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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2014 プラハ,ウィーン,ブダペスト:三都物語
2014年4月29日〜5月6日 石川県立音楽堂,金沢市アートホール,JR金沢駅周辺,金沢市内各地

Review by 管理人hs  

2014年5月3日(土祝)

ラ・フォル・ジュルネ金沢2014 5月3日は,恒例の「吹奏楽の日」公演,「ピアノの日」公演を中心とした内容でした。私は,「吹奏楽の日」公演の方に行き,半日近く,しいのき迎賓館裏の野外の石の広場で過ごしていました。午前中は時々小雨が交じり,一時演奏を中断していたようですが,午後からは天候は回復し,例年通り開放的な気分で音楽を楽しむことができました。

とはいえ,今日は風がかなり強く,演奏された吹奏楽団の皆さんにとっては,風がいちばんの大敵だったのではないかと思います。私は11:00頃から最後まで聞きました。今回印象に残ったのは,やはり今回ゲストとしてトリで登場した大阪桐蔭高校吹奏楽部の演奏&パフォーマンスでした。



野外演奏の場合,音響的には不利なのですが,総勢180人の演奏ということで音の迫力が圧倒的でした。最後のマーチングのステージでは,客席(芝の上ですが)の方まで管楽器が出てきて演奏しました。まとまって演奏している時にはそれほど気づかなかったのですが,あんなに沢山クラリネットやらホルンやらが居たとは驚きでした。お客さん全体を包み込んで,圧倒するような演奏で,盛大な拍手が起きていました。

最後に午後に登場した石川県内の高校吹奏楽部と大阪桐蔭との合同演奏で,「オリンピック・マーチ」が演奏されました。前回の東京オリンピック用に作られた50年も前の曲ですが,空が青空になってきたこともあり,マーチにピッタリという気分でイベントを締めてくれました。


↑背景に金沢城公演の石垣が見えるのも良いですね。

この日は風が強かったこともあり,風上で聞くか,風下で聞くかで音の届き方が全く違っていました。色々動き回った感じだと,下手側にあった,出番を待つための控え用テント周辺だと音がよく聞こえました。県内吹奏楽部の演奏もそれぞれ個性的なパフォーマンスを見せてくれたりして,楽しめましたが,この「風下」で聞いた遊学館高校の演奏が特に素晴らしいと思いました。音がまろやかにブレンドしており,暖かさを感じました。

それと個人的に「本日のMVP」だと思ったのが,遊学館高校の最後の曲でマンボを踊っていた「マンボ男子」でした。とても上手いと思ったのですが,どこか緩い感じもあり,ツボにはまってしまいました。「ラ・フォル・ジュルネ!」という掛け声も掛けてくれて宣伝効果も抜群?でした。



演奏されたのは次のような曲です。写真とともに紹介しましょう。

■吹奏楽の日
10:00〜15:45 しいのき迎賓館 石の広場


●星稜高校(未聴)

●百萬石ウィンドオーケストラ(未聴)



●小松市立高校  指揮:安嶋俊晴
フチーク/行進曲「剣士の入場」
ドヴォルザーク/スラブ舞曲集〜op.46-1
映画「第三の男」〜ハリーライムのテーマ
菅野よう子/花は咲く

私が到着した時は,「雨宿り」状態から復帰しようとしているところでした。「花は咲く」では,1年生部員による合唱付きでしたが,この最後に合唱が入るというパターンは結構多かったですね。

 



●小松明峰高校  指揮:木村有孝
「サウンド・オブ・ミュージック」メドレー
風になりたい〜宝島


小松明峰お得意の,客席まで部員が進出していくパフォーマンスで楽しませてくれました。お馴染み「風になりたい」〜「宝島」のメドレーも「伝統のお家芸」のような感じの楽しい演奏でした。





●小松高校  指揮:北村善哉
シュランメル/行進曲「ウィーンはいつもウィーン」
ドヴォルザーク/Going home 
「となりのトトロ」メドレー
松校スペシャルメドレー

午前中は,小松の高校が勢ぞろいでした。「松校スペシャルメドレー」が「あまちゃん」のテーマで始まっていたのが,個人的には嬉しかったですね。ダンスパフォーマンスが入っているのも高校生らしく楽しめました。





●午前合同演奏  指揮:大竹宏
ワーグナー,J.F./行進曲「双頭の鷲の旗の下に」


昨年度まで星稜高校吹奏楽部を37年間指導されていた大竹宏先生の指揮で演奏。感無量だったかもしれませんね。





ちなみにこの日は,「憲法記念日」ということで,金沢市街中心部では,「護憲派」の集会の声と「改正派」の宣伝カーの声とが入り乱れていました。この中での吹奏楽の演奏ということで,アイヴスの交響曲のような雰囲気となっていました。この日にしたのは,少々誤算だったかもしれません。

その後,午後の部が始まるまでの時間を利用して,金沢21世紀美術館でこの日から始まっていた「レアンドロ」の展覧会をさっと見てきました。変わったオブジェがとても楽しそうな展覧会でした。



美術館のまわりでは色々な店が出ていました。匂いにつられてチキンカレーを食べてみたのですが,これが最高のおいしさでした。



その後,しいのき迎賓館裏の「吹奏楽の日」公演に戻りました。

 ←途中なぜかフラダンスを踊っていました。

 ←このトンビも毎年恒例?

