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オーケストラ・アンサンブル金沢第364回定期公演フィルハーモニーシリーズ
2015年6月22日(月) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)ロッシーニ/歌劇「シンデレラ」序曲
2)シューマン/ヴァイオリン協奏曲ニ短調
3)ブラームス/交響曲第2番ニ長調,op.73

●演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス),五嶋みどり(ヴァイオリン*2)



Review by 管理人hs  

ラ・フォル・ジュルネ金沢と「フィガロの結婚」公演が行われた5月には,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演はなかったので,今回の井上道義音楽監督指揮によるフィルハーモニー定期は,OEKが交響曲を演奏する久々の演奏会となりました。ブラームスの交響曲第2番とシューマンのヴァイオリン協奏曲というドイツ・ロマン派を代表する2人の作品を中心とした,真っ向勝負のプログラム。しかもソリストは,五嶋みどりさん。客席は満席。聞きごたえ十分の充実の観客の熱気のある公演となりました。

最初に,いかにも井上/OEKにぴったりの,ロッシーニの歌劇「シンデレラ」序曲が明るくキレ良く演奏されました。ロッシーニの序曲にお決まりの,ややシリアスだけどちょっとユーモアを持った序奏に続き,軽快な主部に入っていきます。弓を軽やかに飛ばす弦楽器の響きが大変心地よく,中盤のロッシーニ・クレッシェンドも生き生きと滑らかに盛り上がっていました。ロッシーニの曲については,井上さんの指揮を見ているだけで気分が盛り上がります。

この曲では木管楽器の瑞々しい音も印象的でした,今回は,クラリネットの遠藤さん,オーボエの加納さん,そしてフルートの工藤重典さんがトップ奏者でした。さらに新しくメンバーに加わった松木さやさんも透き通るようなピッコロの音を聞かせてくれ,演奏後,井上さんが最初に立たせていました。

続いて,五嶋みどりさんが登場しました。みどりさんとOEKの共演は,以前に一度ありましたが,定期公演に登場するのは,今回が初めてです。当初はバルトークのヴァイオリン協奏曲が演奏される予定でしたが,シューマンに変更になりました。シューマンのこの曲は,約1年前に井上さん指揮,郷古廉さんのヴァイオリンで演奏されるはずだったのですが,井上さんの病気のため曲目が変更になり(秋山和慶指揮,ブラームスのヴァイオリン協奏曲に変更),演奏されなかったという経緯があります。今回のプログラム変更は,もしかしたら,この曲を金沢の聴衆に聞かせたいという井上さんの秘めた思いがあったからなのかもしれません。

ちなみに,OEKが金沢でこの曲を演奏するのは...金沢市観光会館で定期公演を行っていた時代以来,多分2回目だと思います。全国的に演奏される機会の少ない作品だと思います。

曲は,ロマン派の他のヴァイオリン協奏曲に比べるとかなり渋く,みどりさんは,弱音を多用して,どんどん自分の世界に深く入り込むような内向的な演奏を聞かせてくれました。。テンポは非常に遅く,30分以上演奏時間が掛かっていたと思います。OEKだけによる第1楽章の主題呈示部からほの暗い音で始まりました。第2主題になると甘くこってりとさらにテンポを落としていましたが,驚くことに,みどりさんのヴァイオリンが加わると,さらに深い世界へと入っていきました。

みどりさんは,いつものように常にうつむき加減で演奏し,曲が進むにつれて集中力を増していくようでした。,全曲を通じてしっかりと「みどりの世界」を作っていました。音量はそれほど大きくありませんが,スケール感豊かな演奏だったと思います。こういう確固とした表現を聞かせてくれるのは,さすがです。井上/OEKの演奏はこの世界にピタリと合わせていました。

テンポは遅かったのですが,そこには常にエネルギーを秘めており,どんどん,そのやや鬱屈したロマンの世界に引き込まれました。みどりさんの音には思いつめたような鋭さがあるのですが,同時に柔らかい優しさのようなものも感じさせてくれました。求道者のようなストイックなイメージから,さらに進化をしていると感じました。第1楽章だけでもかなり堂々としたスケール感があり,壮大なロマンのようなものを感じました。

第2楽章は,首席チェロ奏者のカンタさんの甘い音との重奏が聞きものでした。内容と感動を込めた聞きごたえ十分の音楽でした。そのまま第3楽章に入っていきましたが,ここでもテンポがゆったりとしていましたので,堂々としたポロネーズを聞くような趣きでした。フィナーレでは,鬱屈した世界から少し解放され,優雅さと控えめな華やかさを持った演奏になっていました。全曲を通じて遅すぎるぐらいのテンポだったので,さすがに疲れましたが,「さすがMIDORI」という演奏でした。気分を一貫させる頑固と言っても良いエネルギーがすごいと思いました。

