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ふだん着ティータイムコンサート Vol.18
2015年6月14日(土) 金沢市民芸術村

■子供のためのコンサート 14:00〜 オープンスペース(PIT3)
シュトラウス,J./ポルカ「雷鳴と稲妻」
シュトラウス,ヨハン&ヨーゼフ/ピツィカート・ポルカ
クラリネットポルカ
シュトラウス,J./ポルカ「観光列車」
恒例,1分間指揮者コーナー(ラデツキー行進曲,ベートーヴェン/交響曲第5番〜第1楽章)
みんなで歌おう( 映画「アナと雪の女王」〜「レット・イット・ゴー」)

●演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢のメンバー(コンサート・マスター:松井直),司会:柳浦慎史

■室内楽コンサート 15:10〜 オープンスペース(PIT4)
1) スティング/フラジール
2) スティング/In teen's spirit
3) ダンツィ/木管五重奏曲ト短調〜第1楽章
4) バーバー/サマー・ミュージック
5) ロペス/レット・イット・ゴー
6) バリエール/ソナタ
7) ドゥヴィエンヌ/フルート,クラリネット,ファゴットのための三重奏曲,op.61-5
8) ヴィラ=ロボス/ブラジル風バッハ第6番(I.Aria, II.Fantasia)
9) ラヴェル/ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
10) レオナール&セルヴェ/ベートーヴェンの主題による大二重奏曲第2番
11) ベートーヴェン/ヴィオラとチェロのためのデュオ
12) ヒンデミット/ヴィオラとチェロのためのデュオ
13) ボロディン/弦楽四重奏曲第2番ニ長調〜第1楽章

●演奏
松井直*13,上島淳子*13,坂本久仁雄*10,トロイ・グーキンズ*11,13-17,若松みなみ*9(ヴァイオリン), ダニール・グリシン*11-12,石黒靖典*13(ヴィオラ),ルドヴィート・カンタ*1-2,11-2,ソンジュン・キム*1-2,9,大澤明*10,13,早川寛*6(チェロ),今野淳(コントラバス*6),加納律子(オーボエ*3-5),松木さや*3-5,8, 岡本えり子*7(フルート),遠藤文江*3-5, 木藤みき*7(クラリネット),柳浦慎史*3-5,8,渡邉聖子*7(ファゴット),金星眞(ホルン*3-5)



Review by 管理人hs  

この時期恒例,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバー自主企画による「ふだん着ティータイムコンサート」を聞いてきました。金沢は,梅雨入りしているのかしていないのか,微妙な天候が続いていましたが,この日は,やや暑めぐらいの行楽日和の気候になり,金沢市民芸術村には今年も大勢のお客さんが集まりました。

前半は,「子供のためのコンサート」ということで,親子連れが多かったのも例年どおりでした。司会はOEKのファゴットの柳浦さんでした。このコンサートにはなくてはならない存在です。今年で18回目(柳浦さんの司会も18回目!?)ということで,とてもリラックスした感じで音楽を楽しませてくれました。

今年の選曲のポイントはポルカでした。最初,「雷鳴と稲妻」が演奏された後,「雷鳴が大太鼓,稲妻がシンバル」という具合で楽器紹介とメンバー紹介に続きました。続くピツィカート・ポルカの後は弦楽器のメンバー紹介。ここでは,昨年入団した第2ヴァイオリンのヴィルジル・ドゥミヤックさんにインタビューをしていました。

クラリネットポルカは,遠藤さんと木藤さんが両サイドに分かれて,交互に演奏する形になっていました。柳浦さんによると「テニスの試合を観戦するように,お客さんの頭が左右に動いていました」とのことです。管楽器では今年入団した松木さやさんにインタビューをしていました。この演奏会の良さは,OEKメンバーの生の声を聞ける点だと思います。

ポルカ「観光列車」は,つい先日,鈴木織衛さん指揮のフル編成のOEKでも聞いた曲です。指揮者が汽笛の音のような小型のラッパを吹くのが定番になっていますが,この日は司会の柳浦さんが演奏していました。

恒例の1分間指揮者は,ベートーヴェンの「運命」の冒頭かラデツキー行進曲のどちらかを選んで,指揮をするというものでした。10歳以下の子供たちの場合,「ハイっ」と手を上げたのは良かったものの,その後,オーケストラを前にして固まってしまうという人もいましたが,それもまた,良い思い出ですね。OEKメンバーの家族(今回はチェロの早川さんの娘さん)が当たってしまう,というのも「あるある」という感じです。

ラデツキー行進曲の方が人気があったのですが,大人の「指揮者」の中には,お客さんの方に向かって指揮をして,例の手拍子を仕切る,という素晴らしい方がいらっしゃいました。最後の一音で,オーケストラに向かってお礼のお辞儀をしてしまい,音の方もフニャっとお辞儀してしまう人など,例年にも増して個性的な演奏の数々になっていました。

最後の「みんなで歌おう」は,昨年ヒットした,「レット・イット・ゴー」でした。こちらは,みんなで歌うには結構難しい曲でしたが,誰でも知っている曲ということで,大変盛り上がりました。

その後,休憩を挟んで,会場を変えて,室内楽コンサートとなりました。

 
座席の後方では,楽友会とOEKメンバーによる飲み物サービス。「アイスコーヒーをお願いします」と言ったところ,楽友会の方からは,「古宮山さんだから選んだでしょ?」と鋭く突っ込まれてしまいました。

