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オーケストラ・アンサンブル金沢第366回定期公演フィルハーモニーシリーズ
2015年7月24日(金) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)ラーション/田園組曲,op.19
2)グリーグ/ピアノ協奏曲イ短調,op.16
3)(アンコール)ショパン/マズルカ第45番イ短調.op.67-4
4)シベリウス/トゥオネラの白鳥,op.22-2
5)シベリウス/組曲「白鳥姫」op.54
6)(アンコール)グリーグ/過ぎし春

●演奏
広上淳一指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*1-2,4-5,
小山実稚恵(ピアノ*3-4)
プレトーク:広上淳一,新田ユリ
 


Review by 管理人hs  

先週のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演マイスターシリーズでは,井上道義さん指揮,日本センチュリー交響楽団との合同公演で「春の祭典」が演奏されましたが,フィルハーモニーシリーズの方は対照的に,北欧の叙情を感じさせる曲渋い曲が並びました。特に最後に演奏されたシベリウスの組曲「白鳥姫」は演奏される機会の少ない,渋い作品でした。しかし,どの曲についても,広上さんの指揮は密度の高いもので,さらさらと流すというよりは,内容の濃さやミステリアスな気分をしっかりと感じさせくれるものでした。

前半最初に演奏されたラーションの「田園組曲」は,知る人ぞ知る名曲という感じの名曲です。20世紀の作品にしては,大変分かりやすい作品で,しかも,随所に「いかにも北欧」の肌触りがありました。

透明感のある弦の響きで始まった後,生き生きとした曲想に変わる第1曲。単独で演奏されることもある第2曲「ロマンス」では,暖かみのある弦楽器を中心に,しっかりと音が鳴らされた濃い演奏でした。堂々とした曲の歩みの中から,広上さんの唸り声(多分)も聞こえてきました。第3曲はスケルツォということで木管楽器を中心に生き生きとまとめられました。北欧の短い夏の間にハイキングに出かけるような小粋な演奏でした。

この曲は編成的にもOEKにぴったりでしたので,「OEKの新たなレパートリーになったなぁ」と感じました。

続いて,この日のもう一人の主役,ピアニストの小山実稚恵さんが登場し,グリーグのピアノ協奏曲が演奏されました。この日のプログラムは,前述のとおり,渋い曲が並んでいましたので,プログラム構成的にはこの協奏曲が全体のクライマックスになっていると感じました。

第1楽章冒頭のティンパニのロール(この日は菅原淳さんでした)に続いて出てくるピアノの音型から,音がピリッと締まっており,一気にグリーグの世界に引き込んでくれました。しっかりと歌いこまれた叙情的な第2主題との対比も見事でした。小山さんのピアノは,ダイナミックレンジと表現の幅が広く,スケールの大きな音楽を作っていました。

ただし,強く鋭い音の部分では,ちょっと音が金属的に響くところがあると思いました。また,カデンツァなどでは,結構ミスタッチがありました。しかし,まったく動じることはありません。かえってそのことが逞しさにつながっているようでした。まさに巨匠の音楽です。小山さんがデビューして,いつの間にか30年になるのですが,全くこのスタイルが変わらないのが素晴らしいと思います。

第2楽章では室内オーケストラ編成にも関わらず,OEKの厚みのある音が良いと思いました。朗々と響くホルン,しっとりと歌われるカンタさんのチェロ。そして,その上にキラキラと輝く小山さんのピアノが加わります。北欧のショパンといった感じの演奏でした。

第3楽章は速目のテンポで弾むように始まりました。広上さんらしく,豪放でワイルドな雰囲気がありました。途中,フルート・ソロが出てきて,曲想がスッと穏やかな表情に変わる部分が大好きなのですが,この日も松木さんのフルートが見事でした。その後,しっとりとした表情を持つ小山さんのピアノにつながり,スケール感たっぷりの音の流れを楽しませてくれました。

