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クリス・ハート×オーケストラ・アンサンブル金沢:クリスタル・シンフォニック・コンサート2015
2014年5月10日(日) 16:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) シュトラウス,J.II/ポルカ「観光列車」
2) ありがとう
3) いのち:My Song for you
4) 楓
5) シューベルト/アヴェ・マリア
6) 久石譲/Stand Alone
7) まもりたい:magic of touch
8) Stay with me
9) 幸せをみつけられるように
10) 夢がさめて
11) ラフマニノフ/ヴォカリーズ
12) 青春の影
13) 続く道
14) どんなときも。
15) 家族になろうよ
16) I Believe
17) home
18) (アンコール)糸

●演奏

クリス・ハート(歌)*2-8,10-18
鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・マスター:松井直)


Review by 管理人hs  

本日は母の日。今さら母にモノをプレゼントしても喜ばれそうにもないので(結構,好みがうるさいのです),代わりにクリス・ハートさんと鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のコンサートに一緒に出掛けることにしました。私の母は,さだまさし,徳永英明など高い声の男性歌手が好みです。クリス・ハートはぴったりでは?と思い,1カ月ほど前に「行ってみるか?」と尋ねてみたら,「行ってみたい」とすぐに返事があったので,チケットを購入することにしました。

会場は石川県立音楽堂コンサートホール。満員でした。さすがです。

演奏会は,最初の1曲だけがOEK単独の演奏で,それ以外は全部クリスさんが演奏に参加していました。過去のOEKのポップス系の演奏会ではオーケストラのみの曲がもっと沢山入っているのが普通でしたので,まず,「エネルギーがあるなぁ」と思いました。

今回,クリスさんが歌った曲は,(1)クリスさんのオリジナル曲,(2)他のJ-POP歌手の名曲のカバー,(3)クラシック系の曲の3つに大別できました。実は,クリスさんのオリジナル曲の代表曲が何なのか知らずに聞きに行ったので,(2)(3)の方が印象に残っているのですが,その声の魅力はどの曲からもしっかり伝わってきました。

クリスさんの声は,男性なのか女性なのか分からないような中性的な高音に魅力があります。透明感のある声というよりは,ちょっとしっとりとざらっとした質感があり,聞き手の耳に絡みついてきます。それがしつこくならならず,暖かさと爽やかさが後に残ります。クリスさんは,ほとんどの曲で微笑みながら歌っていましたが,その印象と同様でした。

超高音の部分はファルセットになり,激しくシャウトするようなところは全くありません。その点も心地よく,鈴木織衛指揮OEKの作る,暖かみのあるサウンドとしっかりと融け合っていました。生のオーケストラとの相性がとても良い歌手だと思いました。

歌われた曲は上述のとおり,いろいろなタイプがありましたが,やはり,しっとりとした叙情性のある曲がぴったりだと思いました。曲間のトークを聞いていても(歌詞の発音同様に,大変上手な日本語でした),常に「前向きな応援」を意識されているようで,どの曲からも誠実さを感じました。

クリスさんは,その日本語の巧さから分かるとおり,大変日本が好きな方。その日本への愛,日本語への愛が伝わってくるような丁寧な歌の数々でした。

さて,演奏会です。最初,序曲がわりに鈴木織衛さん指揮OEKの単独演奏で,J.シュトラウスのポルカ「観光列車」が演奏されました。ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートのように,しっかりと鈴木さんは指揮台の上で小型のラッパを演奏されていました。リゾート気分が感じられる「北陸新幹線開通記念」にぴったりの演奏でした。

続いてクリスさんがにこやかに登場し,いきものがかりの「ありがとう」を歌いました。この曲は,既にJ-POPの古典になっているような曲ですね。

昨年ヒットした,映画「アナと雪の女王」のテーマ曲「Let It Go」に代表されるように,近年,特定の歌手が特定の曲を歌を歌うというよりは,「スタンダードナンバーのような「よい曲」を複数歌手のバージョンで楽しむ」という流れが強くなって来ている気がします。

今回,クリスさんが歌ったカバー曲は,次のとおりでした(多分)。
「ありがとう(オリジナル:いきものがかり)」,「楓(オリジナル:スピッツ)」,「Stay with me(オリジナル:サム・スミス)」,「青春の影」(オリジナル:チューリップ),「どんなときも。(オリジナル:槇原敬之)」,「家族になろうよ(オリジナル:福山雅治)」,「home(オリジナル:木山裕策)
クラシック音楽の場合,新曲以外は「カバー曲ばかり」ということで,世の中全体がクラシック音楽ど同様の路線になってきている気がします。私自身,オリジナル版を聞いたことのない曲もあり,単純に「どちらが良い」とは言えないのですが,これらのカバー曲の中では,やはり最後に歌われ,大きく盛り上がった「home」が良いなぁと思いました。

「アヴェ・マリア」,「ヴォカリーズ」は,オリジナルがクラシック音楽の作品です。やはりこれらの曲については,オリジナル版が良いと思いました。その一方,NHKドラマ「坂の上の雲」のテーマ「Stand Alone」はスケール感があって,ぴったりだと思いました。この辺の感覚は,オリジナルをどれだけ聞きなれているか次第でしょうか。

クリスさんのオリジナル曲では,ファンからの手紙にインスピレーションを得て作った「幸せをみつけられるように」や前向きな応援歌の最新曲の「続く道」が良いと思いました。「続く道」では,「ラララ...」という部分を皆で合唱する趣向でした。

クリスさん自身が語っていた通り,最初の方は,トークなどにも,ちょっと緊張感がある気がしましたが,次第にこなれた雰囲気になってきました。「続く道」から「home」が歌われた,演奏会後半の盛り上がりが特に良かったと思いました。

そして何といっても良かったのが...後半最初にオーケストラのみで演奏された「夢がさめて」(紅白歌合戦で松田聖子とデュエットした曲)で,クリスさんがオーボエを演奏していた!という点です。ひっそりと第3オーボエの位置に座っていたのを私は気づいていましたが...多くのお客さんはクリスさんがオーボエを吹いていたことにあまり気づいておらず,「へぇ」と感心していました。

クリスさんはその他にもフルートとかも演奏できるようで(チラシの写真によるとギターも演奏できそうですね),「楽隊的精神(?)」が体に染み込んでいる人なのでは,と感じました。OEKのメンバーもどこか楽し気な感じでした。

演奏会後には,「CDお買い上げの方は握手会に参加できます」というアナウンスがありました。興味はあったのですが,今回は時間の関係でやめにしておきました。クリス・ハートさんは10月にはオーケストラ以外の伴奏で再度,金沢でコンサートを行う予定になっていますが,今回の公演を聞いてさらにファンが増えたのではないかと思います。

途中のクリスさんと鈴木さんによる「金沢はどうですか?」トークの中で,クリスさんは「お酒は強いです」と語っていました。今回は金沢に滞在する時間は,ほとんどなかったようですが,次回は是非,金沢のお酒などを味わって,ゆっくりしていってほしいものですね。

(2015/05/19)








公演の立看板とポスター