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バレエウィーク2014「シンデレラ」
2014年12月9日(火)19:00〜 金沢歌劇座

プロコフィエフ/バレエ「シンデレラ」(全幕)

●演奏
佐藤正浩指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
演出・振付:ステイン・セリス

バレエ:ドイツ・エッセン市立歌劇場バレエ(ユリア・ツォイ(シンデレラ),トーマス・オティッチ(王子),アルメン・ハコビヤン(継母),ワタル・シミズ,リアム・プレイヤー(2人の姉妹),アンナ・カム,ジナ(良い妖精,シンデレラの母),ダニス・アンティラ(シンデレラの父),ドミトリー・カムジン(伝令),Julia Schalitz, Elisa Franschetti, Yuki Kisimoto, Xiuan Bai, Alenka Gorelcikova, Carolina Boscan, Nwarin Gad, Yanelis Rodriguez


Review by 管理人hs  

先週,石川県立音楽堂で行われた「くるみ割り人形」公演に続き,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)とエッセン市立歌劇場バレエ団によるバレエウィーク第2弾,プロコフィエフのバレエ「シンデレラ」を観てきました。データがないので分かりませんが,この作品の全曲が金沢で上演されるのは非常に珍しいのではないかと思います。

こちらは,「くるみ割り人形」公演とは対照的に,本来の「シンデレラ」のストーリー展開や設定を大胆に変更しており,ダンスもセットもクールでコンテンポラリーな感じでした。ダンサーたちの動きは,伝統的なバレエの動作とは全然違い,腰を曲げた状態で足を高く上げて,ダイナミックに歩き回るような,一種異様な動きが中心でした。最初は戸惑ったのですが,その動きが,独特の文法に基づいているように一貫しているので,段々とこの異様な世界にはまっていくような面白さがありました。また,石川県立音楽堂よりはステージの広い,金沢歌劇座で行われただけあって,よりダイナミックなパフォーマンスを楽しむことができました。

音楽の方も,「くるみ割り人形」のファンタジー溢れる美しさとは違い,プロコフィエフの音楽には,どこか暗く,ひんやりとした感触があります。特に前半はとっつきにくい部分もありましたが,今回のかなりモダンな振付・演出には,むしろぴったりと思いました。

「シンデレラ」といえば,カボチャの馬車,舞踏会,王子と王女,門限12時,ディズニーランドにあるような城...といったイメージがありますが,今回の公演では,こういったものが全くありませんでした。前半は継母が来るまでの,親子3人の幸せだった過去と荒んだ感じの現在とを対比していました。

作品の導入部で,佐藤正浩指揮OEKによる,地の底から湧き上がってくるような不吉な気分の中,まず,シンデレラとその両親が登場しました。3人を額縁のように区切った枠の中に立たせ,一瞬暗転した後,次に父と娘だけが残っているという形で母の欠落感を強調していました。この部分は静止画像のようで,2枚のポートレートがさっと切り替わるような鮮やかさがあり,強いインパクトがありました。

前半のセットはシンプルなもので,黒い背景に歪んだ家具のようなセットが点在しているという形でした。見るからにバランスが悪く,不安な空気を伝えていました。最初の部分では,母の死後のシンデレラと父親のつながりの深さと同時に,継母とその子供2人の粗野で憎々しい感じが対比されていました。

継母組はいずれも男性が扮しており,常に3人セットでステージ上を動きまわっていたので,親子というよりは狂言回し3人組という感じでした。全幕を通じてこんな感じでしたので,運動量的には,この3人がいちばん多かったのではないかと思います。

前半の途中,レトロな感じの音楽(レス・バクスターという一時代前の作曲家による「ビコーズ・オブ・ユー」と「ポルトガルの春」という曲)がスピーカーから流れてくる部分があったり,どう解釈すればよいのか分からない部分もかなり沢山ありました。

このレトロな雰囲気は,ダンサーの衣装にも漂っていました。1950年代ぐらいのアメリカの雰囲気でしょうか?そんな雰囲気の女性が,「善い妖精」だったようです。途中,緑のカーペットが舞台前方に敷くシーンがあったり,緑の壁が出てきて,そこに鳥(アヒル?)をくっつけたり...なかなか難解でした。その他にも,シンデレラの父親がオレンジが出てきたり...すべてが何かを象徴しているようでした。

すべての意味を追う必要はないのかもしれませんが,こういった部分については,やはり,演出家の意図を知りたくなります。今回の公演前に,ロビーでプレトークを行っていたのですが(右の写真のような感じでやっていましたが,一部しか聞けませんでした),その中で語られていたのかもしれません。

