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お月見の夕べコンサート:金沢ナイトミュージアム2014
2014年9月8日(月)20:15〜 金沢湯涌江戸村

1)グバイドゥーリナ/深き淵より
2)リュエフ/無伴奏サクソフォーン・ソロのためのソナタ〜第2楽章
3)滝廉太郎(筒井裕朗編曲)/荒城の月
4)ピアソラ/タンゴの歴史〜III.ナイトクラブ1960
5)宮沢賢治(林光編曲)/星めぐりの歌
6)モンティ/チャルダッシュ
7)(アンコール)佐々木すぐる/月の沙漠
8)(アンコール)大友良英(筒井裕朗編曲)/ドラマ「あまちゃん」〜テーマ音楽
●演奏
松原智美(アコーディオン*1,4-8),筒井裕朗(サクソフォン*2-8)


Review by 管理人hs  

9月8日は中秋の名月。毎年,この日に金沢市の山間部にある湯涌温泉では「お月見の夕べコンサート」が行われています。今年は「金沢ナイトミュージアム」の一環として行われました。実は当日の昼頃までは行く予定ではなかったのですが,開始時刻が夜の20:15で,月見に最高の天候ということで,夕食を食べた後,車で出かけてきました。金沢市の場合,山の方に向かって車で20〜30分ほど走ると結構,山奥のような景観になります。このコンパクトさが暮らしやすさにつながっていると思います。

この日は,湯涌温泉の中の金沢湯涌江戸村の中の藁葺民家の中でサクソフォンとアコーディオンによる演奏が行われました。登場したのは,金沢ではすっかりおなじみのサクソフォン奏者,筒井裕朗さんのと大阪から来られたアコーディオン奏者の松原智美さんでした。

 
この民家の中で聞きました。戸は開放したままでした。

どちらの楽器も純粋なクラシック音楽専用というよりは,どの分野でも対応可能な幅の広さを持っていますので,この日も,特殊奏法満載のグバイドゥーリナのような現代音楽から,月夜にぴったりの「荒城の月」「星めぐりの歌」,見せ場満載のモンティのチャールダッシュと,45分ほどの中で多彩なプログラムを聞かせてくれました。

最初にまずアコーディオンの松原さんが登場し,グバイドゥーリナの「深き淵より」という作品が演奏されました。会場の和室自体かなり照明を落としており(演奏会というよりは,稲川淳二さんが出てきそうな具合でした),暗闇の中から低音でブツブツブツブツとつぶやくような奏法で曲は始まりました。どうやって演奏していたのかよく分からなかったのですが,ちょっと「熊蜂の飛行」といった趣きもありました。それが突然,高音の動きに移るなど,「深いところ」と「高いところ」を対比的に描いているようでした。

曲の途中からは,松原さんが「聖書を題材にした作品です」と説明されていたとおり,宗教的な気分になり,神に祈るような気分になりました。間近で聞く演奏だと,難解なイメージのある現代音楽についても集中して味わうことができると実感しました。

演奏後,楽器紹介がありました。松原さんの使っていた楽器は,小学校の音楽室に置いてあるようなピアノのような白黒の鍵盤があるタイプではなく,その代わりにバンドネオンのようにボタンのようなものが沢山ついているタイプでした。左手側にも伴奏用のボタンがあり,一つのボタンを押すと複数の音を出せるのですが,切り替えボタンを押すと,左手側も単音を出せるようになるそうです。

# 実は,私にとってアコーディオンと言えば,かつて土曜の夜「8時だヨ!全員集合」の前の7:30から放送していた「お笑い頭の体操」での横森良造さんのイメージです。一見チープな感じはするけど,実はすごいという楽器ですね。

その他,「色々特殊奏法ができます」ということで,その代表例としてベロシェイク奏法(これで最初のブツブツを演奏していたのかも)を紹介していただきました。

続いて,サクソフォンの筒井さんが登場しました。リュエフという作曲者名は初めて聞きましたが,筒井さんが好きな作品だそうです。秋の夜にふさわしい,「寂しい気分」をしっかりと伝えてくれるような演奏でした。演奏後の解説の中で,筒井さんは「ジャズ演奏のサクソフォンは「爆音」のような大きな音を使うが,クラシックの曲の場合はもう少し音を抑制して使う」といったことを語っていたのが面白いと思いました。

サクソフォンは,発明された意図として,野外でも大きな音を出せる「ラッパ的な木管楽器」というコンセプトで作られたものだそうです(その音量の秘密について,「流体インピーダンスが何とか...」という素晴らしい説明をされていました。)。それを室内で使うところに,クラシックの楽器としても面白さがあるのだと思います。

