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ラ・フォル・ジュルネ金沢 「熱狂の日」音楽祭2014 プラハ,ウィーン,ブダペスト:三都物語
2014年4月29日〜5月6日 石川県立音楽堂,金沢市アートホール,JR金沢駅周辺,金沢市内各地

Review by 管理人hs  

2014年5月4日(日祝)

この日から,ラ・フォル・ジュルネ金沢2014の本公演が始まり,石川県立音楽堂およびJR金沢駅周辺は例年通りの賑わいを見せていました。次の写真のような感じです。

 
LFJKのエリアイベントに欠かせない筒井裕朗さんを中心とした四重奏が演奏中(左)

この日午前中に行われた大阪桐蔭高校吹奏楽部のコンサートホールでの演奏も聞いてみたかったのですが,「連日だと体力が持たない。まだ先は長い」と思い,この日は午後からスタートすることにしました。





■【122】12:15〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
リスト/ペトラルカのソネット第47番(「巡礼の年」第2年「イタリア」から)
リスト/ペトラルカのソネット第123番(「巡礼の年」第2年「イタリア」から)
リスト/ハンガリー狂詩曲第1番
リスト/ハンガリー狂詩曲第4番
リスト/ハンガリー狂詩曲第18番
リスト(デュベ編曲)/ハンガリー狂詩曲第19番
●演奏
ジャン・デュベ(ピアノ)

まず,ジャン・デュベさんによるリストのピアノ曲集を聞きました。デュベさんは,2002年に行われたフランツ・リスト国際コンクールで最高賞を受賞された,いわば「リストのスペシャリスト」です。

「巡礼の年」の中の2曲の後,ハンガリー狂詩曲4曲が続くプログラムで,比較的親しいのない曲が多かったのですが,どの曲にも安定感があり,安心して聞くことができました。どの曲も難曲のはずなのですが,「これ見よがし」に大げさに聞かせようとする部分はなく,平然と,むしろ円満な感じで各曲を聞かせてくれました。

「巡礼の年」の2曲では甘い雰囲気,ハンガリー狂詩曲第1番と第4番では華麗な雰囲気,第18番ではやや暗い表情を聞かせた後,デュベさん自身の編曲によるハンガリー狂詩曲第19番で生き生きと大きく盛り上げて締めるという構成も見事でした。

 
↑ジャン・デュベさんには,NAXOSのリスト全集?のジャケットに頂きました。カタカナもお得意でした。



■【112】13:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
スメタナ/連作交響詩「わが祖国」〜ヴィシェフラド(高い城),モルダウ,ターボル,ブラニーク
●演奏
広上淳一指揮京都市交響楽団


この公演は,この日いちばんの楽しみにしてい公演でした。スメタナの連作交響詩「わが祖国」からの4曲は,本来,井上道義さんが指揮するはずだったプログラムですが,思わぬ形で京都市交響楽団の常任指揮者の広上さんが指揮することになりました。その本領を発揮した,非常にスケールの大きな表現の連続で,京響のサウンドと音のドラマを存分に堪能しました。両手を大きく上に伸ばし,時折ジャンプを交えるような広上さんの指揮ぶりも,出てくる音楽そのもので,見ていて感服しました。

どの曲もテンポはゆっくり目で,全体的に4つの章からなる長編小説を読むような趣きがありました。最初の「高い城」から,ゆったりと流れる弦楽器,ヒロイックになり渡る金管楽器を中心に大変気持ち良く楽しませてくれました。物語の第1章に相応しい,押し出しの強さがありました。

「モルダウ」でもまた,こってりとした表現で悠然とした流れを感じさせてくれました。低音をベースにバランス良くピラミッド型に広がるような響きがここでも見事でした。曲の最後の方で,「嵐」の雰囲気になりますが,それが通り過ぎると,気分が一転します。この転換が非常に鮮やかで,青空が広がるように爽快な気分が広がりました。それと,最後の「チャン,チャン」の部分です。「モルダウ」は素晴らしい名曲なのですが,最後の最後に「チャン,チャン」と付いているのが,どうも「取ってつけた感じ」で「残念」に思うことがあったのですが,この日の「チャン,チャン」は,「ジャン,ジャン」という感じで(カタカナでは表現し切れない素晴らしい音),ものすごく堂々と終わっていました。これなら納得という終わり方でした。「モルダウ」という曲自体を見直しました。

