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石川県音楽文化振興事業団・金沢芸術創造財団・東京芸術劇場共同制作公演
喜歌劇「メリー・ウィドウ」金沢公演
2015年2月28日(土) 15:00〜 金沢歌劇座

レハール/喜歌劇「メリー・ウィドウ」(全3幕,字幕付原語(ドイツ語,英語,フランス語),一部日本語上演)

●演奏
ミヒャエル・バルケ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
合唱:メリー・ウィドウ特別合唱団(合唱指揮:犀川裕紀)
演出・台本:茂山童司

配役
ミルコ・ツェータ(ポンテヴェドロ国の東京駐在公使):セバスチャン・フップマン
ヴァランシエンヌ(日本出身のツェータの妻):小林沙羅
ダニロ・ダニロヴィッチ(大使館の書記官):ペーター・ボーディング
ハンナ・グラヴァリ(日系ポンテヴェドロ人で資産家の未亡人):小川里美
カミーユ・ド・ロシヨン(フランス人):ジョン・健・ヌッツォ
カスカーダ(日本人):城 宏憲
ラウール・ド・サンブリオシュ(日本人):晴 雅彦
ニェーグシ(大使館の参事官):戸田ダリオ
ボグダノヴィッチ(ポンテヴェドロ領事):新井克
シルヴィアンヌ(領事夫人);武藤直美
クロモウ(ポンテヴェドロ大使館参事官):津田俊輔
オルガ(参事官夫人):外山愛
プリチッチ(ポンテヴェドロの退役陸軍大佐):根本龍之介
プラスコーヴィア(大佐夫人):石井藍
スペシャルゲスト:メラニー・ホリディ


Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は,毎年のように石川県外の劇場との共同制作でオペラを上演しています。今年は,昨年の「こうもり」の続編のような形で,喜歌劇「メリー・ウィドウ」が上演されました。個人的に「メリー・ウィドウ」は,「いつやるか?今年でしょ?」と思っていた待望の作品です。

制作のコンセプトは昨年の「こうもり」同様,舞台を国際都市東京に変更し,ストーリーはそのままで,インターナショナルな雰囲気で進めるというものでした。登場した歌手も昨年とほぼ同様でした。ステージ全体に,架空の国「ポンテヴェドロ」のロゴをあしらい,具体的な場所をイメージさせない,スタイリッシュなものでした。



通常,金沢歌劇座の舞台袖には「壁」があるのですが,この日はその「壁」を取り払っており,舞台裏の照明などがほとんど見えてしまっている形でした。なかなか大胆でしたが,それが近未来的な雰囲気を作っていました。

面白かったのは使っていた言語です。セリフ部分は,ほとんどが英語でしたが,カミーユの出てくるところではフランス語,日本人だけの時は日本語のセリフ,歌詞の部分はオリジナルどおりドイツ語という感じのマルチリンガル・オペレッタとなっていました。これだけ多言語が飛び交う作品も珍しいですね。マッサンもマッサオという感じです(失礼しました)。

ストーリーは,文章で書くと結構複雑なのですが,実際の演技を見ていると分かりにくい部分はなく,字幕をあまり読まなくても自然に楽しむことができました。音楽も親しみやすい音楽が多く,あっという間に時間が過ぎていきました。

第1幕は,躍動感のある軽快な音楽で始まります。今回の指揮者のミヒャエル・バルケさんは,今回の公演がアジア・デビューとなる若手指揮者です。この部分では,CDで聞くよりも打楽器の音がクリアに聞こえてきて,生きの良さを感じさせてくれました。

登場人物の衣装は,チョコレートの銀紙を思わせるような「宇宙人か?」といった感じの斬新なものでした。金沢21世紀美術館のスタッフの制服もびっくりという感じの近未来的な雰囲気がありました。「メリー・ウィドウといえば,ウィーン」という印象がありますが,それに徹底して反発するような大胆な衣装でした。

この衣装ですが,特にヒロインのハンナ(日系ポンテヴェドロ人の資産家の未亡人)役の小川里美さんが着ると実に格好良いですね。長身の小川さんの場合,何を着てもファッショナブルに見えますね。

ドラマが始まってしばらくして,舞台中央の扉が開き,ハンナが男たちに囲まれて登場しました。この登場の仕方も素晴らしかったですね。文字通り輝くような気品と華やかさがありました。小川さんの声と演技には,この雰囲気にぴったりの気品がありました。前回の「こうもり」の時同様,小川さんを当てて作られた「メリー・ウイドウ」という感じでした。

