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音楽堂室内楽シリーズ第2回
OEK&センチュリー:チェロとコントラバスで奏でる展覧会の絵
2015年7月19日(日) 14:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1)ヴィヴァルディ/チェロと通奏低音のためのソナタ へ長調,RV.41
2)ランズウィック/犬小屋のシュトラウス:4つのコントラバスのための
3)ランズウィック/アメリカン・ベーシス:4つのコントラバスのための
4)グリーグ/ホルベルク組曲〜第1曲「前奏曲」,第4曲「アリア」,第5曲「リゴドン」
5)シュトラウス,J./喜歌劇「こうもり」序曲
6)ムソルグスキー(パッリ編曲)/展覧会の絵
7)(アンコール)ムソルグスキー(パッリ編曲)/展覧会の絵〜バーバ・ヤーガ(一部)

●演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢メンバー(ルドヴィート・カンタ*4-7,大澤明*1,4-7,早川寛*4-7(チェロ),ダニエリス・ルビナス,今野淳(コントラバス*2-3,6-7);日本センチュリー交響楽団メンバー(北口大輔,高橋宏明,渡邉弾楽(チェロ*4-7),村田和幸,内藤謙一(コントラバス*2-3,6-7)



Review by 管理人hs  

前日のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期公演では,OEKと日本センチュリー交響楽団が合同演奏を行い,金沢初演(多分)となる「春の祭典」などが演奏されました。この日は,そのアンコール企画という感じで,各楽団のチェロ・パートとコントラバス・パートの合同演奏会が行われました。

低弦楽器ばかりによる演奏会というのは非常に珍しいのです,そこで演奏されたのが,ムソルグスキー作曲,パッリ編曲による低弦版「展覧会の絵」(全曲)。これもまた,滅多に聞けない曲です。今回は,この曲を目当てに聞きに行くことにしました。

前半はまず,OEKの大澤さんとセンチュリーの内藤さんによるヴィヴァルディのソナタで始まりました。この日は各曲の間にトークが入ったのですが,「大澤さんの大学時代の後輩」という方が多く,ちょっとした同窓会的な雰囲気になっていました。

大澤さんは,大変ヴィヴァルディの作品がお好きなのですが,この曲は,緩-急-緩-急の4楽章からなる,全体にリラックスして聞ける作品でした。低音中心ということで,アレグロの部分でもどこかじっくりとした雰囲気があり,味わい深さがありました。

続いて,コントラバス・オンリー,チェロ・オンリーで色々な曲が演奏されました。

まず,コントラバス4人でランズウィックという,英国のコントラバス奏者兼指揮者兼作曲家...という多才な音楽家による作品が演奏されました。いずれもアレンジ作品で,日本の吹奏楽界で言うところの「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」シリーズのような雰囲気のある,気の利いたメドレー集でした。

「犬小屋のシュトラウス」はなぜ犬小屋なのか不明ですが,どこか人を喰ったようなところがあり,そのユーモラスなセンスに合っていると思いました。「アメリカン・ベーシス」の方は,アメリカのフォスターの作品などノスタルジックな気分のある名曲をつなげたもので,最後はジャズ風の和音で粋に終わっていました。

間近で聞くコントラバス4人によるドスの効いた低音は迫力十分でしたが,両曲ともユーモアのセンスがさりげなく漂った憎めない雰囲気があり,気持ちよく聞くことができました。

チェロ・アンサンブルの方は,「ベルリン・フィルの12人のチェロ奏者たち」というグループがある(あった?)ように,コントラバスよりは多いかもしれません。昨年も,OEKのチェロ・パート4人による室内楽公演がありましたが,6人のチェロとなると金沢では珍しいのではないかと思います。

今回は,グリーグの「ホルベルク組曲」の抜粋とシュトラウスの「こうもり」序曲が演奏されましたが,いずれもチェロという楽器の音域の広さ,表現力の幅の広さ,歌う力をしっかりと聞かせてくれるような演奏で,「オーケストラそのまんま」という印象を持ちました。

ホルベルク組曲では,主旋律を第1チェロ(センチュリーの北口さんだったと思います)が担当していました。ヴァイオリンぐらい(?)高音を出していたので,さすがに聞いていて苦しくなったのですが,チェロはすごいと思いました。組曲の2曲目の「アリア」は,ゆったりとした楽章でチェロにぴったりでした。大澤さんのトークでは,「お客様のことを考えて,聞いていて眠くならない曲選曲しました」ということでしたが,そのとおりの勢いのある演奏でした。