こちらは,一転して,渋い室内楽曲中心でした。が,それでも間近で聞くプロの演奏の迫力は素晴らしく,大勢のお客さんがじっくりと聞いていました。

 室内楽コンサートの方はこんな感じ。

まず,ソンジュン・キムさんとルドヴィート・カンタさんによるOEK版「2Clellos」による,スティングの曲で始まりました。楽器を打楽器のように聞かせる部分があったり,平然と格好よく聞かせてくれましたねぇ。このままお2人でユニットとして活躍できそうな見事な演奏でした。

続いて,木管五重奏で3曲演奏されました。ダンツィの五重奏曲は,短調の曲でしたが,どこか可愛らしい雰囲気がありました。ちょっと暗めなのですが,どこか可愛らしい気分もありました。間近で聞く5本の管楽器の音がかっちりと組み合わさっているのが実に快適でした。

バーバーのサマーミュージックは,以前,別の機会にOEKメンバーの演奏で聞いた記憶があります。アメリカの夏の風景を描いた曲ということで,フルートとクラリネットによる鳥の声を交えて,景色が少しずつ変わっていくような趣きがありました。やや難解な部分もありましたが,そのちょっと謎めいた感じが魅力になっていました。

このコーナー最後では,「子供のためのコンサート」でも演奏された「レット・イット・ゴー」が再度演奏されました。バーバーの曲と妙にマッチしており,”サマー”から”ウィンター”に自然に流れていくようでした。

このコーナーでは,オーボエの加納さんから松木さんに対して,再度,さらに突っ込んだインタビューがありました。松木さんは千葉県市川市出身。各種コンクールに入賞されていますが,本番に強い度胸の秘密は,「しっかりご飯を食べること」とのことです。「OEKは海外でも色々演奏していますが,行ってみたいところは?」という質問に対しては,「エジプト」との回答。この回答には,他のメンバーも「へぇ」という表情を見せていましたが,もうすっかり,OEKの木管メンバーに融け込んでいるようですね。一気に松木さんに対する親近感が増しました。

バリエールのソナタは,チェロの早川さんとコントラバスの今野さんの低音コンビで演奏されました。元々はチェロ2本のための曲ですが,コントラバスに変わることで,どこか鄙びた雰囲気になっていたと思います。

ドゥヴィエンヌの木管三重奏曲は,OEK設立当初からのフルート奏者の岡本えり子さんの曲目紹介の後,演奏されました。ドゥヴィエンヌは,モーツァルトと同時代の作曲家ということで曲想もモーツァルトとよく似ていました。ファゴット奏者でもあったということで,優雅さの中にファゴットの音がしっかりと存在感を主張しているのが面白いと思いました。

ヴィラ=ロボスのブラジル風バッハのシリーズには,色々な編成の曲があるのですが,今回は,フルートの松木さんとファゴットの柳浦さんの重奏で,第6番が演奏されました。2人だけで演奏する曲で「譜面をめくる暇もない」ということで,譜面台を4個並べ,そこに譜面を長々と乗せ,松木さんと柳浦さんが2人並んで「カニさん歩き」で平行移動しながら演奏という,視覚的にも面白い演奏でした。パソコンで音楽ファイルを聞く時,曲のどの部分を演奏しているのか画面上のスライドバーで分かりますが,丁度そのような感じでした。

演奏の方も素晴らしいものでした。特に松木さんの凛としたフルートの音が印象的で,実に雄弁でした。ファゴットは,かなり高音も使っており,「春の祭典」の冒頭部を思わせるようなところもありました。

ラヴェルのヴァイオリンとチェロのためのソナタは,「OEKに同期入団」のヴァイオリンの若松みなみさんとチェロのソンジュン・キムさんの2人で演奏されました。演奏前,若松さんが「ちょっと難しい感じもするけれども,ユーモアもあるのでリラックスして聞いてください」と語っていましたが,そのとおりの曲です。どこか人を喰った感じのユーモアが第2楽章や第4楽章などに漂っていました。この曲は,ずっと以前,ジャン=ピエール・ヴァレーズさんとカンタさんによる,「名人二人の対談」みたいな演奏を聞いたことがありますが,今回の若い2人によるキレの良い演奏も魅力的でした亭

演奏会は,その後も18:00頃まで(多分)続いたのですが,この日は,残念ながら用事があり最後まで聞くことはできませんでした(17:00以降は聞けませんでした。ダニール・グリシンさんのヴィオラを間近で聞きたかったのですが...)・

この演奏会は,OEKメンバーと間近で接することができ,その声を聞くことができるのが良いですね。OEKメンバーの家族も参加しているようで,OEKと地域のファンとの家族ぐるみのお付き合いになっているのが素晴らしいと思います。金沢市民芸術村の素晴らしい雰囲気を活用した(この日はかなり暑かったですが...),OEKならでは,金沢ならではの演奏会として,続けていって欲しいと思います。

 
休憩時間中のオープンスペース。日曜の晴れた午後のけだるい空気に満ちていました。

(2015/06/08)









公演のポスター


この日の芸術村は大賑わいで,駐車場もほぼ満車。かなり遠くから歩くことになりました。芝生が美しかったですね。


水辺では子どもたちが水遊び中


このガラスの後ろで,「子どものためのコンサート」は行われました。


OEKメンバーの顔写真リスト


OEKメンバーの手書きの「ごあいさつ」



市民芸術村の朝顔



左が市民芸術村,右がJR北陸本線。その間を抜けて,帰宅しました。