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第43回全国アマチュアオーケストラフェスティバル金沢大会:北陸新幹線金沢開業記念
フェスティバルコンサート
2015年8月2日(日)13:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1)石垣征山/白山かんこおどり
2)ラフマニノフ/交響曲第3番イ短調
3)オルフ/カルミナ・ブラーナ
4)(アンコール)オルフ/カルミナ・ブラーナ〜運命の女神よ,世界の王妃よ

●演奏
山口泰志指揮石川県三曲協会*1
花本康二指揮フェスティバルオーケストラA(コンサートマスター:三浦章宏)*2
井崎正浩指揮フェスティバルオーケストラB(コンサートミストレス:宮嶌薫)*3
石川公美(ソプラノ)*3,倉石真(テノール)*3,萩原潤(バリトン)*3
合唱:石川県合唱教会*1,3-4,特別記念合唱団*3,4,金沢児童合唱団*3



Review by 管理人hs  

全国の139のアマチュア・オーケストラが加盟している日本アマチュア・オーケストラ連盟(JAO)は,毎年,「全国アマチュアオーケストラフェスティバル」というイベントを行っています。このフェスティバルは,全国を巡回しており,今年は,北陸新幹線開通記念ということで,金沢で開催されました。石川県内のアマチュア・オーケストラでは,石川フィルハーモニー交響楽団が加盟しており,今回のイベント全体の世話役を担当されていました。

このフェスティバルは,17年前も金沢で行われたことがあり,岩城宏之さんの指揮でマーラーの交響曲第1番「巨人」を聞いた記憶があります。この時の会場は金沢歌劇座(当時の名称は金沢市観光会館)だったので,石川県立音楽堂で行われるのは,今回が初めてということになります。

フェスティバルは,7月31日から始まっており,全国各地から集まったアマチュア・オーケストラ・メンバーが「フェスティバルオーケストラ」を編成し,集中的に練習を行い,その成果を最終日の8月2日に披露する形になります。オーケストラはAオケとBオケの2つに分かれています(「のだめカンタービレ」もこういう名前だった?)。今回は,各オーケストラが,ラフマニノフの交響曲第3番,オルフのカルミナ・ブラーナという,金沢では滅多に演奏されない曲を演奏しました。今回は,このプログラムを目当てに聞きに行きました。

その前に「歓迎演奏」として,石垣征山作曲「白山かんこおどり」が地元石川県の三曲協会による邦楽合奏と石川県合唱教会の合唱で壮麗に演奏されました(強引ですが「歓迎=Kオケ」とすれば,これでAKB?)。こういった「異業種」による歓迎演奏が行われるのは,邦楽演奏も盛んで,日頃から何かと「コラボ」の多い石川県ならではの「おもてなし」ですね。

他の2曲が大曲でしたので,歓迎演奏は「それほど長くはないだろう」と予想していたのですが...それらに劣らない大曲でした。全体で30分近くあったと思います。編成も大きく,箏,十七弦,三弦(三味線),尺八による邦楽オーケストラといった感じのスケール感のある音を聞かせてくれました。特に低弦によるオスティナート的な繰り返しが,重苦しくなり過ぎず,心地よさを感じました。楽器の配置は右の写真のような感じで,壮観でした。。

その後,カデンツァ(十七弦だったと思います)が入り,「かんこ」と呼ばれる打楽器2名の演奏,そして合唱が加わり白山麓に伝わる「かんこ踊り」が歌われます。3階席で聞いたこともあり,歌詞ははっきり聞き取れなかったのですが,ゆったり目のテンポで,品よく盛り上がりました。

ちなみに「かんこ踊り」ですが,次のような曲です。
http://www.city.hakusan.ishikawa.jp/kyouiku/bunkazaihogo/bunkazaitoppu/kobetsubunkazaisetsumei/kankoodori.html

# ステージ上の配列をみながら,「箏は女性ばかり,尺八は男性ばかり」というのが面白いと思いました。何か不文律でもあるのでしょうか?

さて,ファスティバルオーケストラの方ですが,前半のAオケは,石川フィルハーモニー交響楽団の常任指揮者,花本康二さんの指揮でラフマニノフの交響曲第3番を演奏しました。もしかしたらこれが金沢初演だったのかもしれません。

