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音楽堂室内楽シリーズ2014第3回:シモン&マインハルト・プリンツデュオ
2014年9月29日(月) 19:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1)ペンデレツキ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番
2)モーツァルト/ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ホ短調 K.304
3)ハイドン/ピアノ・ソナタ第49番 Hob.XVI:49
4)ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調 op.78
5)(アンコール)クライスラー/愛の悲しみ
6)(アンコール)ベートーヴェン/ロンド・ア・カプリッチョ ト長調 op.129
7)(アンコール)ドヴォルザーク/ユモレスク
●演奏
シモン・プリンツ(ヴァイオリン*1-2,4-5,7)
マインハルト・プリンツ(ピアノ)


Review by 管理人hs  

今年度3回目となる音楽堂室内楽シリーズを聞いてきました。今回は,過去金沢でも何回か公演を行いOEKとも共演したことのあるオーストリアのピアニスト,マインハルト・プリンツさんとその息子ヴァイオリニスト,シモンさんのデュオリサイタルでした。マインハルトさんは,オーストリア国立ウィーン・アカデミーで学び,後進の指導もされてきた方ということで,今回演奏される曲もウィーンの音楽が中心でした。

シモンさんはマンフレートさん同様,ウィーン国立音楽大学で学び,今年その大学院を卒業する予定です(プロフィールの記載ははっきりしないのですが,「卒業見込み」のような書き方になっていました)。すらりとした長身の若者で,クールな雰囲気が漂っていました。

シモンさんのヴァイオリンは,どの曲もクールというよりは,テンションが低い感じで,個人的にはもう少し情緒たっぷりに演奏してほしいかな,という部分がありました。特に後半に演奏されたブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番では,その点でちょっと物足りなさを感じました。もともとしっとりとした暗めの曲なので,曲想に合っているともいえるのですが,音楽が流れないので,どこかぎこちない感じがありました。本来,もっと哀愁と甘さの漂う曲だと思うのですが,どうも曲への共感が薄い印象を持ってしまいました。

前半に演奏された,モーツァルトの短調のヴァイオリン・ソナタK.304については,その独特の暗さが曲のムードに合っていると思いました。音がノン・ヴィブラート風で,ベトベトした感じがないので,虚無的な怪しさを感じさせてくれました。第2楽章の冒頭部分をはじめ,マンフレートさんのピアノの音がとてもクリアで,曲の美しさを際立たせていました。改めて,「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」だと思いました。

最初に演奏された,ペンデレツキのヴァイオリンとピアノのためのソナタは,急−緩−急の3つの楽章からなるコンパクトな作品でしたが,ところどころで前衛的な響きが出てきて,独特の緊張感がありました。ただし,こういった曲については,もう少し突き詰めた迫力がほしいと感じました。

前半の最後は,マンフレートさんのピアノ独奏でハイドンのピアノ・ソナタが演奏されました。マンフレートさんの演奏は,ヴィルトーゾ風の豪快さよりは,軽快さが持ち味だと思いました。第1楽章などは,拍手を受けて,椅子に座ると同時にサッと弾き始め,ちょっと気まぐれな疾走感を感じさせてくれました。第1楽章の途中,オヤっと思わせるぐらい大きく間を取る部分がありましたが,こういった部分もハイドン的でした。

全体として細部まで磨き上げられた演奏というよりは,親しみやすく小粋な感じの演奏だったと思います。その点で,第3楽章の軽快なメヌエットが特に魅力的だと感じました。

ちなみに...プログラムでのこの曲の英文表記ですが,Hob.XVI:36の曲想表示が間違って書かれていたようです(第2楽章がアレグロ・コン・ブリオとなっていましたが...まったく反対の曲想でした。in C-Sharp minorというのも間違いだと思います。)。

アンコールは,全体の演奏時間が短かったこともあり,花束贈呈に応えて,3曲も演奏されました。1曲目の「愛の悲しみ」は,やはりちょっと物足りなかったのですが,マンフレートさんの独奏による,ベートーヴェンのロンド・ア・カプリッチョは,おそらくマンフレートさんの得意曲なのではないかと思います。せわしなく速い動きが無窮動のように延々と続く大変楽しい演奏でした。

最後に演奏された,お馴染みのドヴォルザークのユーモレスクには,どこか気まぐれな感じがあり,曲のタイトルにぴったりの演奏だったのではないかと思います。

この日は月曜日だったのですが,非常にたくさんのお客さんが入っていました。金沢には,マンフレート・プリンツさんの知人が大勢いらっしゃるような感じで,どこかファンクラブ的な雰囲気のある演奏会でした。マンフレートさんは,日本語が大変お上手でしたが,その金沢での人気を実感させてくれるような演奏会でした。

(2014/10/11)






公演の立看板。


こちらは音楽堂の玄関に出ていたポスター