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ギドン・クレーメル with トンヨン・フェスティバル・オーケストラ
2015年4月7日(火) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ユン・イサン/礼楽(レアク)(1966)
2) シベリウス/ヴァイオリン協奏曲ニ短調,op.47
3) (アンコール)ワインベルク/ヴァイオリン・ソナタ第2番
4) マーラー/交響曲第4番ト長調
5) (アンコール)シュトラウス,R./4つの歌,op.27〜あすの朝
●演奏
クリストフ・ポッペン指揮トンヨン・フェスティバル・オーケストラ*1-2,4-5
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン*2-3),カロリーナ・ウルリヒ(ソプラノ*4-5)


Review by 管理人hs  

音楽堂の近所の神社に咲いていた桜満開の桜の中,新年度になって最初に出かけた演奏会は,日本,中国,韓国の3国のオーケストラのメンバーからなるトンヨン・フェスティバル・オーケストラの金沢公演でした。このオーケストラの名前はこれまで聞いたことはなかったのですが,スイスのルツェルン祝祭管弦楽団のような形で,トンヨン国際音楽祭(TIMF)用にオーケストラを編成したものです。ちなみにトンヨンというのは韓国の都市名です。

チラシの情報によると,メンバーの核となっているのが,アンサンブルTIMF,香港シンフォニエッタ,そして,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)です。既にいくつかの国際的な音楽祭に参加しているOEKですが,また新しい方向性が出て来た形になります。

ただし,OEKメンバーはそれほど多く参加していませんでした(チェロのカンタさんぐらい?元メンバーのトーマス・オケーリーさんがティンパニでした)。いずれにしても,アジアの3つの国からのメンバーが交流して,一つの芸術作品を作り,3国で公演を行うという活動は,色々な点で有意義なことだと思います。

チラシとプログラム今回の公演はソリストとして,ヴァイオリニストのギドン・クレーメルが参加している点がいちばんの目玉で,チラシやポスターもクレーメルさんの肖像を全面に出していました。ただし,個人的には後半に演奏されたマーラーの交響曲第4番が特に素晴らしいと思いました。

指揮のクリストフ・ポッペンさんは,ヴァイオリニストとしても有名な方です。石川県立音楽堂が完成した2001年にフルートのエマニュエル・パユとケルビーニ弦楽四重奏団が音楽堂で演奏会を行っていますが,この弦楽四重奏団の第1ヴァイオリンがポッペンさんでした。その他,1999年末にOEKを指揮し,第9とミサ・ソレムニス演奏しています。近年は指揮者としての活動を中心とされているようですが,指揮者として金沢に登場するのは,それ以来のことではないかと思います。

演奏会の最初には,韓国トンヨンを本拠地とする音楽祭のオーケストラらしく,トンヨン出身の作曲家ユン・イサンの「礼楽(レアク)」という作品が演奏されました。1960年代の作品ということで,かなり前衛的な感じの響きのある作品でしたが,冒頭いきなり出てくる木製の打楽器の鋭い音をはじめ,どこか「アジアの祝祭」のムードを感じさせてくれました。長く伸ばされた不協和音が中心の曲で,時々,バス・ドラムなどの打楽器がアクセントを加えていました。打楽器のリムショットや弦楽器の特殊奏法を加え,不思議な音世界が広がっていました。

続いて,ギドン・クレーメルさんが登場し,シベリウスのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。クレーメルさんのシベリウスについては,以前,井上道義/OEKとの共演も聞いたこともありますが,その時に比べると,クレーメルさんも円熟したなぁと感じました。音の切れ味が鋭く,ややエキセントリックな怪しさがあるのがクレーメルさんの個性だと思っていたので,その点ではちょっと物足りなさを感じたのですが,これもクレーメルさんの「進化」なのかもしれません。

まず,独奏ヴァイオリンの前に譜面台があるのが意外でした。近年は譜面を見てピアノ協奏曲を演奏するピアニストも居ますが,ヴァイオリニスト協奏曲については珍しいかもしれません。ステージ上の雰囲気も以前に比べると,貫禄が増したような気がしました。

