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ミルオトキクカタチ Vol.2 伊藤公象「BLUE PEARL」の世界 コンサートI
2015年1月17日(土)14:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1) ラヴェル/弦楽四重奏曲〜第1,3楽章
2) 平義久/Dioptase(抜粋)
3) シェーンベルク/浄夜(弦楽六重奏版)

●演奏
斎藤杏子*1,坂口昌優(ヴァイオリン)
福井萌,山口梨恵(ヴィオラ)
高田剛志*3,荒井結子(チェロ)

企画コーディネート:岡本恭子
空間構成:坂本英之)


Review by 管理人hs  

2013年末に行われたミルオトキクカタチという,現代造形アートと音楽とのコラボレーション企画の第2弾が行われたので聞いてきました。この企画は石川県立音楽堂交流ホールの床に造形作家の作った作品を並べ,その同じフロアで作品からインスパイアされた曲を演奏するというものです。

今年は金沢美術工芸大学客員教授でもある美術・陶造形作家の伊藤公象さんの「Blue Pearl」という作品が展示される中で演奏会が行われました。次のような雰囲気でした。


※この日は写真の撮影が許可されていましたが,掲載に問題がありましたらご連絡ください。

伊藤さんの作品は,同じ材質だけれども一つずつ形の違う多数の陶からなる作品ということで,どこか人間社会とのアナロジーで捉えたくなる作品だと思いました。



演奏されたのは,ラヴェルの弦楽四重奏曲の抜粋,平義久のDioptaseの抜粋,そして,シェーンベルクの浄夜の弦楽六重奏版でした。

ラヴェルの曲は第1楽章と第3楽章のみ演奏されましたが,どちらも穏やかな楽章でしたので,落ち着きのある静謐な世界が広がりました。4人のメンバーによる弦楽四重奏の演奏も安定感のある演奏でした。特に第3楽章の方は青の色彩と合わさって,深い海の底のようなイメージを持ちました。オブジェに音楽が加わると,どこか良い香りが広がるように感じました。これもフランス音楽らしさかもしれません。

平義久の作品は,かなり前衛的な作風でした。こちらはヴァイオリン,ヴィオラ,チェロの3人による演奏でしたが,弦を強く弾いて,鋭く突きさすような刺々しい雰囲気を出してあり,グリッサンドのような音の動きが入ったり,特殊奏法満載でした。黛敏郎がチェロ独奏のために,「文楽」という曲を書いていますが,それを3人で演奏しているような趣があり,緊迫感が漂っていました。

1曲目のラヴェルと比較すると,かなり過激な雰囲気で,個人的にはオブジェの持つ落ち着いた雰囲気と合っているのか,やや疑問に感じる面もありましたが,一瞬も目が離せないようなスリリングさのある,実演ならではの面白い演奏だったと思います。

後半のシェーンベルクは月の光の下のロマンティックな世界が広がっていました。前半の2曲とはライティングが違っており,曲が進むにつれて,次第に明るくなるような演出になっていたと思います。オブジェの色合いが青系統で,真珠のような輝きを持っていましたので,音楽と美術のコラボという点からすると,この浄夜がいちばん気分に合っていたと思いました。

演奏の方は,甘く耽美的な雰囲気というよりは,すっきりとした明確さを感じました。曲の後半,細かく動きまわるような特徴的な音型が何回か出てきますが,間近で聞くその繊細さが大変印象的でした。その上にしっかりと歌われる美しいメロディも青いオブジェの雰囲気にぴったりでした。

曲の中盤ぐらいで,チェロの高田さんがくっきりとした音で安定した音をバーンと提示する辺りで,照明の方も明るくなっていくというのも音と美術のコラボレーションならではの面白さでした。

演奏会の最後,伊藤公象さんが登場して演奏者の皆さんを讃えていましたが,音楽と光の力で,一つの作品のイメージが大きく変化するのが作家としても大変面白かったのではないかと思います。

この日の翌日は,コンサートIIとして,ピアノのデュオ(連弾か2台か分かりませんが)との共演になりました。こちらの方には行けなかったのですが,美術と音楽の相乗効果を楽しめる,音楽堂ならではの企画ということで,今後も色々なアイデアによる続編を期待したいと思います。

(2015/01/24)





演奏会のポスター





公演のポスター


これまでにも,色々な場所で展示されてきたようです。その写真が展示されていました。