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オーケストラ・アンサンブル金沢第359回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
ニューイヤーコンサート2015 〜ワルツ & ミュージカル
2015年1月10日(土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ワルトトイフェル/ワルツ「女学生」,op.191
2) ロジャース/ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」メドレー
3) アンダーソン/ワルツィング・キャット
4) ロイド・ウェバー/ミュージカル「キャッツ」〜メモリー
5) ロイド・ウェバー/ミュージカル「エビータ」〜アルゼンチンよ,泣かないで
6) シュトラウス,J.II/ワルツ「酒,女,歌」,op.333
7) カールマン/喜歌劇「チャールダーシュの女王」序曲
8) レノン&マッカートニー/イン・マイ・ライフ
9) ラヴランド/ユー・レイズ・ミー・アップ
10) シュトラウス,J.II/ワルツ「楽しめ人生を」,op.340
11) シュトラウス,J.II/ポルカ「特急」,op.311
12) ロイド・ウェバー/ミュージカル「オペラ座の怪人」〜オール・アイ・アスク・オブ・ユー
13) シェーンベルク,C.-M./ミュージカル「レ・ミゼラブル」〜オン・マイ・オウン
14) (アンコール)ワルトトイフェル/ワルツ「スケーターズ・ワルツ」
15) (アンコール)アーレン/映画「オズの魔法使い」〜虹のかなたに

●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
島田歌穂(歌*2,4,5,8,9,12,13,15)


Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のニューイヤーコンサート。2015年は井上道義さんの指揮,島田歌穂さんの歌による,ミュージカル・ナンバーとワルツを中心としたプログラムでした。ファンタスティックシリーズとかなり近い雰囲気がありましたが,新春にミュージカルというのも良いものです。

今回,島田さんは,アンドリュー・ロイド・ウェバーのお馴染みのミュージカル(エビータ,キャッツ,オペラ座の怪人)や島田さんの”当たり役”「レ・ミゼラブル」のナンバーなどを歌いました。島田さんの歌を聞くのは,今回が初めてでしたが,発音がとてもくっきりとしており,言葉を大切にしているのがよく分かりました。曲のどの部分にも表情がありながら,しつこくなり過ぎないのが素晴らしいと思いました。

プログラムはワルトトイフェルのワルツ「女学生」で始まりました。今年はワルトトイフェルの没後100年にちなんでの選曲だと思います。キリっと引き締まった演奏は,新年の最初の1曲けにぴったりでした。スペイン風のカスタネットやタンバリンも加わり,大変景気の良い幕開けとなりました。

その後,井上さんの合図に従って,OEKメンバーによる「あけましておめでとう!」の新年の挨拶がありました。

続いて,下手側から白いドレスを着た島田歌穂さんが登場し,ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の中から「サウンド・オブ・ミュージック」「一人ぼっちの山羊飼い」「私のお気に入り」がメドレーで歌われました。タイトル曲は貫禄たっぷりに,「一人ぼっちの山羊飼い」ではコミカルに...と声を使い分け,芸達者ぶりを見せてくれました。大人の優雅さと温かみのある声は,このミュージカルの気分にぴったりでした。

この日のステージは,曲想に応じて照明の変化もしっかり付けられていました。この辺の「見た目」へのこだわりも,井上道義音楽監督ならではです。

次に演奏されたワルツィング・キャットは,井上さんお気に入りのルロイ・アンダーソンの作品です。この曲のため,自宅から猫のマスクを持って来られたのですが...「紐が切れちまった...」ということで,かぶることができず,かなり残念そうでした。この曲の最後の部分では,OEKメンバーが「ワンワン」と吠えて終わりました。こういう素朴なのがいちばん効果的かもしれませんね。

「エビータ」の「アルゼンチンよ,泣かないで」は,個人的に大好きな曲です。アルゼンチン大統領夫人エヴァ・ペロンが歌う曲で,前半はレチタティーヴォのような感じで語るように歌われます。映画「エビータ」では,マドンナが歌っていましたが,島田さんの歌の方が大人っぽい歌に聞こえました。後半に出てくる,しっとりした美しいメロディとの対比も素晴らしいと思いました。ただし,曲の最後の部分のアレンジは,やはり原曲どおりハバネラのようなリズムの方が良いな,と思いました。というわけで,少々こだわりのある1曲です。

「キャッツ」の「メモリー」は,定番中の定番の曲です。ここまでは日本語訳で歌われていましたが,この曲は英語の歌詞で歌われました。しんみりとしているけれどもその中から希望が湧き上がってくるような歌でした。ただし,この「メモリー」についても,オリジナル版の後奏に出てくる,半音を交えて下降していくような音型がなく,ちょっと残念でした。

