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金沢フレッシュコンサート20周年記念ガラコンサート
2014年12月20日(土)18:00〜 金沢市アートホール

1)イヴァイゼン/トランペット・ソナタ〜第2楽章
2)ショパン/舟歌(バルカロール)嬰ヘ長調 op.60
3)アルディーナ/口づけ
4)ドニゼッティ/歌劇「ドン・パスクワーレ」〜「あの眼差しは騎士の」
5)モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第25番ト長調, K.301
6)マレ/スペインのフォリア
7)サン=サーン(リスト編曲)/死の舞踏」
8)トム・リッター・ジョージ/バストロンボーン協奏曲
9)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第28 番イ長調 作品101

●演奏
角 允彦(トランペット*1),木下 由香(ピアノ*2), 松島 歩(ソプラノ*3,4),坂口 昌優(ヴァイオリン*5),川崎 惇(フルート*6), 塚田 尚吾(ピアノ*7), 森川元気(バストロンボーン*8)
迫 昭嘉(ピアノ*4,9)

小堀香奈*1, 澤田加能子*3-4, 田島 睦子*8(ピアノ)


Review by 管理人hs  

金沢芸術創造財団では「金沢フレッシュコンサート」という演奏会を毎年行っています。これは,オーディションを合格したいろいろな楽器の若手奏者たちが登場する演奏会で今年で20周年となります。それを記念してガラコンサートが行われたので,出かけてきました。

お客さんの数が少なめだったのが残念でしたが,ガラコンサートの呼称にぴったりの,バラエティに富んだ楽器による演奏を楽しむことができました。フレッシュ・コンサートは,もともとガラコンサート的な内容ですが,その中から特に活躍が目覚ましい方が選りすぐられていたようで,大変聞きごたえがありました。それと今年の審査員でもあるピアニストの迫 昭嘉さんの演奏も素晴らしいものでした。

この日は,前半4人,後半3人の奏者が登場し,トランペット,ソプラノ,ヴァイオリン,フルート,バストロンボーン,そして,ピアノによる充実した演奏を聞かせてくれました。以下,登場順に演奏を紹介しましょう。

1 角 允彦(2007年出場,トランペット)
イヴァンセンという作曲家による,トランペット・ソナタのゆったりとした感じの第2楽章が演奏されました。初めて聞く名前の作曲家でしたが,名前の感じからすると北欧の作曲家でしょうか。シチリアーナ風のゆったりした感じとマイルドな音色が大変心地よく響いていました。アートホールのような小ホールだと楽器の音は特にくっきりと聞こえるのですが,刺激的にうるさくならないのが良いと思いました。

2 木下 由香(1996年出場,ピアノ)
木下さんは,石川県新人登竜門コンサートをはじめ,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)とも何回か共演したことのある金沢ではお馴染みのピアニストです。今回はショパンの舟歌がたっぷりと演奏されました。終盤に向かう従って,少しずつ熱く音楽が盛り上がっていきましたが,やや味が薄く,もう少し揺らいだ感じがあると良いかなと思いました。

3  松島 歩(2008年出場,ソプラノ)
この日登場した唯一の歌手です。松島さんは真っ赤のドレス,ピアノの澤田さんは黒のドレスで,まず,その「見た目」のコントラストが鮮やかでした。見るからに明るい雰囲気を持った方で,親しみやすいワルツ風の曲調を持った「くちづけ」をのびのびと聞かせてくれました。声質も晴れやかで,表情豊かな歌を聞かせてくれました。得意中の得意の作品という感じでした。2曲目のアリアも気持ちよく闊達に聞かせてくれました。

4 坂口 昌優(2005年出場,ヴァイオリン)
坂口さんも北陸新人登竜門コンサートでOEKと共演したり,ラ・フォル・ジュルネ金沢に出演したり,金沢でもお馴染みのヴァイオリニストです。坂口さんはしっかりと歌いこまれた演奏を聞かせてくれました。音に密度があり聞きごたえがありましたが,モーツァルトにしてはちょっと重いかな,という気もしました。この曲は2楽章構成だったのですが,終楽章の途中で少し暗くなる辺りの表情がとても良いと思いました。

この曲では,ゲストの迫昭嘉さんがピアニストとして登場しました。モーツァルトのヴァイオリン・ソナタの場合,ピアノは「伴奏」ではなく,ヴァイオリンと同等の活躍をします。そのしっかりとした存在感のある音で坂口さんの演奏を一層引き立てていました。

5 川崎 惇(2013年年出場,フルート)
ここからが後半になります。川崎さんは,昨年このコンサートに出た方ということで,特にフレッシュな雰囲気がありました。スペインのフォリアは変奏曲ですが,各変奏の間にしっかりと間を取っていたのが印象的でした。その分,音楽の流れが悪い気もしましたが,一音一音に深みを感じさせてくれました。タイトルの「スペイン」の雰囲気はあまりしなかったのですが,表面的というよりは秘めた情熱が込められていた点がスペイン風だったのかもしれません。