# 演奏直後の「大き過ぎるブラーヴォの掛け声」がやや雰囲気にそぐわなかったのが,少々残念でしたが...。

後半のブラームスの交響曲第2番も,OEKが滅多に演奏しない曲です。今回の演奏でも,第2ヴァイオリン以下の弦楽器を増強し,トロンボーン,テューバが加わる,「やや大きめ」編成による演奏となっていました。この演奏を聞いて,「巨匠の演奏だ」と感じました。しかも瑞々しさが随所に溢れていました。

全曲を通じて,この曲もテンポは遅めで,ブラームスの交響曲らしい,豊かな音楽の流れを感じさせてくれました。この曲では第2ヴァイオリン以下の低弦の人数を2名ずつぐらい増員していました。コントラバスも4名編成で,冒頭の「ターラーラ..」のモチーフなどもじっくりと聞かせてくれました。安定感抜群のホルンに続いて,フルートなどが加わってくるのですが,ここでは工藤重典さんの存在感のある音が素晴らしく,透明感のあるヴァイオリンと合わさって,瑞々しい空気がスッと流れ込むようでした。ちなみにの第1主題の歌わせ方ですが,スムーズに流れすぎることなく,どこか重みを感じさせてくれるところがあるのが印象的でした。

第2主題にはさらに音に膨らみが加わり,息長く音楽が続きました。最近,各種交響曲を聞いていると,内声部が同じ音型を地道に繰り返すような部分に妙に魅かれます。今回の演奏でも,そういう部分がくっきりと聞こえ,音ががっちり組み合わさっている面白さを味わうことができました。

第2楽章もじっくりと演奏されました。テューバは元NHK交響楽団の多久さんが参加していましたが,この楽章での存在感のある低音を聞きながら「しっかり支えているなぁ」と感じました。この日のホルンは,お馴染みの女性2人のエキストラに加え,木川博史さんという方がエキストラで第1奏者を担当していました(調べてみると,NHK交響楽団のホルン奏者でした)。この楽章でも見事なソロを聞かせてくれました。全曲を通じて素晴らしく,この曲はホルンが大活躍する曲だと再認識しました。

第3楽章のオーボエは,今回は水谷さんがソロを担当していました。その楚々とした味わいに加え,中間部での弦楽器のキレの良い,しなやかな音の動きもOEKらしいと思いました。名残惜しく終わった後,第4楽章に入って行きます。

第4楽章は,最初の一音が「アッ」という感じでしたが(このトランペットの弱音は,実はとても緊張するのではないかと思います),その後,音楽が大きく盛り上がり,エネルギーに満ちた演奏を聞かせてくれました。井上さんは弦楽器を演奏するような動作で叱咤激励するような指揮ぶりでした。コーダをはじめとして,音楽は所々で大きく盛り上がるのですが,井上さんはしっかりと手綱を握って緩めず,ドイツ音楽らしい緊密さがありました。遅めのテンポをしっかりキープし,実にくっきりとブラームスの曲の世界を伝えてくれました。

井上さんは,近年,ブルックナーの交響曲をよく取り上げていますが,その世界に通じるような,揺るぎなく,がっちりと細部の音の動きを積み上げていったような構築感を感じさせてくれました。最後のコーダの部分でも,テンポを変えることなく,明るい音をしっかり開放し,余裕のあるエンディングを聞かせてくれました。

今回の定期公演は,アンコールはなしで,シューマンとブラームスの充実感がしっかりと演奏後に残りました。大変まとまりの良い,「典型的な定期公演」という感じの演奏会だったと思います。

なお,この日と同じプログラムは,長野市と新潟市でも行われていました,新幹線開通後は,今回のような形で特に長野と金沢で定期公演を2階行う形を増やしていっても良いのではないかと思いました。金沢で聞き逃しても,長野で聞ける,.というのもありかもしれませんね。そう考えると,富山定期公演はもっと可能性が高そうですが....。どちらにも期待したいと思います。

(2015/06/25)






公演の立看板


今回の公演についての広報パネル


この日は定期会員を熱心に勧誘していました。


もてなしドーム下の「コピー」も変更になっていました。いかにも金沢らしく(?),控えめだけれども自信たっぷりみたいなコピーですが,実際,そういう状況になりつつありますね。