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オーケストラ・アンサンブル金沢第354回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
2014年9月10日(水)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)フォーレ/「ペレアスとメリザンド」組曲
2)ラヴェル/ピアノ協奏曲ト長調
3)(アンコール)ラヴェル/水の戯れ
4)(アンコール)ラヴェル/ソナチネ〜
5)ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
6)ビゼー/交響曲ハ長調
7)(アンコール)フォーレ/「ペレアスとメリザンド」組曲〜シシリエンヌ
●演奏
パスカル・ロフェ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)*1,2,5-7
辻井伸行(ピアノ*2-4)

Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2014/15新シーズン最初の定期公演フィルハーモニー・シリーズを聞いてきました。当初の予定ではマルク・ミンコフスキさんの指揮の予定でしたが,急病によりパスカル・ロフェさんに変更になりました。実はマルク・ミンコフスキさんは,今回の公演からOEKのプリンシパル・ゲストコンダクターに就任することが決まっており,おそらく,今回はその「お披露目」をする「サプライズ公演」になるはずでした。ファンだけではなく,主催者側としても大変残念だったと思いますが,それを補うように人気ピアニストの辻井伸行さんが登場しましたので,会場はほぼ満席でした。

最初に演奏されたフォーレの「ペレアスとメリザンド」組曲は,気持ちよく流れるように演奏されました。ロフェさんの指揮ぶりは,かなりエネルギッシュで,音楽全体の推進力を生んでいました。第1曲での遠くから聞こえるようなホルンの信号音,第2曲でのオーボエ,第3曲シシリエンヌでのフルートなど透明感のある弦楽器に管楽器が彩を加えていました。この中では,有名な第3曲シチリアーノでの工藤重典さんの輝きのある音色が特に印象的でした。

第4曲「メリザンドの死」は葬送のための音楽で,じっくりと演奏されたのですが,それほど暗くなり過ぎないのがOEKらしいところかもしれません。

続いて,辻井伸行さんとの共演でラヴェルのピアノ協奏曲が演奏されました。辻井さんがこの曲を演奏するのは今回が初めてとのことでしたが,どんなパッセージでも平然と美しい音で,そして全く熱くならずに演奏する感じが曲想にあっていると思いました。

第1楽章はバチっというムチの音で始まります。まず,これが本当にピタリと音が合っていたのが素晴らしいと思いました。サラリとやっていましたが,プロの奏者たちによる名人芸という気がしました。ロフェさんの設定した速度は非常に速く,さすがのOEKも演奏するのが大変そうでしたが,その「アタフタ感」がまたこの曲らしいところでもあります。その分,ゆったりと演奏された第2主題とのコントラストがしっかり付けられていました。

個人的には,楽章の途中,ハープの音に続いてホルンが高音が出てくる部分が大好きです。この日の演奏も,曲全体に魔法が掛けられたような気分がよく出ていました。辻井さんのピアノは,この速さに動じず,サラリと演奏していたのがお見事でした。軽やかさと同時に安定感のある演奏でした。

第2楽章の前半は,「ほぼピアノ独奏」ということで辻井さんのピアノの良さがストレートに伝わってきました。「子供のような純粋さ」でシンプルな音楽をしっかり聞かせてくれました。辻井さんの演奏には,ほのかな温かみがあり,いつまでも浸っていたいような安心感のある世界を作っていました。

楽章の途中からはピアノにしっかり寄り添うようにイングリッシュ・ホルンが息の長いメロディを演奏します。この部分の水谷さんの演奏は,親(?)のような視点から暖かく辻井さんを見守っているようでした。その他,第1曲のフォーレ同様,ここでも工藤重典さんのフルートの音が鮮やかに浮き上がっているのが印象的でした。

第3楽章は,第1楽章同様に速いテンポで演奏されました。この楽章でも辻井さんのピアノの指の動きが素晴らしく,焦った感じがないのが凄いと思いました。ただし,この楽章については,もっとアタフタした感じの演奏の方が曲想にはふさわしいかもしれません。

一方,OEKの方は,音が抜けていたり,乱れていたり...という箇所がいくつかあり,その点で,おもちゃ箱をひっくり返したような曲想そのまんまの演奏になっていました。パーフェクトな演奏ではありませんでしたが,ロフェさんの作る勢いの良さが不思議な魅力となっているような演奏だったと思います。