●NOTOマーチングバンド  指揮:佐野定弘,村田良和
ワーグナー,J.F./行進曲「双頭の鷲の旗の下」
ラヌーバ
ドヴォルザーク/新世界から
ベートーヴェン/歓喜の歌
中村八大/上を向いて歩こう

このバンドもLFJKではお馴染みですね。能登半島先端の珠洲市にある飯田高校と緑丘中学校の合同チームで,行進しながら入場してきました。





●金沢桜丘高校  指揮:鏡幸彦
ワーグナー,J.F./行進曲「双頭の鷲の旗の下に」
「ディープ・パープル」メドレー
ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
今、咲き誇る花たちよ
さくら さくら さくら


各高校ともテーマ曲みたいなのを持っているのが面白いですね。桜丘は「さくら さくら さくら」です。





●金大吹奏楽部  指揮:大島嵩章、井上知洋
ワーグナー,J.F./行進曲「双頭の鷲の旗の下に」
「サウンド・オブ・ミュージック」メドレー
ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
喜歌劇「こうもり」セレクション


同じテーマで選曲しているので,他高と結構曲がダブっていますが,これも「吹奏楽の日」ならではですね。ちなみに「こうもり」セレクションの最後は,「雷鳴と稲妻」でした。





●遊学館高校  指揮:大嶋直樹
シュランメル/行進曲「ウィーンはいつもウィーン」
ロジャース/ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」〜私のお気に入り
アニメ・メドレー
マンボのビート


遊学館高校は,翌日の本公演のエリアイベントでも大活躍でした。ちなみにMCの生徒さんが「ラ・フォル・ジュルネ金沢も残すところあと4日間となってしまいました」と言っていました。「まだ本公演が始まっていないのだけれども...」という感じですが,4月29日から数えれば,確かに「終盤」ですね。




●大阪桐蔭高校  指揮:梅田隆司
シュトラウス,J.II/ポルカ「雷鳴と稲妻」
コダーイ/組曲「ハーリ・ヤーノシュ」〜第4曲,第6曲
フチーク/行進曲「剣士の入場」
ヴェルディ/アイーダ凱旋行進曲
マーチング(「スタートレック」のテーマ〜ホルスト/木星)


大阪桐蔭の演奏&パフォーマンスについては,前述のとおりです。「ハーリヤーノシュ」での重低音が印象的でした。翌日の本公演では,今回のテーマに合せて「モルダウ」も演奏してくれたようで,見事に注文どおりの選曲ですね。


大阪桐蔭の編成にはハープ(2台)も加わっていました。写真のとおり大勢の人が集まっていました。


何といっても楽器の多さに圧倒されました。

 大阪桐蔭の楽器運搬用のトラック



●午後合同演奏  指揮:梅田隆司
古関裕而/オリンピックマーチ


これはものすごい人数での演奏でした。トロンボーンなど,ぶつかり合わないかなと気になりましたが,生徒さんたちにもとても良い思い出になったのではないかと思います。


最後の大阪桐蔭の演奏があまりにも素晴らしかったので,もう一度,17:30の駅西広場公演も見に行くことにしました。



■エリア・イベント
17:30〜18:30 金沢駅西イベント広場

シュトラウス,J.II/ポルカ「雷鳴と電光」
ヴェルディ/アイーダ凱旋行進曲
マーチングステージ
アニメステージ
アメージング・グレイス
「となりのトトロ」メドレー
EXILEメドレー
ビートルズ・メドレー
風になりたい
銀河鉄道999
●演奏
梅田隆司指揮大阪桐蔭高校吹奏楽部


この日は,一応,まだ「プレ・イベント」の日だったのですが,「吹奏楽の日」公演,「ピアノの日」公演+金沢市アートホールでの公演は,考えてみると他の都市のラ・フォル・ジュルネにはない,「もっとも金沢らしい」内容だったかもしれません。

「吹奏楽の日」のゲストで登場した大阪桐蔭高校吹奏楽部は,15:00頃のしいのき迎賓館での公演後,金沢駅西口広場に移動し,17:30からもう一度野外で公演を行いました。私は一旦自宅に戻った後出直したのですが,17:30直前に行ってみると,既に大勢の人が集まっており立見になりました。



大阪桐蔭は,一昨日は富山県魚津市,昨日は能登半島先端の珠洲市,本日のお昼は石川県津幡町と少しずつ金沢に近づく形で公演を重ね,明日の午前11:00からはいよいよ石川県立音楽堂で公演を行います。最後に本丸に入城に入場するような高揚感がありますね。

