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第12回石川県学生オーケストラ&オーケストラ・アンサンブル金沢合同公演:カレッジコンサート
2015年3月3日(火) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)シベリウス/「カレリア」組曲, op. 11(OEK+学生)
2)ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第1番ハ短調, op.36(OEK)
3)ニールセン/交響曲第2番ロ短調, op.16「四つの気質」(学生+OEK)

●演奏
松井慶太指揮オーケストラ・アンサンブル金沢;石川県学生オーケストラ(金沢大学フィルハーモニー管弦楽団,金沢工業大学室内管弦楽団のメンバー)*1,3
塚田尚吾(ピアノ)*2, 藤井幹人(トランペット)*2


Review by 管理人hs  

石川県内の大学のオーケストラとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が合同で演奏する「カレッジ・コンサート」を聞いてきました。このコンサートは,毎年,OEK単独では演奏できないような大き目の編成の作品が演奏されるのが楽しみです。今回で12回目となります。

今年はニールセンの交響曲第2番「四つの気質」という,演奏される機会の大変少ない,とびきりの作品が演奏されました。金沢だと,この機会を逃したら二度と実演で聞くことはできないかもしれませんね(大げさ?)。

今回の指揮者は,近年,OEKを指揮する機会が増えている松井慶太さんでした。松井さんは大変長身の指揮者ですが,その音楽も大変スケールの大きなものでした。最初のシベリウスの「カレリア」組曲では,じっくりとしたテンポで,ゆったりとした詩情を感じさせてくれるような演奏を聞かせてくれました。第1曲「間奏曲」の最初の弦楽器のトレモロなどを聞いていると,「ブルックナーの交響曲か?」と思わせる,悠揚迫らぬ気分がありました。

ちなみに,この日はエキストラで名古屋フィルの首席ホルン奏者の安土真弓さんが参加していました。安土さんは,石川県出身の方ですね。この曲の最後の部分ではホルンが高音の弱音を聞かせますが,さすがという感じでした。これからも時々,金沢に来て欲しい方ですね。

第2曲は,滔々と流れる大河のような趣きがありました。弦楽合奏の荘厳が気分,しみじみとしたイングリッシュホルンの音など大変聞きごたえがありました。有名な第3曲「行進曲風に」でも,ゆっくりと流れるような優雅さがありました。編成を見てみると,フルートが6本ぐらいいる巨大な編成でしたが,ゆったりと演奏することで,各パートの対位法的な音の絡み合いがしっかりと聞こえてきて,とても面白い演奏だったと思いました。

2曲目はOEK単独の演奏で,ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番が演奏されました。ピアノは,昨年の北陸新人登竜門コンサートに出演して以来,頻繁にOEKと共演している塚田尚吾さん,トランペットはOEKの藤井幹人さんでした。

OEKは,この曲を頻繁に取り上げていますが,この日の演奏は,第1楽章の冒頭から,古典派のピアノ協奏曲のような,均整の取れた演奏だったと思います。特に塚田さんのピアノは,速いパッセージもスムーズに聞かせる軽快な演奏でした。その分,この曲の特徴の一つでもあるユーモアやアクの強さは少なく,ソツのない演奏という感じでした。その点で,ちょっと物足りなく感じたのですが,そのクールな味わいもなかなか良いと思いました。

藤井さんは,この曲の独奏を何回も担当しているだけあって,OEKの音とのバランスが大変良い,熟練の演奏を聞かせてくれました。OEKの演奏では,冒頭部分からコントラバスの低音がしっかりと効いていました。その迫力に加え,ジャズを思わせるような軽妙ながあるのが面白いと思いました。

中間の楽章でじっくりとした音楽を聞かせた後,最後の楽章では,一気に疾走する音楽となります。この楽章では,途中,強烈に「ジャン」とピアノが不協和音を演奏する部分に注目してしまうのですが,かなりあっさりとしていました。その点で,上述のとおり,古典派のモーツァルトの協奏曲を聞くような雰囲気だなと思いました。

後半はお楽しみのニールセンの「四つの気質」でした。古代ギリシアの医者ヒポクラテス(「医学の父」と呼ばれている人ですね)は,人間の気質を「多血質」,「胆汁質」,「粘液質」,「憂鬱質」に分類したのですが,それを交響曲の各楽章の性格に当てはめたという大変面白いアイデアの作品です。

まず素晴らしいと思ったのは,第1楽章の最初の音でした。「短気で怒りっぽい胆汁質」の楽章ですが,オーケストラの音がビシっと締まり,鍛え抜かれた強靭な音を聞かせてくれました。この部分をはじめ,全曲を通じて,弦楽器が特に素晴らしいと思いました。合同公演を通じて,学生オーケストラもどんどん成長しているのではないかと思います。木管楽器の方は,弦楽器に比べるとやや遠慮がちな印象でした。

第1曲目のシベリウスではOEKがトップ奏者,3曲目のニールセンでは学生側がトップ奏者になっていましたが(このパターンも毎回恒例ですね),コンサートマスターの学生の演奏フォームが,お隣に座っていたアビゲイル・ヤングさんを思わせるような力強い動作で,見事に全体を引っ張っていたのではないかと思います。

第2楽章は軽めの楽章でのんびりとしたムードがありました。ほのぼのとした感じのある,心地よいスケルツォという気分でした。第3楽章には,深刻でメランコリックな雰囲気がありました。弦楽器がここでも素晴らしく,充実のカンタービレをじっくりと聞かせてくれました。荘重な美しさが印象的でした。

そして,「多血質」の第4楽章がとなります。交響曲の楽章に当てはめるならば,これしかないという配列ですね。

この楽章は学生オーケストラが演奏するのに相応しい若々しい躍動感がありました。この楽章では,途中,ティンパニがほとんどソロのような感じでロールを繰り返す,ティンパニ奏者冥利に尽きるような部分が出てきましたが,大変思いきり良く,見事に聞かせてくれました。その後に続く,ヴィオラを中心としたしっとりとした気分の弦楽合奏も印象的でした。

その後,曲の最後のクライマックスに向かって大きく盛り上がっていきます。その喜びと明るさに溢れた雰囲気も良かったのですが,最後の最後の部分は,「多血質」という感じよりは,どこかのどかで,平和な気分があると思いました。

この公演は,平日の夜に行われたこともあり,お客さんの入りはあまりよくありませんでしたが,滅多に聞けないような「隠れた名曲」をしっかりと楽しむことができました。毎年毎年,マニアックな曲を取り上げるのも大変かもしれませんが,今後も是非,チャレンジングなプログラムを期待したいと思います。

(2015/03/06)






「あ!」と「絵」が気になる公演ポスターです。


この日は,同じ時間帯に交流ホールでは田島睦子さんのリサイタルも行っていたようです。OEKファン的には,「どちらも行ってみたかった」というのが正直なところです。



開演前に練習中のスライドショーが流れるというのも,すっかり恒例になりましたね。


北陸新幹線の開業まで,いよいよ10日を切りました。文字通り秒読み状態ですね。