クレーメルさんの演奏については,「現代的」「クール」という印象を持っていたのですが,今回の演奏を聞いて,意外なことに「あったかいんだから〜」と感じました。神経質でピリピリとした感じがなく,情感の表出も控えめで,第1楽章の中間に出てくるカデンツァもキレキレというよりは,しみじみとした味わい深さのようなものを感じました。オーケストラの演奏にも,クレーメルさんをしっかりと支えるような大らかさがありました。

第2楽章でもヴァイオリンの音にはしみじみと落ち着いた味がありました。ヴィブラートもしっかり掛けており,もしかしたらクレーメルの師匠のダヴィード・オイストラフの演奏に近づいているのかな,という気もしました。

第3楽章も激しすぎない演奏でしたが,前の2つの楽章に比べると躍動感があり,「目覚めた!」という印象でした。クレーメルさんらしい「フェイント」的な音の動きを含む「自在さ」がありました。ただし,速いパッセージではちょっと窮屈な感じになったり,パーフェクトな演奏という感じではなかった気がしました。

演奏後,すぐに「ブラーヴォ」の声が掛かりましたが,あまり美しい声ではなかったので,「ちょっとうるさいな」という感じでした。

アンコールでは,「本領発揮」という感じの演奏を聞かせてくれました。ワインベルクという作曲家による,ソロ・ヴァイオリンのための作品で,どこか人を喰ったようなユーモアを感じさせるところがありました。アンコールにしては珍しく,2つの楽章から成っている曲で,どこか変な曲なのだけれども,クレーメルさんが演奏すると音楽的になり,しっかりと楽しませてくれました。きっと十八番の曲ではないかと思います。クレーメルさんの演奏については,「いわゆる名曲」よりは,何が出てくるか分からないような現代の作品の方が面白いのかな,と感じました。

後半はマーラーの交響曲第4番が演奏されました。マーラーの作品の中では編成的にも長さ的にも比較的コンパクトな作品です(それでも1時間近くはかかりますが)。楽器の配置は,前半とは違い,ヴァイオリンを左右に分ける対向配置になっていました。シベリウスとマーラーとで配置を変える,というのが面白いところです。

第1楽章は,その曲想によく合った速目のテンポで始まりました。曲全体としても,停滞することのない,とても気持ちの良い演奏を聞かせてくれました。その一方で曲想の変化に応じて,テンポの変化も鮮やかに表現されていました。例えば,第2主題になると,パッと気分が変わり,別の風景が立ち上がってくる...そういう感じの演奏でした。楽章の後半で大きな間を取った後,コーダに向けて健康的な音楽が続く辺りも聞きものでした。

オーケストラも素晴らしく,木管楽器を中心に随所でくっきりとした響きを聞かせてくれました。大らかさのあるホルン,フルート4本(こういう曲は珍しいかも)による輝きのある明るさ...そして,オケーリーさんの力に溢れたティンパニと,聞き所満載でした。特にオケーリーさんのティンパニを聞いて懐かしくなりました。

ちなみに...第1楽章の最後の方に出てくるヴァイオリンの音を聞くたびに「マントヴァーニ楽団のようだ(古い?)」と思うのですが,私だけでしょうか。とても品の良い音でした。

第2楽章はコンサートマスターが2種類のヴァイオリンを持ち替えてソリスティックに聞かせてくれました。この楽章では,ヴァイオリン以外にも色々な楽器のソロが活躍します。次々に点描的に主役が交替してく,いかにもマーラーらしい面白さのある演奏でした。この楽章の中間部でもヴァイオリンが陶酔的な音を聞かせる部分が出てきますが,ドロドロとした感じはなく,清潔感がありました。

第3楽章は天国的な気持ち良さのある楽章で,「実は,まだ週の前半なんだけど...ずっとこの幸福感に浸っていたいものだ」と思わせる演奏が続きました。十分に歌っているけれどももたれることのないテンポで,穏やかな気分が持続していました。