コーダの部分はオーケストラ,ピアノともに力感たっぷりでした。最後の最後の部分での,ティンパニの響きを核として,両者が一体になって,堂々と盛り上がっていく雰囲気には,千両役者の共演といった趣きがありました。

アンコールでは,ショパンのマズルカがさらりと演奏されました。第2楽章のエコーを聞くような,よい味がありました。

後半最初に演奏された,シベリウスの「トゥネラの白鳥」も名曲の割に,金沢では滅多に演奏されることはありません。この曲については何といってもイングリッシュホルンの神秘的な音色が聞きものです。この日は加納さんが担当で,ほの暗いけれども強さのある見事な音を聞かせてくれました。背景に出てくる,カンタさんのチェロも見事で,暗くなり過ぎることなく,はかなげな表情を感じさせてくれました。

実演で聞くと,大太鼓の音が低音をしっかりと支えているのが空気の振動で伝わってきました(渡邉さんが担当でした)。CDで聞くよりもずっと楽しめると感じました。

全体として,重苦しい気分になりすぎることがなく,ほの暗い透明感を感じさせてくれるような演奏でした。終盤,金管楽器が入ってくると,「どこかワーグナーの曲のよう」とか「弔いのムードがある」とか,勝手に想像を広げて楽しむことができました。

最後に演奏された,組曲「白鳥姫」は,シベリウスの「秘曲」だと思います。プレトークの時,広上さんは「この曲は何か変...何か変」と繰り返し語っていました。たとえば,第1曲「孔雀」は,オーボエが同じ音型を103回も繰り返し,のどかさの中に怖さが漂う感じでした。途中,カスタネットが出てくるのにも意味があるということで(これもプレトークで紹介されていました),謎解き的な面白さを感じました。こういう意味深な曲については,「プレトークをしっかり聞いた方が楽しめる」といえそうです。

その後,これもまたミステリアスな響きを持った第2曲「ハープ」,ゆったりとしたワルツの第3曲「薔薇の乙女たち」...と続いていきます。どの曲も派手さはないようですが,後からじわじわと効いてくるような響きがあり,言ってみればシベリウスの交響曲のエッセンスを集めたような静かなドラマといったムードがありました。やはり,演奏会の最後ならば,がっちりとした構成感のある交響曲で締めるプログラムの方が良いかなというのが,正直なところですが,魅力的な作品をどんどん紹介し,新たなレパートリーを開拓しようとする,広上さんとOEKの姿勢は大いに評価したいと思います。

アンコールでは,グリーグの「2つの悲しい旋律」第2曲「過ぎし春」が演奏されました。感傷的な気分よりは,根源的な生命力の強さを感じさせてくれるような演奏で,演奏会全体を締めてくれました。

7月最後のファンタスティック・クラシカルコンサートを除くと,この公演がシーズンのトリということになります。OEKメンバーもしばらくは休息を取っていただき(お客さんの方もしっかりと休みを取って),また新シーズンでの瑞々しい演奏を期待したいと思います。

PS. この日のプレトークには,「たまたま金沢に来ていた」,日本シベリウス協会会長で指揮者の新田ユリさんが登場しました。広上さんとの掛け合いのトークはなかなか面白いものでした。

新田さん自身,札幌で育ったこともあり,北国ならではの「明るくなる喜び」を知っていることが北欧への親近感につながっていると語っていました。寒さはそれほどではありませんが,冬の天候の悪さならば,金沢も北欧に負けないと思いますので,そのうちに新田さん指揮による,北欧音楽特集なども聞いてみたいと思いました。

(2015/08/01)





公演の立看板

広上さんと小山さんのサイン会がありました。


広上さんがノールショッピング交響楽団の指揮者だった頃の大変古いCDを持参し,サインを頂きました。タワーレコードの限定CDでモーツァルトの交響曲が収録されています。


小山さんのデビュー30周年記念のリーフレットが配布されたので,その表紙にいただきました。