽シリーズ」として行われたので聞いてきました。今年の夏は,家にこもって夏の甲子園のテレビ中継を見ながら,応援の吹奏楽の演奏ばかりを聞いていたのですが,久しぶりに生で聞く弦の響きはどの曲も瑞々しく,しっかりと癒されました。



今回演奏された作品は,モーツァルトの弦楽五重奏曲第3番以外の2曲は,CDの数もあまり多くない珍しい作品でしたが,さすが「講習会の先生」の演奏ということで,どれも聞きごたえがありました。特にショーソンのヴァイオリン,ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲は隠れた名曲だと思いました。

最初に演奏されたプロコフィエフの2つのヴァイオリンのためのソナタは,シン・ヒョンスさんとクララ=ジュミ・カンさんの二重奏でした。ピアノ伴奏なしのヴァイオリン2本だけの曲というのは意外に珍しいと思います。このお二人はIMAの受講生だったのですが,今年は講師として参加しています。IMAも第2世代の講師が増えてきているのは嬉しいことです。

プロコフィエフのこの作品は,緩-急-緩-急という感じの4つの楽章からなる,どちらかというと渋い作品です。シンさんが第1ヴァイオリン,カンさんが第2ヴァイオリンでしたが,第1ヴァイオリン中心という感じではなく,2つの線が色々な形で絡み合うのが聞きどころという作品でした。

まず,第1楽章冒頭のクールで精緻な感触が見事でした。その後の2人の掛け合い,音のハモリ方も見事でした。大きな盛り上がりのある作品ではなかったのですが,この2人による精妙かつ雄弁な演奏で聞くと,大変魅力的に感じられました。クールな気分が段々と解きほぐされてくるような絶妙のドラマを感じました。

このお2人は,プログラムの写真の雰囲気とはちょっと違っていたのですが(特にシン・ヒョンスさんは髪がかなり長くなっていました),K-POPスターのようなファッショナブルな華やかさもあり,受講生とは一味違うオーラを感じさせてくれました。しっとりした雰囲気のシンさん,しっかりと支える感じのカンさんの組み合わせは,よいデュオだと思いました。

モーツァルトの弦楽五重奏曲第3番ハ長調は,このジャンルの名曲として知られている作品です。OEKのヴィオラ奏者2名を加えての演奏でしたが,アンサンブルの中心は,扇の要のような位置に居たチェロの毛利伯郎さんだったように感じました。ちなみに次のような配置でした。

      毛利(Vc)
  カン(Vn)    古宮山(Va)
マルティン(Vn)    丸山(Va)

この毛利さんを中心に,大変スケールの大きな室内楽を聞かせてくれました。まず楽器間のバランスが素晴らしく,全体として落ち着いた気分がありました。第1楽章冒頭の毛利さんのチェロの悠然とした気品のある音から始まり,第1ヴァイオリンのミハエラ・マルティンさんがしっとりとした品の良さのある素晴らしい歌を聞かせてくれました。

この曲については,メヌエットが第2楽章に来る版と第3楽章に来る版とがあるようですが,この日は第2楽章がメヌエットでした。メヌエットといっても晩年の作品らしく,どこか内省的で落ち着いた気分がありました。第3楽章でも懐の深さを感じさせる音楽をじっくりと堪能させてくれました。第4楽章では,第3楽章までの落ち着いた気分とコントラストを成す,晴れやかで開放的な音楽を聞かせてくれました。

全曲を通じて,第1ヴァイオリンのミハエラ・マルティンさんの気品と熱気を持った音が特に印象的で,落ち着いた雰囲気の中で時折,鮮やかに花が咲くような華やかさを感じました。この曲は,金沢だとなかなか実演で聞く機会はない曲ですが,この曲がこんなに聞きごたえのある作品だとは思いませんでした。30分以上かかる大曲を存分に堪能することができました。

後半は,レジス・パスキエさんのヴァイオリンとチュンモ・カンさんのピアノを中心として,ショーソンのヴァイオリン,ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲が演奏されました。協奏曲と言ってもオーケストラが登場するわけではなく,弦楽四重奏がオーケストラの代わりになります。

CD,実演を通じて初めて聞く作品でしたが,大変親しみやすく,変化に富んだ曲で,全く飽きずに楽しむことができました。編成的には室内楽なのですが,聞こえてくる音楽は「確かに協奏曲」でした。フランス音楽らしく,響き全体として透明感と輝きがあり,オーケストラを聞いたような豪華な後味が残りました。

何よりもレジス・パスキエさんの存在感が圧倒的でした。ステージの真中に立って,ソリストとして熱いパッションの籠った音楽を聞かせてくれました。パスキエさんは,曲全体の指揮もしている感じで,この曲に対する思いの強さを感じました。

     カン(Pf)
  神谷(Vn) パスキエ(Vn) 石黒(Va)
モンラ(Vn)          大澤(Vc)

第1楽章はチュンモ・カンさんの力のある引き締まった音で始まりました。カンさんは,IMAの講師の常連ですが,毎回鮮やかな演奏を聞かせてくれます。ピアノの硬質な響きは,曲の質感に変化をつけ,いかにもフランス音楽らしい明晰でクリアな気分を作っていました。

曲全体としてもサン=サーンスの曲を思わせるような,深刻になり過ぎない分かりやすさが魅力だと思いました。パスキエさんのヴァイオリンは,精密さよりは押しの強さを感じさせてくれるようなところがあり,まさに主役という感じでした。

第2楽章のシチリアーノは,軽く流れるというよりは,どこか厚く重い感じがありました。ただし,重苦しくはなく,昔を回顧するようなロマンとどこか粋な気分が流れていました。第3楽章は,「グラーヴェ」という指定どおり,重さを持った楽章でした。特にパスキエさんのヴァイオリンの”重さ”は聞きごたえ十分でした。聞いていて,何となくピアソラの曲をヴァイオリンで聞いているような気分になってきました。

第4楽章は大変輝かしい演奏でした。特に全楽器が一体になった時の輝きが大変魅力的で,フランス的だなと感じでした。室内楽でありながら豪華。レトロな感じもするけれども新鮮という,大変魅力的な作品でした。

この曲は,きっとパスキエさんのお得意の作品だと思います。今回,初めてこの曲の魅力に触れることができたので,今後,是非OEKの室内楽シリーズなどで違ったアーティストでも聞いてみたい作品だと思いました。

演奏後は拍手が鳴りやみませんでした。この日は邦楽ホールの1階席しか使っておらず,必ずしも大勢のお客さんが入っていたわけではないのですが,とても熱心な聞き手が多かったと思います。

アンコールは想定していなかったようでしたが,この拍手に応え,この曲の第2楽章のシチリアーノが再度演奏されました。この揺れのあるメロディは本当に魅力的ですね。本割の時よりはさらに気持ちよく揺れており,その気分に浸ったまま帰宅しました。

IMA関連の演奏会では,8月22日のライジングスターコンサート,8月26日の環日本海交流コンサートと今度は若手奏者中心の演奏会が続きます。こちらも楽しんできたいと思います。


アカデミーの講習の看板。右側は講習会の会場となっている交流ホール

(2014/08/26)