もう一人の主役と言っても良い,ヴァランシェンヌ(ポンテヴェドロ国の東京駐在大使の妻)役の小林沙羅さんには,ちょっとコケットリーな可愛らしさがあり,ドラマを大きく盛り上げてくれました。余談ですが,小林さんの「ダメヨ,ダメダメ」(正月のテレビ番組以来,結構久しぶりに聞いたかも...)というセリフを聞きながら,「言われてみたいかも...」などと思っていました。

小川さんと小林さんは,2年連続の「OEKオペレッタ・シリーズ(勝手にシリーズ化していますが)」での共演ということで,着実に金沢でのファンが増えていると思います(私もその一人です)。スター性のある強力ツー・トップのお2人がいれば,結構いろいろなオペラを上演できると思いますので,是非,OEKとの再共演に期待したいと思います。

それぞれの相手役の男声歌手も昨年に続いての登場で,息もぴったりでした。特にハンナの元恋人ダニロ役のペーター・ボーディングさんの声には,瑞々しさと主役らしい貫禄がありました。小川さんと2人並んだ時のバランスもとても良く,ハンナが惚れ直すのも自然と思いました。

その他の男声歌手ではカミーユ役のジョン・健・ヌッツォさんのリリカルな高音が相変わらず見事でした。この手の役(浮気相手?)には本当にぴったりです。

今回の公演の合唱団は,声楽アンサンブルという感じの少人数で,いろいろな場面で盛り上げ役になっていました。小川さんを取り巻いて,男声合唱団が誘うような場面が何回かありましたが,「ちょっと参加してみたいな」と思いながら聞いていました。

第1幕の最後の方では,ダニロとハンナが「無理にダンス」をする感じだったのが,段々と「縒りを戻す」ようなムードになっていきます。しかしまた反発し...と次の幕に期待を持たすような終わり方になっていました。

第2幕の最初の方はダンス・シーンになります。この部分は,東欧風の雰囲気の音楽なので,「近未来の東京」とどう関連するのかやや分かりにくい部分はありましたが,ウェーブをするように順番に手を上げていく振付なども楽しく,湧き立つような場となっていました。

そして,お待ちかねのハンナによる「ヴィリアの歌」となります。たっぷり,うっとりと小川さんが歌うのを聞きながら,「これは,恋の病の歌なんだなぁ」と秘めた思いがしっかりと伝わってきました。「おバカな騎士」の歌には,どこか可愛らしさと親しみやすさがありました。いかにもオペレッタという感じの曲ですね。

第2幕の中盤には,「コントコーナー」がありました。第1幕から狂言回し的な役柄で大活躍の戸田ダリオさん演ずるニェグーシを中心に,各種ギャグ満載でしたが,この部分では,さらにパワーアップしていました。

男性2人組(役名が実はよく分からなかったのですが...)による,互いに茨城と埼玉を川柳のような感じのセリフで馬鹿にし合う「ケンミンショー的コント」。女性3人(こちらも役名がはっきり分からなかったのですが...)がそれぞれに”探偵役”ニェグーシと絡み,意外な人物関係が浮き上がってくる場,などが続きました。この女性3人tのニェグーシに対するリアクションの違いも面白かったですね。この場は「ダラ!」(金沢弁)の強烈な一撃がいちばん受けていましたね。

このように,今回の公演では「音楽以外」のセリフだけの部分も沢山ありました。「メリー・ウィドウ」は音楽だけだとCD1枚程度に収まる程度の長さですが,この日は休憩2回を含め3時間ぐらいかかっていました。楽しかったけれども,ややセリフが多すぎるかなという気もしました。

その後,男声歌手だけによる「女,女,女」のアンサンブルの部分になります。皆さん大変楽し気に歌っていました。アンコールで2回演奏するのも「お決まり」ですね。最後の部分でももう一度出てくるので,「メリー・ウィドウ」全体のテーマ音楽みたいな位置づけになっていました。こういうユーモスな行進曲風の合唱曲が入るのは,「マイ・フェア・レディ」をはじめ,ミュージカルでも定番ですね。そういう意味では,「メリー・ウィドウ」はミュージカルにつながる作品なのかもしれません。

