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九人でバッハ。アンサンブル・ミリム 金沢公演
2015年5月29日(金)19:00〜 金沢市アートホール

1) バッハ,J.S./モテット第6番「主をほめたたえよ,すべての国々よ」BWV.230
2) バッハ,J.S../カンタータ第131番「深き淵より我汝に呼びかける,主よ」BWV.131〜第4曲「わが魂は主を待ち望む」
3) バッハ,J.S../カンタータ第24番「けがれに染まらぬ心は」BWV.24〜第1曲「けがれに染まらぬ心は」
4) バッハ,J.S../カンタータ第203番「裏切り者なる愛よBWV.203
5) バッハ,J.S./モテット第4番「裏切り者なる愛よ」BWV.228
6) バッハ,J.S../カンタータ第78番「イエスよ,汝はわが魂を」BWV.78〜第2曲「我らは弱けれどたゆみなき足取りで急ぎゆく」
7) バッハ,J.S../カンタータ第122番「新たに生まれしみどりご」BWV.122〜第4曲「御神,我らと和と結びて友となりねば」
8) バッハ,J.S../カンタータ第186番「おお魂よ,憤ることなかれ」BWV.186〜第10曲「魂よ,いかなる辛苦にありても」
9) バッハ,J.S./モテット第6番「主に向かって新しき歌を歌え」,K.225
10)(アンコール)バッハ,J.S./モテット第6番「主をほめたたえよ,すべての国々よ」BWV.230〜後半部分

●演奏
根本卓也指揮アンサンブル・ミリム(和田友子,清水梢(ソプラノ),高橋ちはる,横町あゆみ(アルト),眞木喜規, 谷口洋介(テノール),浜田広志,浅地達也(バス))*1,5,9

和田友子(ソプラノ*6),清水梢(ソプラノ*7,8),高橋ちはる(アルト*2,6,8),横町あゆみ(アルト*2,3,7),眞木喜規(テノール*2), 谷口洋介(テノール*7),浜田広志(バス*4),根本卓也(チェンバロ*1-4,6-8)


Review by 管理人hs  

国内のプロ合唱団のメンバー8人と指揮者・チェンバロによる声楽アンサンブル,「アンサンブル・ミリム」の金沢公演を聞いてきました。このアンサンブルは,昨年デビューしたばかりのグループです。メンバーのうちの3人が石川県出身ということで,今回,金沢公演が行われることになったようです。

プログラムはバッハのモテット3曲の間にカンタータの中のアリア,重唱曲などが数曲挟み込まれるという,非常に渋いプログラムでした。どの曲も初めて聞く曲ばかりでしたが,小ホールで聞くプロの声楽家集団によるアンサンブルは,大変聞きごたえがありました。

各曲の編成は,モテットの方はソプラノ,アルト,テノール,バスの各パート8人,カンタータの方は,独唱または重唱+チェンバロ伴奏という形でした。モテットの方は8声部に分かれる曲があり,要所要所で,ドームの中で声があちこちから響いてくるような立体感を感じました。何より,小ホールで小編成の曲を聞くと各声部の動きが分かるのが面白いと感じました。

最初に演奏された,モテット第6番「主をほめたたえよ,すべての国々よ」は,声楽8人+チェンバロという全メンバーによる演奏で,「名刺がわりの1曲」という趣きがありました。曲はポリフォニックな部分とゆったりとしたホモフォニックな部分のコントラストを聞かせた後,最後にアレルヤで華やかに締めるような構成で,声部がバランス良く絡み合った清潔感を感じました。

その後,カンタータの中の独唱曲と重唱曲が続きました。131番のカンタータは,眞木さんの瑞々しいテノール独唱をアルト2名が背景で支え,見た目通りの立体感を感じました。24番のカンタータでは,横町さんの芯のあるしっかりとした声が印象的でした。どこか純粋な少年のような声に聞こえ,歌詞に相応しいと思いました。

203番のカンタータは,3つの曲から成っていました(この日演奏された曲の中ではこの曲だけがイタリア語で歌われていました)。浜田さんの心地良い声は威圧的になり過ぎず,安心感を感じました。終曲では根本さんのチェンバロの華やかな動きが特徴的で,思わず,血が騒いで(?)しまいました。大らかさのある浜田さんの歌との対比も面白いと思いました。

前半最後に歌われたモテット「恐れることなかれ,我汝とともにあり」は,この日演奏された曲の中でも特に印象に残りました。このグループ名のミリムを原語で書くとmilimという具合で,見事に左右対称になりますが,この曲の演奏では,各パートの配置がSATB BTASとなっており,この表記同様にシンメトリーでした。ちなみにこの曲と最後に歌われたモテットだけは,ア・カペラによる演奏でチェンバロの伴奏はなしでした。

 
↑このmilimというロゴですが,9人が立っているように見えます。これも素晴らしい発想だと思います。


曲中の要所要所で,マーカーで特定の単語やフレーズを鮮やかに浮き上がらせるような感じで,くっきりと強調していたのが印象的でした。意味が分かるわけではないのですが,曲の持つドラマの流れのようなものが感じられました。特に"Ich habe dich..."というフレーズを何回も繰り返しており,心地よい構築感を感じました。

20分の休憩の後,前半と同様の形でカンタータの中の曲が演奏されました。メンバーの配置だけでなく,プログラムの配置の点でもシンメトリカルになっており,よく考えられているなと思いました。

カンタータ78番の中の曲は,ソプラノのさんとアルトのさんの声の絡み合いが晴れやかでした。カンタータ122番の中の曲は,テノールの谷口さんの古楽風のノン・ヴィブラートの声が鮮烈でした。もっと長い曲を聞いてみたいと思いました。カンタータ186番の中の曲もソプラノとアルトの重唱でしたが,ちょっとシチリアーノ風の流動性があり,78番の曲とは違った心地よさがありました。

今回の演奏会では,アンサンブルの素晴らしさだけではなく,各メンバーのソリストとしての素晴らしさも楽しむことができました。今回のメンバーは,バッハ・コレギウム・ジャパン,新国立劇場合唱団,東京混声合唱団,神戸市混声合唱団からなるメンバーでしたが,恐らく,オペラを歌う時とは一味違った発声法で,緻密ですっきりとした声を聞かせていたのではないかと思います。

最後にモテット第1番「主に向かって新しき歌を歌え」が歌われました。プログラムなどに書かれた,このグループのプロフィールには,「この曲を歌うために結成された」と書かれていましたが,そのとおりの充実した演奏となっていました。

まず,8人編成をさらに2つのグループに分け,中間部では,この両グループが交互に絡みながら進行していきました。前後の部分では,曲のタイトルに相応しい晴れやかさがありました。終盤では華やかで熱い盛り上がりを聞かせてくれましたが,その中に透明感と冷静さがあるのが素晴らしいところです。曲の盛り上がりがとてもくっきりと感じられたのも,実力のある小編成ならではさだと思いました。

最後にアンコールで,「アレルヤ」という歌詞を持つ曲が9人(これまでチェンバロまたは指揮だった根本さんも参加していました)で歌われ,演奏会はお開きとなりました。

この公演は,北陸新幹線が開通したからこそ実現した公演なのかもしれません。今年のラ・フォル・ジュルネ金沢では, ラ・ヴェネクシアーナによる素晴らしい公演がありましたが,その時に演奏されたモンテヴェルディの曲なども聞いてみたいものです。石川県出身者が3人含まれているということで,是非,続編の公演に期待したいと思います。

(2015/06/08)







公演のチラシ