この際,本来なら第3曲,第4曲も聞きたかったのですが,第5曲「ターボル」に飛びます。この曲と第6曲「ブラニーク」は同じようなモチーフと使っているので,セットとして捉えても良いと思います。ここで何回も出てくる「ダ・ダ・ダーン,ダーン,ダ・ダ・ダー」のモチーフが大変強烈で,思い切りよく鳴っていました。その深刻さ,重さが段々と快感になってきて,このまま続いて欲しいと思わせてくれるぐらいでした。

第6曲「ブラーニーク」も同様の気分で始まるのですが,中盤から後半に掛けて,色々な曲想が出てきて,最後の部分では前に出てきたモチーフが回想シーンのように次々出てきて,感動が溢れ出るようにテンポアップして終わりました。

「わが祖国」全曲は,CDだと途中から似た感じの曲が続くようで,なかなか聞きとおせない曲なのですが,今回のような気合いたっぷり,スケール感たっぷりの演奏だと「この世界にはまり込んでしまいたい」という感じになりますね。さすが広上さん,さすが京響という素晴らしい演奏でした。こうなってくると,是非全曲も聞いてみたいですね。



■【133】14:45〜 金沢市アートホール
ヤナーチェク/ヴァイオリン・ソナタ
ドヴォルザーク/4つのロマンティックな小品 op.75 〜第1曲
ドヴォルザーク/ヴァイオリン・ソナチネ ト長調, op.100
●演奏
成田達輝(ヴァイオリン),萩原麻未(ピアノ)


アートホールに移動し,成田達輝さんと,萩原麻未さんの「パリ国立高等音楽院」出身の若手デュオによるヤナーチェクとドヴォルザークの作品集を聞きました。この公演では,まず成田さんの音の充実感に圧倒されました。音の迫力,切れ味がダイレクトに伝わって来ました。萩原さんの色彩感と包容力豊かなピアノとの相性もぴったりでした。大器2人による聞きごたえ十分の室内楽でした。

最初のヤナーチェクのソナタは,大変日本的なメロディが出てきます。曲の最初から成田さんのヴァイオリンの音に勢いがあり,グッと引きつけられました。第4楽章はちょっとショスタコーヴィチの曲を思わせるようなミステリアスな雰囲気になります。この部分での緊張感とデリケートさが共存した気分も聞きごたえがありました。

後半のドヴォルザークの方は,メロディ・メーカーとしての魅力が最大限に発揮されたような作品で,気持ちよく酔わせてくれました。それでも甘くなり過ぎることはありません。節度を持って,まっすぐ聞かせてくれる辺り,若い演奏家らしい魅力が伝わってきました。

それにしても,ドヴォルザークのソナチネの第4楽章は,そのまま「日本のまつり」に使えそうな曲です。この部分も大変元気よく聞かせてくれました。


金沢市アートホールに行く途中のエレベータから撮影。このエレベータ下スペースでも演奏を行っていたようです。



■エリアイベント
その後はOEKの公演があったのですが,今回はそれには行かず,軽食を食べながら,エリアイベントをハシゴしました。



交流ホールでは「合唱の日」と題して,県内外からいろいろな合唱団が集まっていました。写っているのは名古屋少年少女合唱団です。


この合唱団はJR金沢駅でもその後演奏を行いました。司会役も子どもが担当していましたが,その声の美しさにもびっくりしました。


JR金沢駅コンコースも音楽堂の延長のような感じで終日公演を行っていました。

JR金沢駅では,珠洲児童コーラスティンクルベル&穴水児童コーラスリトルプラネッツの皆さんの公演もありました。北陸放送で数日前にこの合唱団を取り上げていたのを思い出しました。


その後,ANAクラウンプラザホテルへ。La Musicaの皆さんが歌っていました。La Musicaさんは,確かハンガリーの曲をレパートリーにしているはずなので,今回のテーマにはぴったりです。