アンコールでは,辻井さんの独奏で,ラヴェルのピアノ曲が2曲演奏されました。今回の辻井さんとOEKによる東京オーチャード・ホールでの公演は,「辻井伸行 ラヴェルを弾く!」というタイトルになっており,辻井さんの独奏曲が数曲入っています。ここで演奏された「水の戯れ」と「ソナチネ」の第3楽章はその「さわり」ということになります。

ここでも全く感情的にならず,ラヴェルのピアノ曲ならではの精緻な曲想を鮮やかに聞かせてくれました。「水の戯れ」は,じっくりとしたテンポでキラキラとした曲想をしっかり表現していました。「ソナチネ」の方も鮮やかだけれでも,熱くならないラヴェルらしさが出ていました。

ラヴェルのピアノ曲については,あまり熱くなりすぎると,聞いている方は逆に覚めてしまうところがあります。辻井さんの,熱くなり過ぎずに,平然と充実感を感じさせてくれるような演奏は,まさにラヴェル向きだと感じました。全体的にもう少し「アクの強さ」や「濃さ」がある方が面白味はあると思いますが,「もうすぐ26歳」(OEKと同じ年というのも何かの因縁ですね)の若手ピアニストとしての辻井さんの魅力をストレートに感じさせてくれる演奏だったと思います。

後半はラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」の管弦楽版で始まりました。冒頭部分のホルンの音がちょっと外れてしまったのが残念でしたが,軽やかに流れる弦楽の響きなど,涼しげなサラリとした感触のある演奏はOEKならではだと思いました。後半では,たっぷりと間を取った後,名残惜しさをさらりと感じさせてくれました。

最後に演奏されたビゼーの交響曲もOEKが得意としている曲です。第1楽章は,「ジャン!」と始まる衒いのない元気良さに加え,古典派の交響曲を聞くような,バランス良く引き締まった響きを聞かせてくれました。

第2楽章では,まず加納さんのオーボエがお見事でした。ボリューム感と伸びやかさのある演奏は,オペラのアリアを聞くようでしたが,他の楽器とのバランスの良さもあり,しっかり「第2楽章」になっていたのが流石だと思いました。

終演後「オーボエの息が長かったねぇ」「素晴らしかった」と語りあっている奥様方がいらっしゃいましたが,本当にそのとおりでした。

このオーボエに加え,熱さを感じさせるヴァイオリンのカンタービレ,それに続く,対位法的な音の動きをする部分の明晰さなど,聞きどころ満載の演奏でした。,

第3楽章もたっぷりと伸びやかに演奏されました。この楽章の中間部を聞くと,いつも風光明媚な土地をバス旅行している気分になります。この日のロフェさんの指揮ぶりも,そんなリラックスした感じがありました。

第4楽章は対照的に軽やかに駆け抜けていくような演奏を聞かせてくれました。サイモン・ブレンディスさんを中心とした第1ヴァイオリンの名人芸が素晴らしく,この楽章はこうでなくてはという爽快感を感じました。

アンコールでは,最初に演奏された「ペレアスとメリザンド」組曲の中の「シシリエンヌ」がもう一度演奏されました。工藤さんのフルートは,ニジイロのフルートという感じで(「花子とアン」の見過ぎ?),フランス料理のコースを鮮やかに締めてくれました。

ロフェさんは,今回急遽OEKを指揮することになったのですが,どの曲からも前向きな気分が強く感じられました。OEKから明るく健康的な響きを引き出していたと思います。特に最後のビゼーは,曲想にぴったりの見事な演奏だったと思います。

ロフェさんは,現在,フランス国立ロワール管弦楽団の音楽監督で,昨年のラ・フォル・ジュルネ金沢にも登場しました。今回の初共演をきっかけに,さらにOEKとのつながりが深まることを期待しています。例えば,LFJ本場のナントでのOEKの公演というのも期待したいものです。

(2014/09/18)






公演の立看板


指揮者の交替についての案内文



音楽堂に入る時,プレコンサートの様子が少し見えました。今回は,トロイ・グーキンズさん,ヴィルジル・ドゥミヤックさん,古宮山由里さん,ソンジュン・キムさんによる弦楽四重奏。フランスのポピュラーな音楽を演奏していたようです。


終演後,パスカル・ロフェさんのサイン会が行われました。このサインですが,...i一瞬で書きあがりました。