前半の最後は,ヨハン・シュトラウスの「酒,女,歌」で締められました。思わせぶりな序奏部が気に入っている作品です。今回の演奏については,(室内オーケストラなので仕方がないのですが)ちょっと弦楽器の響きが薄いかなという気がしました。

後半はカールマンの「チャールダーシュの女王」序曲で始まりました。このオペレッタについては,過去,メラニー・ホリディさんや中嶋彰子さんの歌で「踊りたい!」を聞いたことがあります。その時のエキゾティックな雰囲気を彷彿とさせる楽しい演奏でした。コンサートマスターのサイモン・ブレンディスさんをはじめ,OEKメンバーのソロも雄弁でした。

井上道義さんは,病気で入院される前と同様の「踊る指揮」を見せてくれました。入院中に10kg体重が減ったとのことですが,その分,踊る指揮はさらに軽やかになっていた印象でした。

続く2曲は,今回のプログラムの中では例外的な選曲で,ビートルズの「イン・マイ・ライフ」とシークレット・ガーデンなど多数のアーティストによって取り上げられている「ユー・レイズ・ミー・アップ」が歌われました。

「イン・マイ・ライフ」は,オリジナル版だと,間奏にパッヘルベルのカノンを思わせる「疑似バロック風」のピアノが出てくるのが印象的ですが,今回は演奏前に島田さんがこの曲の歌詞の日本語訳を朗読するのを聞いて,まず,それだけで「深いなぁ」と思いました。調べてみると,ジョン・レノンが故郷のリヴァプールを思って作った歌詞とのことです。改めてこの曲の良さを再発見できました。島田さんの声も深く心に染みるものでした。

ちなみに今年は,「イン・マイ・ライフ」が収録されているアルバム「ラバー・ソウル」がリリースされて50年とのことです。50年残ればクラシックですね。

「ユー・レイズ・ミー・アップ」は,近年ではフィギュア・スケートの音楽によく使われていますが,元々は「ロンドンデリーの歌」からインスパイアされて作られた曲だと初めて知りました。オリジナルはアイルランド民謡ということになります。

この曲では,島田さんの声のコントロールの巧さに感動しました。裏声を使った高音部でのゾクゾクするような感じとしっかりとした落ち着きのある地声の部分とで,表情に変化があり,1曲を聞くだけで,動きのあるドラマを感じさせてくれました。包み込むような温かみのある声質は,さすがキャリア十分のミュージカル歌手だなぁと思いました。

このイギリス係の2曲を聞きながら,島田さんがスタンダード・ナンバーをしっとりと歌っていくようなコンサートがあれば聞いてみたいな,と感じました。

その後,OEKのみでシュトラウスの曲が2曲演奏されました。「楽しめ人生を」は,命令形のタイトルどおり,ティンパニの連打で始まるなど,なかなか勇ましく力強い感じの曲でした。前半最後に演奏された,「酒,女,歌」と対になるような選曲だと思いました。

ポルカ「特急」は,今回初めて聞く曲でしたが,当然のことながら新幹線を意識しての選曲でした。「意外にテンポが遅いなぁ。やはり19世紀の特急か?」などと思いながら聞いていたら,井上さんが「違う違う」とオーケストラを止め,再度「新幹線のテンポ」で演奏しなおしました。井上さんならではのウィットですね。

OEKの演奏は本当に生き生きとしていました。OEKのツァーのアンコールは,しばらくはこの曲でも良いかも,という感じのこなれた演奏でした。井上さんは演奏後,「最後の方に出てくるトロンボーンの音が新幹線風だったでしょう?」と語っていましたが,確かに「ビュワーン,ビュワーン,走る」といった感じでした。もう一度,じっくり聞いて確かめたいものです。

演奏会の最後は,島田さんの歌で,「オペラ座の怪人」と「レ・ミゼラブル」の中の曲が歌われました。後半,島田さんは赤のドレスだったのですが(紅白歌合戦の司会者のような感じの衣装替え),このコーナーではさらにもう一回,衣装を変えて登場しました。メタリックな感じの豪華な衣装(今回新調したそうです)で,演奏会の最後をゴージャスに締めてくれました。

「オペラ座の怪人」の中の「オール・アイ・アスク・オブ・ユー」は,昨年までは聞いたことのない曲でしたが(「オペラ座の怪人」自体,ちゃんと見たことはありません),今年のフィギュア・スケートはこの曲が大ブームになっていることもあり,どことなく聞き覚えがありました。オリジナルは,男女のデュオで歌う曲ですが,今回は女性から男性へのラブソングとして歌われました。ロマンティックなアリアという感じの歌なので,クラシック系の歌手が歌っても良いと思いました。

