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東芝グランドコンサート2015 トゥガン・ソヒエフ指揮トゥールズ・キャピトル国立管弦楽団金沢公演
2015年2月25日(水)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
2)サン=サーンス/ヴァイオリン協奏曲第3番ロ短調, op.61
3)ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲「展覧会の絵」
4)(アンコール)ビゼー/歌劇「カルメン」第3幕への間奏曲
5)(アンコール)ビゼー/歌劇「カルメン」第1幕への前奏曲
●演奏
トゥガン・ソヒエフ指揮トゥールズ・キャピトル国立管弦楽団
ルノー・カプソン(ヴァイオリン)*2


Review by 管理人hs  

この時期恒例の東芝グランドコンサート,今年は,トゥガン・ソヒエフ指揮トゥールズ・キャピトル国立管弦楽団が登場しました。このオーケストラが金沢で演奏会を行うのは,1999年の同じ東芝グランドコンサート以来のことです。その時の指揮者は,長年このオーケストラの指揮者を務めていたミシェル・プラッソンさんでした。恐らく,このオーケストラについては,プラッソンさんの名前とセットで記憶している音楽ファンは,(私を含め)今でも多いのではないかと思います。

ちなみに,その時の独奏者は,デビューしたばかりの樫本大進さんでした。樫本さんが演奏した曲はサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番で,今回と同じというのも面白いところです。なお,前回の会場は,石川厚生年金会館でしたので,石川県立音楽堂に登場するのは,今回が初めてということになります。

今回,メインで演奏されたのはムソルグスキー(ラヴェル編曲)の「展覧会の絵」,前半はフランス音楽ということで,ロシア出身のソヒエフさん指揮のフランスのオーケストラにぴったりのプログラムでした。そして,その期待どおりの演奏を聞かせてくれました。

最初にドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」が演奏されました。金沢でこの曲が演奏される機会は少ないのですが,まず冒頭のフルートの独奏の,ねっとりとしたアンニュイな気分が最高でした。テンポ設定は遅めで,艶をを抑えた柔らかな響きが見事でした。ホルンの冴えたクリアな音が加わり,まさに「牧神の午後」といった空気になりました。

オーケストラの音量が大きくなると,音がパッと広がり,一瞬でホールの空気が変わるのも鮮やかでした。オーケストラ全体の音が練られており,大きな生き物がヌーっと動き出すような有機的な演奏だったと思います。じっくりと聞かせるけれども重くなり過ぎず,ほの暗く始まった後,ほんのり明るくなって....というニュアンスの動きが品良くまとめられていました。何より,音楽の動きが自然でした。このオーケストラの十八番の曲なのではないかと思います。

サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番はルノー・カプソンさんの独奏でした。カプソンさんは,ソヒエフさんと同世代のフランスのヴァイオリニストで,個人的には「フォーレのヴァイオリンとピアノのための室内楽曲全集」のCD(評価が高かったセット)の主要メンバーとしての印象を持っています。恐らく,今回のサン=サーンスも得意とするレパートリーだと思います。

基本的にストレートに気持ちよく明るい音を聞かせてくれる演奏でした。荒っぽくなることがなく,聞いた後に爽快さと品の良さが残りました。今回初めて聞くヴァイオリニストでしたが,このオーケストラとの相性もぴったりで,申し分のないサン=サーンスを聞かせてくれました。

カプソンさんのヴァイオリンは,湿っぽくなるところがなく,明るさと安定感がありました。音楽が激しくなっても荒っぽくならない点が,サン=サーンスの演奏に相応しく,粋だと思いました。第2楽章のシンプルで美しいメロディも速目のテンポで演奏していました。しかし,さらりと流すのではなく,所々に揺らぎがあり,全体としてたっぷりと聞かせてくれました。木管楽器との絡みも魅力的でした。この楽章の最後の方でクラリネットとヴァイオリンが一緒にアルペジオを演奏する部分が大好きなのですが,過度に神経質になることない,美しいバランスを持った絶妙の演奏を聞かせてくれました。

第3楽章へは,インターバルを置かず,そのままアタッカでつながっていました。カプソンさんのパリッとした音がここでも冴えていました。バリバリと弾きまくる感じにならないのが,カプソンさんの魅力だと思います。すっきり,キレの良い音楽が続いた後,中間部では,瑞々しい若さを持ったしなやかな歌が溢れてきました。音楽を崩すことなく,すがすがしい爽快感を聞かせるカプソンさんの魅力をしっかり味わうことのできた演奏でした。

オーケストラの音色も見事でした。3楽章の最後に金管楽器がコラールのような感じでパーンパーン...と演奏する部分がありますが,ここでの整った力感と華やかさも大変印象的でした。 

後半の「展覧会の絵」については,ピアノ独奏版は実演で何回も聞いていますが,ラヴェル編曲のオーケストラ版の方は,実演で聞くのは今回が2回目です。ソヒエフさんの指揮はインスピレーションに溢れ,所々でこれまでに聞いたことの内容なハッとする瞬間が出てくる演奏でした。オーケストラの響きは,ダイナミックレンジが広く,この曲でも,まるで「生き物」のように,その姿を変化させていました。