第1楽章冒頭のクラリネットの音から,各楽器の音の動きが生々しく聞こえ,いかにもラフマニノフらしい厚みのあるロマンの世界を聞かせてくれました。ただし,弦楽器の響きなどは甘すぎることはなく,ラフマニノフにしては,ちょっとおとなしい感じかなという気もしました。そのこともあり,曲全体としては,有名な交響曲第2番よりはとらえどころのない印象を持ちました。

第2楽章はホルンのソロで始まりましたが,まず,この音が見事でした。ハープと絡みながら進んでいきましたが,金沢ではおなじみの上田智子さんが賛助演奏で加わっており,さすがの演奏を聞かせてくれました。続く弦楽合奏によるメロディでは,同じラフマニノフのヴォカリーズを思わせる抒情的な美しさがありました。Aオケのコンサートマスターは,東京フィルの三浦章宏さんでしたが,そのトレーニングの成果が出た美しい演奏でした。その他,木管楽器などを中心にちょっとエキゾティックな気分もあるのも面白いと思いました。

最終楽章はプログラムの解説にあるとおり「ロシアの祭」のような雰囲気がありましたが,それほど大騒ぎするのではなく,がっちりとしたシンフォニックな盛り上げを聞かせてくれました。フーガ的な展開部は「やや大変そう」な感じがありましたが,コーダの方は,大規模編成を生かした余裕たっぷりの量感を聞かせてくれました。

全曲を通じて,聞き所が随所にあり,トレーニングの成果が十分に発揮された水準の高い演奏だったと思います。

後半のBオケは井ア正浩さん指揮,石川公美(ソプラノ),倉石真(テノール),萩原潤(バリトン),石川県音楽文化協会合唱団,特別記念合唱団,金沢児童合唱団との共演で,オルフの「カルミナ・ブラーナ」を演奏しました。もともと石川県立音楽堂のステージはそれほど広くはないので,「ぎっしり」という感じになりました。総勢280名による演奏だったそうです。右の写真は,終演後にロビーにあったモニターの画面を撮影したものです。これ以上乗らないぐらい大勢の人が入っていました。

カルミナ・ブラーナを実演で聞くのは...多分2回目です。もともと盛り上がる曲ですが,本当に素晴らしい演奏でした。井崎さんの指揮ぶりは,何を表現したいのかが,見ているだけでしっかり伝わってくるような,分かりやすい動作で,オーケストラも合唱もそれにぴったりと反応していました。大人数が参加する曲なので,短期間でよくこれだけまとまったなぁと感動しました。逆に言うと,一年に一度,一生に一度の出会いだからこそ実現した燃焼度の高さだったのかもしれません。

有名な冒頭の「運命の女神よ,世界の王妃よ」は,最初の一撃からティンパニが強烈な音を聞かせ,それに火を点けられた合唱もオーケストラも壮絶な音を聞かせてくれました。テンポは速目で,クライマックスで出てくる,生きた音楽を伝えたくてたまらない,といった感じのアッチェレランドがスリリングでした。

合唱は,地元の石川県音楽文化協会合唱団に全国の合唱団からのメンバーが加わった”この日のための”特別編成の合唱団でした。その「色々な人が参加している」という感じが,”世俗カンタータ”にはぴったりで,オーケストラ同様にアマチュアのエネルギーをしっかり感じさせてくれました。

この曲は,多数の打楽器が登場し,さらにピアノ2台がベースに加わるなど,独特のカチッとしたサウンドが魅力的です。同じ音型が繰り返されることが多いのも特徴で,原始的でありながらモダンな感じも漂います。オーケストラの方は,部分的に見ると,いろいろと粗はあったと思いますが,それが全く気にならない流れの良さと集中力の高さでした。