演奏会の最後は,島田さんの”当たり役”である「レ・ミゼラブル」の中の「オン・マイ・オウン」が歌われました。本来はかなり暗い曲なのですが,可憐で切ない雰囲気で始まった後,大きく盛り上がり,演奏会全体を堂々と締めてくれました。

アンコールでは,まず,OEKのみの演奏でワルトトイフェルの「スケーターズ・ワルツ」が演奏されました。非常に有名な作品ですが,近年,生で演奏されるのは,珍しいのではないかと思います。序奏部はそれほど遅くはなかったのですが,主部に入ると,しっかりと抑制されたテンポと音量でじっくりと聞かせてくれました。その滑らかさ,丁寧さと不思議な緊張感にすっかり引き込まれました。途中,次々と美しいメロディが出てきたり,冬の情景が浮かぶような鈴の音が出てきたり,懐かしい気分がどんどん広がっていきました。「この曲は小学校の掃除の時間に流れていたなぁ」とか,少々甘く,切ない気分に浸りながら聞いていました。

この日の演奏会は「女学生」で始まりましたが,最後にこの曲が出てきて,「今宵はワルトトイフェル」と言う感じでとても巧くまとまりがついていました。曲の終わり方が2曲とも同じなのが面白かったのですが,ラフマニノフの曲の終わり方が「ワン・パターン」なのと同じ事がワルトトイフェルにも言えるのかもしれません。

今回の井上さん指揮による大変丁寧な演奏を聞いて,この曲は改めて良い曲だと感じました。また,「実は,井上さんはワルトトイフェルの作品が結構好きなのでは?」と思わせるような,共感を感じさせる演奏でした。

というわけで「懐かしの名曲」を実演で復活させる,という企画も面白いのではないかと思いました。井上さんの指揮で「ペルシャの市場にて」とか「ドナウ川のさざなみ」とかどうでしょうか(「ペルシャの市場にて」なら,お客さんも合唱で参加できそう)?

この曲の間中,島田さんはステージ上でしっかりと聞いていたのですが,この状態で島田さんがアンコールを歌わないはずがありません。最後に,映画「オズの魔法使い」の中の「虹のかなたに」が歌われました。「オン・マイ・オウン」がやや暗い感じの曲でしたので,最後に幸福感に溢れた気分に浸らせてくれました。照明が微妙に暖色系の「ニジイロ」に変わっていたのも絶妙でした。

実はこの日,個人的にぐぐっと落ち込むようなことがあったのですが,島田さんの「言葉の力」を感じさせてくれる歌と井上さんの軽快な指揮ぶりをみて,何とか元気を取り戻すことができました。音楽堂のステージ上には沢山の花が飾られ,晴着を着た女性職員が出迎えてくれるなど,例年通り,お正月らしい華やかさもしっかり感じさせてくれました。

新春早々,大人の味わいと同時にエネルギーを感じさせてくれる演奏会でした。



ただし,痛恨の極みは...恒例のOEKどら焼きプレゼントをもらい損なったことです。終演後のサイン会に並んでいるうちに,全部なくなってしまったようなのですが,結構がっかりしていた人も多かったかもしれません。

サイン会では島田歌穂さんと井上道義さんからサインをいただきました。


島田さんは,事前にサインを求める人の名前を付せんにメモしてもらった上で,一人ずつ丁寧に名前を入れてくださいました。島田さんは,私の世代では,「がんばれロボコン」の「ロビンちゃん」のイメージがまだ(かすかに)残っています。最後に両手で握手していただいたのですが,「OEK握手会」といったところでしょうか。

井上さんからは久しぶりにサインをいただきました。本当に復帰できて良かったと思います。

さて,どら焼きですが,どうしても食べたかったので,演奏会の後,JR金沢駅の「あんと」の中の茶菓たろうさんに行って,どら焼きを買ってきました。さすがに,OEKの銘は入っていませんでしたが,家族への土産にもなったので丁度よかったですね。


通常の「もちドラ」(弁当忘れても傘忘れるな)とピーナッツどら焼きを購入。ほのかにピーナッツ味のするどら焼きもおいしかったですね。

(2015/01/17)





入口の立看板と門松


玄関を入ると「初春」の正月飾り。今回の公演は,北陸朝日放送が収録を行っていました。1月24日に放送予定です。


公演のポスター


恒例のプレ・コンサートは弦楽四重奏でした。


恒例の謹賀新年の看板+OEKメンバーのサイン。今年は北陸新幹線もデザインされていますね。


ラ・フォル・ジュルネ金沢のポスターも登場していました。ただし,このポスターは第1弾でしょうか?ちょっとインパクトが弱いですね。