第2幕後半では,カミーユのロマンティックな歌が本当に見事でした。この歌を聞いた後ならば,ヴァランシェンヌが「これが最後.よ..」という感じでカミーユと二人で四阿(あずまや)の中に入っていく,という展開も納得でした。その後,中に入っているはずのヴァランシェンヌとハンナが入れ替わり,旦那さんが騙され,主要人物によるアンサンブルになっていくあたり,「フィガロの結婚」の雰囲気と似ているなぁと思いました。主要登場人物5人(ハンナ×ダニロ,ヴァランシェンヌ×ツェータ,カミーユ)のそれぞれの思いが交錯する素晴らしいアンサンブルでした。

そして,第2幕後半でも,ハンナとダニロが良いムードになるけれども,中々くっつかないという展開になります。背後に流れるメリー・ウィドウ・ワルツのムードにぴったりでした。

第3幕の最初は,「ヴィリアの歌」をオーケストラだけで演奏する間奏曲で始まりました。その後,キャバレー,マキシムの場でのダンス・シーンになります。ヴァランシェンヌの「グリゼットの歌」に続いて,オッフェンバックの「天国と地獄」のカンカンの部分が入るのが定番ですが,この日のテンポはややおっとりとした感じで,ややおとなしめだったかもしれません。「加賀百万石風(?)」といったところでしょうか。

ちなみにこの部分で「ヴァランシェンヌにこんな特技があったとは」というセリフがありましたが,「昔取った杵柄」という和風な言葉が突如頭に浮かんできてしまって,妙に嬉しくなりました。このヴァランシェンヌは,メラニー・ホリディさんの当たり役でしたが,今回の小林沙羅さんの,歌と踊りも大変チャーミングでした。

そして,「お待ちかね」という感じで,そのメラニー・ホリディさんが登場しました。パーティのお客様という設定で,お得意のオペレッタ中のアリアを1曲歌ってくれました。私の記憶が確かならば...レハールの喜歌劇「ジュディッタ」の中の「熱き口づけ」だと思います。スペイン風味のある,ホリディさんの十八番ですね。

ドラマの方は,ハンナとダニロの2人が,メリー・ウィドウ・ワルツを歌いながら,不器用でロマンティックな展開を乗り越え,ようやく結ばれるエンディングとなります。このワルツですが,大変ゆったりとしたテンポで,た〜っぷりと聞かせてくれました。この2人に絡み合ってくるチェロ(この日は誰が演奏していたのでしょうか?)のメロディの歌わせ方も大変ロマンティックでした。

最後,ホリディさんの一言で,「めでたし,めでたし」と,すっきりとハッピー・エンドとなるのもなかなか粋でした。

カーテンコールの時には,ホリディさんによって「花は咲く」が歌われました。1番の歌詞は日本語で歌われましたが,その美しい発音が素晴らしく,心に染みました。ホリディさんの声はさすがにやや衰えて来た感じはしましたが,その美しい日本語の発音を聞くといつも,歌心があるなぁと感じます。オペレッタの最後に「アンコール」があるのは,例外的ですが,大変暖かい気持ちにさせてくれる歌でした。

「メリー・ウィドウ」を実演で見るのは,今回が2回目ですが(15年ぶりのことです),何よりもレハールの音楽が魅力的だと思いました。それに独創的な演出や魅力的な歌手たちが加わり,今年もまたオペレッタをしっかりと楽しむことができました。先にも書きましたが,特に小川さんと小林さんが出演するオペラをまた観てみたいものです。

オペレッタの路線とは少しずれますが,この際,オペレッタから一歩進んで,古典的ミュージカルをOEKの演奏で上演するというのも考えられる気がします。小川里美さんによる「マイ・フェア・レディ」とか,小林沙羅さんによる「サウンド・オブ・ミュージック」とか...勝手に夢を広げてしまいます。

OEKによる次回のオペラ公演は,同じ歌劇座で行われる井上道義指揮,野田秀樹演出の「フィガロの結婚」です。「庭師は見た!」というサブタイトルも気になります。これには小林さんがスザンナで登場しますが(いかにもぴったり。ちなみに役名は「スザ女」となっています),こちらも大変楽しみです。期待したいと思います。

(2015/03/06)







公演のポスター


今回の上演時間です。

終演後は,18:00過ぎで真っ暗でした。



前回,「メリー・ウィドウ」を観たのは,2000年に同じ金沢歌劇座(当時は金沢市観光会館でしたが)で行われた,ハンガリー・ブダペスト・オペレッタ劇場の公演でした。なぜかこの公演のポスターを持っているのですが,大変楽しい公演だった記憶があります。