ただし,照明や衣装による色彩感覚が面白く,意味は分からずとも,その変化を追うだけで,飽きずに楽しむことができました。前半,シンデレラは地味な水色の服で登場。途中で鮮やかな赤のドレスに変わり,後半王子と出会うのですが,その後,引き離され,最後に水色の衣装に戻って,王子と再会する...という感じです。その他,黄色い旗を持った人たちが出てきたり...謎でした。

第1幕は,赤いドレスを着たシンデレラがワルツに乗って一人で踊るシーンで終わりましたが,この雰囲気も鮮烈でした。

音楽的には,後半(この日は,前半が第1幕,後半は通常の第2幕と第3幕を連続して上演という形でした。数曲はカットしていたようです)の方が印象的でした。

# ちなみに,このワルツですが,ハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」のワルツ(というよりは浅田真央が使っていたという方が分かりやすいですね)とかなり似た感じがあります。

シンデレラと王子が出会う場面のワルツの美しさであるとか,二人が引き裂かれるときに流れる「真夜中の時計」の音楽の強烈さなどプロコフィエフならではでした。特に12時の鐘を描いた部分は,低音の金管楽器と打楽器の効果が鮮やかでした。ただし,今回の演出では「12時」ということにこだわっていなかったので,時計を描く意味合いが薄い気がしました。

第3幕の前では,同じプロコフィエフの「3つのオレンジへの恋」の行進曲が間奏曲のように使っていました。「少し待って」のプレートを持ったシンデレラがステージの前を移動していましたが,この音楽もスピーカーから流れていました。本来の「シンデレラ」の音楽以外については,スピーカーから流すという方針だったのかもしれません。

その後,王子がシンデレラを探す部分になり,スピーディでエキゾティックな音楽が連続します。この部分は,一種,ディヴェルティスマン的な扱いになっており,各国の踊りが続いていました。この辺の音楽には,才気煥発といった気分があり,ドラマ全体に勢いをつけていました。

ちなみに今回の演出では,王子は最初から花嫁用の靴にピッタリ足が合う女性を探すという設定でした。その後,赤いドレスを着たシンデレラに出会いその魅力に引かれるが,引き離されてしまい,第3幕でその赤いドレスの女性を探すという流れになっていました。

そのこともあり,赤いドレスの女性ばかりが出てきたのですが,考えてみると年中赤いドレスを着ているわけでもないので,少々変な気はしました。それと,第2幕の最後で,シンデレラと王子がなぜ引き離されたのか?もよく分かりませんでした。原作だと,12時が過ぎると魔法が解けるのでという理由があるのですが,この辺も気になりました。

第3幕の後半,最後に2人が再会します。雪(?)が舞い散る中,雰囲気が少しロマンティックになり,妖艶な感じのパ・ド・ドゥ(この呼び方がふさわしいのか分かりませんが)になります。照明も少し暖色系になり,音楽の気分も変わります。

この部分での音楽が特に素晴らしいものでした。ここまで,ひねった感じの曲が多く,シンプルな曲は少なかったのですが,この最後の部分では透き通った響きになり,最後の最後の部分で,ドレミファソラシドとグロッケンが音階を演奏して終わります。二人の思いが成就したことが鮮明に伝わってくる見事なエンディングでした。

ストーリー全体としてみると,前半の「崩壊した家族」と後半の「シンデレラと王子の出会いと再会」のつながりが分かりにくい気がしました。その「つながり」が,難解で象徴的なシーンだったのかもしれません。また,プロコフィエフの曲の持つイメージと実際のパフォーマンスとが繋がらないような部分もあったと思います(先ほどの12時の部分など)。そういった部分も含め,冒険的な演出だったと思います。

シンデレラは,王子に選ばれるのを待つシンデレラというよりは,双方が対等な感じで,多様な人に溢れる「社会(今回の群舞は,社会そのものを表現しているように感じました)」の中から,運命の力でつながった2人が巡り合うという感じでした。愛の力の不思議さのようなものを最後の部分で描いていたのではないかと思います。

個人的には「普通のシンデレラも見たい」という気持ちもありましたが,金沢では滅多に見られないような作品を尖鋭的なパフォーマンスで楽しめたことは,OEKとエッセンのバレエ団との継続的な連携の成果だと思います。

さて,今後のバレエ公演ですが,取りあえず同じプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」(全曲)などをしっかり堪能してみたいものです。期待しています。
(2014/12/14)






公演のポスター

金沢歌劇座の外観


2公演分のプログラムとチラシ



近くにある金沢21世紀美術館



金沢21世紀美術館の野外にある展示。「シンデレラ」公演の後だと,オレンジに見えてしまいます。


しいのき迎賓館のライトアップ。こうやってみると,結構不気味な館に見えます。



香林坊バス停の後ろにある,石川近代文学館のライトアップ。

金沢歌劇座で公演がある時は,終演後,夜景を楽しめるのが良いですね。