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第14回北陸新人登竜門コンサート弦楽器部門
2015年4月14日(火)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) フォーレ/夢のあとで, op.7-1
2) ブルッフ/コル・ニドライ, op.47
3) ドビュッシー(樋口康雄編曲)/美しき夕暮れ
4) ウォルトン/ヴィオラ協奏曲
●演奏
井上道義指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
西悠紀子(ヴィオラ*4)
荒井結子(チェロ),岡本潤(コントラバス),筒井裕朗(サクソフォン)


Review by 管理人hs  

毎年,4〜5月に行われている北陸地方の新人演奏家発掘のための北陸新人登竜門コンサート。今年は弦楽器部門でした。今回は出演者が少なく,ヴィオラの西悠紀子さんのみが登場しました。西さんは,富山市にある桐朋オーケストラ・アカデミー研修課程に在籍されている方です。

井上道義さんの話によると,「新人登竜門コンサートのような演奏会を行っているオーケストラはあまりない。(それだからこそ)オーケストラから見て「やりがいのある人」とやりたい。それで西さん1人になった」とのことでした。

ヴィオラ奏者がこの演奏会のオーディションを通過したのは初めて。しかも,ウォルトンという,あまり実演で演奏される機会の多くない作曲家の作品ということで,内容的には「玄人好み」といった感じの渋いものとなりました。私自身,ウォルトンの曲を聞くのは初めてでしたが,少しジャズのテイストのある聞きやすい作品でした。西さんは大変誠実に,そして堂々と渋い作品を聞かせてくれました。

第1楽章冒頭から,ゆったりとした揺らぎのある雰囲気で始まりました。メランコリックだけれども誠実な音楽が広がりました。時代的には少し後ですが,バーバーとかバーンスタインの協奏曲的作品と通じる部分もあると思いました。楽章途中からは大きく盛り上がり,ティンパニを中心にスケールの大きさを感じさせてくれました。

第2楽章は生き生きとした動きのある楽章でした。技巧的ではあるけれども,華やかになり過ぎないのがヴィオラらしい(?)ところです。第3楽章はファゴットの演奏する鼻歌気分のようなメロディで始まり,軽く散歩をしているような気分がありました。特に印象的だったのは,最後の部分でした。じっくりとしたブルースのようなムードで,落ち着いた空気が広がっていきました。

井上道義さんは,「今回,西さんはダニール・グリシンさん(オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の客演のヴィオラ首席奏者)から指導を受けて臨んだ。ようがんばった」とトークでおっしゃられていました。その指導の成果がしっかり表れた演奏だったと思います。

井上さんは,さらに「この曲は本来もう少し大きな編成で演奏される曲だが,ヴィオラという楽器の性格を考えると,今回のOEKぐらいのサイズ(第1ヴァイオリン8人,第2ヴァイオリン6人...のいつもの編成)が丁度良いと思った」と語っていました。OEKのレパートリーを広げることができた点でも,「やって良かった」共演だったと思います。

この日は平日の夜ということもあり,お客さんの入りは悪かったのですが,井上道義さんは「今日来てくれたお客さんがいちばん大切なお客さん」といったことを語っていました。その言葉どおり,新人奏者の門出を盛り上げて上げようという感じの拍手が続き,とても暖かい雰囲気がありました。OEKも集中力の高い,聞きごたえのある演奏を聞かせてくれ,西さんを祝福しているようでした。

上述のとおり,今回は「新人が1人」ということで,前半は過去の登竜門コンサート出演者の中から次の3人の方が出演し,ガラコンサートのように,それぞれが親しいやすい曲を演奏しました。登場したのは次の3人でした。

  荒井結子(チェロ,2006年登竜門優秀者)
  岡本潤(コントラバス,2009年登竜門優秀者)
  筒井裕朗(サクソフォン,1998年登竜門優秀者)

最初にチェロの荒井さんがフォーレの「夢のあとに」を演奏しました。軽い透明感のある音がフランス音楽にはぴったりでした。文字通り,陶然とした夢の気分があるけれども,音には曖昧さがなく,引き締まった見事な音を楽しむことができました。

続いて岡本さんのコントラバスでブルッフの「コル・ニドライ」が演奏されました。岡本さんは,子供の頃,石川県ジュニア・オーケストラにも参加していたことがあります。その後,東京芸術大学に進み,登竜門コンサートに出場して,現在はNHK交響楽団のコントラバス奏者をされています。OEKと石川県立音楽堂が蒔いた種がしっかりと開いたモデルケースのような方といえます。

この曲は本来は,チェロとオーケストラのための作品ですが,全く違和感なく楽しむことができました。チェロに比べると,どこか朴訥で,不自由な感じがあるのが,コントラバスらしいところです。曲の後半で,光が差すように曲が明るくなるのが効果的でした。コントラバスの高音というのも大変聞きごたえがありました。この曲は,有名な曲の割にあまり実演で聞いたことがなかったのですが,重量感の後に救いの気分が広がる,素晴らしい演奏だったと思います。

前半最後は,お馴染みのサクソフォンの筒井裕朗さんの演奏でドビュッシーの「美しき夕暮れ」が演奏されました。筒井さんは,「神出鬼没(?)」という感じで,金沢市内を中心に本当に色々な場所で演奏されていますが,音楽堂コンサートホールに登場するのは久しぶりかもしれません(OEKの定期公演での「アルルの女」のエキストラなどに出演されていますね)。

今回は,樋口康雄編曲ということで,少しポップス的な風味のあるアレンジでしたが,それが良かったと思いました。弦楽器+ハープ+パーカッションによる甘い響きに続いて,筒井さんのサックスが入ってきます。ロマンティックな夕暮れの光景の中にくっきりと主役が浮き上がって登場するような格好良さがありました。ぐっと音が高音に伸び,音楽も大きく盛り上がり,会場の空気を艶やかさのある春の宵という雰囲気に変えて,前半を締めてくれました。

ということで,前半のどの演奏も,平日の夕方過ぎに一息ついて聞くのにぴったりでした。今回の演奏時間は,休憩15分を含めて1時間ちょっとということで軽めでしたが,その点でも疲労感がなく,こういう演奏会も良いなと思いました。

過去,登竜門コンサートに出演された皆さんの多くは,その後,金沢を中心に音楽活躍をされていますが,この日登場した3人は今度のラ・フォル・ジュルネ金沢でも大活躍する定です。特に荒井さんと岡本さんは,「金沢チェンバー・アンサンブル」のメンバーとして複数の公演に登場します(今年はさらに軽井沢の大賀ホールにも進出するようです。)。

OEKの弟分のような名前ですが,登竜門コンサートがきっかけとなって,活躍の場が広がるのを見るのはこのコンサートをずっと聞いてきたOEKファンとしても大変嬉しいことです。今後も継続的に活躍することを期待したいと思います。

(2015/04/18)






公演のポスター