続いて「月」つながりで「荒城の月」が演奏されました。これは筒井さんによる編曲で,実際には「「荒城の月」の主題による変奏曲」となっていました。こうやって聞くとアルト・サクソフォンの音は人間の声に似ているなと感じました。後半の変奏も鮮やかでした。個人的には,ジャズの大半は「〜の主題による即興的変奏曲」だと思っているので,聞きながら,「ちょっとジャズに通じる部分もあるかも」と思いました。

後半は二人の重奏で,もう少し気楽に聞ける曲が演奏されました。ピアソラの「タンゴの歴史」は,もともとはギターとフルートのために書かれた曲で,軽快なラテン音楽的なところがありますが,サクソフォンとアコーディオンによる演奏だともっと濃厚で艶やかな感じになると思いました。

ちなみにピアソラといえばバンドネオンですが,素人の耳的には,アコーディオンは十分その代役になると思いました。どちらの楽器もあまり聞いたことはないので,印象で書いているのですが,バンドネオンの方がもう少し鋭く切り込む尖鋭な感じがあるのかもしれません。

続いて「月」つながりで「星」の曲が演奏されました。宮沢賢治の「星めぐりの歌」は,昨年のNHK連続ドラマ「あまちゃん」の中でも効果的に使われていました。そのこともあり,懐かしい気分になりました。

最後に「月」「星」から離れ,明るく楽しくモンティのチャールダッシュで締められました。前奏の部分でアコーディオンの音を聞いた時,ケンブリッジ・バスカーズの演奏を思い出しました。リコーダーとアコーディオンで何でも演奏する大道芸風グループで,個人的に大好きだったのですが,そういえば彼らもこの曲を演奏していたな,と思い出しました。

この日の演奏もメリハリが聞いていて楽しめました。特に筒井さんのサクソフォンで弦楽器のフラジオレットのような超高音を出していたのが凄いと思いました。

アンコールでは,再度「月」つながりで,「月の沙漠」が,ゆっくりしみじみと演奏されました。私の周りに座っていたお年寄りたちは(この日の雰囲気ですが,「村の人たちが長老の家に集まってきて,車座になって座る」といった感じでした),「つきの〜さばくを〜」と軽く口ずさんでいました。実にナイスな選曲だったと思います。

 

アンコール2曲目は,「ちょうど1年前,この月を見ながら「あまちゃん」を見ていたなぁ」...というつながりではないと思いますが,「あまちゃん」のテーマが演奏されました。1年前は最終回に向けて気分が高まっていたことを懐かしく思い出しました。

この日演奏された版は,原曲のイメージを「最小限の編成で最大限に表現する」といった,筒井さんによるスペシャル編曲バージョン(多分)でした。この曲のオリジナル編成には確かアコーディオンも入っていたので,その音が聞こえてくるだけで原曲のイメージどおりと感じました。この2つの楽器の組み合わせによる編曲は,作曲者の大友良英さんも納得するのではないかと思います。

途中,ちんどん屋風に色々な効果音を入れたり,曲の後半で,サクソフォンが激しく唸ったり(これまた古くて恐縮すが...そういえばチェッカーズにもサクソフォンが入っていて,唸っていたなぁ,といったことを思い出しました),短時間に見せ場が詰め込まれた楽しい演奏でした。

この品の演奏は,奏者の息の音やキーの音がパタパタと聞こえるような間近で楽しむことができました。

 非常に近くで演奏していました。このまま怪談でも行けそう?

外には満月ということで,週の初めから(月にちなんでか月曜日でした),金沢ならではの贅沢な時間を過ごすことができました。「お月見@湯涌」はこれからもチェックしておきたいと思います。

PS. この日は「月が主役」ということで,何回か撮影に挑戦したのですが,私のカメラではうまく写りませんでした。以下試行錯誤の状況です。
 

 

最後の「カカシ+民家+月」はなかなか面白い写真になりました。

(2014/09/15)






金沢ナイトミュージアム全体の電子看板が民家の前に出ていました


民家の前にあった灯り


何かと蚊が話題になっている時期ですので,虫よけスプレーが沢山用意されていました。


靴を脱いで民家へ


金沢21世紀美術館発の送迎バスも出ていました。


私は車で来ました。湯涌みどりの里が駐車場になっていました。


黄色がこの日のプログラム,右下がナイトミュージアム全体のプログラム。左側は湯涌を舞台としたアニメ「花咲くいろは」の音楽などを演奏するOEKの演奏会のチラシです。


その他,9月中に色々イベントを行っているようです。