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石川フィルハーモニー交響楽団第29回定期演奏会
2014年9月15日(月祝) 14:00〜 金沢歌劇座

シベリウス/交響曲第6番ニ短調op.104
チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調op.74「悲愴」
●演奏
花本康二指揮石川フィルハーモニー交響楽団


Review by 管理人hs  

9月の3連休最終日の午後,石川フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会を聞いてきました。石川フィルの定期演奏会は,これまで春に行われていましたが,この時期に変更になったのでしょうか。今回は,シベリウスの交響曲第6番とチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」の「6番尽くし」というプログラムでした。

「悲愴」の方は,アマチュア,プロを問わずオーケストラのレパートリーの定番ですが,シベリウスの6番の方は,実演では滅多に演奏されない曲です(私自身,CDも一応持っているのですが,ほとんど聞いたことのない曲です)。今回はこの珍しい曲を取り上げた「心意気」に共感して聞きに行くことにしました。

前半まず,このシベリウスが演奏されました。シベリウスの6番はニ短調ということになっていますが,「レ」が基音となるドリア旋法ということで,短調とも長調とも言い難い独特の雰囲気があります。ちょっと不思議で宗教的な味わいのある,いわば「北欧風ドリア」(サイゼリアにありそう?やや意味不明...)といった感じでした。

このドリア旋法については,演奏会に先立って行われた,指揮者の花本さんによるプレトークで,トロンボーン3本の実演入りで分かりやすく説明していただきました。単純に言うと,レミファソ...レとピアノの白鍵だけを演奏する音階ということになります。それにしても,3人の奏者でニ長調,ニ短調,ドリア旋法を弾き分けるというのはとても面白いアイデアだと思いました。

曲自体さすがに地味目でしたが,ちょっと不思議な「北欧風ドリア」で始まる冒頭部から魅力的でした。要所要所で,シベリウスならではのちょっとクールで抒情的なフレーズがスッと駆け抜けていきます。特に第1楽章の途中,ハープに続いて,弦楽器と木管楽器に出てくる爽やかなメロディは,「ちょっとミュージカル風かも?」という感じで印象的でした。

第2楽章はフルート2本で始まり,全体的に丁寧な印象がありました。最後の方に出てくるクラリネットなどもドリア的でした。第3楽章はスケルツォなのですが,第2楽章の後半もかなりザワザワした感じだったので,やや楽章の区別がつきにくい印象がありました。こういったところが,この曲をとっつきにくくしている理由かなと思いました。

第4楽章も明るいのか暗いのか分からない,「北欧風ドリア」的な感じで始まります。個人的にはこの部分は,もっと鮮烈な感じで始まる印象があったので(カラヤン指揮ベルリン・フィルのCDで予習したこともあるのかもしれません),やや地味かなと思いました。途中,上向きの音型が何回も出てきますが,その繰り返しによって,がっちりとした印象を残すような演奏だったと思います。

後半の「悲愴」も,堂々たる演奏でした。過度に甘くなることなく,しっかりとオーケストラを鳴らし切る立派な演奏でした。

第1楽章の前半は「しっかりと合わせる」という感じがありましたが,展開部(例の急に音が爆発する場所)で引き締まった響きを聞かせてくれた後は,弦楽器の壮絶さのある響き,冴えた音でクライマックスをさらに盛り上げたトランペット...と音楽が盛り上がっていきました。その分,楽章の最後,じっくりとテンポを落とし,コラール風になる部分で,実にしみじみとした余韻を残していました。

第2楽章の「5拍子のワルツ」は,それほど速いテンポでありませんでしたが,ピンと張ったような勢いを感じました。中間部は柔らかく抑制されており,しっかりと対比されていました。この部分をはじめ,ティンパニは全曲を通じて安定感があり,とても良かったと思いました。

第3楽章は落ち着いたテンポで始まりました。楽章が進むにつれて,音の密度がどんどん高くなり,エネルギーがどんどん解放されていく感じが実に用意周到な感じでした。ここでも強靭な音を聞かせてくれたトランペットの演奏が特に印象的でした。ただし,この日,私の聞いた2階席前方だと,やけにトランペットの音が聞こえてきました。この辺は金沢歌劇座のホールの特性かもしれません。

←今回はこの辺で聞きました。開演前です。

第4楽章も堂々たる締めの楽章になっていました。悲しみに浸るのではなく,しっかり正攻法で悲しみを伝えるような演奏だったと思います。ただし,最後の最後,静かに銅鑼が鳴った後,トロンボーンが弔いのメロディを鳴らすあたりの気分は,個人的には,もう少しデリケートな感じが良いかなと思いました。

「悲愴」については,10月に石川県立音楽堂でワレリー・ゲルギエフ指揮でも演奏される予定です。図らずも聞き比べが楽しめそうです。

このところ,石川フィルの定期演奏会では,オーケストラ・アンサンブル金沢単独では演奏できないような曲や金沢で初めて演奏されるような曲(シベリウスの6番は,もしかしたら金沢初演?)が取り上げられることが多いようです。今後も石川フィルの定期公演には期待したいと思います。

(2014/09/23)





演奏会のポスター


開演を待つ列


団員宛のプレゼントも多数届いていたようです。


この日は,金沢ジャズストリートの最終日。演奏会後,タテマチ通りに行ってみたら,屋外で演奏中


こちらは香林坊アトリオ前

このところ,毎日違った表情を見せる秋の空。