ただし,この曲については,やはりオリジナルの弦楽合奏版のゆとりのある重量感の方がいいかもしれません。OEKの演奏で何回か聞いているのでそう感じました。

「こうもり」序曲の方も,ほぼ原曲どおりに演奏していたと思います。チェロだけでよく表現できるなぁと感心しました。

後半は今回のメインプログラム「展覧会の絵」全曲が演奏されました。前半はセンチュリーのメンバーがトップ奏者でしたが,後半はOEK側がトップになり,ルドヴィート・カンタさんがコンサートマスターの位置に座っていました。次のような配置だったと思います(赤字がOEK)。

        早川 渡邉 
      高橋    今野
    大澤       内藤
  北口          村田
カンタ             ルビナス

ステージの照明も前半から少し変わり,青っぽくなっていました。

「展覧会の絵」の編曲版の場合,まず,「プロムナードがどうはじまる?」というのがポイントなのですが,パッリ編曲版では,チェロの高音で始まりました。カンタさんの高音は,とても優しい音で,ラヴェル編曲版とはかなり違った印象です。その後,合奏になって音がワーッと広がる感じは共通しているかもしれません。

その後は,さすがに低音楽器だけだと「かなり無理があるかも」という曲もありましたが,フラジオレットなど色々な技法を駆使しての多彩な音響による演奏は聞きごたえたっぷりでした。

2曲目の「小人」などは,もともと低音楽器で始まるのでイメージどおりでした。3曲目「古い城」はコントラバス中心だったと思います。4曲目の「ブイドロ」もイメージどおりの低音の迫力満点でしたが,個人的にはこの曲には,ヒタヒタと迫るスネアドラムの音がないと淋しいかなと感じました。

5曲目の「卵の殻をつけた雛の踊り」は,今回の演奏の中でもいちばんの「珍品」といった感じの演奏だったと思います。もともと高音楽器で演奏するメロディを低音楽器で演奏するということで,ヒヨコが苦し気に悲鳴を上げながら踊っている趣きがありました。

「サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ」は,全楽器によるくっきりとしたユニゾンが印象的でした。

今回の編曲版は,オリジナルのピアノ版から編曲していたようで,ラベル版よりも間に挟まれる「プロムナード」の数が多かったのですが,この辺りで出て来た「プロムナード」では,ちょっと聞きなれないメロディが出てきました。

「リモージュの市場」は,ちょっとぎこちない感じがしたのですが,厳粛な気分が漂う「カタコンベ」以降は大きく盛り上がりました。「バーバ・ヤーガ」にはロックを聞くようなノリの良さがありました。朗々と響くチェロも聞きものでした。

最後の「キエフの大きな門」でも,ユニゾンの響きが良いと思いました。「ロシアの大地のサウンド」という感じがあり,「ぴったり」でした。特にこの部分はユニゾンで演奏すると「1812年」のような雰囲気になり,鐘の音の効果も表現していたり,大変楽しめました。途中,聖歌風のメロディの部分では,メンバーがハミングがこのメロディを歌っていたようです。この「隠し味」も素晴らしい効果を上げていました。最後の部分では地響きを上げて,大地にもどっていくような趣きがありました。

アンコールでは,同じ「展覧会の絵」の中の「バーバ・ヤーガ」の一部が演奏されましたが,「キエフの大きな門」につながる直前で終わったので,まさに「寸止め」という感じで,頭の中で「パーン」と買っても音を鳴らしてしまいました。

というようなわけで,「展覧会の絵」中心として,いろいろな工夫に満ちた編曲・演奏の連続で,予想以上に「華麗な世界(?)」を楽しませてくれました。この日は金沢駅コンコースでもセンチュリーの金管パートが演奏を行っていたようですが,今後も是非,色々なレベルでの合同演奏を期待したいと思います。

(2015/07/25)





この日の公演案内



この日のプログラムと公演案内のハガキ。

金沢エキコンに日本センチュリー交響楽団の金管楽器メンバーが出演


トランペットの方が,溜めをたっぷり取って,「セレゾローサ」を演奏していました。お客さんが「ウー」と合いの手を入れていたので,私も一声だけ参加してきました。