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サイトウ・キネン・フェスティバル松本2014スクリーン・コンサート
2014年9月2日(火) 19:00〜 キッセイ文化ホール(松本市)からの中継を金沢市文化ホールで視聴

1)モーツァルト/セレナード第10番変ロ長調 K.361(370a)
2)ベルリオーズ/幻想交響曲 op.14
●演奏
サイトウ・キネン・オーケストラのメンバー*1
小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ


Review by 管理人hs  

ここ数年,この時期,金沢市でも恒例になっているサイトウ・キネン・フェスティバル2014のスクリーンコンサートを金沢市文化ホールで聞いてきました。過去2回参加した際には,小澤征爾さん以外の指揮で聞いたので,小澤さんの指揮でスクリーンコンサートを聞くのは今回が初めてです。

 
かなり前に到着したのでまだお客さんは少ないのですが,こんな感じでした。

ただし,プログラムの方は,小澤さんの体調を考慮してか前半は指揮者なしによるモーツァルトのグランパルティータでした。名人揃いのサイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)の木管楽器メンバーによる演奏ということで,じっくりと練りあげられたられた素晴らしいアンサンブルを聞かせてくれました。ただし,さすがに50分以上かかるこの曲を実演ではなくビデオ映像で楽しむというのは難しいところがあります。この際,目を閉じて,気持ちよい響きに浸ることにしました。最終楽章で,音が鮮やかに立ち上がるように響いていたのが大変印象的でした。

後半が小澤征爾さん指揮による幻想交響曲でした。この曲は,小澤さんがデビュー当時からもっとも得意にしている曲です。トロント交響楽団,ボストン交響楽団とのスタジオ録音に加え,SKOのライブ録音のCDもあるようです。

今回の演奏では,基本的に小澤さんはやや高めの椅子に座って指揮をしていましたが要所要所では立ち上がっていました。小澤さんがこの曲を指揮するのは久しぶりのことだと思いますが,その鬼気迫る気迫で,強者揃いのオーケストラをしっかりとまとめていました。

小澤さんの作る音楽は,基本的には,よく整理された整った丁寧な音楽なのですが,ライブになると随所に熱さがにじみ出ます。テンポは,若い時の演奏に比べると遅めで,味付けも淡白な感じでしたが,その分,ヴィルトーゾ・オーケストラの各メンバーが小澤さんを盛り立ててやろうという気分が素晴らしく,最終楽章などは厚みのある響きを楽しませてくれました。

第1楽章から自然なスケール感を感じさせてくれました。オーケストラが自発的に滑らかに動く様は生き物のようで,どの部分も有機的でした。第2楽章はハープが活躍します。今回は吉野直子さんが参加されていました。この楽章も以前に比べるとゆっくり目のテンポで,どこか回顧的な気分がありました。

第3楽章は特に印象的でした。冒頭のイングリッシュホルンの音をはじめとして,楽章全体から,孤独感だけではない不思議な温かみを感じました。確かに寂しい野の風景なのですが,遠くではしっかりと仲間が支えている。そんな感触がありました。しっかりと音が染み渡るような音楽を聞かせてくれました。

第4楽章と第5楽章は,オーケストラの圧倒的なパワーを感じました。力強さはあっても乱暴な感じにはならず,キリット締まったアンサンブルの良さが印象に残りました。

第5楽章前半では,フルートやクラリネットをはじめ木管楽器の生き生きとした演奏が印象的でした。木管楽器は外国人奏者が多かったのですが,特にクラリネットのリカルド・モラレスさんの見事にコントロールされた音が魅力的でした。この楽章の最初の方,フルートのジャック・ズーンさんは,通常のフルートではなく「伸び縮みする横笛」を使ってユーモラスな音を出していたのも独特でした。こういうのは初めてみましたが,これはズーンさんのアイデアでしょうか?悪魔が登場して,嘲笑っているようなヒネリの効いたユーモアを感じました。そして,最後の部分は,小澤さんを盛り立てるような,晴れやかな熱気の中で締められました。

このスクリーンコンサートですが,参加しているメンバーがアップになるのが,やはり面白いですね。SKOは相変わらずの豪華なメンバーでした。コンサートマスターは新日本フィルなどでコンサートマスターをされている豊嶋さんでした(それにしてもこの方は沢山のオーケストラのコンサートマスターをされていますねぇ)。その隣に座っていたのが東京都交響楽団の矢部達哉さん,その後が読売日本交響楽団の小森谷さん...と東京の主要オーケストラのコンサートマスターが勢ぞろいしている感じでした。

というようなわけで,前半のグランパルティータでは目を閉じて,後半の幻想交響曲では次々に切り替わる各奏者のアップを見ながら楽しみました。が...やはりハイビジョン映像+5.1サラウンドとはいえ,生の音とは全く違います。そして何よりも,拍手をしても奏者に届かない...というのがかなり空しいですね。

演奏後,かなり長く拍手が続き,最終的には小澤さんのために「ハッピー・バースデイ・トゥ・ユー」が歌われたようですが,終演時間がかなり遅くなったこともあり,最後まで残らずに帰宅しました。

コンサートの開始前,長野県の方が「新幹線ができたら,是非松本にお越しください」といった観光PRをされていましたが,是非,一度松本に行って,その場で拍手をしてきたいものだと思いました。

(2014/09/09)






iイベントの看板


全国のテレビ朝日系の放送局が協力していたようです。


終演後,ホールの近所にある尾山神社を眺めながら帰宅。