その中で,オーボエが積極的な音を聞かせたり,楽章の後半にティンパニを中心とした打楽器の見せ場が出てたり,変化に富んでいました。特にオケーリーさんのティンパニの音が印象的でした。これ以上ない,といった感じのビシっと強く引き締まった音で「お見事!」と声を掛けたくなりました。その後,他の楽器が加わり,パッと色彩感が広がるのも素晴らしいと思いました。

第4楽章では,ソプラノのカトリーナ・ウルリヒさんの声が見事でした。まさに逸材という感じの素晴らしい声の持ち主で,何よりも声に余裕がありました。安心して「天国」に浸ることができました。ウルリヒさんは,第1楽章の最初からずっと指揮者の前で待機していましたが,最初から瑞々しい声を聞かせてくれて,素晴らしいなと思いました。

この楽章では第1楽章の再現のような形で鈴が出てきますが,その躍動感のある音との対比も鮮やかでした。曲の最後は,ハープとコントラバスの伴奏だけが残り,さらにコントラバスだけが長〜く音を伸ばして静かに終わります。この長い音が実に良い余韻となっていました。

金沢でマーラーの交響曲第4番を実演で聞く機会は非常に少ないのですが,大満足の演奏でした。

終演後,ポッペンさんは各パートの奏者を立たせていましたが,オケーリーさんの時の拍手がいちばん大きかったかもしれません。この日のお客さんの多くはOEK定期会員だったと思いますが,オケーリーさんのティンパニの素晴らしさを聞いて,大変うれしかったのではないかと思います。

「アンコールはないかも?」とも思っていたのですが,R.シュトラウスの「4つの歌」の中の「あすの朝」が演奏されました。音を聞いた瞬間,後期ロマン派的な香りが漂ってくるような曲で,コンサートマスターの誠実な音とウルリヒさんの声とが見事にマッチしていました(この曲ですが,1年少し前に篠崎史紀さんのヴァイオリン,直江学美さんのソプラノ,黒瀬惠さんのオルガンで聞いたなぁということを思い出しました)。

トンヨン国際音楽祭については,スイスのルツェルン音楽祭のような形を目指しているようです。日本海に飛び出している形の石川県は,見ようによっては,日中韓の結節点にも見えます。今回のような,大編成のオーケストラ作品を聞ける機会ということで,是非,来年以降の音楽祭の継続開催に期待したいと思います。

 音楽祭全体のプログラムも配布されました。

PS.今回意外だったのは,入場料が最高でも4000円(しかもクレーメルが聞ける)にも関わらず,かなり空席があったことです。やはり年度初めの平日の夜はなかなか出掛けにくいのかもしれません。オーケストラ入門用にぴったりな公演だったので,少々残念でした。是非,新幹線に乗って聞きに来て欲しい演奏会です。

PS. この日は寒かったのですが,楽屋口で出待ちをして奏者のサインをもらってきました。
   
ポッペンさんのCDは持っていないかな?と思ったのですが,調べてみたら...ヴァイオリニストとしてのCDを持っていました。バッハのヴァイオリン協奏曲集(左)です。クレーメルさんには,「Romantic Echoes」というR.シュトラウスのヴァイオリン・ソナタなどを収録したアルバム(右)に頂きました。

 ウルリヒさんにはプログラムに頂きました。今後,貴重なサインになりそうな気がします。ウルリヒさんはチリ出身で,歌声同様に大変美しい声の方でした。

(2015/04/11)






公演の立看板です。


外の入口横にも看板が出ていました。


この日はもてなしドーム側から来ました。テレビ金沢が夕方の天気予報の中継をしていたため,スポットライトが点いています。ドームの真中には...


ラ・フォル・ジュルネ金沢2015のポスター。何が何でも新幹線ですね。

裏面は青色主体のデザイン。やはり黄色い方がインパクトがありますね。


JR金沢駅に入ると,謎のゆるキャラがいました。


そのまま真っ直ぐ金沢港口まで行って,久しぶりに郵太郎を見てきました。美白ですね。


アントに入ってみると,辻口さんの店の店頭に「まれ」の土屋太鳳さんがいました。塩バウムというのを宣伝していましたが...これは今後の番組の展開に関係する商品かも?