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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第75回定期演奏会
2015年1月24日(土) 18:00〜 金沢歌劇座

サン=サーンス/交響詩「死の舞踏」op.40
チャイコフスキー/バレエ音楽「白鳥の湖」op.20〜情景,ワルツ,4羽の白鳥の踊り,オデットと王子のパ・ダクシオン,ハンガリーの踊り,終曲
シベリウス/交響曲第2番ニ長調, op.43
(アンコール)シベリウス/アンダンテ・フェスティーヴォ

●演奏
新田ゆり指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団


Review by 管理人hs  

この日は,午後から石川県立音楽堂でオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演を聞いた後,香林坊のカフェで一息ついて,夕方からは金沢歌劇座に移り,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会を聞いていました。

今年の指揮は新田ユリさんで,メインで演奏される曲がシベリウスの交響曲第2番。新田さんは日本シベリウス協会の会長で,シベリウスの音楽をもっとも深く理解している指揮者の一人。これは何としても聞かねばなりません。

プログラムの前半は,サン=サーンスの「死の舞踏」とチャイコフスキーの「白鳥の湖」の組曲が演奏されました。ここで特筆すべきは,コンサート・ミストレスの活躍です。両曲とも,独奏ヴァイオリニスト名がクレジットされるぐらいのソリスティックな見せ場がある曲ですが,見事に聞かせてくれました。

「死の舞踏」を生で聞くのは初めてだったのですが,「はげ山の一夜」などと同様,夜の間,悪魔が活躍して,朝になって(オーボエが鶏の鳴き声を演奏)終わるというタイプの曲です。音楽が次々と爽快に展開し,最後は切迫した感じになっていくテンポ感が良いと思いました。

独奏ヴァイオリンは,調弦を変えたヴァイオリン2本を持ち替えていました(これはマーラーの交響曲第4番の第2楽章と同様ですね。)。死神にしてはマジメかなという気もしましたが,とてもよくこなれた演奏で素晴らしいと思いました。

2曲目の「白鳥の湖」は組曲版による演奏でした。このバレエについては,「くるみ割り人形」ほどお決まりの組曲はないのですが,我が家にあったCDに全く同じ曲を収録したものがあったので,「ほぼ定番」なのだと思います(ちなみに,我が家にあるのは,ロストロポーヴィチ指揮ベルリン・フィルのCDです)。

この演奏ですが,非常にシンフォニックで聞きごたえがありました。有名な「情景」,「ワルツ」,「終曲」など,各曲とも終盤のクライマックスの力感が見事でした。今回演奏された6曲には,それ以外に舞曲が入ったり,アダージョが入ったりするので,6曲セットで「交響組曲」といったまとまりの良さも感じました。

「ワルツ」では,途中,コルネットがメロディを演奏する部分で,結構大きな「事故」がありましたが,新田さんの指揮は,全く動じることなく,ビシっと引き締まった音楽を堪能させてくれました。

「パ・ダクシオン」は,群舞を背景にオデットと王子がたっぷりと踊る「グラン・アダージョ」として知られている曲です。この曲では,客演ハープ奏者の碑島さんとコンサートミストレスによる雄弁な演奏が印象的でした。静かな曲なので,ちょっと粗が見えてしまう部分もありましたが,「白鳥の湖」ならではのではロマンティックなシーンを彷彿とさせてくれました。

後半のシベリウスの交響曲第2番は,期待どおりの素晴らしい演奏でした。第1楽章の冒頭から地に足に着いた安心感があり,オーケストラがしっかりと鳴っているのが素晴らしいと思いました。神経質なところがなく,大陸的なスケールの大きな気分が感じられました。木管楽器などは,前半よりもさらに素晴らしいと思いました。

第2楽章へは,ほとんどインターバルなしで続けて演奏されました。第3楽章と第4楽章はもともとつながっているので,全曲を2つの部分に分けて演奏していたような感じでした。

第2楽章については,これまで地味な印象を持っていたのですが,大変雄弁な演奏でした。最初の低弦の動きなどにも,どこか深い意味が感じられ,何かの物語を聞いているようなドラマを感じました。中間部のほのかに光が差してくるような雰囲気の部分でのじっくりとした間の取り方などもスケール感が感じられ,印象的でした。勝手な印象なのですが,「孤独だけれども,何かに見守られている」...聞いていてそういった印象を持ちました。

第3楽章は,妥協のない速いテンポで演奏されました。中間部には,風景がスッと変わるような鮮やかさがありました。木管楽器のひなびた感じも良い味になっていました。

第4楽章への移行部は,何回聞いても気持ちが高ぶります。とても丁寧に演奏しており,「いよいよ来た!」という喜びがしっかり伝わってきました。この楽章では,まず,伸び伸びと演奏する弦楽器の響きに感動しました。北欧の弦の音という感じでした。この部分では,トランペットが合いの手を入れるのも大好きです。晴れやかだけれでも,大げさすぎないのがとても良かったと思います。

楽章の最後の部分で響きが明るく変わるのですが,そこにたどり着くまでに何回も何回も暗い響きの音型が続きます。この部分のとても丁寧で律義な演奏にも感動しました。そして,最後に長調に変わるのですが,ここで音楽が薄っぺらくなるのではなく,トランペットをはじめとした響きが非常に高貴で,しっかりと抑制が効いているのも素晴らしいと思いました。喜びをかみしめるように最後の最後にぐっと盛り上がる終わり方は,本当に素晴らしいと思いました。

最後の部分は,「フィンランディア」同様に愛国的な気分の高揚なのかもしれませんが,金沢で演奏した場合,やはり冬から春へと季節が移り変わる時の気持ちの高ぶりのように思えます。どこか奥ゆかしさのある喜びの表現になっているのは,湿気が多く,雪質が重い金沢らしさかな,と勝手も想像しながら聞いていました。

演奏後,大変盛大な拍手が起こりました。新田さんに花束贈呈があった後,それに応える形で,シベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」がアンコールで演奏されました。弦楽四重奏を編曲した曲だけあって,ほぼ弦楽合奏の曲でしたが,最後の部分でティンパニが入り,全メンバーの健闘をたたえるように「フェスティーヴォ!」といった祝祭的な気分で締められまました。この曲でも弦楽器の響きの清冽さが印象的でした。

後半のシベリウスでは,指揮台の上に楽譜は置いてあったのですが,ずっと青い表紙が見えたままで,1回も開かれませんでした。新田さんは暗譜で指揮をされていたことになりますが,シベリウスへの敬意が感じられ,素晴らしいな,と思いました。

この日は,午後から演奏会をハシゴする形になりましたが,OEKに続き,金沢大学フィルの演奏も素晴らしい内容でした。熟練の指揮と若さが一体となった力強く感動的な演奏会でした。

PS. アンコール曲の紹介用の掲示とか,全曲終了後,メンバー全員で客席に向かって「一同礼」のあいさつをするとか,OEKと同様のスタイルが広がっているようですね。金大フィルは,OEKとの合同演奏も毎年行っていますが,その成果が,今回の演奏の充実ぶりにも表れているのかなと感じました。今年の3月の合同公演にも期待したいと思います。

(2015/02/01)






演奏会の立看板


演奏会前の香林坊109前付近のライトアップ


こちらは香林坊アトリオ


香林坊アトリオの垂れ幕。この日の午後(OEKが演奏会を行っていた頃)は,全国高校サッカーで優勝した,星稜高校サッカー部を祝福するためのパレードがこの付近で行われていたようです。ち



こちらは金沢市役所前です。