6 塚田 尚吾(2011年出場,ピアノ)
塚田さんは,今年の北陸新人登竜門コンサートでOEKと共演をした方です。10月には石川県立音楽堂でベートーヴェンのソナタ特集の演奏会が行われた時にも出演するなど,今年特に活躍の場を広げたピアニストだと思います。この日演奏されたリストの「死の舞踏」も,以前,ラ・フォル・ジュルネ金沢関連の演奏会で塚田さんが演奏するのを聞いた記憶があります。

その時も素晴らしいと思ったのですが,今回の演奏も,とてつもなく鮮やかで,力感に溢れた演奏でした。もう十八番と言ってもよいレパートリーだと思います。ピアノの鳴り方が素晴らしく,リストの曲は何て色彩的なんだろうと思いました。硬質の強さと美しさを持った演奏に一気に引き込まれました。

ところで,この塚田尚吾さんですが....この日の午後は高岡で行われた金聖響指揮OEKの演奏会(こちらもガラコンサート)に出演されていたはずです。高岡と金沢をハシゴするというのもなかなかすごいですね。

7 森川元気(2011年出場,バストロンボーン)
森川さんは,2013年の北陸新人登竜門コンサートでOEKと共演された方です。その時から素晴らしいキャラクターを持った奏者だと思っていたのですが,さらに貫禄(?)がついたようで,バストロンボーンの機能と魅力を全開にしたような演奏を聞かせてくれました。たっぷりとした柔らかで豊かな音からバリバリという感じの強い音まで,多彩な表現を楽しませてくれました。最後の方にカデンツァ風の部分も出てきましたが,その部分でのたっぷりとした息遣いと集中力の感じられる演奏もお見事でした。

この演奏では,金沢ではお馴染みの田島睦子さんがピアノを担当していました。打楽器を思わせるようなキレの良いリズムを持った演奏も大変鮮やかでした。

ここまでは,過去の出場者による演奏で,最後にピアニストの迫昭嘉さんが登場し,ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第28番を演奏しました。ここまで変化に富んだ聞きごたえのある演奏が続いていたので,「審査員」としては演奏しにくいかな,とも思ったのですが,やはり「さすが」の演奏を聞かせてくれました。

実は,今回この演奏会を聞きに行こうと思ったのは,この迫さんの演奏がお目当てでした。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第28番は個人的に大好きな作品なのですが,これまでなぜか実演で聞いたことがありませんでした。今回,この曲をベートーヴェンを得意とする迫さんの素晴らしい演奏で聞くことができ,大満足でした。

第1楽章の冒頭の透き通った静かな世界は,そのまま迫さんの現在の境地を示しているようでした。力みなく落ち着きのある音楽が広がっていました。第2楽章は大変力強い和音の連打で始まりましたが,その音がふやけた感じではなく,すっきりと引き締まっていたのがまず素晴らしいと思いました。その後に続く音楽も颯爽と整っっており,大変格好良く魅力的でした。

第3楽章は幻想曲風の緩徐楽章なのですが,すべてがクリアで,透明なテクスチュアが印象的でした。第3楽章の後半は,生き生きとした音楽一転しますが,そこでのキビキビとした音の動きと,対位法的な音の動きの堅牢さも見事でした。最後は一気に盛り上がり,力感のある音楽で締めくくってくれました。

全曲を通じて,重苦しいところはなく,力感と抒情性が生き生きとした気分の中でバランスよく融合した素晴らしい演奏でした。そして,この曲は,やっぱり良い作品だと再認識しました。

今回出演された方々は,フレッシュコンサートに出演後,さらに活躍の場を広げられている方ばかりでした。今回レビューをまとめながら,改めて石川県新人登竜門コンサートとフレッシュコンサートに重複出場している人が多いことが分かりました,こういう形で地元アーティストの活躍の場が複数提供されていることは大変良いことだと思います。実は,これまでは,フレッシュ・コンサート自体に一度も行ったことはなかったのですが,新たな新人演奏家を見つけ,応援するためにも一度聞きに行ってみたくなりました。

今回出演された方々のこれからの活躍にも注目していきたいと思います。



演奏会が始まるまで時間があったので,JR金沢駅周辺をあちこち回ってみました。

 
JR金沢駅には,今年のゆるキャラグランプリで1位になった「ぐんまちゃん」が群馬県から来ていました。ただし,特に人だかりがしているわけではありませんでした。

 こちらは金沢フォーラス前のイルミネーション

(2014/12/27)





公演のチラシ


ホールの中にも沢山貼ってありました。


開演前。ホテル日航金沢前のイルミネーション。


金沢市アートホールの入っているポルテの地下にあったクリスマス・ツリー。ポルテも今年で20年のようです。


エレベータからこのツリーを見下ろしてみました。


こちらはホテル日航金沢のロビーにあった飾り。季節ごとに,いつも綺麗な飾り付けがされています(通り抜けているだけですが。


こちらはホテル日航金沢の入口にあったツリーです。