エレベータから撮影すると,良い感じに全体を見渡せました。

その他,慶應義塾ワグネルソサイエティ男声合唱団の皆さんもエリアイベントに登場していたはずですが,遭遇できませんでした。

次の写真は「音楽堂やすらぎ広場」でのフルートの秋元三奈さんとハープの山徳理紗さんとヴァイオリンの坪倉かなうさんの演奏。


鼓門下ではLFJK名物の吹奏楽公演。今年は遊学館高校が大活躍です(この日は3回も公演)。翌日は金沢市立工業などが登場します。


もてなしドームで軽食を食べながら,背後から見ていたのですが,吹奏楽のパフォーマンスの動きの無駄のなさに感心しました。下の写真のような感じで,演奏しながら,次々と動きを変えていました。



そして,この日も遊学館の締めの曲の「マンボのビート」で,「マンボ男子」が軽快でちょっと不思議なステップと掛け声を披露していました。

LFJKのキング・オブ・エリアイベントといえば,青島先生です。この日も三ツ橋敬子さんやクニャーゼフさんらのアーティストと競うように,「こっちにもいらしてね」とマグカップや書籍販売をされていました。


青島さんが不在の時は等身大パネルが店番。

その他,音楽堂の入口付近の売店も終日にぎわっていました。


左がオリジナル・グッズ販売,右がアーティストのCD販売。タワーレコードの色とLFJの色合いはよく似ていますね。



右はもてなしドーム地下にあった,子供向けの遊び場のようなコーナー



■【134】17:15〜 金沢市アートホール
スメタナ/弦楽四重奏曲第1番ホ短調「わが生涯より」
バルトーク/弦楽四重奏曲第3番Sz.85
●演奏
ヴィルタス・クワルテット(三上亮,水谷晃(ヴァイオリン),馬渕昌子(ヴィオラ),丸山康雄(チェロ))

再度,金沢市アートホールに戻り,福島県のいわきアリオスを拠点として活動しているヴィルタス・クワルテットの公演を聞きました。

スメタナの「わが生涯より」は,4つの楽章を通じて「スメタナ自身の人生」を描いた曲です。変化に富んだ音のドラマといった異色の弦楽四重奏曲と言えます。

第1楽章は「普通の」弦楽四重奏曲ですが,音に厚みがあり聞きごたえがありました。特に馬渕さんのヴィオラのつややかな音が素晴らしい音が素晴らしく,思いが溢れ出てくるようでした(ちなみに馬渕さんは,OEKにも頻繁に客演されているとのことでした)。ややのどかなボヘミア的気分のある第2楽章の後,「亡き妻の思い出」を描いた第3楽章と自身の「難聴」を表現した第4楽章と続きます。

第3楽章では,「痛切さ」が「あきらめ」に変わり,さらに「なぐさめ」に変わるという,「死の受容」のプロセスを描いているでした。第4楽章は,明るく始まった後,一転して暗転します。この曲を実演で聞くのは初めてでしたが,ドラマを見るようでした。その後,リアルに耳鳴りのような音が描写され,最後は静かに終わります。救いようがない感じもありましたが,大変聞きごたえのある曲であり,演奏でした。

バルトークの方は,非常に前衛的な響きで,何だか分からないうちにその切れ味に圧倒されてしました。不協和音が激しく続く部分などは,怒りの気分を持ったロックなどに近い気分を感じました。不安な気分という点では,1曲目から持続しているようでした。多彩な音やリズムの実験のような曲で,聞いていて疲れる部分はありましたが,こういう表現は,20世紀音楽の一つの典型といっても良いのかもしれません。
 
終演後,4人はロビーに出て,「いかがでしたか?」と声を掛けながら,サイン会。



■【114】18:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ドヴォルザーク/チェロ協奏曲ロ短調,op.104
2)(アンコール)パガニーニ/カプリース第13番
3)リスト/ハンガリー狂詩曲第2番嬰ハ短調
●演奏
アレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ)
三ツ橋敬子指揮京都市交響楽団