独唱者では,バリトンの出番がいちばん多く,特に第1部は,バリトンのみでした。萩原潤さんの声はとてもリリカルで,3階で聞いていた感じだとちょっと印象が弱い感じがしたのですが,段々と調子が出て来て,第2部の「おれは大僧正さまだ」では,オーケストラの打楽器群とバリトン独唱とが格闘するようなユーモアたっぷりの歌を伝えてくれました。「どっこいしょ」という感じの演技も付いており,会場の気分を和ませてくれました。

変拍子の曲も多いのですが,どの曲も停滞することなく,スピード感のある音楽を聞かせてくれました。「カルミナ・ブラーナ」は,3つの部分に分かれているのですが,各部の終結部がビシっと締まっているのもメリハリがあって良かったと思いました。第1部の最後のトランペットのキラキラした感じなど,とても印象的でした。

第2部「居酒屋にて」では上述のバリトン独唱以外に,テノール独唱の聞きどころもあります。ファゴットの高音(終演後,最初に井崎さんから誉められていました)を引き継ぐように,「かって湖に住みしわれ」とほとんどカウンターテノールのような高音で歌われます。倉石さんは,絞り出すように高音を出していましたが,その苦しげな緊張感が曲想にぴったりでした。

第2部の最後は,ダイナミックなリズムを交えた男声合唱で,どこかオペレッタの一部を聞くような面白さを感じました。

第3部は,「愛の庭」というタイトルがついている通り,ソプラノや児童合唱が加わり,これまでとは違った柔らかな感じの曲が入ってくるのが特徴です。金沢児童合唱団のメンバーは,第3部の前にオルガンステージに入ってきました。「くるみ割り人形」の全幕上演の時も,途中からこのステージに児童合唱団が入るということはありましたが,赤白の揃いの衣装を着て,背の順に並んだメンバーの姿は,視覚的にも「ほほえましさ」がありました。第3部の最初の曲では,地元ではおなじみのソプラノの石川公美さんと一緒に,静かでしっとりとした空気を伝えてくれました。

それにしても,この第3部の曲は多彩です。次々と違った光景が広がるような楽しさがありました。「これがバリトン?」と思わせるような高い音が出てくる曲があったり,2台のピアノの伴奏による”合唱コンクール”のような感じの軽快な曲があったり,カスタネットが合いの手に入って,思わず一緒になってリズムを取りたくなる曲があったり...全く退屈しません。その中でも特に気に入っているのが,ほとんどミュージカルの曲のように聞こえる「私のいとしい人」です。石川公美さんの暖かみのある声が魅力的で,会場を酔わせてくれました。

そして第3部最後の合唱曲に切り替わる直前でのソプラノの高音。これがお見事でした。キラキラと別世界に入ったような,輝きのあるエンディングにしっかりつながっていました。

第3部の最後に第1曲「運命の女神よ,世界の王妃よ」が再現されて全曲が終わります。最初に演奏された時よりもさらに勢いを増して,ビシッと終わりました。

会場からは盛大が拍手が起こりました。なかなか鳴り止まないので,この「運命の女神よ...」がもう一度演奏されたのですが(一部だったかもしれません),もう1回最初から全曲演奏できそう?と思わせるほどのエネルギーのある演奏でした。右の写真は,終演後,1階席まで降りて行って,撮影したものです。やはり1階席の方が演奏者との距離が随分近いなぁと感じました。

演奏会全体としては,かなり長い演奏会になったので(約3時間),少々疲れましたが,アマチュアの力に感服,という大満足の演奏会となりました。この日,石川県立音楽堂に聞きに来られていた,JAO総裁 高円宮妃殿下の名代,高円宮承子女王殿下も大編成オーケストラ+合唱の迫力に感激されたのではないかと思います。今回のフェスティバルでは,石川県では滅多に聞けない大曲2曲が演奏されましたが,また金沢大会が巡って来た時には,別の大曲が演奏されることを期待したいと思います。

PS. この日ですが音楽堂コンサートホールの2階席全部が「関係者席」となっており,そのせいで1階と3階が超満員になっていました。3階席から見たところ,「2階の両サイドはガラガラ」。なぜ,2階席を開放しないのだろう?と疑問に思っている人が結構いました。この辺は,警備等のご都合があったようですが,工夫が必要だと思いました。

(2015/08/08)





公演の立看板


公演のポスター


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