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IMAライジングスターコンサート2014
2014年8月22日(金)18:00〜 石川県立音楽堂交流ホール 

1)ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第6番イ長調 op.30〜第2,3楽章
2)ハイドン/ピアノ・ソナタ第59番変ホ長調 Hob.XVI:49〜第1楽章
3)シューマン/幻想小曲集 op.12〜第2番 飛翔
4)サン=サーンス/ハバネラ op.83
5)ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第12番へ長調「アメリカ」op.96 B.179〜第1,4楽章
6)ミルシテイン/パガニーニアーナ
7)ブラームス/チェロ・ソナタ第2番へ長調 op.99〜第1,4楽章
8)サン=サーンス/序奏とロンド・カプリチオーソ イ短調 op.28
9)モーツァルト/ピアノ三重奏曲第5番ハ長調 K.548
●演奏
辻彩奈(ヴァイオリン*1),吉原佳奈(ピアノ*2-3),ミンギョン・キム(ヴァイオリン*4),今岡秀輝,久留早百合(ヴァイオリン*5),松山京加(ヴィオラ*5),山崎太陽(チェロ*5),周防亮介(ヴァイオリン*6),上野通明(チェロ*7),ジヨン・イム(ヴァイオリン*8),毛利文香(ヴァイオリン*9),増山頌子(チェロ*9),佐原光(ピアノ*9)

ピアノ伴奏:鈴木深喜*1,7,ヤンヒー・リー*4,8


Review by 管理人hs  

いしかわミュージックアカデミー(IAM)の恒例の演奏会となっているライジングスターコンサートを聞いてきました。数年前までは,かなり長いコンサートだったのですが,ここ数年は,2時間強の長さに圧縮しているようです。大勢の若手の演奏を聞けるのも良いのですが,じっくり集中して聞くにはこれぐらいの長さの方がちょうど良いかもしれませんね。

 

登場したのは若手のヴァイオリン,チェロ,ピアノ奏者と受講生による弦楽四重奏,ピアノ三重奏でした。会場の交流ホールは奏者を間近に感じることができるので,気力十分の若手奏者たちの演奏をじっくり楽しむことができました。

今回は8人・グループ,9曲が演奏されました。技術的な面については,私が書くまでもなく見事な演奏ばかりでした。奇をてらったような演奏もなかったのですが,その印象がそれぞれに違うのが面白いところです。普通に演奏しても,その表現意欲によって自然に個性が出るといえるのではないかと思います。

1.辻彩奈(ヴァイオリン)
しっかりと厚みのある音でじっくりとベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第6番の第2,第3楽章を聞かせてくれました。間近で聞くと迫力も曲の表情も豊かで,文句のない充実感を感じました。

2.吉原佳奈(ピアノ)
この方はまだ中学生なのですが,演奏は大変見事でハイドンのソナタを清潔に明快に聞かせてくれました。心地よいスピード感があり,聞いていて快適でした。シューマンの「飛翔」も鮮やかな演奏でしたが,やはりもう少し複雑な情感のようなものを感じさせてほしいと感じました。

3.ミンギョン・キム(ヴァイオリン)
老練といってよいほどの落ち着きと押し出しの強さのあるサン=サーンスのハバネラでした。音に艶と力感があり,全然力んでいないのに,しっかりと音が伝わってきてぐいぐいと迫ってきました。楽々と弾きすぎているのだけが問題点(?)かなと贅沢な感想を持ちました。

4.今岡秀輝,久留早百合(ヴァイオリン),松山京加(ヴィオラ),山崎太陽(チェロ)
よくまとまった演奏で,特に問題はないのですが,全体的に練られていないというか,雰囲気が堅い感じの演奏だと感じました。やはり室内楽については,熟練のようなものが必要なのかなと感じました。

5.周防亮介(ヴァイオリン)
髪の毛が長く,独特の雰囲気を持った方でした。演奏には全く迷いがなく,思い切りよくミルシテインの難曲を弾ききっていました。音に力があり,ダイナミックレンジがとても広いと思いました。

6.上野通明(チェロ)
ブラームスといえば「渋い」印象があるのですが,若々しい伸びやかさに満ちた大変聞き映えのする演奏でした。かなり体を動かしながら曲の流れに乗って演奏されていましたが,その輝きのある音は大変魅力的でした。

7.ジヨン・イム(ヴァイオリン)
丁寧さと強靭さが鮮やかに切り替わる序奏とロンド・カプリチオーソでした。曲自体,多彩な表情を持っているのですが,その魅力をしっかり伝えてくれました。全体がカチッとまとまっており,スタイリッシュなのも良いと思いました。

8.毛利文香(ヴァイオリン*9),増山頌子(チェロ*9),佐原光(ピアノ*9)
最後に演奏されたのは,モーツァルトのピアノ三重奏曲第5番でした。トリの演奏ということで,個人的には,この日いちばんの聞きごたえを感じました。全体に古典派の曲らしい端正さがあり,その中に瑞々しさが溢れていました。良い曲だなと思いました。他の曲に比べると地味目の曲でしたが,全く物足りないところはなく,丁寧に作られた工芸品のような品格の高いヴォリューム感を感じました。

8月26日には今回登場した周防亮介さん,ミンギョン・キムさんを含む若手アーティストに加え神尾真由子さんが登場し,今度はオーケストラと共演します。この日は平日なのですが,うまい具合に休めそうなので,こちらも聞きに行ってみたいと思います。

(2014/08/26)