コンサートホールに戻り,本日2回目の京都市交響楽団の公演を聞きました。今度は三ツ橋敬子さん指揮で,まず,アレクサンドル・クニャーゼフさんのチェロとの共演でドヴォルザークのチェロ協奏曲が演奏されました。クニャーゼフさんは,かなり没入して,熱い音楽を聞かせるチェリストで,オーケストラは合わせるのがかなり大変そうでした。知的に計算したような部分はなく,本能に任せて強い音楽を聞かせるような演奏家だと思いました。三ツ橋さん指揮京響の方もそれに負けないアグレッシブな響きを作り,とてもスリリングな演奏となっていました。

三ツ橋さんの指揮を見るのは今回が初めてだったのですが,動きに力感があり,腕が下から上へとダイナミックに動くことが多かったので,オーケストラとボクシング(?)をしているようなスポーツ的な躍動感を感じました。この曲の3楽章の最後の方では,コンサートマスターがソリストに負けず華やかに活躍する聞きどころがありますが,この部分の熱さも印象的でした。クニャーゼフさんとオーケストラが一体になって燃えるようなエンディングも聞きごたえたっぷりでした。

その後,クニャーゼフさんの独奏でパガニーニのカプリースの中の1曲が演奏されました。本来ヴァイオリン演奏される曲をチェロで聞く機会は少ないと思います。この曲は「悪魔の微笑み」と呼ばれる曲ですが,クニャーゼフさんの演奏には結構ゴツゴツとした感じがあり,独特のユーモアがありました。

最後に演奏されたハンガリー狂詩曲第2番は,有名曲の割に近年実現で聞く機会は少ない作品です。私自身,実演で聞くのは初めてのような気がします。ドヴォルザークに比べると,少し粗い気はしましたが,起伏に富んだ曲想は実現だと特に楽しめます。ロマの音楽には,クラリネットが活躍する曲が多い気がしますが,この曲でもソリスティックに聞かせてくれました。

 ←終演後,お2人にサインを頂きました。


LFJK恒例のスナップ写真コーナー。この日の間にどんどん増殖していました。



■【125】20:00〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
1)リスト/ル・マル・デュ・ペイ(「巡礼の年」第1年「スイス」から)
2)ブラームス/ピアノ五重奏曲ヘ短調, op.34
●演奏
石井楓子(ピアノ),オーケストラ・アンサンブル金沢メンバー(アビゲイル・ヤング,江原千絵(ヴァイオリン),ダニイル・グリシン(ヴィオラ),ルドヴィート・カンタ(チェロ))*2


この日の締めは邦楽ホールでの石井楓子さんとOEKメンバーによる室内楽です。最初に石井さんがリストの「巡礼の年」の中の「ル・マル・デュ・ペイ」を演奏しました。昨年出版された村上春樹の小説で急に有名になった作品ですね。石井さんの演奏には,ミステリアスであると同時に清潔感があり,くっきりと音が響いていました。本公演一日目の疲れをかみしめつつ,小説を読むような感じで,しっかりはまって聞いてしまいました。

後半のブラームスのピアノ五重奏曲は,OEKの首席奏者たち,特にアビゲイル・ヤングさんの熱い演奏に圧倒されました。今回はかなり前の席で聞いていたこともあり,一緒に演奏に参加しているような感じで聞いてしまいました。3楽章では,カンタさんのチェロが刻むビートの音もしっかりと響いていました。オーケストラ作品を演奏するのと同じようなスケール感があると同時に,円熟味のある演奏は大変聞き映えがしました。その分,石井さんのピアノはやや奥に引っ込んでいるように聞こえました。この辺はやはり年季の違いかもしれませんね。




以上のとおり,本公演1日目は,12:00から21:00まで9時間音楽堂周辺で音楽に浸っていました。



井上道義さんへのメッセージボードが音楽堂入口にありました。最初の写真は午前中の様子です。いつ見ても,誰かメッセージを書いていました。


井上さんからのメッセージです。


特に家族連れでメッセージを書いている姿が目立ちました。この思いをしっかり伝えたいですね。


(2014/5/23)