私は3階席で聞いていたのですが,この日は金沢市内の吹奏楽関係(多分)の生徒が沢山入っていました(OEKの定期公演で言うところのスターライト席ですね)。この日の表現力豊かな「展覧会の絵」は,大変勉強になったのではないかと思います。

曲の最初のトランペット独奏は,安定感抜群でした。全く不安なところのない,輝きと強さを持ったファンファーレが突き抜けて聞こえてきました。快適なテンポで平然と演奏された後,音楽がオーケストラ全体へと明るく広がっていきました。トランペットをはじめとして,各パートの音の生きていると同時にオーケストラ全体としての音色の統一感があるのも良いと思いました。

「古い城」でのサクソフォーンの音もオーケストラとの統一感があり,フランスの音だなぁと思いました。曲の最後の部分では,音を大きく強調して存在感をアピールでしていました。伴奏パートでのファゴットの単純な繰り返しも非常によく聞こえ,不思議な存在感を漂わせていました。

フルートとオーボエの磨かれた音が生き生きと続く「テュイルリーの庭」の後,重い音が支配する「ブイドロ」となります。ここでは,主旋律を朗々と演奏した小型テューバ(ユーフォニウム?)のものすごい表現力に会場全体が支配されました。弦楽器の厚みのある音は,次第に念を押すように遅いテンポとなり,ここでも独特の凄みを聞かせてくれました。その後の「殻をつけたひなの踊り」での軽快で色彩的な気分に変わりますが,各曲の鮮やかな描き分けが見事でした。

「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ」では弦楽器のしっかりとした音が見事でした。ただし,重苦しくならず,どこか透明感あるのがこのオーケストラの特徴だと思います。この曲では,トランペットの高音での連符が続く難所がありますが,平然とクリアしていました。この日のトランペットは絶好調だったと思います。

「リモージュ」ではホルンのスカっとした見事な音が素晴らしく,鮮やかな音の奔流となっていました。この曲に続いて,「カタコンブ〜死者とともに」と暗い気分になります。テューバを始めとした管楽器の重いけれども美しい強音と繊細な弱音とのダイナミックスのダイナミックレンジの広さが聞き物でした。ここでもトランペットが素晴らしく,暗闇に光が差すように,十分にコントロールされたクリアな音が突き抜けて聞こえてきました。最後の部分の弦楽器のトレモロのリアルさは実演ならではだと思います

「バーバ・ヤーガの小屋」では,ティンパニの硬質な音を中心に,びしっと締まった,明晰な演奏を聞かせってくれました。そのまま,終曲の「キエフの大門」につながりますが,この入りの部分は大変スマートで,滑らかでした。過度に大げさになることはないのですが,終盤が近づくにつれて,次第にロシアの表情が強くなっていくようでした。要所要所でソヒエフさんならではの意表を突くような音の変化を聞かせてくれました。

特に印象的だったのは,最後の盛り上がりで,チューブラベルではなく鐘を使っていた点です。この音がとてもよく聞こえ,ロシアらしさを強調していたようでした。くっきりとした強弱の対比 緊張感のある間など,アクの強さもあったのですが,それがしつこくならないのがソヒエフさんらしさかもしれません。最後の部分での大太鼓の音は大変ダイナミックで,わざとタイミングをずらしているような感じで,洗練味と野性味とが合わさった,魅力たっぷりのエンディングとなっていました。

全曲を通じて,各曲ごとの音色と表情の変化が多彩で,次々と音の引き出しが開かれていくようでした。久しぶりにこの曲のオーケストラ版を実演で聞いて,本当に魅力的な作品だなぁと改めて実感しました。

アンコールでは,ビゼーのカルメン組曲から2曲演奏されました。フルートの凛とした音と,それをじっくりと支えるオーケストラの音色が魅力的でした。ロシアの指揮者は大体2曲アンコールをしてくれるのですが,今回も2曲目がありました。1曲目が静かな曲だったので,「きっと威勢よく「あの曲」で終わるだろう」と予想していたのですが,やはり,「カルメン」の第1幕への前奏曲でした。いかにもフランスのオーケストラらしい,明るく,カラッとした演奏で,演奏会を気持ちよく締めてくれました。

この曲では,大きく両手を広げるシンバル奏者に注目してしまいました。他の曲でも大きく広げていましたが,この曲はシンバルの出番が多いので,「主役」のように様になっていました。ソヒエフさんは,かなり指揮台の隅に立って指揮することが多かったのですが,この曲の最後の方では,「勢い余って」か,そのまま袖に退場し,自然発生的に起こったお客さんの手拍子の中,和やかなムードの中,指揮者なしで演奏は終わりました。

ソヒエフさん,カプソンさんともに,30代の後半ということで,これからますます世界的な活動を広げていくアーティストだと思います。このところ,東芝グランドコンサートには,こういったアーティストが登場しますが,今後の活躍に注目したいと思います。

(2015/02/28)








ホール入口の案内


新幹線が見えるかと思ったのですが...いませんでした。

サイン会はなかったので,楽屋口で「出待ち」。お2人からサインをいただけました。


ソヒエフさんには,トゥールズ・キャピトル国立管弦楽団を指揮したチャイコフスキーの交響曲第5番のCDにサインをいただきました。


カプソンさんには,フォーレの室内楽曲集のボックスCD(非常に安いCDでした)に頂きました。