本日2回目の野外公演ですが,最初に15:00からの公演と同じく「雷鳴と電光」,「アイーダ」の凱旋行進曲(アイーダ用のトランペットを持っているのが驚きです),マーチングの演奏があった後は,アニメ系,ポップス系のメドレーが次々と演奏されました。マーチングの演奏の方は,しいのき迎賓館裏よりもスペース的に狭いので,お客さんのすぐ隣で演奏しているような状況になりましたが,それでも全然粗が目立たず,うるさくないのが素晴らしい点です。



アニメ系の曲は,小さな子供が聞きに来ていることを意識したもので,手作り(?)のアンパンマン,ドラえもん,目玉おやじ(ゲゲゲの鬼太郎)の着ぐるみが順番に登場し(1年生部員などが入っていたようです),大いに受けていました。指揮の梅田隆司先生は,「指揮」だけではなく「仕切り」も得意で,「小さい子どもたちは,どんどん前においで」という感じで,しっかり配慮をしていました。終盤では,「寒くなってきたので,遠慮なく帰っていいよ」とか素晴らしい気配りでした(実際,結構寒かったです)。



アニメに続いては,EXILE,ビートルズなどのメドレーになりました。EXILEの方では歌も入っていましたが,マイクを通さずに生で声を聞かせるのが大阪桐蔭らしいところだと思います。ビートルズメドレーの方は,「どんだけ続くんだ」というぐらい沢山の曲が入ったメドレーでした。こうやって並べて聞くと,ビートルズには色々なタイプの曲があり,その後のポップスの流れに多方面に影響を与えていることがよく分かります。

最後は,「銀河鉄道999」で締められました。この曲は,大阪桐蔭の「締めの曲」の定番のような感じで,手を振っておしまいとなりました。

客層に応じた楽しいパフォーマンス。そして,恐るべきレパートリーの広さ。高校の「部活」レベルを遥かに超えるステージでした。大阪桐蔭高校は,今度,ニューヨークのカーネギーホールで公演を行うとのことですが,この内容ならば,アメリカでも大受けだと思います。明日の音楽堂での「本丸」公演の方は行こうかどうか迷っているのですが,楽しめることは間違いなさそうです。



■【034】19:30〜 金沢市アートホール
1)マルティヌー/3つのチェコ舞曲, H.154〜第2曲「デュパーク」
2)マルティヌー/スロバキア民謡による変奏曲, H.378
3)マルティヌー/ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第1番, H.157
4)マルティヌー/チェロ・ソナタ第2番, H.286
5)マルティヌー/ロッシーニの主題による変奏曲, H.290
●演奏
ルドヴィート・カンタ(チェロ*2-5),アビゲイル・ヤング(ヴァイオリン*3),鶴見彩(ピアノ*1-2,4-5)

ラ・フォル・ジュルネ金沢2014 5月3日はずっと野外で演奏を聞いていたのですが,19:30から,ようやくホールに入って,OEK首席チェロ奏者,ルドヴィート・カンタさんを中心としたマルティヌー特集の公演を聞きました。



野外で公演を聞くのも良いのですが,ホールの中に入って,ゆったりと座席に着くと,やはり落ち着きます。

演奏された曲はカンタさんが以前から頻繁に演奏してるマルティヌーの室内楽作品集でした。マルティヌーは,スメタナ,ドヴォルザーク,ヤナーチェクに次ぐ,チェコorスロヴァキア系「第4の作曲家」という位置づけですが,実際に生で聞く機会はあまりありません。

私もほとんど聞いたことはなかったのですが,今年2月2日のスロヴァキア・トリオ(カンタさんがチェロ担当)の演奏でマルティヌーの作品が演奏されるのを聞いてから関心を持っています。戦争の影響を受けて,チェコからアメリカに亡命し,生涯孤独に暮らした作曲家であることが,作風にも反映しているところがあり,2月以来気になっています。

今回は鶴見彩さんのピアノ,アビゲイル・ヤングさんのヴァイオリンとの共演でしたが,やはり核はカンタさんだったと思います。マルティヌーの音楽については,「ちょっと不思議だな」「ちょっと違和感があるな」といった部分があり,それが個性になっている部分があります。カンタさんの演奏には,どの曲にも自信が溢れ,共感に満ちた力強さがありました。マルティヌーの「不思議」な感じが魅力に変わっていたと思います。

ヤングさんとカンタさんとの「対話」のような演奏,安定感と輝きに満ちた鶴見彩さんのピアノと相俟って,疲れた体に(やはり大阪桐蔭の演奏を1時間ぐらい立って聞いていたので...)ボヘミアの音がしみこんでいくような,気分の良さを感じました。

カンタさんのリサイタルについては,かなりの数を聞いてきましたが,考えてみると金沢市アートホールで聞くのは久しぶりのことです。今回のマルティヌー特集は,カンタさんの真骨頂を聞かせてくれる「会心の出来」だったと思います。今年のラ・フォル・ジュルネ金沢の中でも白眉の演奏会だったのではないかと,本公演を前にして思っています。

(2014/5/19)