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IMA環日本海交流コンサート:世界へ羽ばたく音楽家育成20周年記念事業
いしかわミュージックアカデミー(IMA)with 原田幸一郎&オーケストラ・アンサンブル金沢
2014年8月26日(火) 14:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)ラヴェル/ツィガーヌ
2)サン=サーンス/序奏とロンド・カプリッチョーソ イ短調 op.28
3)ショパン/アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ op.22
4)ショパン/「ドン・ジョヴァンニ」の「お手をどうぞ」による変奏曲 変ロ長調 op.2
5)ヴォーン・ウィリアムズ/ロマンス「揚げひばり」
6)サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン
●演奏
周防亮介*1,ミンギョン・キム*2,神尾真由子*5,6(ヴァイオリン)
須藤梨菜*3,竹田理琴乃*4(ピアノ)
原田幸一郎指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)


Review by 管理人hs  

いしかわミュージックアカデミー(IMA)も今年で20回目となります。それを記念して過去の受講生を含む若手奏者とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が共演する「IMA環日本海交流コンサート」が行われたので聞いてきました。

前半は,昨年IMA音楽賞を受賞した周防亮介さん,ミンギョン・キムさん,須藤梨菜さんの演奏,後半は金沢出身で昨年の日本音楽コンクールに3位入賞した竹田理琴乃さん,そして,最後に,IMA出身者で,昨年まで講師としても参加していた日本を代表するヴァイオリン奏者の一人,神尾真由子さんが登場しました。

演奏された曲は,ツィガーヌ,序奏とロンドカプリツィオーソ,ツィゴイネルワイゼン...など,ゆっくりした序奏の後に華麗に盛り上がる曲が次々と演奏され,若手奏者たちによる華麗なガラ・コンサートとなりました。

昨年のIMA音楽賞受賞者では,先日のライジングスター・コンサートで聞いたばかりの,ミンギョン・キムさんの,序奏とロンドカプリツィオーソが特に素晴らしいと思いました。軽々と演奏しているのにたっぷりと響く艶のある音,鮮やかな盛り上げ方。後半での軽々と聞かせる冴えた技巧の数々...余裕があり過ぎる点が,表現としてはやや物足りないかなと思わせるほどの,新人らしからぬ安定度抜群の演奏でした。

最初に演奏された周防亮介さんのツィガーヌも新人らしからぬ素晴らしい演奏でした。この曲特有の強弱自在のラプソディックな雰囲気を十分に伝えてくれました。が,キムさんの方が聞かせ方の点では一枚上手という気がしました。周防さんは,肩に届くような長髪がトレードマークで独特の雰囲気を持っています。そういったミステリアスな気分のある曲などを弾くとぴったりなのではないかと思います。

前半最後は,須藤梨菜さんのピアノで,アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズが演奏されました。まず,曲の前半の透明感あふれる美音が大変印象的でした。ショパンだなぁと思わせる快適さでした。ホルンの信号音の後の後半では,どっしりとした安定感のある構えの大きな演奏を聞かせてくれました。この対比が鮮やかでした。最後の方はちょっとオーケストラと合わせにくそうな感じもありましたが,「これでもか,これでもか」というきらびやかさのある演奏を聞かせてくれました。

後半最初は,金沢ではすっかりおなじみとなった竹田理琴乃さんが登場しました。須藤さんと同じくショパン作曲のオーケストラ伴奏付きの作品,「「ドン・ジョヴァンニ」の「お手をどうぞ」による変奏曲」が演奏されました。竹田さんの演奏は,いつもとても軽やかな音の動きと,十分に思いの籠った安定感の歌わせ方が素晴らしいですね。今回の演奏も同様で,特に装飾的な音が華麗でした。ただし,やはり曲の格からすると,須藤さんの演奏した「アンダンテスピアナート...」の方がやはりゴージャス感があるかなと感じました。

演奏会の最後には,この日の真打ちと言っても良い神尾真由子さんが登場しました。まず演奏された, ヴォーン・ウィリアムズの「揚げひばり」がお見事でした。この曲を実演で聞くのは,「もしかしたら初めて?」でしたが,「絶品!」でした。念入りに抑制された息の長い弱音が本当に素晴らしく,OEKの作り出す景色を背景にして,集中力に溢れる音の風景画を楽しませてくれました。

弱音で駆け上がっていくような「ひばり」のメロディには,ちょっと和風の音の気分があり,親しみやすさを感じました(「男はつらいよ」のテーマ曲のイントロの逆行形のような感じ?)。神尾さんの演奏するフレーズには,上質な布のような滑らかさと温かみがありました。

OEKの演奏は,良い意味で,「背景」となっていました。前半の霞んだような雰囲気は,まさに風景のようでした。中間部ではもう少し活発な動きが出てきて,人の生活を感じさせてくれるような気分になります。全体的には穏やかだけれども,意外にソリスティックな部分が多く,十分な聞きごたえがありました。「揚げひばり」を聞いて鳥肌が立つ。そんな演奏でした。11月のOEKの定期公演Mでは,ネヴィル・マリナーさん指揮,アビゲイル・ヤングさんの独奏でこの曲が演奏されます。そちらの方も大変楽しみになりました。

最後に演奏されたツィゴイネルワイゼンでは,音量が一気に増し,脂の乗り切った音を聞かせてくれました。中間部でのしっとりとした部分で濃厚なヴィブラートを聞かせた後,再度は超高速で弾き切っていました。最後の部分は,神尾さんがどんどん走りたそうな感じで,ちょっと待てという感じのOEKとの駆け引きがなかなかスリリングでした。

両曲の演奏を聞きながら感じたのは,神尾さんが抒情的な部分で聞かせるヴィブラートには独特の雰囲気があるということです。心に迫る濃厚な歌があるけれども,品良くしっかりコントロールされています。最近ついつい何でもダジャレ的に考えてしまうのですが...スーパーカミオカンデ(岐阜県にあるニュートリノ検出装置)と掛けて,”スーパー・カミオ・カンタービレ”と名付けたいと思います。

IMAについては,ラ・フォル・ジュルネ金沢ほどには,石川県民に知られてはいないのですが,20年に渡って継続的に実施し,成果を上げていることはもう少しアピールしても良いと思います。今回は,夏休みの平日の午後に行われたこともあり,親子連れのお客さんが多かったのですが,その意味で,もう少し大人が出かけやすい時間帯にしてもらった方が良かったかなとも思いました。と書きつつ,今回はうまく休みが取れました。のんびりと夏休みの午後を過ごすのも良いものです。どちらも一長一短といったところでしょうか。

PS.このコンサートに併せて今年のIMA音楽賞を発表しても良いのではないかと思いました。IMA音楽賞の”副賞”として,「OEKと共演する栄誉が与えられる」というのも「あり」だと思います。

(2014/09/04)






公演の看板



この日の午前中,IMA音楽賞の授賞式が行われていたようです。



演奏前のステージ。IMAの写真などがスライドで流されていました。